相続した不動産でトラブルが起きる理由とは?共有・売却・管理・解決方法を解説

相続財産の中に不動産が含まれている場合、相続人同士でトラブルになることがあります。預貯金であれば、相続人の合意に応じて分けることが比較的容易です。しかし、不動産は現金のように簡単に分けることができません。
たとえば、親が住んでいた実家を誰が取得するのか、売却するのか、共有名義にするのかで意見が分かれることがあります。相続人の一人が住み続けている場合には、居住を認めるのか、金銭的な調整が必要になるのかも問題になります。
また、収益不動産では賃料収入や管理費、ローン付き不動産では残債務や団体信用生命保険の有無なども確認しなければなりません。このように、相続不動産の問題は、分け方だけでなく、管理、評価、費用負担、債務、使用関係など複数の論点が関係します。
さらに、相続不動産を放置すると、相続登記が未了のまま相続人が増え、売却や活用が難しくなるおそれもあります。トラブルを防ぐためには、不動産の内容、名義、評価額、利用状況、ローンの有無などを早めに確認し、相続人間で整理しておくことが重要です。
この記事では、相続した不動産でトラブルが起きやすい理由、問題になりやすい不動産の種類、よくある対立例、放置するリスク、解決の流れ、関連する法律上の論点について解説します。
相続した不動産でトラブルが起きやすい理由
相続した不動産でトラブルが起きやすいのは、不動産が単なる財産ではなく、利用状況や管理負担、相続人の感情にも関わる財産だからです。特に、自宅や実家のように家族の生活や思い出と結びついている不動産では、金銭的な評価だけでは整理しきれない問題が生じることがあります。
また、不動産は相続人ごとに希望が分かれやすい財産です。誰かが取得したいと考える一方で、別の相続人は売却して現金で分けたいと考えることもあります。こうした希望の違いが、話し合いを難しくする原因になります。
さらに、不動産には評価額、管理費、固定資産税、修繕費、賃料収入など、確認すべき事項が多くあります。相続人の間で情報共有が不十分なまま話し合いを進めると、後から不満や不信感が生じることもあります。
不動産は簡単に分けられない
不動産相続でトラブルが起きやすい大きな理由は、不動産が現金のように簡単に分けられないことです。預貯金であれば、相続人の合意内容に応じて金額を分けることができます。しかし、土地や建物は単純に人数で割ることができません。
たとえば、相続人が複数いる一方で、主な相続財産が実家の土地建物だけというケースがあります。この場合、誰か一人が実家を取得するのか、売却して代金を分けるのか、共有名義にするのかを決めなければなりません。どの方法を選ぶとしても、相続人全員が納得できるとは限りません。
誰か一人が不動産を取得する場合には、他の相続人との公平を図るために代償金の支払いが問題になることがあります。一方で、不動産を売却して代金を分ける方法を選ぶ場合でも、売却価格や売却時期をめぐって意見が分かれることがあります。
土地であれば分筆して分けることができる場合もありますが、常に現実的な方法とは限りません。分筆後の土地の形状、接道状況、利用価値などによっては、かえって不公平な結果になることもあります。そのため、不動産をどのように分けるかは、相続トラブルの大きな争点になりやすいです。
相続人ごとに希望が異なる
不動産は、相続人によって希望が大きく分かれやすい財産です。同じ不動産であっても、ある相続人にとっては残したい財産であり、別の相続人にとっては早く処分したい財産であることがあります。
たとえば、被相続人と同居していた相続人がいる場合、その相続人は相続後も住み続けたいと考えることがあります。これに対し、別居している相続人は、自分が利用できない不動産を残すよりも、売却して現金で分けたいと考えることがあります。
実家に対する思い入れの強さも、相続人によって異なります。長年住んでいた相続人と、すでに別の場所で生活基盤を築いている相続人とでは、不動産に対する見方が違うこともあります。こうした感情面の違いは、単純な金額計算だけでは解決しにくい問題です。
収益不動産の場合も、相続人の考え方が分かれることがあります。賃料収入を得られる財産として保有したい相続人がいる一方で、管理の手間や修繕リスクを避けたい相続人もいます。このように、相続人ごとの生活状況や考え方の違いが、不動産相続の話し合いを難しくします。
評価額を決めにくい
不動産相続では、不動産の評価額をめぐってトラブルになることがあります。預貯金であれば金額が明確ですが、不動産の価値は一つの金額に簡単に決められるものではありません。
不動産の評価には、固定資産税評価額、相続税評価額、不動産会社の査定額、不動産鑑定士による鑑定評価額など、複数の考え方があります。どの評価を前提にするかによって、代償金の額や相続人間の取得割合に影響が出ることがあります。
たとえば、ある相続人が実家を取得し、他の相続人に代償金を支払う場合、不動産をいくらと評価するかが重要になります。取得する相続人は低めの評価額を希望し、代償金を受け取る相続人は高めの評価額を求めることがあります。
また、不動産会社の査定額は、依頼する会社によって差が出ることもあります。実際に売却できる価格と査定額が一致するとは限らないため、評価額をめぐって相続人間に不信感が生じることもあります。評価額の問題は、金額の差だけでなく、公平に扱われているかという感情にも関わります。
管理や費用負担が生じる
相続した不動産は、取得者や処分方法が決まるまでの間も管理が必要です。固定資産税、修繕費、管理費、火災保険料、庭木の手入れ、空き家の見回りなど、さまざまな負担が発生します。
問題になりやすいのは、特定の相続人だけが実際に管理している場合です。他の相続人が協力しないまま、一人の相続人だけが費用や手間を負担していると、不公平感が生じやすくなります。
反対に、相続人の一人が不動産を使用しているにもかかわらず、固定資産税や管理費を他の相続人にも負担してほしいと主張するケースもあります。このような場合、不動産を利用している利益と、費用負担をどのように調整するかが問題になります。
収益不動産では、さらに整理すべき事項が増えます。賃料収入がある一方で、管理費、修繕費、借入金返済なども発生するため、収入と支出の帰属を明確にしておく必要があります。こうした点を曖昧にしたままにすると、後から相続人間で対立が深まりやすくなります。
相続で問題になりやすい不動産
相続で問題になりやすい不動産には、いくつかの典型的なものがあります。特に、自宅・実家、土地、収益不動産、空き家、ローン付き不動産などは、相続人ごとの希望や利害が分かれやすい財産です。
不動産の種類によって、確認すべきポイントは異なります。ここでは、相続で問題になりやすい不動産の種類と、トラブルになりやすい理由を整理します。
自宅・実家
被相続人が住んでいた自宅や実家は、相続でトラブルになりやすい不動産の一つです。家族にとって思い入れのある場所であることも多く、単純に金銭的な価値だけで判断しにくい面があります。
たとえば、被相続人と同居していた相続人がそのまま住み続けたいと希望する一方で、他の相続人は売却して現金で分けたいと考えることがあります。この場合、誰が取得するのか、代償金を支払えるのか、売却するのかといった点が問題になります。
また、実家が空き家になる場合には、管理の問題も生じます。固定資産税や修繕費を誰が負担するのか、誰が鍵や建物を管理するのかを決めておかないと、後から相続人間で不満が出ることがあります。
土地
土地も、相続で問題になりやすい不動産です。建物がない土地であっても、場所、面積、形状、接道状況、利用可能性によって価値が大きく変わります。
土地を相続人で分ける場合には、分筆できるかどうかが問題になることがあります。ただし、形式的に分筆できたとしても、それぞれの土地の価値が同じになるとは限りません。
また、道路に面しているか、建物を建てられるか、境界が明確かといった点も重要です。境界や利用条件に問題がある土地では、相続人間の話し合いだけでなく、隣地所有者との調整が必要になることもあります。境界が確定していない土地では、売却や評価が難しくなる場合もあります。そのため、土地を相続する場合には、登記上の情報だけでなく、境界や利用状況も確認しておくことが重要です。
収益不動産
アパート、賃貸マンション、貸店舗、駐車場などの収益不動産も、相続で注意が必要です。収益不動産は賃料収入を生む一方で、管理費、修繕費、固定資産税、借入金返済などの負担も発生します。
相続開始後の賃料収入を誰が受け取るのか、管理費や修繕費を誰が負担するのかは、相続人間で揉めやすいポイントです。特定の相続人が賃料や管理を扱っている場合には、他の相続人から収支の説明を求められることもあります。
また、借入金が残っている収益不動産では、返済を続けるのか、売却して清算するのかも検討する必要があります。収益性だけでなく、支出や管理負担も含めて判断することが重要です。
空き家・遊休地
空き家や使われていない土地も、相続後に問題になりやすい不動産です。誰も住んでいない、誰も使っていないからといって、費用や管理の負担がなくなるわけではありません。
空き家では、建物の老朽化、雨漏り、庭木の繁茂、害虫の発生、防犯上の問題などが生じることがあります。遊休地についても、雑草の管理、不法投棄、境界の問題などが発生することがあります。
相続人にとって利用価値が低い一方で、固定資産税や管理費用だけが発生し続けることもあります。誰も取得を希望しない場合には、売却や活用、処分の方法を早めに検討する必要があります。
ローン付き不動産
ローン付き不動産を相続する場合には、不動産の価値だけでなく、残っている債務も確認する必要があります。相続では、プラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も問題になります。
住宅ローンの場合には、団体信用生命保険によって残債務が完済されることがあります。そのため、まずは団体信用生命保険の有無を確認することが重要です。
一方で、団体信用生命保険がない場合や、事業用ローンが残っている場合には、債務を誰が負担するのかを検討する必要があります。不動産の価値より残債務が大きい場合には、相続放棄を含めて早めに判断することが大切です。
相続不動産でよくあるトラブル
相続不動産をめぐるトラブルは、不動産の種類だけでなく、相続人の生活状況や考え方によっても変わります。特に、誰が取得するのか、売却するのか、誰かが住み続けるのか、共有名義にするのかといった点で意見が分かれやすくなります。
また、収益不動産では賃料収入や管理費、修繕費などの金銭面も問題になります。ここでは、相続不動産でよくあるトラブルを整理します。
誰が取得するかで揉めるケース
相続不動産でよくあるのが、誰がその不動産を取得するかで揉めるケースです。特に、主な相続財産が実家や土地などの不動産である場合、相続人全員が納得できる分け方を見つけるのが難しくなります。
たとえば、長男が実家を取得したいと希望する一方で、他の相続人が「自分の相続分に見合う金銭を受け取りたい」と考えることがあります。この場合、実家を取得する相続人が、他の相続人に代償金を支払えるかが問題になります。
代償金を支払う資力がなければ、不動産を残したいという希望があっても、売却して代金を分ける方法を検討せざるを得ない場合があります。介護や同居の事情、親との関係性なども影響しやすく、感情面の対立が加わると話し合いが長期化しやすいです。
売却するか残すかで揉めるケース
相続した不動産を売却するか、残すかで意見が分かれることもあります。不動産を利用する予定がない相続人は売却を希望する一方で、思い入れのある実家を残したいと考える相続人もいます。
売却すれば、売却代金を相続人間で分けやすくなります。しかし、長年家族が暮らしてきた実家などでは、金銭だけでは割り切れない感情が生じることもあります。
一方で、不動産を残す場合には、固定資産税、修繕費、管理の負担が続きます。誰が管理するのか、費用をどのように負担するのかを決めないまま残すと、後から不満が出やすくなります。
住んでいる相続人と揉めるケース
相続人の一人が、相続不動産に住み続けている場合もトラブルになりやすいです。被相続人と同居していた相続人がそのまま住み続けるケースや、相続開始前から実家を無償で使用していたケースなどがあります。
このような場合、他の相続人から見ると、「一人だけが不動産を使って利益を受けている」と感じられることがあります。そのため、居住利益や使用料相当額の扱いが問題になる場合があります。
もっとも、居住している相続人が常に使用料を支払うとは限りません。被相続人との間で無償使用を認める関係があったか、他の相続人が使用を承諾していたかなど、具体的な事情によって判断が変わります。場合によっては、不当利得返還請求や明渡しの問題につながることもあります。
共有名義にして後から揉めるケース
不動産の分け方が決まらない場合、とりあえず相続人の共有名義にすることがあります。共有にすれば、一見すると相続人全員が公平に権利を持つように見えます。
しかし、共有名義の不動産では、売却や大きな活用をする際に共有者の同意が必要になります。一人でも売却に反対する共有者がいると、不動産を処分できず、話し合いが停滞することがあります。
また、固定資産税や修繕費などの費用負担をめぐって不満が出ることもあります。共有状態が長く続くと、次の相続で共有者が増え、さらに合意形成が難しくなるおそれがあります。共有物分割請求や競売リスクについても、後の章で改めて説明します。
賃料収入や管理費で揉めるケース
相続不動産がアパート、賃貸マンション、貸店舗、駐車場などの場合、賃料収入や管理費をめぐるトラブルが生じることがあります。収益不動産は収入を生む一方で、管理や費用負担も伴います。
相続開始後の賃料収入が誰に帰属するのかは、相続人間で争点になりやすい部分です。特定の相続人が賃料を受け取っている場合、他の相続人から収支の説明や分配を求められることがあります。
また、収益不動産には、管理会社への委託費、修繕費、固定資産税、保険料、借入金返済などの支出もあります。賃料収入だけでなく、これらの費用を誰が負担するのかを整理しておかないと、後から精算をめぐって揉めやすくなります。
相続不動産の状況別に注意すべきポイント
相続不動産では、不動産の状態によって注意すべき点が異なります。共有名義にする場合、相続人の一人が住んでいる場合、収益不動産である場合、ローンが残っている場合では、それぞれ確認すべき内容が変わります。
ここでは、相続不動産の状況別に、特に問題になりやすい点を整理します。
共有名義にする場合の注意点
不動産を共有名義にすると、一見すると公平な解決に見えることがあります。しかし、共有不動産を売却したり、大きく活用したりするには、共有者間で意思をそろえる必要があります。
共有者の一人が売却を希望しても、他の共有者が反対すれば、処分が進まないことがあります。また、固定資産税、修繕費、管理費などの負担をめぐって揉めることもあります。
共有状態が長く続くと、次の相続によって共有者が増え、合意形成がさらに難しくなります。最終的には、共有物分割請求をされ、話し合いで解決できない場合には競売につながるリスクもあります。
住んでいる相続人がいる場合の注意点
相続人の一人が相続不動産に住んでいる場合、他の相続人との間で居住利益の扱いが問題になることがあります。一人だけが不動産を使っているため、使用料相当額を支払うべきかが争点になりやすい部分です。
もっとも、被相続人との間で無償使用を認める関係があった場合には、使用貸借として整理されることもあります。一方で、他の相続人の承諾がないまま無償使用を続けている場合には、不当利得返還請求が問題になることがあります。
また、売却や遺産分割の内容によっては、退去や明渡しが必要になるケースもあります。居住をいつまで認めるのか、使用料や固定資産税をどう扱うのかは、早めに整理しておくべきです。
収益不動産を相続する場合の注意点
アパート、賃貸マンション、貸店舗、駐車場などの収益不動産では、賃料収入の帰属が問題になります。特定の相続人が賃料を受け取っている場合、他の相続人から分配や収支の説明を求められることがあります。
また、収益不動産では、収入だけでなく支出の整理も欠かせません。管理費、修繕費、固定資産税、借入金返済などを誰が負担するのかを明確にしなければ、不公平感が生じやすくなります。
実際に管理を担当している相続人がいる場合には、その負担をどう考えるかも問題になります。賃料収入、費用負担、借入金返済、管理の役割を整理したうえで、取得・共有・売却の方針を検討することが大切です。
ローン付き不動産を相続する場合の注意点
ローン付き不動産を相続する場合には、不動産の価値だけでなく、残債務の内容を確認する必要があります。相続では、プラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も問題になります。
住宅ローンの場合には、団体信用生命保険の有無を確認することが重要です。団体信用生命保険によってローン残高が完済される場合、不動産の実質的な価値や相続人間の分け方にも影響します。
団体信用生命保険がない場合や、事業用ローンが残っている場合には、債務を誰が承継するのかを検討する必要があります。不動産の価値より残債務が大きい場合には、相続放棄を検討すべきケースもあります。
相続不動産を放置するリスク
相続した不動産について、すぐに方針が決まらないことは珍しくありません。実家を売るのか、誰が取得するのか、共有にするのかなど、相続人間で意見が分かれることもあります。
しかし、不動産をそのまま放置すると、名義、管理、税金、売却、近隣対応などの問題が後から大きくなることがあります。ここでは、相続不動産を放置した場合に起こりやすいリスクを解説します。
相続登記をしないままになる
相続した不動産を放置すると、被相続人名義のまま登記が残り続けることがあります。登記名義が古いままでは、実際の権利者が分かりにくくなり、売却や担保設定などの手続も進めにくくなります。
また、相続登記は現在では義務化されており、不動産を相続したことを知った場合には、一定期間内に手続を行う必要があります。遺産分割がまとまっていない場合でも、相続人申告登記などを利用できることがあります。
相続登記を後回しにすると、戸籍の収集や相続人の確認に時間がかかり、売却や活用のタイミングを逃すこともあります。そのため、分け方がすぐに決まらない場合でも、登記に関する対応は早めに確認することが重要です。
相続人が増えて権利関係が複雑になる
相続不動産を放置している間に、さらに次の相続が発生することがあります。たとえば、父親名義の実家について相続登記をしないまま放置し、その後、相続人の一人が亡くなると、その人の相続人も関係者になります。
相続人が増えると、話し合いに参加すべき人も増えます。もともとは兄弟姉妹だけで話し合えばよかったものが、甥や姪なども関係するようになり、合意形成が難しくなることがあります。
さらに、相続人の中に認知症の人や未成年者がいる場合には、成年後見人や特別代理人の選任が必要になることもあります。時間が経つほど、権利関係の整理に手間がかかりやすくなります。
売却や活用が難しくなる
相続不動産を放置すると、売却や活用が難しくなることがあります。不動産を売却するには、権利関係を整理し、必要な相続登記を済ませておく必要があります。
相続人間で売却方針がまとまっていない場合、買主を探すことも簡単ではありません。仮に購入希望者が現れても、相続人全員の合意が整わなければ、売却手続が進まないことがあります。
また、建物が老朽化したり、土地の管理状態が悪くなったりすると、不動産の価値が下がる可能性もあります。賃貸、建替え、駐車場利用などの活用を検討する場合も、権利者の合意や費用負担の整理が必要です。
管理不全や近隣トラブルが発生する
空き家や遊休地を放置すると、管理不全によるトラブルが起きることがあります。建物の老朽化、雨漏り、庭木や雑草の繁茂、害虫の発生、不法投棄などが問題になりやすいです。
管理が不十分な状態が続くと、近隣住民から苦情を受けることがあります。台風や地震などで建物の一部が落下した場合には、隣地や通行人に被害を与える可能性もあります。
このような問題が起きると、誰が対応するのか、修繕費や解体費を誰が負担するのかで相続人間の対立につながることがあります。相続不動産は、使っていなくても管理の問題が残るため、早めに対応方針を決めておくことが大切です。
相続不動産トラブルを防ぐポイント
相続不動産のトラブルは、相続が発生した後の対応によって大きくなることがあります。早い段階で不動産の内容や相続人の希望を整理しておけば、無用な対立を避けやすくなります。
特に重要なのは、情報を一部の相続人だけで抱え込まないことです。不動産の評価額、利用状況、管理費用、売却の可能性などを共有しながら、現実的な解決方法を検討する必要があります。
早めに不動産を調査する
相続不動産のトラブルを防ぐには、まず不動産の内容を早めに調査することが大切です。登記簿謄本、固定資産税評価証明書、名寄帳などを確認し、どのような不動産があるのかを把握します。
収益不動産であれば、賃貸借契約や賃料の入金状況、管理費、修繕履歴なども確認しておく必要があります。ローン付き不動産の場合には、残債務の額や団体信用生命保険の有無も早めに確認しておくべきです。
相続人間で情報を共有する
不動産相続では、一部の相続人だけが情報を持っている状態になると、不信感が生じやすくなります。実家を管理している相続人だけが固定資産税や修繕費を把握している場合、他の相続人から説明を求められることもあります。
不動産の現状、評価額、管理費用、売却見込みなどは、相続人間で共有してから協議することが重要です。登記簿、固定資産税の資料、不動産会社の査定書、管理費の明細などがあれば、話し合いの前提をそろえやすくなります。
評価額の根拠を整理する
不動産の評価額は、相続人間で意見が分かれやすいポイントです。誰か一人が不動産を取得する場合や、代償金を支払う場合には、評価額によって各相続人の取り分が変わることがあります。
評価額をめぐる対立を防ぐには、どの資料を基準にするのかを整理しておくことが大切です。必要に応じて複数の不動産会社の査定を取得したり、不動産鑑定を検討したりすることで、話し合いの根拠を明確にしやすくなります。
安易に共有名義にしない
相続人間で分け方が決まらない場合、「とりあえず共有名義にする」という対応が選ばれることがあります。しかし、共有名義は将来の売却や管理で問題が生じやすいため、慎重に判断する必要があります。
共有名義にすると、売却や大きな活用をする際に共有者の合意が必要になります。また、共有者の一人が亡くなると、その持分がさらに相続され、将来の合意形成が難しくなる可能性もあります。
合意内容を必ず書面にする
相続不動産について相続人間で合意ができた場合には、その内容を書面に残すことが重要です。口頭の約束だけでは、後から「そのような合意はしていない」「内容が違う」と争いになることがあります。
誰が不動産を取得するのか、代償金をいくら支払うのか、売却代金をどのように分けるのか、管理費や固定資産税を誰が負担するのかは、できる限り明確にしておくべきです。遺産分割協議が成立した場合には、遺産分割協議書を作成します。
相続不動産トラブルを解決する流れ
相続不動産をめぐるトラブルを解決するには、必要な資料を確認しながら順番に整理していくことが重要です。相続人、不動産の内容、評価額、利用状況などが不明確なままでは、具体的な解決方法を決めにくくなります。
また、不動産は取得、売却、共有、管理継続など、選択肢によって必要な手続が変わります。ここでは、相続不動産トラブルを解決するための基本的な流れを解説します。
相続人・遺言書の確認
まず確認すべきなのは、誰が相続人になるのかという点です。被相続人の戸籍などを取得し、配偶者、子、親、兄弟姉妹、代襲相続人など、法律上の相続人を確認します。
相続人の範囲を誤ったまま話し合いを進めると、後から遺産分割協議が無効になる可能性があります。また、遺言書がある場合には、その内容を確認したうえで、不動産を誰が取得するのか、遺留分の問題が生じるのかなどを検討します。
不動産と権利関係の調査
次に、相続財産にどのような不動産が含まれているかを確認します。登記簿謄本、固定資産税の納税通知書、名寄帳などを確認し、土地や建物の所在地、面積、名義、共有関係などを整理します。
あわせて、抵当権などの担保権が設定されているか、賃貸借契約があるか、第三者が使用しているかも確認が必要です。不動産の権利関係や利用状況を把握することで、売却、取得、管理継続のどれが現実的かを検討しやすくなります。
評価額の確認
不動産の分け方を考えるには、評価額の確認が必要です。不動産の価値が分からなければ、誰か一人が取得する場合の代償金や、売却した場合の分配方法を検討することができません。
不動産の評価には、固定資産税評価額、相続税評価額、不動産会社の査定額、不動産鑑定士による鑑定評価額などがあります。どの評価額を前提にするかで結論が変わることもあるため、評価の根拠を整理しておくことが重要です。
分割方法や売却方針の協議
相続人、不動産の内容、評価額を確認したら、具体的な分割方法や売却方針を協議します。誰か一人が不動産を取得するのか、売却して代金を分けるのか、共有にするのかを検討します。
不動産を取得したい相続人がいる場合には、代償金の支払いが問題になることがあります。売却する場合には、売却価格の目安、売却時期、不動産会社の選定、売却費用の負担なども整理しておく必要があります。
遺産分割協議書の作成
相続人全員の合意がまとまった場合には、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書には、どの相続人がどの不動産を取得するのか、代償金の支払いがあるのか、売却代金をどのように分けるのかなどを記載します。
不動産については、登記簿の記載に合わせて、所在、地番、家屋番号、地目、地積、床面積などを正確に記載する必要があります。代償金の支払いがある場合には、金額、支払期限、支払方法も明確にしておくことが重要です。
相続登記
遺産分割協議によって不動産を取得する人が決まったら、相続登記を行います。相続登記は、被相続人名義の不動産を、取得した相続人の名義に変更する手続です。
相続登記をしないままにしておくと、売却や担保設定などの手続を進めにくくなります。また、相続登記は義務化されているため、不動産を相続した場合には、期限にも注意が必要です。
話し合いで解決できない場合の手続き
相続不動産について相続人間の話し合いがまとまらない場合、裁判所の手続を利用して解決を図ることになります。もっとも、どの手続を利用すべきかは、不動産が遺産分割前の状態なのか、すでに共有状態になっているのかによって変わります。
不動産を含む遺産の分け方が決まらない場合には、遺産分割調停や遺産分割審判が中心になります。一方で、遺産分割後の共有不動産を解消したい場合などには、共有物分割訴訟が問題になることがあります。
弁護士への相談
相続不動産をめぐる話し合いが進まない場合には、早めに弁護士へ相談することが重要です。不動産が関係する相続では、相続人の範囲、遺言書の有無、不動産の評価、居住者の有無、共有関係など、確認すべき事項が多くあります。
当事者だけで話し合っていると、感情的な対立が強くなり、解決の方向性が見えにくくなることがあります。弁護士に相談することで、法的な見通しを整理し、遺産分割協議を続けるべきか、調停を申し立てるべきかを判断しやすくなります。
また、相続人の一人が不動産を使用している場合や、賃料収入を管理している場合には、不当利得返還請求や収支の精算が問題になることもあります。こうした論点がある場合には、早い段階で法的な整理をしておく方がよいです。
遺産分割調停
遺産分割協議がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。遺産分割調停では、調停委員を交えて、相続人間で遺産の分け方について話し合います。
不動産が含まれる場合には、誰が取得するのか、売却するのか、代償金を支払うのかなどが主な争点になります。不動産の評価額について意見が分かれる場合には、査定資料や鑑定などを踏まえて調整することもあります。
調停は、あくまで話し合いによる解決を目指す手続です。そのため、相続人全員が合意できれば、調停成立となり、その内容に従って相続登記や代償金の支払いなどを進めることになります。
遺産分割審判
遺産分割調停で合意ができない場合には、遺産分割審判に移行します。審判では、家庭裁判所が資料や当事者の主張を踏まえて、遺産の分け方を判断します。
不動産については、現物で取得させるのか、代償金の支払いを命じるのか、売却を前提にするのかなどが問題になります。裁判所は、相続人の取得希望、法定相続分、不動産の評価、利用状況などを考慮して判断します。
ただし、審判になれば必ず希望どおりの結果になるわけではありません。特に不動産は、評価額や取得希望が対立しやすいため、審判に進む前に、調停段階で現実的な解決案を検討することも重要です。
共有物分割訴訟
共有物分割訴訟は、共有状態にある不動産について、共有関係の解消を求める手続です。相続人間で共有名義にした不動産や、遺産分割後に共有状態が残った不動産について、売却や分割の合意ができない場合に問題になります。
共有物分割では、現物分割、代償分割、換価分割などが検討されます。不動産の場合、現物で分けることが難しいケースも多く、話し合いで解決できなければ、最終的に競売による換価分割となる可能性があります。
共有物分割訴訟は、相続そのものを解決する手続ではありません。あくまで、すでに共有状態にある不動産について、共有関係をどのように解消するかを扱う手続です。
遺産分割調停・審判と共有物分割訴訟の違い
遺産分割調停・審判と共有物分割訴訟は、どちらも不動産をめぐる紛争で利用されることがありますが、目的が異なります。遺産分割調停・審判は、相続財産を相続人間でどのように分けるかを決める手続です。
これに対し、共有物分割訴訟は、すでに共有状態になっている不動産について、その共有関係を解消するための手続です。たとえば、遺産分割前の不動産については、基本的には遺産分割調停・審判で解決を図ることになります。
一方で、遺産分割によっていったん共有名義にした後、その共有状態を解消したい場合には、共有物分割訴訟が問題になります。どちらの手続を利用すべきかを誤ると、解決までに余計な時間がかかることがあるため、事案に応じた整理が必要です。
相続不動産で関連する法律上の論点
相続不動産のトラブルでは、誰が不動産を取得するかだけでなく、複数の法律上の論点が関係します。相続登記、共有物分割請求、不当利得返還請求、特別受益、寄与分、遺留分、相続放棄などは、不動産相続で問題になりやすい代表的な論点です。
すべての事案でこれらが問題になるわけではありません。ただ、相続人間で話し合いを進める際には、どの論点が関係しそうかを早めに整理しておくことが大切です。
相続登記の義務化
不動産を相続した場合には、相続登記が必要になります。相続登記とは、被相続人名義の不動産を、相続人などの名義に変更する手続です。
相続登記は2024年4月1日から義務化されており、不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。義務化前に発生した相続も対象となるため、古い相続不動産を放置している場合にも注意が必要です。
正当な理由なく相続登記の申請義務に違反した場合には、10万円以下の過料の対象となることがあります。そのため、相続不動産の取得を知った場合には、期限内に登記手続を進められるよう早めに確認しておく必要があります。
また、相続登記をしないままにしていると、売却や担保設定などの手続を進めにくくなります。相続人が増えて権利関係が複雑になる前に、登記の対応を確認しておくべきです。
共有物分割請求
相続した不動産を共有名義にした場合、後から共有関係を解消したいと考える相続人が出てくることがあります。この場合に問題になるのが、共有物分割請求です。
共有者間で話し合いがまとまらない場合には、共有物分割訴訟に進むことがあります。不動産は現物で分けることが難しいことも多く、代償金による調整や売却による分配が検討されます。
場合によっては、競売によって不動産が換価されるリスクもあります。そのため、共有名義にする場合には、将来の売却や共有解消の可能性も考えておく必要があります。
不当利得返還請求・明渡請求
相続不動産に相続人の一人が住んでいる場合や、特定の相続人だけが不動産を使用している場合には、不当利得返還請求が問題になることがあります。他の相続人から、使用料相当額の支払いを求められるケースです。
もっとも、相続人が不動産に住んでいるからといって、常に不当利得が成立するわけではありません。被相続人との間で無償使用を認める関係があったか、他の相続人が使用を承諾していたかなどによって判断が変わります。
また、不動産を売却する場合や、他の相続人が取得する場合には、現在住んでいる相続人に明渡しを求める必要が生じることもあります。居住の経緯や合意内容を早めに整理しておくことが重要です。
特別受益・寄与分
不動産相続では、特別受益や寄与分が問題になることもあります。特別受益とは、相続人の一部が被相続人から生前贈与などの特別な利益を受けていた場合に、その利益を考慮して相続分を調整する制度です。
たとえば、住宅購入資金の援助を受けていた場合や、不動産の贈与を受けていた場合には、特別受益にあたるかが問題になることがあります。認められると、遺産分割における取得額に影響する可能性があります。
一方、寄与分は、相続人の一部が被相続人の財産の維持や増加に特別に貢献した場合に問題になります。不動産管理や事業用不動産の維持に長年関わっていた場合などには、寄与分が主張されることがあります。
ただし、介護をしたからといって、直ちに寄与分が認められるわけではありません。寄与分が認められるためには、通常期待される扶養や協力の範囲を超えて、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をしたといえる事情が必要です。
遺留分・相続放棄
遺言書によって特定の相続人が不動産を取得する内容になっている場合、他の相続人の遺留分が問題になることがあります。遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の取り分です。
たとえば、遺言書で一部の相続人に不動産をすべて相続させる内容になっている場合でも、他の相続人が遺留分侵害額請求を行うことがあります。この場合、不動産そのものを分けるのではなく、金銭で調整することが一般的です。
また、ローン付き不動産や管理負担の大きい不動産がある場合には、相続放棄を検討することもあります。相続放棄には期限があるため、不動産の価値、債務、管理負担は早めに確認しておく必要があります。
相続不動産トラブルのまとめ
相続財産の中に不動産が含まれている場合、相続人間でトラブルになることがあります。不動産は現金のように簡単に分けることができず、誰が取得するのか、売却するのか、共有にするのかといった点で意見が分かれやすいためです。
また、不動産の種類や状況によって、問題になる内容も異なります。自宅・実家、土地、収益不動産、空き家、ローン付き不動産などでは、評価額、管理費、賃料収入、債務、居住者の有無などを確認する必要があります。
共有名義にする場合には、売却や管理について共有者間で意見が合わず、後から共有物分割請求や競売リスクにつながることもあります。相続人の一人が住んでいる場合には、居住利益、使用貸借、不当利得返還請求、明渡しなどが問題になることもあります。
相続不動産を放置すると、相続登記が未了のまま相続人が増え、権利関係が複雑になるおそれがあります。空き家や遊休地では、管理不全や近隣トラブルが発生する可能性もあるため、早めに方針を決めることが大切です。
相続不動産のトラブルを防ぐには、不動産の内容、名義、評価額、利用状況、ローンの有無などを確認し、相続人間で情報を共有することが重要です。話し合いで解決できない場合には、遺産分割調停・審判や共有物分割訴訟など、事案に応じた手続を検討する必要があります。
相続不動産の問題は、登記、評価、費用負担、使用関係、債務など複数の論点が関係します。相続人だけで判断することが難しい場合には、早めに弁護士などの専門家へ相談し、法的な見通しを整理したうえで対応するとよいでしょう。


