遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求の方法は?当事者双方の手続きの流れを解説

相続で遺留分が侵害されている場合は、遺留分侵害額請求を行うことで、本来保障されている遺留分に相当する金銭を請求できます。遺留分侵害額請求に対する支払いは金銭で行われるのが原則です。しかし、遺産の内容が不動産のみで、現金や預貯金がほとんどないケースでも、遺留分侵害額請求を行うことは可能です。

ただし、不動産が関係する場合は、その不動産の評価が重要になります。不動産の評価額は、どの評価方法を用いるかによって大きく変わることがあります。そのため、請求額をめぐって相続人同士で意見が分かれ、話し合いが難航するケースも少なくありません。

納得できる形で手続きを進めるためには、遺留分侵害額請求の基本的な流れや、不動産の評価方法、請求時の注意点をあらかじめ理解しておくことが大切です。

本記事では、不動産を相続した場合に遺留分侵害額請求を行う流れ、不動産の主な評価方法、請求する際に気を付けたいポイントをわかりやすく解説します。

Contents
  1. 遺留分侵害額請求とはどのような制度か
  2. 不動産が関係する遺留分侵害額請求は現金での精算が基本
  3. 不動産相続で遺留分侵害額請求を行う手順
  4. 不動産を相続した場合の主な評価方法
  5. 不動産相続で遺留分侵害額請求をするときの注意点
  6. 遺留分侵害額請求をされた場合の対応方法
  7. 遺留分侵害額請求を避けるための生前対策
  8. 遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求の方法まとめ

遺留分侵害額請求とはどのような制度か

遺留分侵害額請求とは、相続人に保障された最低限の取り分である遺留分が侵害された場合に、侵害している相手に対して、その不足分に相当する金銭の支払いを求められる制度です。民法第1046条に定められており、遺言や生前贈与などによって遺留分が減らされた相続人を保護するための制度です。

遺留分を主張できる法定相続人を「遺留分権利者」といいます。また、遺留分の不足分を金銭で請求できる権利を「遺留分侵害額請求権」と呼びます。

たとえば、相続人が娘A・B・Cの3人だったとします。ところが、被相続人の遺言書に「娘Aには財産を相続させない」と書かれており、その内容どおりに娘B・Cだけで遺産を取得した場合、娘Aの遺留分が侵害されている可能性があります。

このようなケースでは、娘Aは遺留分権利者として、娘B・Cに対して遺留分侵害額請求を行えます。請求が認められれば、娘Aは侵害された遺留分に相当する金額を、金銭で支払うよう求めることができます。

不動産が関係する遺留分侵害額請求は現金での精算が基本

遺産の中に不動産しかない場合でも、遺留分侵害額請求では、原則として金銭での支払いを求めることになります。不動産そのものを引き渡したり、不動産の持分を移転したりするのではなく、侵害された遺留分を金額に換算し、その分の支払いを請求する形です。

遺留分が金銭精算とされているのは、不動産の共有状態を避けるためです。以前は「遺留分減殺請求」という制度が用いられており、遺留分にあたる部分を現物で取り戻す考え方が基本でした。そのため、遺産が不動産の場合、不動産を取得した人と遺留分を主張した人が共有名義になることがありました。

しかし、不動産が共有になると、売却や管理、修繕を行うたびに共有者同士の合意が必要になります。相続人同士の関係が良くない場合は、意見がまとまらず、不動産を動かせない状態が続くこともあります。共有状態そのものが、新たな相続トラブルの原因になるケースも少なくありません。

こうした問題を避けるため、2019年7月1日に施行された改正民法により、遺留分の請求は現物返還ではなく、金銭請求を原則とする制度に変更されました。そのため、2019年7月1日以降に発生した相続で遺留分が侵害された場合は、不動産の一部を返してもらうのではなく、遺留分に相当する金銭の支払いを求めることになります。

現金で一括払いが難しい場合は、相手方と話し合い、分割払いを認めてもらう方法があります。ただし、分割払いは請求された側が一方的に決められるものではありません。遺留分を請求した側の同意が必要です。また、相手方が同意すれば、不動産や不動産の持分を渡して支払いに代える「代物弁済」を検討できることもあります。

不動産相続で遺留分侵害額請求を行う手順

不動産の相続で遺留分侵害額請求を行う場合は、いきなり裁判を起こすのではなく、まずは請求できる金額を確認し、相手方へ意思表示をしたうえで、話し合いによる解決を目指すのが一般的です。

主な流れは、次のとおりです。

遺留分として請求できる金額を確認する

まずは、自分に遺留分が認められる立場かどうかを確認します。そのうえで、相続財産の内容や評価額を調べ、実際にいくら請求できるのかを計算します。

遺留分を請求できるのは、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人です。具体的には、次の人が遺留分権利者にあたります。

• 配偶者:夫、妻
• 直系卑属:子ども(代襲相続の場合には孫など)子ども、孫など
• 直系尊属:父母、祖父母など

兄弟姉妹には遺留分が認められていません。そのため、兄弟姉妹が相続人になるケースでは、遺言によって財産を取得できなかったとしても、原則として遺留分侵害額請求はできません。

遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって異なります。配偶者と子どもが相続人になる場合、父母だけが相続人になる場合などで計算方法が変わるため、相続人の組み合わせを整理したうえで確認しましょう。

不動産がある場合は、不動産の評価額も重要です。土地や建物の金額によって遺留分侵害額が大きく変わるため、固定資産税評価額、不動産鑑定評価、実勢価格など、どの資料をもとに評価するかも検討する必要があります。

内容証明郵便で請求の意思を伝える

遺留分の有無やおおよその請求額を確認したら、相手方に対して遺留分侵害額請求を行います。請求の意思が相手に伝われば、法律上は必ずしも形式が決まっているわけではありません。

ただし、実務上は内容証明郵便を利用するのが一般的です。内容証明郵便を使えば、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送ったのかを郵便局が証明してくれます。

遺留分侵害額請求権には期限があります。そのため、あとになって「請求した」「請求されていない」と争いにならないよう、証拠を残せる方法で意思表示をしておくことが大切です。

さらに、配達証明を付けておけば、相手方にいつ文書が届いたのかも証明できます。内容証明郵便と配達証明をあわせて利用すれば、請求した事実と到達日を確認しやすくなります。

相手方と交渉する

相手方が話し合いに応じる場合は、まず交渉による解決を目指します。交渉では遺留分侵害額の計算方法、不動産の評価額、支払い方法、支払期限などを話し合います。

特に不動産が関係する場合は、評価方法をめぐって意見が分かれやすい点に注意が必要です。固定資産税評価額を基準にするのか、近隣の取引価格を参考にするのか、不動産鑑定士の評価を使うのかによって、請求額が大きく変わることがあります。

そのため、交渉の段階では、不動産の評価資料をどのように提示するかが重要です。たとえば、次のような資料を用意しておくと、話し合いを進めやすくなります。

• 固定資産税評価証明書
• 不動産会社の査定書
• 路線価図・公示地価
• 不動産鑑定評価書

相手方に資料を示す際は、評価額だけを一方的に伝えるのではなく、どの資料を根拠にした金額なのかを説明しましょう。根拠が明確であれば、相手方も検討しやすくなります。

話し合いがまとまった場合は、合意内容を記載した合意書を作成します。合意書の作成は必須ではありませんが、口約束だけでは後日トラブルになるおそれがあります。支払金額や支払期限、振込先、清算条項などを明記しておけば「言った」「言わない」の争いを防ぎやすくなります。

遺留分侵害額請求調停を申し立てる

当事者同士の話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停は、裁判所の調停委員を交えて話し合いを行い、解決を目指す手続きです。

調停の申立先は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。当事者同士で合意している場合は、別の家庭裁判所で手続きを進められることもあります。

調停を申し立てる際の基本情報は、次のとおりです。

項目 内容
申立人 遺留分を侵害された人、またはその権利を承継した人
申立先 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意した家庭裁判所
主な必要書類 申立書、申立書の写し、戸籍謄本、遺言書の写し、不動産など遺産に関する資料、進行に関する照会回答書など

必要書類は、相続関係や遺産の内容によって変わることがあります。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍、不動産の登記事項証明書や評価証明書などが必要になる場合もあるため、早めに確認しておきましょう。

調停を申し立てると、裁判所から相手方に対して呼出状や申立書の写しなどが送付されます。その後、指定された調停期日に、申立人と相手方が裁判所で話し合いを行います。

調停では、いきなり支払額だけを決めるのではなく、まず遺留分を計算するための財産内容を確認し、その後に財産の評価額や支払い方法を検討していきます。不動産がある場合は、評価額をどう見るかが大きな争点になることがあります。

遺留分侵害額請求調停の流れ

調停の進行は事案によって異なりますが、一般的には次のような流れで進みます。

1. 初期:相続人、遺言内容、遺産の範囲を確認する
2. 中盤:不動産など財産の評価方法や評価額を検討する
3. 終盤:支払額、支払期限、分割払いの可否などを調整する
4. 成立:合意内容を調停調書にまとめる

話し合いがまとまると、裁判所が調停調書を作成します。調停調書には、相手方が支払う金額、支払期限、振込先、支払いを怠った場合の扱い、清算条項などが記載されます。

調停調書には、判決と同じような強い効力があります。相手方が合意した内容を守らない場合は、調停調書に基づいて強制執行を行える可能性があります。そのため、調停で合意する際は、支払条件をできるだけ明確にしておくことが重要です。

話し合いで解決しない場合は訴訟を検討する

調停でも合意できない場合は、遺留分侵害額請求訴訟を検討します。訴訟では、当事者の主張や提出された証拠をもとに、裁判所が最終的な判断を行います。

遺留分侵害額請求訴訟では、相続財産の範囲、遺言や贈与の内容、不動産の評価額、遺留分の計算方法などが争点になります。単に「遺留分を請求したい」と主張するだけでは足りず、その主張を裏付ける資料や証拠を提出する必要があります。

訴訟を起こす裁判所は、主に次の中から選ぶことになります。

• 被告の住所地を管轄する裁判所
• 被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所
• 原告の住所地を管轄する裁判所

また、請求する金額によって担当する裁判所が異なります。請求額が140万円を超える場合は地方裁判所、140万円以下の場合は簡易裁判所が管轄します。

訴訟が始まると、裁判所から期日の呼び出しを受け、当事者が主張や証拠を提出しながら手続きを進めます。不動産の評価が争点になる場合は、不動産鑑定評価書や査定書、固定資産税評価証明書などを証拠として提出することがあります。

訴訟の途中で、裁判所から和解を勧められることもあります。双方が和解内容に納得すれば、和解調書が作成され、判決を待たずに手続きが終了します。和解が成立しない場合は、証拠調べや必要に応じた尋問などを経て、裁判所が判決を出します。控訴されなければ判決が確定し、判決書に記載された内容に基づいて支払いを求めることになります。

訴訟は専門的な判断が多く、証拠の準備も重要です。特に不動産の評価や遺留分の計算をめぐって争いがある場合は、弁護士などの専門家に相談しながら進めましょう。

不動産を相続した場合の主な評価方法

相続で不動産が関係する場合、その不動産をどのように評価するかによって、遺留分侵害額の金額が変わることがあります。不動産には一つの決まった評価額だけがあるわけではなく、目的に応じて複数の評価方法が使われます。

主な評価方法は、次のとおりです。

• 固定資産税評価額
• 路線価
• 公示価格
• 時価・実勢価格

なお、不動産評価においては、固定資産税評価額・路線価・公示価格はあくまでも参考資料として活用される程度に留まり、交渉・訴訟では時価・実勢価格が問題になりやすいです。

同じ不動産でも、どの評価方法を用いるかによって金額が大きく変わることがあります。遺留分侵害額請求では、不動産の評価額が請求額に直接影響するため、それぞれの評価方法の違いを理解しておきましょう。

固定資産税評価額による評価

固定資産税評価額とは、固定資産税や都市計画税を計算するために、市区町村などが定める不動産の評価額です。毎年送付される納税通知書に同封されている課税明細書で確認できます。

固定資産税評価額は、公示価格のおおむね70%程度を目安に設定されることが多いとされています。そのため、実際に売買される価格より低くなるケースもあります。

また、固定資産税評価額は原則として3年に1度見直されます。公示価格や路線価のように毎年更新されるものではないため、不動産市況が大きく変動している場合は、実際の価格との間に差が生じることがあります。

固定資産税評価額は確認しやすく、資料として用意しやすい点がメリットです。一方で、遺留分侵害額請求の交渉では、「実際の市場価格より低すぎる」として相手方と意見が分かれることもあります。

路線価を使った評価

路線価とは、相続税や贈与税を計算する際に使われる土地の評価額です。道路に面する標準的な宅地について、国税庁が価格を定めています。相続税申告で使われることが多いため、「相続税路線価」と呼ばれることもあります。

路線価は、公示価格のおおむね80%程度を目安に設定されることが多いとされています。固定資産税評価額よりは市場価格に近い場合がありますが、実際の売買価格とは異なることがあります。

全国の路線価は、国税庁が毎年公表しています。国税庁の「財産評価基準書」のページで、地域ごとの路線価を確認できます。

ただし、路線価は土地の形状や接道状況、奥行き、利用しやすさなどによって補正が必要になる場合があります。単に路線価に面積を掛ければ正確な評価額になるとは限らないため、個別事情も踏まえて検討することが大切です。

参照:国税庁「財産評価基準書」

公示価格を参考にした評価

公示価格とは、国土交通省が毎年公表する標準地の価格です。全国の代表的な地点について、正常な取引が行われる場合の土地価格を示すものです。

公示価格は、土地価格の目安として広く利用されています。毎年3月ごろに公表され、国土交通省のホームページなどで確認できます。

ただし、公示価格はあくまで標準地の価格です。実際に相続の対象となっている土地と、場所、形状、面積、周辺環境、道路との関係などが完全に一致するわけではありません。そのため、対象不動産の事情に合わせて調整が必要になることがあります。

遺留分侵害額請求で公示価格を参考にする場合も、そのまま当てはめるのではなく、対象不動産との違いを確認しながら評価を考える必要があります。

参照:国土交通省「地価・不動産鑑定」

実際の取引価格を踏まえた評価

時価や実勢価格とは、その不動産を実際に売却するとした場合に想定される価格のことです。不動産市場での取引価格に近いため、遺留分侵害額請求の交渉や裁判で重視されることがあります。

時価を把握する方法としては、不動産会社に査定を依頼する方法や、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼する方法があります。また、国土交通省の不動産情報ライブラリなどを使えば、周辺地域の取引事例を確認することもできます。

ここまでに紹介した中で、不動産会社の査定書は比較的取得しやすく、交渉資料として使いやすい点が特徴です。一方、不動産鑑定評価書は費用がかかるものの、専門家が評価した資料として信用性が高く、調停や訴訟で争いになった場合にも重要な資料になりやすいです。

遺留分侵害額請求では、請求する側と支払う側で不動産の評価額について意見が分かれることがあります。請求する側は高い評価額を主張し、支払う側は低い評価額を主張することも少なくありません。そのため、交渉段階から評価の根拠となる資料を整理しておくことが大切です。

特に不動産鑑定評価額や不動産会社の査定書は、金額の妥当性を説明するうえで争点になりやすい資料です。どの評価方法を使うかだけでなく、なぜその評価額が適切といえるのかを説明できるように準備しておきましょう。

参照:国土交通省「不動産情報ライブラリ」

不動産相続で遺留分侵害額請求をするときの注意点

不動産の相続で遺留分侵害額請求権を行使する場合、以下のような点に注意しましょう。

不動産を共有名義にするリスクを理解しておく

遺留分をめぐる話し合いでは、不動産を共有名義にする形で解決しようとするケースがあります。しかし、不動産の共有は後々のトラブルにつながりやすいため、慎重に検討する必要があります。

共有名義にすると、不動産を売却したり、大きな修繕をしたりする際に、共有者同士で合意を取らなければなりません。相続人同士の関係が良好であれば問題なく進むこともありますが、意見が合わない場合は、管理や処分が思うように進まない可能性があります。

たとえば、ある相続人は「売却して現金化したい」と考えていても、別の相続人が「住み続けたい」と考えていれば、話し合いがまとまりにくくなります。固定資産税や修繕費の負担をめぐって、さらに対立が深まることもあります。

現在の遺留分侵害額請求は、原則として金銭で請求する制度です。そのため、不動産の共有化を安易に選ぶのではなく、金銭での支払い、代償金の分割払い、不動産売却後の精算など、実情に合った解決方法を検討しましょう。

遺留分侵害額請求権には期限がある

遺留分侵害額請求権には、行使できる期限があります。期限を過ぎると、遺留分が侵害されていたとしても請求できなくなるため注意が必要です。

民法第1048条では、遺留分侵害額請求権について、次のような期間制限が定められています。

• 相続開始と遺留分侵害を知った時から1年
• 相続開始から10年

たとえ遺言書の内容や遺留分侵害の事実をすぐに把握できなかった場合でも、相続開始から10年が経過すると、遺留分侵害額請求はできなくなります。

そのため、遺言書の内容に納得できない場合や、自分の取得分が極端に少ないと感じる場合は、早めに相続関係や財産内容を確認しましょう。請求するか迷っているうちに期限が近づくこともあるため、不安がある場合は弁護士に相談して、期限内に意思表示できるよう準備することが大切です。

民法改正後の請求ルールを確認しておく

遺留分に関する制度は、民法改正によって大きく変わりました。以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが、現在は「遺留分侵害額請求」という制度に変わっています。

名称が変わっただけではありません。請求できる内容も変わっており、現在は原則として金銭の支払いを求める仕組みになっています。古い制度では、不動産などの現物を取り戻す形になることがあり、結果として不動産が共有状態になるケースもありました。

主な違いは、次のとおりです。

項目 遺留分侵害額請求 遺留分減殺請求
発生する権利 金銭の支払いを求める権利 現物の返還を求める権利
不動産が対象の場合 不動産の価額に応じた金銭請求が原則 不動産が共有・準共有になることがあった
相続人への贈与 原則として相続開始前10年以内の贈与などが対象 贈与全般が対象
相続人以外への贈与 原則として相続開始前1年以内の贈与などが対象

現在の制度では、遺留分を侵害された人は、不動産そのものを返すよう求めるのではなく、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを求めます。相続発生日によって適用される制度が異なる場合もあるため、相続がいつ発生したのかも確認しておきましょう。

対応が難しい場合は専門家に相談する

遺留分侵害額請求は、自分で進めることも可能です。しかし、不動産が関係する場合は、評価額や支払い方法をめぐって争いになりやすく、専門的な判断が必要になることがあります。

たとえば、不動産の金額について相続人同士で意見が合わない場合は、不動産鑑定士に鑑定を依頼する方法があります。不動産鑑定士は、不動産の適正な価値を評価する専門家です。鑑定評価書があれば、交渉や調停で評価額の根拠を示しやすくなります。

また、請求の進め方が分からない場合や、相手方との交渉に不安がある場合は、弁護士に相談することも有効です。弁護士に依頼すれば、内容証明郵便の作成、相手方との交渉、調停や訴訟への対応などを任せられます。

遺留分侵害額請求には期限があるため、対応に迷っている時間が長くなるほどリスクが高まります。法律事務所の中には初回相談を無料で受け付けているところもあります。少しでも不安がある場合は、早めに専門家へ相談し、今後の進め方を確認しておきましょう。

遺留分侵害額請求をされた場合の対応方法

ここまでは、遺留分を侵害された人が、遺留分侵害額請求を行う場合の手続きについて説明してきました。

一方で、遺言や贈与によって財産を受け取った人が、ほかの相続人から遺留分侵害額請求を受けるケースもあります。ここからは、遺留分侵害額請求をされた場合の対応方法について解説します。

請求を放置せず、早めに対応する

遺留分侵害額請求について話し合いを求められたり、内容証明郵便が届いたりした場合は、無視せずに対応しましょう。返答しないまま放置すると、相手方が家庭裁判所での調停や、訴訟に進む可能性があります。

ただし、請求を受けたからといって、すぐに相手の請求額をそのまま支払わなければならないわけではありません。請求額の計算が誤っている場合や、そもそも遺留分の侵害がない場合もあります。

まずは、請求してきた人が誰なのか、どの遺言や贈与を理由に請求しているのか、請求額はいくらなのかを確認しましょう。そのうえで、支払いに応じるのか、金額や支払い方法について話し合うのかを検討します。

相手方へ返答する際は、感情的に反論するのではなく、「内容を確認したうえで回答する」と伝えるなど、冷静に対応することが大切です。必要に応じて、早い段階で弁護士に相談することも検討しましょう。

請求された金額が妥当か確認する

遺留分侵害額請求を受けた場合は、相手方が主張する金額が妥当かどうかを確認する必要があります。請求された金額が、必ずしも正しいとは限りません。

遺留分侵害額は、相続財産の総額や遺留分割合、不動産の評価額、相続人がすでに受け取った財産などを踏まえて計算します。特に不動産がある場合は、評価方法によって金額が大きく変わるため、慎重な確認が必要です。

たとえば、相手方が高い不動産査定額をもとに請求している場合でも、その金額が実際の市場価格として妥当とは限りません。固定資産税評価額、路線価、不動産会社の査定書、不動産鑑定評価書などを比較しながら、適正な評価額を検討しましょう。

また、特別受益や相続債務の有無によっても、請求額は変わる可能性があります。判断が難しい場合は、自分だけで計算しようとせず、弁護士などの専門家に相談すると安心です。

請求権が時効にかかっていないか確認する

遺留分侵害額請求権には期限があります。請求を受けた場合は、相手方の請求が時効にかかっていないかも確認しましょう。

遺留分侵害額請求権は、相続人が「相続が始まったこと」と「遺留分を侵害する遺贈や贈与があったこと」を知った時から1年以内に行使する必要があります。この期間を過ぎると、時効によって請求権が消滅する可能性があります。

また、相続開始から10年が経過した場合も、遺留分侵害額請求権は消滅します。これは、相手方が遺留分侵害の事実を知っていたかどうかにかかわらず問題になります。

ただし、いつ相手方が遺留分侵害を知ったといえるのかは、事案によって判断が分かれます。過去のやり取り、遺言書を確認した時期、相続財産の内容を把握した時期などを整理し、時効を主張できる可能性があるか確認しましょう。

請求者に特別受益がないか確認する

遺留分侵害額請求をしてきた人が、被相続人から生前贈与などを受けていないかも確認しておきましょう。相続人が被相続人から特別に受けた利益を「特別受益」といいます。

特別受益にあたる財産がある場合、その分を考慮して遺留分侵害額を計算することがあります。つまり、請求者が過去に多額の援助や贈与を受けていた場合、請求できる金額が減る可能性があるのです。

特別受益の有無を調べるには、被相続人の預金通帳、取引履歴、贈与契約書、不動産登記簿、贈与税の申告書類などが手がかりになります。

ただし、生前贈与の調査や特別受益にあたるかどうかの判断は、簡単ではないことがあります。相手方の請求額に疑問がある場合や、過去の贈与が関係しそうな場合は、弁護士に相談しながら確認を進めるとよいでしょう。

遺留分をどのように支払うか検討する

遺産が不動産しかない場合、遺留分侵害額請求を受けた側は、支払い方法を慎重に考える必要があります。現在の制度では、遺留分侵害額請求は原則として金銭で支払う仕組みです。そのため、不動産を取得した人が、請求者に対して金銭を支払うことになります。

ただし、手元に十分な現金がない場合は、一括払いが難しいこともあります。そのようなときは、代物弁済、不動産売却、金融機関からの借入、分割払い、支払期限の猶予などを検討します。

代物弁済

代物弁済とは、金銭の代わりに別の財産を渡して支払いに充てる方法です。遺産が不動産しかない場合、不動産の持分や別の財産を渡すことで解決を図るケースがあります。

ただし、代物弁済は相手方の同意がなければ一方的には行えません。遺留分侵害額請求は金銭請求が原則であるため、請求を受けた側が「現金ではなく不動産の持分を渡す」と一方的に決めることはできないのです。

代物弁済を検討する場合は、渡す財産の評価額、登記費用、税金、共有になった場合の管理方法なども確認しておく必要があります。安易に不動産を共有にすると、将来の売却や管理をめぐって新たなトラブルが生じる可能性があります。

特に、実務上は不動産評価額をめぐる認識の相違が争点になりやすい点に注意が必要です。不動産には、固定資産税評価額や路線価、不動産会社の査定額、不動産鑑定評価額など複数の評価基準があり、採用する方法により金額が変わります。支払う側は高い価値があると考える一方、受け取る側は売却の難しさや共有持分の処分しにくさを理由に、低い評価額を主張することもあります。

そのため、どの資料を基準に評価するのか、いくらの債務を消滅させるのかを事前に明確にし、双方で合意しておくことが重要です。必要に応じて複数の不動産会社から査定を取ったり、不動産鑑定士へ評価を依頼したりするとよいでしょう。

不動産の売却

手元に現金がない場合は、相続した不動産を売却し、その売却代金から遺留分を支払う方法があります。売却によってまとまった資金を用意できれば、一括払いによる解決を目指しやすくなります。

ただし、不動産の売却には時間がかかることがあります。買い手がすぐに見つかるとは限らず、売却価格も希望どおりになるとは限りません。また、居住中の不動産や賃貸中の不動産では、売却の進め方に注意が必要です。

売却を前提に支払う場合は、相手方に売却予定や支払時期を説明し、合意を得ておくことが大切です。売却代金から支払う旨を合意書に明記しておけば、後日のトラブルを防ぎやすくなります。

金融機関からの借入

不動産を手放したくない場合は、金融機関から借り入れて遺留分を支払う方法もあります。相続した不動産を担保に融資を受けるほか、収入や信用状況に応じて無担保ローンなどを利用できる場合もあります。

借入によって資金を用意できれば、不動産を売却せずに請求者へ支払える可能性があります。相続した不動産に住み続けたい場合や、賃貸物件として収益を得ている場合には、有力な選択肢の一つです。

ただし、不動産担保ローンを利用する場合は、対象となる不動産に抵当権などの担保が設定されます。すでに住宅ローンの抵当権が付いている場合や、不動産の評価額が低い場合には、希望する金額を借りられないこともあります。担保評価額が高くても、借入額がそのまま認められるとは限りません。

また、借入には継続的な返済義務が伴います。給与、事業収入、賃料収入など、何を返済原資にするのかを明確にし、毎月の収支から現実的に返済できるかを検討する必要があります。賃料収入を返済に充てる場合も、空室や修繕費、固定資産税などを考慮しなければなりません。

不動産を手放したくない場合は、金融機関から借入をして遺留分を支払う方法もあります。相続した不動産を担保に融資を受けられる場合や、個人の信用状況に応じてローンを利用できる場合があります。

借入を利用すれば、不動産を売却せずに請求者へ支払える可能性があります。特に、相続した不動産に住み続けたい場合や、賃貸物件として収益を得ている場合には、選択肢の一つになります。

一方で、借入には返済義務が伴います。金利や返済期間、毎月の返済額を確認し、無理なく返済できるかを検討しましょう。遺留分の支払いを急ぐあまり、返済が難しい借入をしてしまうと、後の生活や事業に影響するおそれがあります。

分割払い

一括で支払うのが難しい場合は、相手方と合意したうえで分割払いにする方法があります。毎月いくら支払うのか、何回で支払うのか、支払いが遅れた場合にどうするのかを決めておくことが重要です。

分割払いにする場合は、口約束で済ませず、合意書を作成しましょう。合意書には、支払総額、分割回数、各回の支払日、振込先、遅延した場合の取り扱いなどを明記します。また、期限の利益喪失条項や遅延損害金などを合意書で定めるケースが多いです。

相手方にとっては、支払いが長期化することに不安があるため、分割払いを受け入れてもらえない場合もあります。その場合は、頭金を用意する、担保を提供する、公正証書を作成するなど、相手方が安心できる条件を検討することもあります。

支払期限の猶予

すぐに支払う資金を用意できない場合は、支払期限を延ばしてもらうことを求める方法もあります。たとえば、不動産の売却代金が入るまで待ってもらう、金融機関の融資審査が終わるまで支払いを猶予してもらうといった対応が考えられます。

支払期限の猶予を求める場合は、単に「支払えない」と伝えるだけではなく、いつまでにどのような方法で支払うのかを具体的に示すことが大切です。支払いの見通しが明確であれば、相手方も検討しやすくなります。

また、裁判になった場合には、事情によって裁判所が支払い期限を定めることもあります。ただし、支払期限の猶予は裁判所が例外的に認める制度であり、当然に認められるものではありません。必ず猶予が認められるわけではありません。できるだけ早い段階で支払い方法を整理し、相手方と現実的な解決策を話し合いましょう。

遺留分侵害額請求を避けるための生前対策

遺留分侵害額請求による相続人同士の争いを防ぐには、相続が発生する前から準備しておくことが重要です。
まず、遺言書を作成する際は、特定の相続人に財産を集中させすぎず、ほかの相続人の遺留分にも配慮しましょう。不動産を一人に承継させる場合は、預貯金をほかの相続人に残したり、代償金の支払いを予定したりする方法があります。付言事項に財産配分の理由を書いておくことも、感情的な対立を防ぐ助けになります。
また、生命保険を活用し、不動産を取得する相続人が代償金を準備できるようにしておけば、不動産の売却や共有を避けやすくなります。生前贈与を行う場合は、遺留分の計算に影響することがあるため、時期や金額を慎重に決め、契約書や送金記録を残しておくことが大切です。
遺留分への配慮が難しい場合は、相続開始前に遺留分放棄を検討する方法もあります。ただし、本人の意思だけでなく、家庭裁判所の許可が必要です。遺言、保険、生前贈与、遺留分放棄を組み合わせ、必要に応じて弁護士や税理士などの専門家に相談しながら進めましょう。
遺留分侵害額請求が起こると、相続人同士の対立が深まり、親族関係に大きな影響が出ることがあります。こうした事態を防ぐには、相続が発生してから対応するのではなく、被相続人が元気なうちに準備しておくことが大切です。

遺留分に配慮した遺言書を作成しておく

遺言書を作成する際は、遺留分を侵害しない内容にすることが大切です。特定の相続人に不動産を承継させる場合でも、ほかの相続人に預貯金を残したり、代償金の支払いを予定したりすれば、不公平感を抑えやすくなります。

また、財産配分の理由や家族への思いを付言事項に記しておくと、遺言者の意図が伝わり、相続人同士の感情的な対立を防ぐ助けになります。

生命保険を活用して代償金を準備する

不動産のように分けにくい財産がある場合は、生命保険を使って代償金を準備する方法があります。不動産を取得する相続人を保険金の受取人にしておけば、その保険金をほかの相続人への支払いに充てやすくなります。

これにより、不動産の売却や共有を避けられる可能性があります。ただし、保険金額や遺言内容とのバランスを確認し、相続人間の不公平感が生じないよう計画的に準備することが大切です。

生前贈与は計画的に進める

生前贈与は、特定の相続人に財産を引き継がせる方法の一つですが、遺留分の計算に影響することがあります。

相続開始前10年以内の贈与が問題になる場合もあるため、時期や内容を慎重に検討しましょう。贈与契約書や送金記録、登記内容を残しておくと、後日の争いを防ぎやすくなります。税金や法律面に不安がある場合は、専門家に相談しながら進めることが大切です。

必要に応じて遺留分放棄を検討する

遺留分侵害を避けにくい場合は、遺留分権利者に遺留分を放棄してもらう方法があります。

ただし、被相続人が一方的に決めることはできず、放棄する本人が家庭裁判所に申し立て、許可を得る必要があります。遺留分放棄が認められる条件として、本人の自由な意思によること、放棄する理由に合理性があること、遺留分に見合う代償を受けていることなどを満たさなければなりません。

遺産が不動産しかない場合の遺留分侵害額請求の方法まとめ

遺産が不動産しかない場合でも、遺留分が侵害されていれば、遺留分侵害額請求を行うことは可能ですが、感情的な対立だけでなく、評価額や支払い方法をめぐる実務的な問題も起こりやすくなります。早い段階で資料を整理し、冷静に話し合いを進めることが重要です。

当事者だけでの解決が難しい場合は、弁護士や不動産鑑定士などの専門家に相談することも検討しましょう。特に請求期限が迫っている場合や、不動産の評価額で争いがある場合は、早めに専門家の意見を聞くことで、手続きの遅れや不要なトラブルを防ぎやすくなります。