相続した土地を会社が使用しており税金だけかかる場合の対応

遺産分割により、父の名義であった土地を私が相続いたしました。ところが、その土地の上には父の会社の工場が建っており、会社は賃料を1円も払っておりません。私には固定資産税の負担だけが残りました。会社を継いだ兄に相談しても、「昔から無償で使っている」と取り合ってもらえません。このようなご相談を、当事務所はしばしばお受けしております。

先に結論を申し上げます。まず確定すべきは、被相続人と会社との間の法律関係が使用貸借であるのか、賃貸借であるのかという点でございます。無償であれば使用貸借(民法第593条)に当たるのが通常でございまして、この場合には、期間及び目的の定めの有無に応じて、貸主から契約を解除し得る余地がございます(民法第597条、第598条)。他方、賃貸借であれば、建物の所有を目的とする土地の賃貸借として借地借家法の適用を受け、存続の期間及び更新について強い保護が及びます。相続人は、被相続人の地位を承継いたしますので(民法第896条)、いずれの関係であるかにより、採り得る手段が大きく異なります。本記事では、確定の方法と、対応の選択肢を整理いたします。

第1節 法律関係を確定いたします

 使用貸借と賃貸借の違い

事項 使用貸借 賃貸借
対価 無償でございます 賃料の支払を伴います
根拠条文 民法第593条 民法第601条
借地借家法の適用 ありません 建物の所有を目的とする場合には適用がございます
終了 期間及び目的の定めに応じて終了し、又は解除し得ます(民法第597条、第598条) 存続の期間及び更新について強い保護がございます

 確認すべき資料

  • 土地の賃貸借契約書又は使用貸借契約書の有無
  • 被相続人の確定申告書の控え(不動産所得の記載の有無)
  • 被相続人の預金口座への定期的な入金の有無
  • 会社の計算書類における地代の勘定の有無(会社法第442条第3項)
  • 会社の会計帳簿における支払の記録(会社法第433条第1項)
  • 土地及び建物の登記事項証明書(借地権の登記、建物の所有者)

契約書がない場合であっても、会社が地代を支払っていた事実があれば、賃貸借と評価される余地がございます。逆に、支払の事実が一切ないのであれば、使用貸借と評価されるのが通常でございます。

 名義と実態の確認

建物が会社の名義であるか、被相続人の名義であるかによっても、法律関係が異なります。建物が被相続人の名義であり、会社がこれを使用しているのであれば、土地ではなく建物の使用に関する問題となります。登記事項証明書により確認いたします。

第2節 使用貸借である場合

 貸主の地位の承継

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継いたします(民法第896条)。したがって、被相続人が貸主であった使用貸借における貸主の地位も、土地を承継した相続人が引き継ぎます。

なお、使用貸借は、借主の死亡によって終了するものとされております(民法第597条第3項)。もっとも、借主が会社である場合には、この規定の適用はございません。

 終了及び解除

当事者が使用貸借の期間を定めたときは、その期間が満了することによって終了いたします(民法第597条第1項)。期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了いたします(同条第2項)。また、その目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は契約の解除をすることができます(民法第598条第1項)。期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主はいつでも契約の解除をすることができます(同条第2項)。

もっとも、工場等の建物が現に存在し、事業が営まれている場合には、解除が権利の濫用に当たらないかが問題となり得ます。結論は事案により異なります。

 将来に向けた有償化の交渉

解除まで求めない場合には、将来に向けて相当の対価の支払を求める交渉を行うことが考えられます。会社としても、事業の継続のためには土地の使用を確保する必要がございますので、交渉の余地が生じます。

 過去の分の請求

使用貸借であることが認められる場合には、過去の使用について対価を請求することは困難でございます。無償の使用が合意されていたことになるためでございます。

第3節 賃貸借である場合

建物の所有を目的とする土地の賃貸借には、借地借家法が適用され、存続の期間、更新、更新を拒む場合の正当な事由について規律が定められております。したがって、賃貸人の側から契約を終了させることは容易ではございません。

他方、賃料が長期間にわたり据え置かれている場合には、増額の請求を検討する余地がございます。ただし、賃料の増額に関する事項は、本ウェブサイトの対象とする紛争の類型とは異なりますので、別途ご相談ください。

第4節 会社への売却の交渉

会社が事業のために当該土地を必要としている以上、会社に対して売却するという解決が現実的な場合がございます。土地を保有し続ける限り、公租公課の負担が続きますので、換価により関係を清算することには合理性がございます。

売却の交渉においては、会社の資金の状況を把握しておくことが有用でございます。株主であれば、計算書類等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。なお、不動産の価格の鑑定評価は不動産鑑定士の職務でございます。当事務所は不動産の鑑定評価を行っておりません。また、税務上の取扱いにつきましては税理士にご確認ください。

第5節 遺産分割の段階での注意

遺産分割の協議が未了である場合には、この土地を誰が取得するかを決める前に、法律関係を確認しておく必要がございます。会社が無償で使用している土地は、換価が困難であり、公租公課の負担のみが生じる財産となり得ます。にもかかわらず、これを相応の価額を有する財産として評価した上で取得することとなりますと、実質的に不利益を被ることになります。

したがって、遺産分割においては、当該土地の法律関係及び換価の可能性を踏まえた評価を主張することが重要でございます。あるいは、当該土地は会社を承継する相続人が取得し、他の相続人は他の財産を取得するという分け方も検討に値いたします。

第6節 会社に対する申入れの手順

 着手の前に確定しておくこと

  • 誰が当該土地を取得したのか(遺産分割が未了であれば、相続人の共有の状態でございます)
  • 被相続人と会社との間の関係が使用貸借か賃貸借か(第1節をご覧ください)
  • 会社が建物その他の工作物を所有しているか、その登記の名義は誰か
  • 公租公課を誰が負担してきたか、その額はいくらか
  • 会社の代表者は誰か(履歴事項全部証明書により確認いたします)

 申入れの書面

申入れは、会社の本店の所在地を宛先とし、代表取締役宛てに、配達証明付きの内容証明郵便により行います。会社を継いだ相続人個人ではなく、会社を名宛人といたします。相手方は会社でございますので、家族としての話合いとは切り分けて進めることが肝要でございます。

  • 土地の表示(所在、地番、地目及び地積)
  • 当該土地を相続により取得した旨及びその根拠
  • 現在の使用の状況(建物の所在、使用の開始の時期、対価の有無)
  • 求める事項(有償化の協議、契約書の締結、明渡し、買取りのいずれか)
  • 回答を求める期限及び連絡先

 協議において取り決めるべき事項

有償化について協議が調う場合には、次の事項を書面により定めます。口頭の合意にとどめますと、代替わりの度に同じ問題が繰り返されます。

  • 対価の額及び支払の方法並びに支払期日
  • 契約の期間及び更新に関する定め
  • 公租公課の負担
  • 契約が終了した場合の建物その他の工作物の取扱い
  • 会社が第三者に転貸し、又は土地の上の建物を譲渡する場合の取扱い
  • 土地を第三者に譲渡する場合の取扱い

 協議が調わない場合

協議が調わない場合には、簡易裁判所における民事調停の申立て、又は訴えの提起を検討いたします。遺産分割が未了である場合には、まず遺産分割の手続の中で当該土地の帰属を確定させることが先決となることがございます(第5節をご覧ください)。

第7節 会社側から想定される主張と、反論の枠組み

会社側の主張 反論の枠組み
先代の了解を得て使用してきた 先代の了解があったとすれば、それは無償による使用を認める合意、すなわち使用貸借であったということでございます。使用貸借であれば、期間及び目的の定めの有無に応じて、貸主から終了を求め得る余地がございます(民法第597条、第598条)。了解の存在は、賃貸借であることを基礎付けるものではございません
長年にわたり無償であったのだから、今後も無償であるべきだ 長期間が経過したことは、将来にわたり無償とすべき理由にはなりません。むしろ、使用貸借において目的に従った使用が終わったかを検討する事情となり得ます
会社が建物を建て、修繕の費用も負担してきた 建物の所有及びその費用の負担は、土地を無償で使用し得る根拠とは別の問題でございます。契約が終了する場合の建物の取扱いは、別途の協議の対象となります
対価を支払うと会社が立ち行かない 会社の資力は、対価を支払う義務の有無を左右するものではございません。もっとも、現実の解決としては、支払額、支払の開始の時期、段階的な引上げについて協議することが考えられます
相続人は会社の関係者ではないのだから口を出すべきではない 当該土地の所有者としての権利の行使でございまして、会社との関係の有無とは無関係でございます
公租公課は所有者が負担すべきものである 公租公課を所有者が納付すべきことと、無償による使用を受忍すべきこととは別でございます。むしろ、所有者が公租公課を負担しながら何らの収益も得ていない状態そのものが、有償化を求める理由となります
明渡しを求めるのであれば建物を買い取ってほしい 建物の買取りの当否は、契約が使用貸借であるか賃貸借であるかにより取扱いが異なります。まず法律関係を確定させた上で検討いたします
土地は会社のものだと聞いている 登記事項証明書により所有権の登記の名義を確認いたします。名義が被相続人であれば、会社の認識は結論を左右いたしません

よくあるご質問

質問1 過去の賃料を請求できますか。

無償の使用が合意されていた(使用貸借である)と評価される場合には、過去の分について対価を請求することは困難でございます。他方、賃貸借であるにもかかわらず支払がされていない場合には、未払の賃料を請求することになります。まず法律関係の確定が必要でございます。

質問2 出て行ってもらうことはできますか。

使用貸借であれば、期間及び目的の定めに応じて解除し得る余地がございます(民法第597条、第598条)。もっとも、工場等が現に稼働している場合には、解除が権利の濫用に当たらないかが問題となり得ます。賃貸借であって借地借家法の適用がある場合には、終了させることは容易ではございません。

質問3 契約書がありません。

契約書がなくとも契約は成立し得ます。地代の支払の有無、被相続人の確定申告の内容、会社の帳簿の記載から、法律関係を推認することになります。

質問4 公租公課の負担だけが残っています。

将来に向けた有償化の交渉、又は会社に対する売却の交渉を検討いたします。なお、公租公課の取扱いにつきましては税理士又は市区町村にご確認ください。

質問5 会社ではなく、会社を継いだ兄に請求すればよいのではありませんか。

土地を使用しているのが会社であれば、対価を求める相手方は会社でございます。会社と個人とは別個の法人格でございますので、名宛人を誤ると、後の手続において争いを生じます。書面は会社宛てといたします。

質問6 協議の相手方が「役員会で決めることだ」と言って回答しません。

回答の期限を定めて書面により再度求め、その経過を記録いたします。相当の期間を置いても回答がない場合には、調停の申立て又は訴えの提起を検討いたします。会社の内部の意思決定の遅滞は、協議を打ち切る理由の一つとなり得ます。

質問7 同じ状態の土地が複数ございます。

土地ごとに、使用の開始の時期、対価の有無、地上の工作物の状況が異なることがございます。土地ごとに法律関係を確定させ、まとめて申し入れる場合であっても、書面において個別に特定いたします。

本記事の根拠条文

民法

  • 第593条(使用貸借)
  • 第597条第1項から第3項まで(期間満了等による使用貸借の終了)
  • 第598条第1項・第2項(使用貸借の解除)
  • 第601条(賃貸借)
  • 第896条(相続の一般的効力)

借地借家法 建物の所有を目的とする土地の賃貸借に関する規律

会社法 第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)

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