不動産の評価の基準となる時点はいつか

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不動産の評価の基準時に関するメインのページです。本ページは、遺産分割において相続開始の時と分割の時のいずれの価格を用いるかという論点をご説明します。価格の決め方そのものは中核のページをご参照ください。

▶ 遺産分割における不動産の評価額の決め方

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父が亡くなってから7年が経過し、ようやく遺産分割の話合いが動き始めました。この間に実家の周辺で再開発が進み、土地の価格が相当に上昇しています。兄は「父が亡くなった時の価格で計算すべきだ」と主張し、私は「今の価格で分けるべきだ」と考えています。どちらが正しいのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。不動産の評価の基準となる時点は、どの制度における、どのような場面での評価かによって異なります。遺産分割において具体的相続分に応じた分割を行うに当たっての評価は、原則として分割の時(現実に分割をする時)の価額によるものと解されています。他方、特別受益の持戻しの計算の基礎となる遺産の評価は、相続開始の時が基準とされます。また、遺留分を算定するための財産の価額における評価は、相続開始の時によるものと解されています。相続税の課税における評価は、相続開始の時によります。このように基準時が異なりますので、混同すると算定を誤ります。本記事では、場面ごとの整理を示します。

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不動産の価格をめぐる問題は、何を確かめたいかによって頁が分かれます。

場面ごとの基準時

 整理

表1 場面ごとの評価の基準時

場面 基準時 説明
遺産分割における分割の対象の評価 分割の時 現実に分割をする時の価額により、具体的相続分に応じて分割いたします
特別受益の持戻しの計算 相続開始の時 相続開始の時の価額により具体的相続分を算定いたします
寄与分の算定 相続開始の時 同上
遺留分を算定するための財産の価額 相続開始の時 民法第1043条第1項に基づく算定
遺留分における贈与された財産の評価 相続開始の時 贈与の時ではありません
共有物分割における評価 分割の時(口頭弁論の終結の時) 代償金の算定の基礎となります
相続税の課税における評価 相続開始の時 税理士にご確認ください

 遺産分割における二段階の評価

遺産分割においては、実務上、二段階の評価が行われることになります。

第一段階として、具体的相続分を算定するために、相続開始の時の価額を基礎として、特別受益の持戻し及び寄与分の計算を行います。これにより、各相続人の具体的相続分の割合が定まります。

第二段階として、その割合に従って現実に遺産を分割するために、分割の時の価額により各財産を評価いたします。

表2 遺産分割における評価の二段階

段階 目的 基準時
第一段階 具体的相続分の割合を算定いたします 相続開始の時
第二段階 その割合に従って現実に分割いたします 分割の時

相続開始から分割までの間に価格の変動がなければ、両者の差は生じません。もっとも、長期間が経過し、価格が大きく変動している事案では、この違いが結果に影響いたします。

 相続開始から10年を経過した場合

相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、原則として特別受益及び寄与分に関する規定は適用されません(民法第904条の3)。この場合には第一段階の計算が不要となり、法定相続分(又は指定相続分)に従い、分割の時の価額により分割することになります。

 遺留分における基準時

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とされています(民法第1043条第1項)。ここでの評価は、相続開始の時によるものと解されています。

贈与された財産についても、相続開始の時における価額により評価いたします。贈与の時の価格ではありません。

価格が変動した場合

 上昇した場合

相続開始から分割までの間に価格が上昇した場合、遺産分割においては分割の時の価額により分割されますので、上昇分も分割の対象となります。したがって、遺産を取得する相続人にとっては、代償金の額が増えることになります。

他方、遺留分の算定においては相続開始の時の価額によりますので、その後の上昇は反映されません。

 下落した場合

逆に価格が下落した場合には、遺産分割においては下落後の価額により分割されます。遺留分の算定においては相続開始の時の価額によりますので、下落は反映されません。

表3 価格の変動の影響

制度 価格が上昇した場合 価格が下落した場合
遺産分割(分割の対象の評価) 上昇後の価額により分割いたします 下落後の価額により分割いたします
遺産分割(特別受益の持戻し) 相続開始の時の価額によります 同左
遺留分の算定 相続開始の時の価額によります 同左
共有物分割 分割の時の価額によります 同左
相続税 相続開始の時の価額によります 同左

 建物の劣化

建物については、時の経過により価値が低下いたします。相続開始から長期間が経過している事案では、相続開始の時には相応の価値があった建物が、分割の時にはほとんど価値を有しないと評価されることがあります。

 相続人の行為による変動

相続人の一人が費用を投じて修繕又は改良を行った場合、その分の価値の増加をどう扱うかが問題となります。実務上は、費用の求償の問題として、又は遺産分割における調整の問題として処理されます。逆に、管理を怠ったことにより価値が低下した場合の扱いも問題となり得ます。

実務上よく起きる問題

 基準時を誤って主張する

最も多い問題が、場面に応じた基準時を誤って主張することです。遺産分割において相続開始の時の価額を主張し、又は遺留分において分割の時の価額を主張するといった誤りが生じます。

 どちらが有利かにより主張が変わる

価格が上昇している事案では、遺産を取得する側は相続開始の時の価額を主張し、代償金を受け取る側は分割の時の価額を主張することになります。もっとも、法律上の基準は当事者の希望によって変わるものではありません。

 鑑定の基準時の設定

鑑定を実施する場合には、鑑定事項において基準時を明示する必要があります。基準時の設定を誤れば、費用を投じても目的に合致しない結果となります。

 調停が長期化して評価が変わる

調停が長期化する間に、当初提出した査定書の基準時と現実との乖離が生じることがあります。この場合、改めて評価をやり直す必要が生じ、更に時間を要いたします。

 合意による基準時の設定

当事者が合意すれば、法律上の基準と異なる時点の価額により分割することも可能です。実務上、簡便な処理のために合意により基準時を定める例もあります。

 複数の制度が同時に問題となる

遺産分割と遺留分の請求とが同時に問題となる事案では、基準時の異なる二つの算定を並行して行うことになります。混同を避けるため、それぞれについて資料を整理することが必要です。

検討する選択肢

 整理の手順

表4 評価の整理の手順

段階 内容
1 場面の特定 遺産分割、遺留分、共有物分割のいずれの場面かを確認いたします
2 基準時の確定 当該場面における基準時を確定させます
3 相続開始の時の価額の把握 必要な場合に、当時の資料により評価いたします
4 現在の価額の把握 査定書等により現在の水準を把握いたします
5 変動の程度の確認 両者に大きな差があるかを確認いたします
6 主張の組立て 基準時に応じた主張を整理いたします
7 鑑定の要否 必要な場合に基準時を明示して鑑定を求めます

 過去の価額を把握する方法

相続開始の時の価額を把握する必要がある場合、当時の資料が失われていることがあります。次のような資料により推計することになります。

表5 過去の価額を把握する資料

資料 内容
当時の固定資産税の評価証明書 市町村において過去の年度分を取得し得る場合があります
当時の相続税の路線価 過去の年度分が公表されています
当時の公示価格 近隣の地点の推移を確認できます
相続税の申告書 申告をしている場合、当時の評価が記載されています
不動産鑑定士による遡及しての評価 過去の時点における価額の評価を求めます
当時の取引の事例 近隣の取引の状況

 早期の解決が評価の争いを減らします

相続開始から分割までの期間が短ければ、二つの基準時の差は小さくなり、争点も減ります。長期化するほど、価格の変動が生じ、評価をめぐる争いが大きくなります。早期の着手が、結果として争点を減らすことにつながります。

 合意による解決

基準時及び評価額について当事者が合意することができれば、鑑定の費用と期間を節約できます。複数の査定書を取得し、その中間の額で合意するといった方法が用いられます。

案件において確認すべき事項

 資料の確認

表6 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
相続 被相続人の除籍 相続開始の日
相続 相続人の戸籍 相続人の範囲
相続 遺言書、遺産分割協議書 手続の枠組み
不動産 登記事項証明書 対象となる不動産
評価(現在) 業者の査定書、固定資産税の評価証明書 現在の水準
評価(過去) 当時の評価証明書、路線価、相続税の申告書 相続開始の時の水準
贈与 贈与に関する資料 特別受益及び遺留分との関係
手続 調停又は訴訟の記録 審理の段階

 確認する事項

表7 評価の検討において確認する事項

事項 確認の内容
場面 遺産分割、遺留分、共有物分割のいずれか
基準時 相続開始の時か、分割の時か
経過した期間 相続開始から何年が経過しているか
価格の変動 上昇しているか、下落しているか
自らの立場 取得する側か、代償金を受け取る側か
10年の経過 特別受益及び寄与分の主張が制限されないか
建物の劣化 建物の価値がどう変化したか
鑑定の要否 基準時を明示して鑑定を求めるか

弁護士に相談する意味

評価の基準時は、法律の条文に明記されているものばかりではなく、制度の趣旨及び実務の運用により定まっている部分があります。

第一に、場面ごとに基準時が異なる点です。遺産分割の第一段階と第二段階、遺留分の算定、共有物分割、相続税のそれぞれで基準時が異なります。混同すれば算定を誤り、主張が通りません。

第二に、過去の価額の把握に工夫を要する点です。相続開始から長期間が経過している事案では、当時の資料が失われています。過去の年度の評価証明書、路線価、鑑定士による遡及しての評価といった方法により推計する必要があります。

第三に、期間の経過が結果を左右する点です。長期化するほど価格の変動が生じ、争点が増えます。また、相続開始から10年の経過により、そもそも特別受益及び寄与分の主張が制限されます。早期の着手が重要です。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、当該事案がいずれの場面に当たるかを整理し、基準時を確定させることです。第二に、必要な時点の評価に関する資料を収集することです。第三に、自らの立場に応じた主張を組み立てることです。第四に、鑑定を求める場合に基準時を明示して意見を述べることです。第五に、協議、調停及び訴訟を代理し、合意による解決も探ることです。なお、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士、相続税に関する評価及び申告は税理士の業務です。

なお、具体的な進め方は、相続人の構成、遺産の内容、経過した期間等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示していません。

よくあるご質問

質問1 遺産分割はいつの価格で分けますか。

具体的相続分に応じて現実に分割するに当たっての評価は、原則として分割の時の価額によるものと解されています。他方、特別受益の持戻しの計算の基礎となる評価は、相続開始の時が基準とされます。

質問2 遺留分はいつの価格ですか。

遺留分を算定するための財産の価額における評価は、相続開始の時によるものと解されています。贈与された財産についても、相続開始の時における価額により評価いたします。

質問3 7年で価格が上がりました。どちらが有利ですか。

遺産分割において遺産を取得する側にとっては、分割の時の価額により代償金が増えることになります。代償金を受け取る側にとっては有利に働きます。もっとも、法律上の基準は当事者の希望によって変わるものではありません。

質問4 当時の価格はどうやって調べますか。

当時の固定資産税の評価証明書、その年度の路線価、公示価格の推移、相続税の申告書といった資料により把握いたします。不動産鑑定士に過去の時点における評価を求めることも考えられます。

質問5 当事者で合意した価格でもよいですか。

当事者が合意すれば、その額により分割することは可能です。実務上、簡便な処理のために合意により評価を定める例も多くあります。鑑定の費用と期間を節約できるという利点があります。

質問6 鑑定を求める場合の注意点は。

鑑定事項において基準時を明示する必要があります。基準時の設定を誤れば、費用を投じても目的に合致しない結果となります。権利関係及び占有の状況の前提も併せて明確にすることが重要です。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、遺産分割における不動産の評価に関するご相談をお受けしています。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8:00~21:00
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、被相続人の除籍、相続人の戸籍、不動産の登記事項証明書、固定資産税の評価証明書、業者の査定書、相続税の申告書、贈与に関する資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第256条第1項(共有物の分割請求)、第258条(裁判による共有物の分割)、第898条(相続財産の共有)、第903条(特別受益者の相続分)、第904条(特別受益の評価)、第904条の2(寄与分)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第906条(遺産の分割の基準)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第1043条第1項(遺留分を算定するための財産の価額)、第1044条(算入される贈与の範囲)、第1046条(遺留分侵害額の請求)

その他 評価の基準時に関する取扱いは、制度の趣旨及び実務の運用によるところがあります。不動産の鑑定評価は不動産鑑定士、相続税に関する評価及び申告は税理士の業務です。

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