相続を放棄しても固定資産税の通知が届くのはなぜか

父が亡くなり、負債が多いことから家庭裁判所で相続の放棄をいたしました。ところが、その翌年の春に、父名義の土地及び建物についての固定資産税の納税通知書が私宛てに届きました。放棄をしたのになぜ請求されるのかが分からず、納付すべきかどうかも判断がつきません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。相続の放棄をした者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされますので(民法第939条)、被相続人の財産を承継せず、相続を原因とする固定資産税の納税義務も負いません。それにもかかわらず納税通知書が届くのは、主として、市町村が放棄の事実を把握していないためでございます。固定資産税は、賦課期日における固定資産課税台帳の登録の状況等に基づいて課されるものであり、市町村は相続人の調査によって課税の相手方を定めますが、その過程で放棄の事実が反映されていないことがございます。この場合には、相続放棄申述受理通知書の写しを添えて市町村に申し出ることにより、処理を求めることになります。本記事では、仕組みと対応を整理いたします。

第1節 仕組み

1 相続の放棄の効力

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。したがって、被相続人の権利義務を一切承継せず、当該不動産の所有者となることもございません。相続を原因とする固定資産税の納税義務も生じません。

2 なぜ通知が届くのか

表1 通知が届く主な理由

理由 説明
放棄の事実が把握されていない 家庭裁判所と市町村との間で情報が自動的に共有されるものではございません
相続人の調査に基づく通知 市町村が戸籍により相続人と思われる者を特定して送付いたします
賦課期日との関係 賦課期日の時点における状況に基づいて課税されます
登記の名義が変わっていない 登記が被相続人のままである場合
他の相続人も放棄している 次順位の相続人へ順次移っている過程
代表者として指定されている 共有等の場合の事務上の取扱い

いずれも、放棄をした方が納税義務を負うことを意味するものではございません。市町村における処理が追い付いていないことによるものでございます。

3 賦課期日

固定資産税は、賦課期日における固定資産の状況及び固定資産課税台帳の登録に基づいて課されるものとされております(地方税法)。したがって、賦課期日の後に生じた事情は、当該年度の課税に直ちに反映されないことがございます。

もっとも、相続の放棄は、初めから相続人とならなかったものとみなす効果を有しますので、放棄をした者が納税義務者となることはございません。

4 被相続人が納付すべきであった分

被相続人の生前に課された固定資産税で未納のものは、被相続人の債務でございます。相続を放棄した者は、この債務も承継いたしません。したがって、これについても納付の義務を負いません。

第2節 対応

1 市町村への申出

納税通知書が届いた場合には、市町村の担当課に対し、相続を放棄した旨を申し出ることになります。

表2 申出において示す資料及び事項

区分 内容
放棄の事実 相続放棄申述受理通知書又は受理証明書の写し
放棄の時期 受理された年月日
被相続人 氏名、死亡の年月日
対象の不動産 納税通知書に記載された物件
申出人の立場 放棄により相続人とならなかったものとみなされる旨
占有の状況 現に占有していない場合はその旨
連絡先 今後の連絡先

2 受理証明書の取得

相続放棄申述受理証明書は、申述を受理した家庭裁判所において交付を受けることができます。受理通知書を紛失した場合、複数の提出先に提出する必要がある場合には、証明書の交付を申請することになります。

3 納付してしまった場合

誤って納付してしまった場合には、市町村に対し、還付を求めることが考えられます。取扱いは市町村により異なりますので、担当課にご確認ください。放棄の事実を示す資料を添えて申し出ることになります。

4 他の相続人及び次順位の相続人

放棄により、次順位の者が相続人となります。その者も放棄すれば、更に次の順位へ移ります。全員が放棄した場合には、相続人のあることが明らかでないときに当たり、相続財産は法人となります(民法第951条)。この場合、家庭裁判所が相続財産の清算人を選任することにより(民法第952条第1項)、清算人が管理及び清算を行うことになります。

第3節 保存の義務との関係

1 通知と保存の義務は別の問題です

納税通知書が届くことと、相続の放棄をした者が保存の義務を負うかどうかとは、別の問題でございます。

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならないものとされております(民法第940条第1項)。この義務は「現に占有している」場合に限られており、納税通知書が届いたことによって生じるものではございません。

表3 混同されやすい事項の整理

事項 放棄をした者の立場
固定資産税の納税義務 負いません。相続人とならなかったものとみなされます
被相続人の未納の税 承継いたしません
所有者としての責任 負いません
保存の義務 放棄の時に現に占有しているときに限り負います
納税通知書の受領 受領したことにより義務が生じるものではございません
市町村への説明 放棄の事実を申し出ることが必要でございます

2 市町村からの管理の求め

納税通知書とは別に、市町村から建物の管理を求める通知が届くことがございます。この場合も、放棄の事実及び現に占有していない旨を回答することになります。求められている内容が保存の義務の範囲を超えていないかを確認することが重要でございます。

3 近隣からの求め

近隣の方から、草刈り、樹木の伐採、建物の修繕を求められることがございます。所有者としての責任を負わない以上、これらに応じる法律上の義務は原則としてございません。もっとも、保存の義務を負う場合には、その範囲での対応が必要となります。

4 記録を残すこと

市町村及び近隣とのやり取りは、書面により行い、記録を残しておくことが望まれます。放棄の時期、占有の状況、申出の内容及び回答は、後に問題となった場合の資料となります。

第4節 実務上よく起きる問題

1 放棄をしたことを伝えていない

放棄をしたにもかかわらず、市町村に伝えていないために通知が届き続けるという事案が多くございます。家庭裁判所と市町村との間で情報が自動的に共有されるものではございませんので、自ら申し出る必要がございます。

2 通知が届いたので納付してしまう

通知が届いたことにより納付の義務があると考え、納付してしまう例がございます。放棄をしている以上、納税義務は生じません。納付する前に確認することが重要でございます。

3 放棄の効力そのものが争われる

相続財産を処分する行為をした場合には、単純承認をしたものとみなされ、放棄が認められないことがございます(民法第921条第1号)。遺品の処分、預貯金の払戻し、賃料の受領といった行為が問題となり得ます。放棄を検討している段階では、財産に手を触れないことが重要でございます。

4 次順位の相続人が事情を知らない

放棄により次順位の者が相続人となりますが、その方が事情を知らないまま熟慮期間を過ぎてしまうことがございます。放棄をする場合には、次順位となる方への連絡を検討することが望まれます。

5 全員が放棄した後の処理

相続人の全員が放棄した場合、相続財産の清算人が選任されなければ、財産の管理及び処分を行う者が存在しない状態が続きます。選任の申立てには予納金の負担が生じますので、誰が申し立てるかが問題となります。

6 登記の名義が変わらない

相続の放棄がされても、登記の名義が自動的に変わるものではございません。被相続人の名義のまま残ることになり、これが通知の送付の一因ともなります。清算人が選任され、換価がされることにより、最終的に処理されることになります。

第5節 検討する選択肢

1 選択肢の全体像

表4 通知が届いた場合に採り得る手段

手段 内容 期間の目安 適する場面
市町村への申出 放棄の事実を示して処理を求めます 数週間 最初に行うべき対応です
受理証明書の取得 家庭裁判所において交付を受けます 数週間 資料が必要な場合
還付の請求 誤って納付した分について還付を求めます 数週間から数か月 納付してしまった場合
占有していない旨の説明 保存の義務を負わない旨を説明いたします 数週間 管理を求められた場合
次順位の相続人への連絡 相続人となる方に事情を伝えます 数週間 放棄をした直後
相続財産の清算人の選任の申立て 管理及び清算を行う者を選任いたします 数か月から1年 保存の義務を終了させたい場合

2 申出の書面

電話のみでの申出では記録が残りません。書面により、放棄の事実、対象の不動産、申出の趣旨を明記し、相続放棄申述受理通知書の写しを添えて提出することが望まれます。控えを保管しておくことも重要でございます。

3 保存の義務の有無の整理

市町村から管理を求められている場合には、まず自らが「現に占有している」といえるかを整理いたします。居住地、鍵の所持、家財の有無、立入りの状況を確認し、資料により示せるようにしておくことが重要でございます。

4 放棄の前の段階での注意

相続の放棄を検討している段階では、相続財産に手を触れないことが重要でございます。処分をすれば単純承認とみなされる場合があり(民法第921条第1号)、放棄そのものができなくなります。また、鍵を預かる等の行為により、放棄後の占有が認められる余地も生じます。

第6節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表5 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
放棄 相続放棄申述受理通知書又は受理証明書 放棄の事実と時期
固定資産税の納税通知書 課税の年度、対象の物件、納税義務者の記載
相続 被相続人及び相続人の戸籍 次順位の相続人の有無
不動産 登記事項証明書 登記名義人、担保権の有無
占有 住民票、居住地が分かる資料 保存の義務の有無の判断
行政 市町村からの他の通知 管理を求める通知の有無
納付 納付の記録 誤って納付していないか
近隣 苦情の記録 求められている内容

2 確認する事項

表6 対応の検討において確認する事項

事項 確認の内容
放棄の効力 単純承認とみなされる事情がないか
市町村への申出 既に伝えているか
納付の有無 誤って納付していないか
占有の有無 放棄の時に現に占有していたか
次順位の相続人 存在するか、放棄しているか
管理の求め 保存の義務の範囲を超えていないか
清算人の要否 選任の申立てを検討すべきか
費用 予納金を負担し得るか

第7節 弁護士に相談する意味

放棄をした後に通知が届くという事態は、放棄をした方にとって予期しないものでございます。

第一に、義務がないにもかかわらず応じてしまう危険がある点です。通知が届いたことにより納付の義務があると考え、納付してしまう例がございます。放棄をしている以上、納税義務は生じません。応じる前に確認することが重要でございます。

第二に、複数の問題が混同されやすい点です。固定資産税の納税義務、所有者としての責任、保存の義務は、それぞれ別の問題でございます。通知が届いたことが、他の義務を生じさせるものではございません。

第三に、放棄の効力そのものが問題となり得る点です。相続財産を処分する行為をしていれば、単純承認とみなされ、放棄が認められないことがございます。この場合には、そもそも前提が異なることになります。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、放棄の効力に問題がないかを確認することです。第二に、市町村に対する申出の書面を作成することです。第三に、誤って納付した分について還付を求めることです。第四に、保存の義務の有無を判断し、管理を求められている場合の回答を作成することです。第五に、必要な場合に相続財産の清算人の選任を申し立てることです。なお、税額の計算及び税務に関する事項は税理士又は所在地の市町村にご確認ください。

なお、具体的な進め方は、放棄の経緯、占有の状況、不動産の状態等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 放棄したのに通知が届きました。払わなければなりませんか。

相続の放棄をした者は初めから相続人とならなかったものとみなされますので(民法第939条)、相続を原因とする納税義務は生じません。市町村に対し、放棄の事実を申し出て処理を求めることになります。

質問2 なぜ通知が届くのですか。

家庭裁判所と市町村との間で情報が自動的に共有されるものではございません。市町村は戸籍により相続人と思われる者を特定して送付いたしますので、放棄の事実が反映されていないことがございます。

質問3 どのように伝えればよいですか。

相続放棄申述受理通知書又は受理証明書の写しを添えて、書面により市町村の担当課に申し出ることが望まれます。電話のみでは記録が残りませんので、控えを保管しておくことも重要でございます。

質問4 既に納付してしまいました。

市町村に対し、還付を求めることが考えられます。取扱いは市町村により異なりますので、放棄の事実を示す資料を添えて担当課にご相談ください。

質問5 建物の管理も求められています。

納税義務と保存の義務とは別の問題でございます。保存の義務は、放棄の時に現に占有している場合に限られております(民法第940条第1項)。遠方に居住し鍵も持っていない場合には、義務を負わないと解する余地がございます。

質問6 このまま放置しているとどうなりますか。

納税義務が生じるものではございませんが、督促を受けることが続きます。また、相続人の全員が放棄している場合には、相続財産の清算人が選任されるまで管理及び処分を行う者が存在しない状態が続きます。早期に申出を行うことが望まれます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、相続の放棄と不動産に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、相続放棄申述受理通知書、固定資産税の納税通知書、被相続人及び相続人の戸籍、不動産の登記事項証明書、市町村からの通知をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)、第921条第1号(法定単純承認)、第938条(相続の放棄の方式)、第939条(相続の放棄の効力)、第940条第1項(相続の放棄をした者による管理)、第951条(相続財産法人の成立)、第952条第1項(相続財産の清算人の選任)

その他 固定資産税の賦課期日、固定資産課税台帳及び納税義務者に関する定め(地方税法)。税額の計算、還付その他の税務に関する事項は、税理士又は所在地の市町村にご確認ください。

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