非上場株式と不動産を、誰にどのように割り当てるか 遺産分割の設計
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本ページは、同族会社の不動産と非上場株式が併存する相続に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 不動産の相続を弁護士に依頼するとき 登記の義務化と、遺産分割が動かない場合の手続
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相続人は、家業を継いだ長男と、会社に一切関与していない長女及び二男の3人です。遺産は、会社が工場として使っている土地及び建物、その会社の株式、自宅、それに若干の預貯金でした。株式を長男に集めることまでは全員が了解したものの、では不動産と自宅をどう分けるのか、長男が支払う代償金はいくらで、その資金をどこから出すのかという段階に入って、案が作れなくなりました。
行き詰まる原因は、財産の性質にあります。非上場株式には市場がなく、売って現金に換えることができません。事業に使われている不動産も、会社が使い続けることを前提とする限り、売却の対象になりません。ところが相続税は金銭で納めるのが原則であり、他の相続人に支払う代償金も金銭です。評価額の合計だけは大きく出るのに、動かせる現金がどこにもない、という状態が生じます。
結論から申し上げます。割当ての設計は、評価額の合意を待たずに、事業を誰が続けるのかという点と、納税及び代償金の資金をどこから作るのかという点の二つから逆算して組み立てるべきであり、評価はその枠組みが定まった後に数字を当てはめる作業です。以下、順にご説明します。
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割当てを決める作業と、対立の構造を把握する作業とでは、必要となる資料も検討の順序も異なるためです。
- 誰にどの財産を割り当て、代償金と納税の資金をどう作るかという設計……本記事
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割当ての設計は、評価額を出す前に始めます
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをするものとされています(民法第906条)。評価額は、この「一切の事情」に含まれる要素の一つにすぎません。条文は、まず財産の種類と性質を見よ、と述べているのです。
それにもかかわらず、多くの協議は評価から始まり、そこで止まります。非上場株式の評価は算定の方法によって数字が大きく動き、鑑定を入れれば費用と期間を要します。評価がようやく確定しても、支払うべき金銭を用意できなければ案は成立しません。
先に決めるべき事項は四つです。第一に、事業を続けるのか、清算又は第三者への譲渡に向かうのか。第二に、続ける場合、誰が経営を担うのか。第三に、その者が現実に拠出することができる現金の上限はいくらか。第四に、他の相続人が現金を必要とする時期はいつか。方針が定まらないまま評価だけを進めることは、費用の無駄になります。
事業を継ぐ者に株式を集めるという原則と、その限界
議決権が分散すれば会社の意思決定が滞りますので、株式を後継者に集中させることが設計の出発点になります。被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができます(民法第908条第1項)。生前に遺言が作成されていれば、設計の労力は大きく減ります。
限界の一つは、集中させるほど、その者が取得する財産の価額が大きくなり、他の相続人の遺留分を侵害しやすくなるという点です。もう一つは、定款の定めから生ずる危険です。株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法第174条)。この定めがある場合、株式会社は、株主総会の決議で対象となる株式の数と相手方を定めた上で、その者に対して売渡しを請求することができ、ただし相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは請求することができません(会社法第176条第1項)。
危険はその決議の仕組みにあります。売渡しの請求をするかどうかを決める株主総会において、請求を受けることになる者は議決権を行使することができないものとされ(会社法第175条第2項本文)、この決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数を要する決議に属します(会社法第309条第2項第3号)。すなわち、株式を承継した後継者が議決権を封じられている間に、他の相続人の議決だけで株式を会社へ吐き出させられる事態が起こり得ます。設計に入る前に、必ず定款を取り寄せ、この定めの有無を確認してください。
不動産を分けるか、換価するか、代償金で調整するか
割当ての型は三つです。財産そのものを分ける現物の分割、売却して代金を分ける換価の分割、一部の相続人が財産を取得して他の相続人に金銭を支払う代償の分割です。実際の協議では、この三つを財産ごとに組み合わせます。
会社が使用している不動産については、換価の分割を採ると事業の基盤そのものが失われますので、原則として選択肢になりません。例外は、会社自身が買い受ける場合であり、現金の確保と事業の継続とが両立します。他方、不動産を相続人の共有として残す現物の分割は、賃料の改定にも売却にも共有者の関与を要しますので、慎重に判断してください。
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生じますが、第三者の権利を害することはできません(民法第909条)。取得した相続人は相続開始の時から権利を有していたものとして扱われますので、分割までの間に会社と交わした約束や、受領した賃料の帰属について、分割の書面の中で確認しておいてください。
代償金を用意することができない場合に採り得る方法
後継者に手元の資金がないことは珍しくありません。実務で用いられる手当ては、次のとおりです。
第一に、分割による支払です。遺産分割協議書に、支払の期日、回数、金額、遅滞した場合の扱い、担保の有無を明記します。額だけを定めて支払の方法を書かない書面は、後に必ず紛争を生みます。第二に、会社が不動産を買い受ける方法です。会社が資金を調達して代金を支払い、相続人はその代金を分け合います。第三に、会社が自己の株式を取得する方法です。ただし、自己の株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないとされています(会社法第461条第1項)。剰余金が乏しい会社では、この方法を採ることができません。
第四に、生命保険金を原資とする方法です。受取人が指定されている保険金は、遺産分割の対象となる財産とは別に扱われるのが原則ですので、代償金の原資として設計に組み込むことができます。第五に、後継者個人が金融機関から借り入れる方法です。いずれの方法についても、税務上の取扱いは異なりますので、必ず税理士に確認してください。
納税の資金をどこから作るのか
期限は動きません。相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は死亡の日)の翌日から10か月以内に行うものとされ、納税も同じ期限までに行うこととされています(国税庁タックスアンサーNo.4205)。設計の作業は、この日付から逆算して組み立てます。
まず、そもそも納税が必要かどうかを見ます。課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を計算し、その基礎控除額は3,000万円に600万円へ法定相続人の数を乗じた額を加えた金額とされています(国税庁タックスアンサーNo.4152)。次に、宅地等の評価を下げる特例の可否を見ます。小規模宅地等の特例では、特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等について限度面積400平方メートル、減額される割合80パーセント、貸付事業用宅地等に該当する宅地等について限度面積200平方メートル、減額される割合50パーセントとされています(国税庁タックスアンサーNo.4124)。特定同族会社事業用宅地等については、相続税の申告期限においてその法人の役員であること、及びその宅地等を申告期限まで有していることが要件とされていますので、誰にその土地を割り当てるかという判断が、そのまま税額に跳ね返ります。
それでも金銭で納めることが難しい場合には、延納の申請があります。相続税額が10万円を超え、金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、納付を困難とする金額を限度として、担保を提供して年賦の方法により納付することができるとされ、延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下である場合には担保の提供を要しないとされています(国税庁タックスアンサーNo.4211)。延納の期間中は利子税の納付が必要です。以上はいずれも制度の骨格にすぎず、個別の適用の可否は必ず税理士に確認してください。
遺留分の請求を受けた場合に、どの財産から支払うのか
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、遺留分を算定するための財産の価額に、直系尊属のみが相続人である場合には3分の1、それ以外の場合には2分の1を乗じた額を受けます(民法第1042条第1項第1号及び第2号)。相続人が数人ある場合には、この割合に各自の相続分を乗じた割合となります(同条第2項)。その基礎となる価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額です(民法第1043条第1項)。
請求の内容は金銭です。遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法第1046条第1項)。したがって、請求を受けても株式や不動産が当然に共有になるわけではなく、支払うべき金銭を別に用意しなければなりません。株式を後継者に集中させる案を採る以上、この金銭をどの財産から出すのかを、案を作る段階で決めておく必要があります。
直ちに全額を支払うことができない場合の手当てとして、裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができるとされています(民法第1047条第5項)。また、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅し、相続開始の時から10年を経過したときも同様です(民法第1048条)。
一部の分割と全部の分割のいずれで進めるか
遺産の一部について先に分割を成立させることは、協議によっても、家庭裁判所への請求によっても可能です(民法第907条第1項及び第2項)。設計の観点から一部の分割を選ぶ主な理由は、資金の手当てにあります。納税の期限が迫っているのに全体の合意が見込めない場合には、預貯金についてのみ先に分割を成立させ、納税に充てるという形が採られます。
期間の制限にも注意が必要です。特別受益及び寄与分に関する規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については適用されません。ただし、相続開始の時から10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき、又は10年の期間の満了前6か月以内の間に分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前にその相続人が家庭裁判所に分割の請求をしたときは、この限りでないとされています(民法第904条の3第1号及び第2号)。家業への貢献を寄与分として主張する予定であれば、この10年という区切りを日程表に書き入れておかなければなりません。
もう一つ、協議の途中で財産が減っている場合の扱いがあります。遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができ(民法第906条の2第1項)、共同相続人の一人又は数人によりその財産が処分されたときは、当該共同相続人については同意を得ることを要しません(同条第2項)。土地の一部が売却された場合や、預貯金が引き出された場合に用いる規定です。一部の分割を先行させるときは、残る財産の範囲がこの規定によって変わり得ることを踏まえ、代償金の算定の方法を先に合意しておいてください。
なぜ「株式は継ぐ者へ、不動産は他の相続人へ」が争いになるのか
この振り分けは、一見すると分かりやすく、公平にも見えます。それでも争いになるのは、三つの理由によります。
第一に、現金に換えることができる度合いが違います。非上場株式には市場がなく、買い手は会社又は後継者に限られます。会社が使用している不動産も、賃借人がいる状態のまま第三者へ売却すれば価格は下がります。評価額としては相応の数字が算出されるだけに、当事者の実感との隔たりが大きくなります。
第二に、相続の後に生ずる差が事前の評価に反映されません。株式の価値は業績によって増減し、後継者が事業を伸ばせば上がります。相続の時点では同じ価額でも、10年後の姿は大きく異なり得ます。第三に、同じ財産について複数の数字が並びます。遺留分を算定するための財産の価額は相続開始の時を基準としますが(民法第1043条第1項)、遺産分割の協議では別の時点の価額が持ち出されることがあります。基準とする時点を先に取り決めておくことが、争いを避ける最も簡単な方法です。
いま確認していただきたいこと
設計に着手する前に、次の各点を揃えてください。ここまで揃えば、案の作成に進むことができます。
- 会社の定款を取り寄せ、相続人等に対する売渡しの請求に関する定めの有無を確認すること
- 遺言の有無と、遺産の分割の方法の指定が置かれているかどうかを確認すること
- 相続開始を知った日から10か月後に当たる日を、暦の上で特定すること
- 後継者が代償金及び納税資金として拠出することができる金額の上限を算出すること
- 会社の直近の計算書類から、剰余金の状況と金融機関からの調達の余地を把握すること
- 生命保険契約の有無、受取人及び保険金額を一覧にすること
- 遺留分を有する相続人が誰であり、その割合がいくらであるかを書き出すこと
よくあるご質問
遺言がありません。株式を後継者に集めることはできますか
できます。共同相続人の協議が調えば、株式の全部を一人に割り当てる分割が可能です。ただし、その分だけ他の相続人に支払う金銭が増えますので、資金の裏付けを先に確認してください。
代償金の額は、どの評価額を基に決めますか
当事者が合意した評価額を基に決めるのが原則です。非上場株式については算定の方法によって数字が動きますので、どの方法を用いるかを先に合意し、その上で数字を算出するという順序を採ってください。
申告期限までに分割が調わない場合はどうなりますか
申告と納税の期限自体は動きません(国税庁タックスアンサーNo.4205)。分割が調わないまま期限を迎える場合の申告の方法、及び各種の特例の適用の可否については取扱いが定められていますので、必ず税理士に確認してください。法律の側では、預貯金についてのみ先に分割を成立させることができないかを検討します。
不動産を共有のまま残すことは、避けるべきですか
できる限り避けてください。次の相続が起これば当事者が増え、解消はさらに難しくなります。どうしても共有とせざるを得ない場合には、将来の解消の方法と期限を、分割の書面の中に定めておいてください。
遺留分の請求をされた場合、株式を渡して解決することはできますか
遺留分侵害額の請求は、金銭の支払を求める権利です(民法第1046条第1項)。当然に株式を渡す義務が生ずるわけではありません。もっとも、当事者が合意すれば、金銭に代えて他の財産を交付することは可能です。その場合の税務上の取扱いは税理士に確認してください。
おわりに
非上場株式と事業用の不動産とが遺産に含まれる場合、割当ての設計は、評価の作業ではなく資金の作業です。誰が事業を続けるのか、その者がいくら払えるのか、他の相続人がいつ現金を必要とするのか。この三つが決まれば案の骨格はおのずと定まり、評価はそこに数字を当てはめる作業に収まります。
定款に置かれた売渡しの請求の定め、10年という区切り、そして申告と納税の期限。いずれも、気付いた時点では手遅れになりやすいものばかりです。早い段階で日程表を作り、一つずつ潰していけば、必ず形になります。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
非上場株式と不動産の遺産分割に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 民法第904条の3第1号及び第2号(期間経過後の遺産の分割における相続分)
- 民法第906条(遺産の分割の基準)
- 民法第906条の2第1項及び第2項(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
- 民法第907条第1項及び第2項(遺産の分割の協議又は審判)
- 民法第908条第1項(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
- 民法第909条(遺産の分割の効力)
- 民法第1042条第1項及び第2項(遺留分の帰属及びその割合)
- 民法第1043条第1項(遺留分を算定するための財産の価額)
- 民法第1046条第1項(遺留分侵害額の請求)
- 民法第1047条第5項(受遺者又は受贈者の負担額)
- 民法第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
- 会社法第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
- 会社法第175条第2項(売渡しの請求の決定)
- 会社法第176条第1項(売渡しの請求)
- 会社法第309条第2項第3号(株主総会の決議)
- 会社法第461条第1項(配当等の制限)
- 国税庁タックスアンサーNo.4124(相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例)
- 国税庁タックスアンサーNo.4152(相続税の計算)
- 国税庁タックスアンサーNo.4205(相続税の申告と納税)
- 国税庁タックスアンサーNo.4211(相続税の延納)
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