会社が使用する不動産と非上場株式を同時に相続した場合 利害の衝突をどう整理するか
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本ページは、同族会社の不動産と非上場株式が併存する相続に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 不動産の相続を弁護士に依頼するとき 登記の義務化と、遺産分割が動かない場合の手続
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遺産の目録を作ってみると、主だった財産は二つでした。一つは会社が本社と倉庫として使っている土地及び建物であり、もう一つは、その会社の非上場株式です。相続人は3人で、そのうち1人が代表取締役を務めています。株式を誰が取得するかという話と、不動産を誰が取得するかという話とを、別々の議題として進めていたところ、途中でどちらも動かなくなりました。
この行き詰まりには理由があります。二つの財産は独立していません。不動産から得られる収入は会社が支払う賃料で決まり、株式の価値は会社の損益で決まります。賃料を引き上げれば会社の費用が増えて利益が減り、株式の価値が下がります。引き下げれば逆のことが起こります。一つの数字が、二つの財産の価値を反対の向きに動かすのです。
結論から申し上げます。会社が使用する不動産と非上場株式とは、賃料という一つの数字を介して結び付いており、一方の価値を高める行為が他方の価値を必ず削るという関係にありますので、分割の案を作る前に、どの相続人とどの相続人が、どの数字をめぐって反対の立場に立つのかを書き出す作業が要ります。以下、順にご説明します。
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対立の構造を把握する作業と、割当てを決める作業とは、順序も検討材料も別のものだからです。
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二つの財産は、別々に扱うと必ず衝突します
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対して賃料を支払うこと等を約することによって効力を生じます(民法第601条)。この賃料が、不動産と株式とを結ぶ唯一の接点です。年額の賃料が240万円か480万円かという違いは、不動産を取得する者の収入の違いであると同時に、会社の年間の費用の違いであり、そのまま株式の価値の違いになります。
そのため、二つの財産を別々の議題として扱うと、同じ論点を二度、しかも反対の方向から議論することになります。不動産の議題では「賃料は低すぎる」と主張していた者が、株式の議題では会社の収益力を高く見積もろうとする、といった食い違いが生じます。議論が噛み合わない原因は、当事者の不誠実ではなく、議題の切り分け方にあります。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法第896条)。相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属します(民法第898条第1項)。各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(民法第899条)。すなわち、分割が終わるまでの間、不動産も株式も相続人全員に関わる財産であり、衝突は分割の議論を始める前から既に存在しています。
誰が株式を持ち、誰が不動産を持つかで、立場が入れ替わります
誰がどちらを取得するかによって、同じ人物が「賃料を上げたい側」にも「下げたい側」にも回ります。この入れ替わりを整理せずに議論を始めると、途中で主張が変わったように見え、不信を招きます。
類型は三つに分かれます。第一に、同一の相続人が株式と不動産の双方を取得する型です。この場合、賃料の額は当該相続人の内部の問題となり、対立は他の相続人に対する調整の額へ移ります。第二に、株式と不動産とが別々の相続人に分かれる型です。賃貸人となる者と、会社を支配する者とが別人になりますので、対立が最も鋭く表れます。第三に、いずれも共有のまま残す型です。決められない状態がそのまま固定され、賃料の改定も不動産の処分も進みません。
実務では、想定される分割の案ごとに、各相続人が賃料の増額と減額のいずれを望む立場に立つかを一覧に書き出します。この一覧を作ると、どの案であっても対立が消えるわけではなく、対立の相手方が変わるだけであることが分かります。対立を消そうとするのではなく、対立を予測して条件を書面に固定する、という方向に議論が変わります。
賃貸借の条件を決めるのは、実質的には株主です
交渉の相手方は、形式の上では会社であり、その意思を表示するのは代表取締役です。しかし、その代表取締役を選び、また解くことができるのは株主です。株主総会は、株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができます(会社法第295条第1項)。取締役会設置会社においては、法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限って決議をすることができます(同条第2項)。
重要な事項の決議には、より重い要件が課されます。すなわち、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合はその割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上に当たる多数を要する決議が定められています(会社法第309条第2項)。したがって、誰が議決権の3分の2を握るのかという点が、会社の意思決定の実質を左右します。
分割が終わるまでの間は、この点がさらに複雑になります。株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対してその氏名又は名称を通知しなければ、その株式についての権利を行使することができません。ただし、会社が権利を行使することに同意した場合はこの限りでないとされています(会社法第106条)。この権利行使者を誰にするかという一点が、実質的な支配の所在を決めることになります。
株式を相続した者が、賃料の減額に応じてしまう理由
株式を取得した相続人が会社の経営を担う場合、その者は会社の資金繰りに責任を負います。賃料は、毎月、確実に社外へ出ていく費用であり、削減の対象として最初に名前が挙がる費目です。従業員の給与や仕入代金を削ることは難しく、金融機関への返済は約定で決まっていますので、消去法として賃料に手が伸びます。
もう一つの事情は、個人保証です。後継者が会社の借入れについて連帯保証をしている場合、会社から資金が流出することは、自らが負う保証の危険を高めることに直結します。そのため、賃料の減額を会社の側から求めるだけでなく、賃貸人となる立場にありながら自ら減額を提案してしまう例すら見られます。株式を取得したことによって、経営者としての利害が、相続人としての利害を上回るのです。
ここで見落とされやすいのは、賃料を引き下げても、不動産の固定資産税、修繕費、火災保険料といった負担は所有者の側に残り続けるという点です。これらは会社の帳簿には現れませんので、会社の内部の議論では話題に上りません。賃料の額を協議する場面では、これらの年間の合計額を先に算出し、賃料がその額を下回っていないかどうかを確認する必要があります。
不動産だけを相続した者が採ることができる手段
株式を1株も取得しなかった相続人は、会社に対する情報の入口を持ちません。会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写の請求は、総株主の議決権の100分の3(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)以上の議決権を有する株主、又は発行済株式(自己株式を除く。)の100分の3以上の数の株式を有する株主に限って認められ、しかも請求の理由を明らかにしてしなければならないとされています(会社法第433条第1項)。株主でない者は、この手段を用いることができません。
用いることができるのは、賃貸人としての地位に基づく手段に限られます。契約書の写しの交付を求めること、賃料の支払を請求すること、条件の見直しを申し入れること、支払の遅滞があればその是正を求めることです。これらは、会社の内部の数字を知らなくても行うことができます。
他方で、退去を背景とした交渉には限界があります。建物の賃貸人による更新の拒絶の通知又は解約の申入れは、双方が建物の使用を必要とする事情のほか、賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び現況、並びに明渡しの条件としての財産上の給付の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができません(借地借家法第28条)。会社が現に事業に使用している以上、この要件は容易には満たされません。情報にも届かず、退去も求めにくいという二重の不利を負うことになりますので、この非対称は、分割の場で調整するほかありません。
会社が使用貸借によって使っている場合の難しさ
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって効力を生じます(民法第593条)。賃料が存在しませんので、二つの財産を結ぶ調整の余地がそもそもありません。不動産を取得する者には収入が一切生じない一方、所有者としての負担だけが残ります。
期間の面でも困難があります。使用貸借は、借主の死亡によって終了します(民法第597条第3項)。しかし借主が会社である場合、法人には死亡がありませんので、この規定によって終了の時期が到来することはありません。貸主であった先代が死亡しても、それだけで契約が終わるわけではありません。終了を主張するには、期間又は使用及び収益の目的の定めの有無から組み立てる必要があります。
税の面でも差が生じます。国税庁の小規模宅地等の特例の区分では、特定同族会社事業用宅地等は、一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除きます。)の用に供されていた宅地等として整理されており、限度面積は400平方メートル、減額される割合は80パーセントとされています(国税庁タックスアンサーNo.4124)。無償で使用させている場合の取扱いは、必ず税理士に確認してください。使用貸借であるか賃貸借であるかは、契約の性質の問題にとどまらず、誰がどれだけの不利益を負っているかという衝突の大きさそのものを決めます。
遺産の一部の分割を先行させるという方法
共同相続人は、遺言による禁止等の場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができます(民法第907条第1項)。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合における一部の分割については、この限りでないとされています(同条第2項)。
この方法が意味を持つのは、議決権の空白を埋める必要があるときです。株式が共有のまま長く置かれると、権利行使者の指定が調わない限り会社の意思決定が止まり、賃貸借の条件どころか、計算書類の承認や役員の選任すら滞ります。会社が動かなくなれば、株式の価値も不動産の収益も同時に損なわれますので、まず株式についてだけ分割を成立させ、議決権の所在を明確にするという順序が採られることがあります。
もっとも、株式だけを先に確定させると、その後の協議において、不動産を取得することになる相続人の立場が弱くなります。会社を支配する者が確定した後で賃料の協議を始めることになるためです。先行して分割を行う場合には、不動産の条件について協議を継続する旨と、その期限とを、先行の分割に関する書面の中に明記しておかなければなりません。
なぜ同族会社では、この衝突が表に出にくいのか
先代が存命であった間は、個人と会社の利害が同一人に帰属していました。賃料の額は、税務上の必要から決められた数字にすぎず、その水準が近隣の相場に照らして適正かどうかを検証する動機が、誰の側にもありませんでした。
外形は整っています。会社の帳簿には地代家賃として毎月の金額が計上され、所有者の口座には入金があり、確定申告も行われています。書類の上では何の問題も見当たりません。整っているように見えるからこそ、誰もその金額の根拠を問わないまま年月が過ぎます。
言葉の使い方も、問題を覆い隠します。家族の間では「実家の土地を会社が使っている」という言い方がされ、賃貸借や使用貸借という語が用いられません。対価を口にすることが、家族の情に反するかのように受け取られるためです。そして衝突は、遺産分割の協議の席で初めて言語化されます。そこで初めて「では適正な賃料はいくらか」という問いが立ち、これまで誰も検証していなかったという事実が明らかになります。表に出た時点で既に感情の問題と結び付いていますので、数字の議論に引き戻すまでに時間を要することになります。
いま確認していただきたいこと
対立の構造を把握するために、次の各点を書き出してください。分割の案を考えるのは、この作業を終えた後です。
- 相続開始の直前における議決権の割合と、現在の株式の帰属の状態
- 株式について、権利を行使する者の指定と会社への通知がされているかどうか
- 会社の直近3期の決算書のうち、地代家賃として計上されている年間の金額
- 賃貸借契約書又は覚書の有無と、賃料が改定された時期及びその理由
- 固定資産税、修繕費及び火災保険料の年間の合計額と、賃料の年額との比較
- 相続人のうち、会社の役員である者、及び会社の借入れについて保証をしている者
- 会社が使用している範囲と、遺産である不動産の範囲とが一致しているかどうか
よくあるご質問
株式と不動産の両方を、一人の相続人が取得することはできますか
可能です。ただし、それによって対立が消えるわけではありません。賃料の額をめぐる対立が、他の相続人に対する調整の額をめぐる対立に置き換わるだけです。取得する者に資金がなければ調整が成り立ちませんので、資金の裏付けを確認しないまま、この形を前提に議論を進めることは避けてください。
賃料を近隣の相場の額まで引き上げれば、公平になりますか
一方向には解決しません。賃料を引き上げれば会社の利益が減り、株式の価値が下がります。株式を取得する相続人にとっては、受け取る財産の価値が減ることを意味します。賃料の水準は、不動産と株式の双方の価値に同時に影響する数字として、一度に検討する必要があります。
会社の決算書を見せてもらえません。分割が終わる前に見ることはできますか
株式が共有の状態にあるときは、権利を行使する者として指定された者を通じて行使することになりますので(会社法第106条)、指定がされていない間は、株主としての請求が事実上できません。まずは権利行使者の指定について協議し、それが調わない場合には、遺産分割の手続の中で資料の提出を求めることを検討します。
会社の代表者である兄が、株主総会を開いていません
株主総会は、会社に関する一切の事項について決議をすることができる機関です(会社法第295条第1項)。総会が開かれていないという事実そのものが、会社の運営の状態を示す事情になりますので、いつの時点の決議が存在し、どの決議が欠けているのかを、議事録の有無とともに確認してください。
私は株式を1株も相続していません。会社に対して何か言うことはできますか
賃貸人としての立場から、契約の内容の確認、賃料の支払の請求、条件の見直しの申入れを行うことができます。会社の内部の意思決定に関与することはできませんが、不動産の使用に関する条件は、所有者の同意がなければ変更することができません。この一点が、唯一かつ確実な足場になります。
おわりに
会社が使用する不動産と非上場株式とが同時に遺産に含まれる場合、対立は個々の相続人の性格から生じているのではなく、財産の組み合わせそのものから生じています。賃料という一つの数字が二つの財産の価値を反対に動かす以上、誰かが譲れば済むという話にはなりません。まず、どの案を採ればどの相続人がどの立場に立つのかを書き出し、対立の所在を全員が同じ形で理解することが出発点になります。
構造が見えれば、感情の対立は交渉の条件の問題に変わります。話が噛み合わないのは、相手方に誠意がないからではなく、見えている数字が互いに違うからです。順序を踏めば整理は必ずできます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
不動産と非上場株式が併存する相続に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典
- 民法第593条(使用貸借)
- 民法第597条第3項(期間満了等による使用貸借の終了)
- 民法第601条(賃貸借)
- 民法第896条(相続の一般的効力)
- 民法第898条第1項(共同相続の効力)
- 民法第899条(共同相続の効力)
- 民法第907条第1項及び第2項(遺産の分割の協議又は審判)
- 会社法第106条(共有者による権利の行使)
- 会社法第295条第1項及び第2項(株主総会の権限)
- 会社法第309条第2項(株主総会の決議)
- 会社法第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 借地借家法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
- 国税庁タックスアンサーNo.4124(相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例)
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