会社が使用している不動産を相続した場合に弁護士へ依頼できること 依頼の範囲、時期及び費用

先代が所有していた土地の上に、先代が経営していた同族会社の工場や店舗が建っており、相続によってその土地の名義が相続人に移りました。会社の代表者は兄弟の一人であり、賃料の話を持ち出すと「先代の代から続いていることだ」と言われて先に進みません。相続の登記だけは済ませたものの、次に何をすればよいのかが分からない。このようなご相談を受けることがあります。

同族会社では、不動産の名義を個人に置いたまま、会社が事実上これを使い続けるという形が長く続いていることがあります。先代が個人と会社の双方を握っていた間は、対価の有無も契約書の存否も問題になりません。ところが相続によって所有者が複数の相続人に分かれると、会社を握る者と、不動産の名義だけを受け継いだ者とが別々になり、そこで初めて条件が問われることになります。

結論から申し上げます。弁護士への依頼は、会社に対する請求だけを切り出して頼むのではなく、相続人の間の遺産分割と会社との交渉とを一つの方針の下に置く形で行うことが有効であり、しかもその依頼は、遺産分割の協議が本格化する前の段階で行うことが最も効果を生みます。以下、順にご説明します。

この記事の位置付け

同じ悩みでも、弁護士への依頼の仕方を知りたい場面と、権利関係そのものを知りたい場面とでは、読むべき解説が異なるためです。

相続人と会社との間に、賃貸借の関係があるかどうかから始まります

受任した弁護士が最初に行うのは、会社が不動産を使用している法的な性質を一つに定める作業です。対価の授受があり、使用及び収益をさせる合意があれば賃貸借であり(民法第601条)、無償であれば使用貸借です(民法第593条)。この区別は、その後に採ることができる手段の全体を左右しますので、受任の範囲を決める前に確定させます。

確定のために取り寄せる資料は、不動産登記事項証明書、賃貸借契約書又は覚書、会社の総勘定元帳のうち地代家賃の勘定、法人税の確定申告書及びその附属明細、被相続人名義の預金口座の入金の記録です。契約書が作成されていない場合であっても、これらの資料から対価の授受の有無を跡付けることができます。依頼の前にすべてを揃える必要はなく、会社が保有している資料については、受任の後に代理人の名義で開示を求めます。

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法第896条)。賃貸人としての地位も同様です。相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属しますので(民法第898条第1項)、会社に対して何を求めることができるのかを判断する前に、誰が請求の主体となるのかを確定しなければなりません。

弁護士に任せられるのは、会社との交渉と、相続人の間の分割の双方です

依頼の対象は二つに分かれます。一つは会社を相手方とする対外の交渉であり、もう一つは共同相続人を相手方とする遺産分割の協議です。この二つは、依頼者にとっては同じ一つの悩みに見えますが、相手方が異なり、用いる手続も異なります。

対外の交渉では、賃貸人としての地位に基づく通知、条件の提示、合意書の作成を行います。所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有しますので(民法第206条)、条件を提示すること自体が正当な権利の行使です。対内の協議では、遺産の範囲の確定、評価の擦り合わせ、割当ての調整を行います。会社との条件が定まらなければ不動産の価値が定まらず、不動産の価値が定まらなければ分割の案を作ることができませんので、二つを同じ方針の下に置く必要があります。

注意を要するのは、共同相続人の複数の方から同時に依頼をお受けすることができない場合があるという点です。相続人の間に利害が対立する事項が含まれるときは、弁護士は一方のみの代理人となります。会社の側に立つのか、不動産の名義を受け継いだ側に立つのかを、依頼の入口で明確にしていただく必要があります。

依頼の時期 遺産分割の協議が始まる前が最も動かしやすい

時期による違いは、大きく四つの段階に整理することができます。すなわち、(一)協議が始まる前、(二)協議の途中、(三)家庭裁判所の調停又は審判に移った後、(四)分割が終わった後です。段階が進むほど、選ぶことができる手段は減っていきます。

協議が始まる前の段階であれば、会社に対する債権を遺産分割の場に持ち込むのか、分割を終えてから個別に請求するのかを、方針として選ぶことができます。会社への通知の文面も、後の分割の主張と矛盾しないように整えることができます。これに対し、協議の途中から依頼を受ける場合には、既に交わされた書面や口頭の発言が前提となり、そこから方針を組み立て直す作業が加わります。

賃料の請求を視野に入れる場合、時期の遅れは回収することができる範囲に直結します。債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法第166条第1項第1号及び第2号)。分割が終わった後に依頼を受ける場合には、不動産を取得した相続人が単独で交渉に当たることになり、他の相続人の協力を得るという手段を失います。

相手方が親族である場合に、代理人を立てることの意味

相手方が兄弟姉妹や甥姪である場合、代理人を立てること自体をためらわれる方が少なくありません。しかし、代理人を立てる意味は、関係を断つことではなく、話し合いの対象を財産上の条件に限定することにあります。

親族の間の直接の交渉では、過去の介護の負担、先代から掛けられた言葉、家業への貢献といった事情が同時に持ち出され、条件の合意に至りません。代理人が入ると、遣り取りは書面で行われ、提示した条件と、これに対する回答とが記録として残ります。後に家庭裁判所の手続へ移る場合、この記録がそのまま資料になります。

もう一つの実益は、断ることを代理人に委ねられる点です。親族に対して権利を主張することへの心理的な抵抗が、不利益な譲歩を招くことがあります。代理人は、依頼者に代わって「その条件には応じられません」と述べる役割を担います。逆に、法事や親族の集まりの席で条件の話を持ち出すことは、記録が残らないうえ、その場の空気に流された発言が後に不利に働きますので、避けていただきます。

賃料の請求と明渡しの請求とでは、進め方が異なります

この二つは、依頼の重さが大きく異なります。賃料の請求は金銭の支払を求めるものであり、争点は契約の内容と支払の履行の有無に絞られます。明渡しの請求は会社の事業の基盤そのものを失わせるものであり、法律上の要件が加重されています。

建物の所有を目的とする土地の賃貸借であれば、借地権の存続期間は30年であり、契約でこれより長い期間を定めたときはその期間となります(借地借家法第3条)。存続期間が満了する場合において借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされ、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときはこの限りでないとされています(借地借家法第5条第1項)。そしてその異議は、双方が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過、土地の利用状況、明渡しの条件としての財産上の給付の申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ述べることができません(借地借家法第6条)。会社が建物を借りている場合の更新の拒絶及び解約の申入れについても、同じく正当の事由が要求されます(借地借家法第28条)。

したがって、明渡しまでを求める依頼は、正当の事由を基礎付ける事実の収集と、財産上の給付の水準の検討とを含む、長い作業になります。なお、賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借はこれによって終了しますが(民法第616条の2)、建物が現に使用されている限り、この規定によって終了を主張することはできません。受任に当たっては、賃料の請求のみを先行させるのか、明渡しまで求めるのかを、最初に選んでいただきます。

会社の側に顧問弁護士がいる場合の対応

会社に顧問弁護士がいる場合、その弁護士は会社の代理人であり、相続人の利益を代弁する立場にはありません。先代の生前から長く関与していた弁護士であっても、相続の開始の後は会社の側に立ちます。この点を取り違えたまま相談を持ちかけると、こちらの手の内だけを渡すことになります。

とりわけ注意を要するのは、その弁護士が遺言の作成や株式の名義の整理に関与していた場合です。同一の弁護士が、会社の代理人として賃料の減額を主張しながら、他方で相続人の一部に助言を与えるという状態は、利益の相反を生じます。会社宛ての通知に対する回答が会社の代理人から届いた時点で、その弁護士が過去にどの範囲で関与していたのかを確認し、必要であれば書面で指摘します。

もっとも、顧問弁護士が就いていること自体は、交渉にとって不利な事情ではありません。法的な整理を前提とした遣り取りが可能となり、感情的な応酬を避けることができるためです。窓口を代理人同士に一本化し、会社の役員である親族との直接の連絡を止めることを、早い段階で申し入れます。

費用の考え方と、回収することができる見込みとの関係

弁護士の費用は、着手金と報酬金とに分けて定めるのが通常です。着手金は結果にかかわらず受任の時点で発生し、報酬金は得られた経済的な利益に応じて算定します。賃料の請求では、請求する金額及び将来の賃料の増額分が経済的な利益の基礎となり、明渡しの請求では、対象となる不動産の価額を基礎として算定します。同じ一つの土地をめぐる依頼であっても、求めるものによって費用の水準が変わるのはこのためです。

費用の判断で最も重要なのは、請求した金額を現実に回収することができるかどうかです。会社の支払能力が乏しい場合には、判決を得ても回収に至らないことがあります。そこで受任の前に、会社の直近の決算書、賃料の支払の実績、金融機関からの借入れの状況を確認し、回収の見込みを立てます。会社の資産がその不動産の上の建物だけであるという場合には、明渡しを求めるほかに実効的な手段がないという判断に至ることもあります。

費用倒れを避けるため、依頼の範囲を段階に分けることがあります。まず内容証明郵便による通知と条件の提示までをお受けし、会社の回答を見た上で、調停又は訴訟に進むかどうかを改めて決める形です。初回の法律相談の段階で、想定される費用の総額と、その内訳を書面でお示しします。

なぜ会社は、賃料の支払を続けようとしないのか

会社の側からは、決まった反論が出されます。あらかじめ想定しておくことで、資料を準備する順序を誤らずに済みます。

第一に、「先代が無償で使わせることを認めていた」という反論です。これは使用貸借の成立の主張です。もっとも、使用貸借は借主の死亡によって終了するものであり(民法第597条第3項)、貸主である先代が死亡したことによって当然に終了するものではありません。借主が会社である以上、この規定によって終了することもありません。この反論に対しては、終了の事由を別に組み立てる必要があります。

第二に、「会社が建物や設備に多額の投資をしてきた」という反論です。第三に、「株式を承継した後継者が了解している」という反論です。株式を持つ者の意向と、不動産の所有者の意向とは別のものであり、前者が後者を拘束することはありません。第四に、「同族の資産であるから一体として考えるべきだ」という反論です。いずれも権利の帰属それ自体を変えるものではありませんが、交渉の席では繰り返し持ち出されますので、書面による回答をあらかじめ用意しておきます。

いま確認していただきたいこと

依頼をお考えの段階で、次の各点をご確認ください。この確認が済んでいるだけで、初回の法律相談で方針まで到達することができます。

  • 不動産登記事項証明書を取得し、名義が被相続人のままか、相続人に移っているかを確かめること
  • 会社との間に契約書又は覚書があるかどうか、手元と会社の双方について確かめること
  • 被相続人名義の預金口座に、会社からの入金があった期間と金額を書き出すこと
  • 遺産分割の協議が、どの段階まで進んでいるのかを整理すること
  • 会社の役員及び株主に、相続人の誰が含まれているのかを書き出すこと
  • 会社に対して既に送った書面、及び会社から受け取った書面を、日付順に並べること

よくあるご質問

会社との交渉と遺産分割とを、別々の弁護士に依頼することはできますか

形式としては可能ですが、お勧めしません。会社との条件が不動産の評価に影響し、その評価が分割の案を左右するため、二人の代理人が別々の前提で動くと、双方の交渉が止まります。同一の弁護士が双方を受任し、方針を一つに保つ形が実務上は有効です。

相続の登記を済ませていませんが、依頼することはできますか

できます。相続人は相続開始の時に権利義務を承継しますので(民法第896条)、登記が未了であることは受任の妨げになりません。もっとも、会社に対して条件の変更を求める場面では、登記の記載が交渉の裏付けになりますので、受任の後に速やかに進めていただくことになります。

会社の代表者である兄弟と、直接話すことをやめた方がよいですか

受任の通知を発した後は、条件に関する話は代理人を通していただきます。日常の親族としての付き合いを断つ必要はありませんが、賃料の額、期間、明渡しの時期といった条件に触れる発言は避けてください。その場での言葉が、後に合意の成立の主張の材料とされることがあります。

会社が支払に応じない場合、必ず訴訟になりますか

そうとは限りません。会社との関係については交渉又は民事調停で解決に至る例があり、相続人の間の分割については家庭裁判所の調停があります。訴訟は、会社が支払を明確に拒み、かつ回収の見込みが立つ場合に選ぶ手段です。訴訟に進むかどうかは、会社の回答を得た段階で改めてご相談いたします。

費用の総額は、いつの時点で分かりますか

初回の法律相談の段階で、想定される手続ごとの費用の幅をお示しします。確定するのは、法的な性質と請求の内容が定まり、受任の範囲を決めた時点です。段階を分けて受任する場合には、その段階ごとに費用を定めますので、先の段階に進まない限り、その分の費用は生じません。

おわりに

会社が使用している不動産を相続した場面での依頼は、会社に対する請求と、相続人の間の分割という二つの面を同時に扱うことになります。どちらか一方だけを切り離して進めると、他方が動かなくなり、結局は最初からやり直すことになります。二つを一つの方針の下に置き、協議が本格化する前の段階で着手することが、最も費用の効率がよい進め方です。

親族を相手方とする手続は、心理的な負担が大きいものです。代理人を立てることは、その負担を制度の側に移し、話し合いの対象を財産上の条件に限定するための手段です。ご自身だけで抱えられる必要はありません。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

会社が使用している不動産の相続に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 民法第206条(所有権の内容)
  • 民法第166条第1項第1号及び第2号(債権等の消滅時効)
  • 民法第593条(使用貸借)
  • 民法第597条第3項(期間満了等による使用貸借の終了)
  • 民法第601条(賃貸借)
  • 民法第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
  • 民法第896条(相続の一般的効力)
  • 民法第898条第1項(共同相続の効力)
  • 借地借家法第3条(借地権の存続期間)
  • 借地借家法第5条第1項(借地契約の更新請求等)
  • 借地借家法第6条(借地契約の更新拒絶の要件)
  • 借地借家法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。