生産緑地の2022年問題はどうなったのか|特定生産緑地への移行状況と相続で必ず確認すべき事項

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この記事の要点
一 平成四年に指定された生産緑地の営農義務は、令和四年(二〇二二年)に三十年の期間が満了いたしました。当時「大量の農地が一斉に宅地化され、地価が暴落する」と喧伝されたものが、いわゆる生産緑地の二〇二二年問題です。
二 結論から申し上げますと、大量放出は起こりませんでした。国土交通省の公表によりますと、平成四年に定められた生産緑地九,二七三ヘクタールのうち、八九・三パーセント(八,二八二ヘクタール)が特定生産緑地に指定されています(令和四年十二月末時点。令和五年二月十四日公表)。
三 もっとも、指定を受けなかった一〇・七パーセント(九九一ヘクタール)は、既に買取りの申出が可能な状態にあります。また、特定生産緑地の指定は十年ごとの更新ですため、令和十四年(二〇三二年)に最初の更新期限が到来いたします。
四 相続の場面では、当該農地が生産緑地であるか、特定生産緑地の指定を受けているか、相続税の納税猶予を受けているかによって、採り得る手段と税負担が根本的に異なります。遺産分割協議の前に必ず確認すべき事項です。
第一 生産緑地制度とは何か
生産緑地とは、市街化区域内にある農地のうち、生産緑地法に基づき市町村が都市計画で「生産緑地地区」として定めた区域をいいます。
市街化区域は本来「おおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」(都市計画法第七条第二項)ですから、その内部の農地は宅地並みに課税されるのが原則です。しかし、都市部にも一定の農地を残すべきであるという政策判断から、平成四年の生産緑地法改正により、次の仕組みが設けられました。
| 農地所有者が負う義務 | 農地所有者が受ける利益 |
|---|---|
| 三十年間、農地として管理し続けること(営農義務) | 固定資産税及び都市計画税が宅地並み課税ではなく農地課税となること |
| 建築物の新築、宅地の造成等につき市町村長の許可を要すること | 相続税及び贈与税の納税猶予の適用を受けられること |
面積要件は原則として五百平方メートル以上ですが、平成二十九年の改正により、市町村が条例で三百平方メートルまで引き下げることができるようになりました。
第二 いわゆる「二〇二二年問題」の内実
生産緑地法第十条は、生産緑地地区の都市計画決定の告示の日から起算して三十年を経過したとき、又は農林漁業の主たる従事者が死亡し若しくは従事することが不可能となる故障を有するに至ったときは、市町村長に対して当該生産緑地を時価で買い取るべき旨を申し出ることができる旨を定めています。
平成四年に指定された生産緑地は、全国の生産緑地の大部分を占めていました。これらが令和四年に一斉に三十年を経過いたしますため、買取りの申出が集中し、市町村が買い取らない場合には行為制限が解除されて宅地化が進み、地価が下落するのではないかと懸念されたのです。これが生産緑地の二〇二二年問題と呼ばれたものです。
なお、正確に申し上げますと、生産緑地制度そのものが廃止されるわけではありません。個々の生産緑地について買取りの申出ができるようになるというにとどまります。制度が廃止されるという表現は、当時流布した誤解です。
第三 特定生産緑地制度による解決
平成二十九年の都市緑地法等の一部を改正する法律により、特定生産緑地の制度が創設されました(生産緑地法第十条の二以下)。
生産緑地地区に関する都市計画の決定の告示の日から起算して三十年を経過する日(申出基準日)が近く到来することとなる生産緑地について、市町村長は、農地所有者等の同意を得て、これを特定生産緑地として指定することができます。指定を受けますと、買取りの申出をすることができる時期が十年延期され、その後も十年ごとに繰り返し延長することが可能です。
一 指定を受けた場合の効果
固定資産税及び都市計画税は引き続き農地課税です。相続税及び贈与税の納税猶予も、次世代へ引き継ぐことが可能です。
二 指定を受けなかった場合の効果
| 項目 | 取扱い |
|---|---|
| 買取りの申出 | いつでも可能となります |
| 固定資産税・都市計画税 | 宅地並み課税へ移行いたします。ただし激変緩和措置として、五年間かけて段階的に引き上げられます |
| 現に受けている相続税の納税猶予 | 従前どおり継続いたします(終身営農が要件です) |
| 次の相続における納税猶予 | 新たに適用を受けることができません |
この最後の点が、実務上、最も重大です。特定生産緑地の指定を受けなかった生産緑地は、次に相続が発生した時点で、宅地並みの相続税評価に対して納税猶予のない課税がなされることとなります。指定を受けなかったことが、次世代の相続における多額の納税資金負担に直結するのです。
第四 その後の実際 ―― 大量放出は起こりませんでした
国土交通省が令和五年二月十四日に公表した調査結果(令和四年十二月末時点。令和四年八月から十二月にかけて全国百九十九都市を対象に実施)によりますと、状況は次のとおりでした。
| 区分 | 面積 | 割合 |
|---|---|---|
| 特定生産緑地に指定されたもの | 八,二八二ヘクタール | 八九・三パーセント |
| 指定されなかったもの | 九九一ヘクタール | 一〇・七パーセント |
| 合計(平成四年に定められた生産緑地) | 九,二七三ヘクタール | 一〇〇パーセント |
約九割が特定生産緑地へ移行いたしました。懸念された地価の暴落は、少なくとも全国的な現象としては生じていません。
その要因といたしましては、第一に、指定を受けなければ固定資産税が宅地並み課税となり負担が大きく増加すること、第二に、相続税の納税猶予を次世代へ引き継げなくなること、第三に、平成三十年に施行された都市農地の貸借の円滑化に関する法律により、生産緑地を第三者へ貸し付けても相続税の納税猶予が継続することとなり、自ら耕作を続けられない場合の選択肢が広がったことが挙げられます。
第五 次に注意すべき時期 ―― 令和十四年(二〇三二年)
特定生産緑地の指定は十年ごとの更新です。令和四年に指定を受けたものは、令和十四年(二〇三二年)に最初の更新期限を迎えます。
このとき、営農の主体である方が高齢となり、後継者が不在であるという事情から、更新をしないという判断がなされる例が相当数生じるものと見込まれます。したがいまして、二〇二二年問題は解消されたのではなく、十年ごとに繰り返し到来する問題として先送りされたと評価するのが正確です。
第六 相続の場面で必ず確認すべき五つの事項
当事務所には、都市部の農地を含む遺産の分割に関するご相談が数多く寄せられます。生産緑地が遺産に含まれる場合、遺産分割協議に入る前に、次の五点を確認する必要があります。
一 当該農地が生産緑地地区に含まれているか
市町村の都市計画課が備える都市計画図により確認いたします。多くの市町村がインターネット上で都市計画情報を公開しています。
二 特定生産緑地の指定を受けているか、その指定期限はいつか
指定を受けている場合、次の更新期限が重要です。相続後に更新期限が到来する場合、相続人において更新の同意をするか否かの判断を要します。
三 相続税の納税猶予の適用を受けているか
被相続人が納税猶予を受けていた場合、その打切りの有無が問題となります。納税猶予は終身営農を要件といたしますところ、相続人が営農を継続しない場合には、猶予されていた相続税額に加えて利子税を納付しなければなりません。
四 主たる従事者が死亡したことによる買取りの申出をするか
生産緑地法第十条は、三十年の経過のほか、農林漁業の主たる従事者の死亡を買取りの申出の事由として定めています。被相続人が主たる従事者であった場合、相続人は三十年の経過を待たずに買取りの申出をすることができます。ただし、これを行いますと行為制限は解除される一方、相続税の納税猶予は受けられなくなります。売却して納税資金に充てるのか、営農を継続して納税猶予を受けるのかは、相続人間で慎重に協議すべき事項です。
五 相続人間で営農の意思が分かれていないか
相続人の一人は営農を継続したいが、他の相続人は売却して現金で分けたいという場合、遺産分割は容易にまとまりません。生産緑地は行為制限が付されているため直ちには宅地として売却することができず、また納税猶予の適用の有無によって手取額が大きく変動いたしますため、評価額をいくらとして分けるかの合意形成が極めて困難です。この類型は、代償分割の代償金額の算定をめぐって深刻な紛争に発展いたします。
第七 当事務所にご相談いただける事項
一 生産緑地を含む遺産の分割方法及び代償金額の算定に関するご相談
二 相続人間で営農の継続と売却の意向が対立している場合の遺産分割協議及び遺産分割調停の代理
三 相続税の納税猶予の打切りの可否及び利子税の負担に関するご相談(税額の計算そのものは税理士と連携して対応いたします)
四 特定生産緑地の指定の更新をするか否かの判断に関するご相談
五 都市農地の貸借の円滑化に関する法律に基づく貸付けの可否及び契約内容に関するご相談
参考資料及び出典
- 生産緑地法(昭和四十九年法律第六十八号)
- 都市計画法第七条第二項
- 都市緑地法等の一部を改正する法律(平成二十九年法律第二十六号)
- 都市農地の貸借の円滑化に関する法律(平成三十年法律第六十八号)
- 国土交通省報道発表「平成4年に定められた生産緑地の約9割が特定生産緑地に指定されました」(令和五年二月十四日公表・令和四年十二月末時点)
- 国土交通省都市局都市計画課・公園緑地・景観課「特定生産緑地指定の手引き」
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