耕作していない農地の管理を求められた場合
相続した田を耕作しないまま数年が経過いたしました。先日、農業委員会から「利用の意向についてお答えください」という書面が届き、その後、近隣の農家の方から「雑草の種が飛んでくる」「害虫が発生している」との苦情を受けました。私は農業をしたことがなく、遠方に住んでおります。何を求められているのか、応じなければどうなるのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。農地の所有者その他の権原を有する者は、農地の農業上の適正かつ効率的な利用を確保するようにしなければならないものとされております。耕作されていない農地については、農業委員会による利用の意向についての調査、指導その他の措置が行われる場合があり、これに応じないまま放置すると、更に進んだ手続が採られる余地があります。また、雑草、害虫、土砂の流出等により近隣に損害が生じた場合には、民事上の責任を問われる余地があります。もっとも、自ら耕作することが困難であっても、貸し付ける、譲渡する、国庫に帰属させるといった選択肢がございます。本記事では、求められている内容と、採り得る対応を整理いたします。
第1節 農地の所有者に求められる管理
1 適正かつ効率的な利用の責務
農地について権原を有する者は、当該農地の農業上の適正かつ効率的な利用を確保するようにしなければならないものとされております。これは、農地が食料の生産の基盤であるという性質に基づく責務でございます。
もっとも、この責務は、所有者に対して自ら耕作することを直ちに強制するものではありません。他の者に貸し付け、又は譲渡することにより、適正な利用を確保することも含まれると解されます。
2 農業委員会による調査及び指導
農業委員会は、毎年1回、その区域内にある農地の利用の状況について調査を行うものとされております。この調査により、耕作されておらず、かつ、引き続き耕作されないと見込まれる農地等が把握されます。
把握された農地の所有者等に対しては、利用の意向についての調査が行われ、その回答に応じて、農地中間管理機構との協議の勧告その他の措置が採られる場合があります。
表1 耕作されていない農地についての手続の段階
| 段階 | 内容 | 所有者への影響 |
|---|---|---|
| 利用状況の調査 | 農業委員会が区域内の農地の利用の状況を調査いたします | 特にありません |
| 利用の意向の調査 | 所有者等に対し、今後の利用の意向が照会されます | 回答が求められます |
| 指導及び助言 | 適正な利用に向けた働きかけがされます | この段階での対応が望まれます |
| 農地中間管理機構との協議の勧告 | 貸付けについての協議を求められる場合があります | 応じない場合に次の段階に進み得ます |
| 更に進んだ措置 | 制度に基づく措置が採られる場合があります | 詳細は農業委員会にご確認ください |
手続の具体的な運用は市町村及び農業委員会により異なりますので、届いた書面の内容に即して確認する必要があります。
3 固定資産税の取扱い
耕作されていない農地について、固定資産税の課税上、通常の農地と異なる取扱いがされる場合があります。取扱いは制度及び市町村の運用によりますので、所在地の市町村又は税理士にご確認ください。当事務所は税務の相談をお受けする立場にはございません。
第2節 近隣に対する責任
1 雑草、害虫等による被害
管理がされない農地から雑草の種子が飛散する、害虫が発生する、獣が住み着くといった事態により、近隣の農地に被害が生じることがあります。これらにより現実に損害が生じ、かつ所有者に過失が認められる場合には、不法行為に基づく損害賠償の責任を問われる余地があります(民法第709条)。
もっとも、損害の発生、因果関係、過失のいずれについても立証が必要であり、直ちに責任が認められるものではありません。他方、近隣との関係が悪化することにより、将来の貸付け又は譲渡が難しくなるという実際上の不利益は生じます。
2 土砂の流出、擁壁の崩落等
農地に擁壁、水路、ため池その他の工作物がある場合において、その設置又は保存に瑕疵があることにより他人に損害が生じたときは、土地の工作物の占有者及び所有者の責任が問題となります(民法第717条第1項)。所有者の責任は、必要な注意をしたことを主張しても免れ得ない性質のものでございます。
3 不法投棄への対応
管理されていない農地には、廃棄物が不法に投棄されることがあります。投棄した者が判明しない場合、土地の所有者が撤去の負担を求められることがあります。早期に発見し、記録を残し、必要に応じて行政及び警察に相談することが望まれます。
4 管理不全の状態にある土地についての管理命令
所有者による管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合には、利害関係人の請求により、裁判所が管理人による管理を命ずる処分をすることができる制度が設けられております。令和3年の民法の改正により設けられ、令和5年4月1日から施行されております。近隣の方からこの制度に基づく申立てがされる可能性があります。
第3節 実務上よく起きる問題
1 書面に回答しないまま放置する
農業委員会からの照会に回答しないまま放置する例が多くあります。回答しないことによって問題が消えるものではなく、手続が次の段階に進む契機となります。自ら耕作できないのであれば、その旨と、貸付け又は譲渡を希望する旨を回答することが、解決への出発点となります。
2 相続登記がされておらず所有者が定まらない
登記の名義が被相続人又はそれ以前の者のままであるため、誰が対応すべきかが定まらないという事案があります。この場合、農業委員会からの照会が特定の相続人にのみ届き、その者が困惑するという状況が生じます。まず相続人を確定させ、遺産分割により帰属を定めることが必要です。
3 共有となっており方針が定まらない
農地が共有である場合、貸付け及び譲渡について共有者の関与が必要となります。共有物を賃貸することは管理に関する事項として持分の価格の過半数で決することができる場合がありますが(民法第252条第1項、第4項)、譲渡は共有者全員の同意を要します(民法第251条第1項)。
4 借り手が見つからない
条件の悪い農地では、貸付けの相手方が見つからないことがあります。この場合には、農地中間管理機構、農業委員会、農業協同組合等に相談し、地域における担い手の状況を確認することになります。
5 現況が農地でなくなっている
長年放置された結果、樹木が生い茂り、現況が農地とはいえない状態になっていることがあります。農地に当たるかどうかは現況により判断されますが、非農地であることの確認の手続については農業委員会の運用によります。この判断により、その後の処分の道筋が変わります。
6 近隣から強い要求を受けている
近隣の農業者から、除草、伐採、損害の賠償といった要求を受けることがあります。要求の内容が法的な根拠を有するものか、過大でないかを整理する必要があります。他方、関係の悪化は将来の貸付け及び譲渡の障害となりますので、対応の仕方には配慮を要します。
第4節 検討する選択肢
1 選択肢の全体像
表2 耕作していない農地について採り得る手段
| 手段 | 内容 | 期間の目安 | 適する場面 |
|---|---|---|---|
| 照会への回答 | 利用の意向を回答し、貸付け又は譲渡の希望を伝えます | 数週間 | 最初に行うべき対応です |
| 管理の委託 | 除草等の作業を業者又は近隣に委託いたします | 随時 | 当面の苦情に対応する場合 |
| 農地中間管理機構への貸付け | 機構を通じて担い手に貸し付けます | 数か月 | 担い手が見込まれる場合 |
| 近隣の農業者への譲渡 | 農業委員会の許可を得て譲渡いたします | 数か月から1年 | 取得を希望する農業者がいる場合 |
| 転用しての処分 | 転用の許可を得て、又は届出により処分いたします | 数か月から1年 | 市街化区域内又は第3種農地である場合 |
| 国庫への帰属 | 相続した土地を国庫に帰属させる制度を利用いたします | 1年程度 | 他に処分の見込みがなく要件を満たす場合 |
| 共有関係の解消 | 共有物分割により単独所有又は換価といたします | 1年から2年程度 | 共有者の足並みがそろわない場合 |
| 遺産分割の調停又は審判 | 家庭裁判所の手続により帰属を定めます | 1年から2年程度 | 協議が調わない場合 |
2 まず回答すること
最も重要な対応は、照会に対して回答することでございます。自ら耕作する意思がない場合には、その旨と、貸付け又は譲渡を希望する旨を明確に伝えます。これにより、農業委員会及び農地中間管理機構による担い手の紹介につながる場合があります。
表3 回答に記載する事項
| 事項 | 記載の内容 |
|---|---|
| 対象農地 | 所在、地番、地積 |
| 現在の権利者 | 相続の状況、登記の名義との異同 |
| 耕作の状況 | いつから耕作していないか |
| 自ら耕作する意思 | 意思の有無と理由 |
| 希望する取扱い | 貸付け、譲渡、その他の別 |
| 制約となる事情 | 共有であること、相続が未了であること等 |
| 連絡先 | 今後の連絡先 |
3 近隣への対応
近隣からの苦情については、まず現地の状況を確認し、記録を残します。除草その他の当面の措置を講じることにより、関係の悪化を防ぐことができます。他方、過大な要求、法的な根拠を欠く要求については、その旨を整理して対応いたします。
4 根本の解決は帰属の確定にあります
管理の問題は、相続が未了であること、共有であることに起因している場合が多くあります。誰が所有者として責任を負い、方針を決めるのかが定まらなければ、貸付けも譲渡も進みません。遺産分割又は共有物分割により帰属を確定させることが、根本の解決となります。
第5節 案件において確認すべき事項
1 資料の確認
表4 ご相談の際に確認する資料
| 区分 | 資料 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 行政 | 農業委員会からの書面 | 手続の段階、回答の期限 |
| 権利関係 | 登記事項証明書 | 所有者、持分、地目 |
| 権利関係 | 公図 | 位置、形状、隣接地 |
| 相続 | 被相続人及び相続人の戸籍 | 相続人の範囲 |
| 相続 | 遺産分割協議書、遺言書 | 帰属の定めの有無 |
| 現況 | 現地の写真 | 荒廃の程度、投棄物の有無 |
| 近隣 | 苦情の内容、やり取りの記録 | 要求の内容と根拠 |
| 税 | 固定資産税の納税通知書 | 評価額、課税の状況 |
2 確認する事項
表5 対応の検討において確認する事項
| 事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 手続の段階 | 調査、指導、勧告のいずれの段階か |
| 回答の期限 | いつまでに回答すべきか |
| 所有者の確定 | 相続登記が済んでいるか、共有か |
| 現況 | 農地といえる状態か |
| 区域及び区分 | 市街化区域内か、農地の区分は何か |
| 近隣の要求 | 法的な根拠を有するものか |
| 担い手の有無 | 周辺に借受け又は取得を希望する者がいるか |
第6節 弁護士に相談する意味
耕作されていない農地の問題は、行政からの照会と近隣からの苦情という2方向の要求が同時に生じるため、対応が難しくなります。
第一に、求められている内容を正確に把握する必要がある点です。行政からの書面は、調査、指導、勧告のいずれの段階のものかによって意味が異なります。回答を怠ると手続が進みますので、内容の理解が出発点となります。
第二に、近隣からの要求について、法的な根拠の有無を整理する必要がある点です。応じるべき部分と、応じる義務のない部分とを切り分けなければ、際限のない要求を受けることになります。他方、関係の悪化は将来の処分の障害となりますので、対応には配慮を要します。
第三に、根本の原因が権利関係の未整理にある場合が多い点です。相続が未了である、共有者の足並みがそろわないという状況では、貸付けも譲渡も進みません。帰属を確定させることが、最も確実な解決となります。
弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、行政からの書面の内容を検討し、回答の方針を定めることです。第二に、戸籍を収集して相続人を確定させることです。第三に、遺産分割の協議、調停及び審判を代理することです。第四に、近隣からの要求について法的な整理を行い、交渉を代理することです。第五に、貸付け、譲渡、国庫帰属といった選択肢を比較し、関係機関及び他の専門家との連携を調整することです。
なお、具体的な進め方は、農地の所在及び区分、相続人の構成、近隣との経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 農業委員会からの書面に回答しないとどうなりますか。
回答しないことによって問題が消えるものではなく、手続が次の段階に進む契機となります。自ら耕作できない場合であっても、その旨と貸付け又は譲渡の希望を伝えることが、解決への出発点となります。
質問2 草が伸びていることで責任を問われますか。
雑草の飛散、害虫の発生等により近隣に現実の損害が生じ、かつ過失が認められる場合には、損害賠償の責任を問われる余地があります。もっとも、損害、因果関係、過失のいずれについても立証が必要であり、直ちに責任が認められるものではありません。
質問3 自分で耕作しなければならないのですか。
適正かつ効率的な利用を確保する責務は、自ら耕作することのみを求めるものではありません。他の者に貸し付け、又は譲渡することによって利用を確保する方法も含まれると解されます。
質問4 貸したい人がいません。どうすればよいですか。
農地中間管理機構、農業委員会、農業協同組合等に相談し、地域における担い手の状況を確認することになります。それでも見込みが立たない場合には、相続した土地を国庫に帰属させる制度その他の選択肢を検討いたします。
質問5 ごみを捨てられています。撤去の費用を負担しなければなりませんか。
投棄した者が判明すれば、その者に対して撤去及び費用の負担を求めることになります。判明しない場合には、土地の所有者が負担を求められることがあります。発見の時期と状況を記録し、行政及び警察に相談することが望まれます。
質問6 名義が祖父のままです。私が対応すべきですか。
相続により所有権を取得した相続人が、登記の有無にかかわらず所有者としての立場に立ちます。まず相続人を確定させ、遺産分割により帰属を定めることが必要です。相続登記の申請は義務とされております(不動産登記法第76条の2)。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、農地及び山林の管理並びに処分に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、農業委員会からの書面、登記事項証明書、公図、固定資産税の納税通知書、被相続人及び相続人の戸籍、現地の写真、近隣とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
農地法 第3条第1項(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)、第3条の3(相続等により農地の権利を取得した場合の届出)、第4条第1項(農地の転用の制限)、第5条第1項(転用のための権利移動の制限)。農地について権原を有する者の適正かつ効率的な利用の責務並びに農業委員会による利用状況の調査及び利用の意向の調査に関する定め。具体的な手続の運用は、所在地の農業委員会にご確認ください。
民法 第251条第1項(共有物の変更)、第252条第1項(共有物の管理)、第252条第4項(共有物に設定し得る賃借権等の期間)、第256条第1項(共有物の分割請求)、第258条(裁判による共有物の分割)、第709条(不法行為による損害賠償)、第717条第1項(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)
不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請義務)
その他の法令 農地中間管理事業の推進に関する法律、農業経営基盤強化促進法、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和5年4月27日施行)。管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令の制度(令和3年の民法の改正により設けられ、令和5年4月1日施行)
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農地や山林を相続したが処分も転用もできずお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
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