山林を相続した場合に必要となる手続

父が所有していた山林を相続いたしました。現地に行ってみましたが、どこからどこまでが自分の土地なのかも分かりません。近隣に住む方からは「境界の杭はもうない」と言われました。売却しようにも買手が見つからず、固定資産税だけがかかっております。何をすればよいのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。山林を相続した場合、まず森林法に基づき、新たに森林の土地の所有者となった旨を市町村長に届け出る必要があります。届出の期間はおおむね90日以内とされておりますので、確認のうえ速やかに行う必要があります。加えて、相続による所有権の移転の登記の申請義務がございます(不動産登記法第76条の2)。山林に固有の困難として、境界が不明確であること、立木の権利関係が土地と分離している場合があること、取得を希望する者が限られることが挙げられます。手放すことが難しい場合には、相続した土地を国庫に帰属させる制度、森林経営管理制度の利用等を検討いたします。本記事では、手続と選択肢を整理いたします。

第1節 相続の後に必要となる手続

1 森林法に基づく届出

森林法により、新たに森林の土地の所有者となった者は、市町村長にその旨を届け出なければならないものとされております。届出の期間はおおむね90日以内とされております。対象となる森林の範囲、届出の書式及び添付書類については、所在地の市町村にご確認ください。

この届出は、所有者の把握を目的として設けられたものであり、権利の得喪に影響を与えるものではありません。もっとも、届出を怠った場合には過料の対象となり得ます。

2 相続登記の申請義務

相続により不動産の所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続による所有権の移転の登記を申請しなければならないものとされております(不動産登記法第76条の2)。この義務は令和6年4月1日から施行されており、正当な理由がなく申請を怠った場合には過料の対象となり得ます。

遺産分割に時間を要する場合には、相続人である旨を登記所に申し出ることにより、申請義務を履行したものとみなされる制度が設けられております(不動産登記法第76条の3)。

表1 山林を相続した場合の主な手続

手続 提出先 期間 根拠
森林の土地の所有者となった旨の届出 市町村長 おおむね90日以内 森林法
相続登記の申請 登記所 取得を知った日から3年以内 不動産登記法第76条の2
相続人である旨の申出 登記所 同上(暫定の措置として) 不動産登記法第76条の3
相続の放棄の申述 家庭裁判所 相続の開始を知った時から3か月 民法第915条第1項
相続税の申告 税務署 相続の開始を知った日の翌日から10か月 税理士にご確認ください

3 保安林である場合の制約

当該山林が保安林に指定されている場合には、立木の伐採、土地の形質の変更等について、森林法に基づく制約が課されます。指定の有無は、都道府県又は市町村において確認することができます。処分及び利用の見通しに大きく影響いたしますので、早期の確認が必要です。

4 立木の権利

立木は、原則として土地の一部として土地の所有者に帰属いたしますが、立木に関する法律に基づく登記がされている場合、又は明認方法が施されている場合には、土地とは別個の不動産又は権利の対象として扱われることがあります。古い山林では、土地の所有者と立木の所有者とが異なる例がありますので、確認が必要です。

第2節 山林に固有の困難

1 境界が不明確である

山林における最大の困難が、境界の不明確さでございます。境界標が失われ、公図の精度も低く、現地において範囲を特定することが困難な例が多くあります。境界の確認及び測量は土地家屋調査士の業務でございますが、山林においては費用も期間も相当に要することがあります。

境界が明らかでない土地は、相続した土地を国庫に帰属させる制度の申請をすることができません。また、売買においても買主が取得を躊躇する要因となります。

2 取得を希望する者が限られる

山林の取得を希望する者は、隣接する山林の所有者、林業を営む者、森林組合等に限られるのが通常です。立木に相応の価値がある場合を除き、市場での売却は容易ではありません。

3 管理の負担

間伐等の手入れがされない森林は、災害の防止その他の機能が低下いたします。また、倒木により隣地又は道路に損害が生じた場合には、土地の工作物の責任の問題として、又は所有者の管理に関する責任の問題として、責任を問われる余地があります。

表2 山林の保有に伴う負担

区分 内容
固定資産税及び都市計画税。評価額は低いことが多くあります
管理 下刈り、除伐、間伐、作業道の維持
境界 境界標の維持、隣接地所有者との確認
災害 土砂の流出、倒木による被害の防止
不法投棄 廃棄物の投棄への対応
届出 森林法に基づく届出、伐採及び伐採後の造林の届出

4 伐採には届出が必要です

森林の立木を伐採しようとする者は、原則として、あらかじめ市町村長に伐採及び伐採後の造林の届出書を提出しなければならないものとされております。地域森林計画の対象となっている森林が対象です。詳細は所在地の市町村にご確認ください。

第3節 実務上よく起きる問題

1 何代も相続登記がされていない

山林は、価値が低く売却の予定もないことから、何代にもわたって相続登記がされないまま放置されている例が特に多く見られます。当事者が数十人に及び、その中に所在の分からない者、海外に居住する者が含まれることも珍しくありません。

2 どこにあるか分からない

登記記録には地番の記載がありますが、現地のどこに当たるかが分からないという事案があります。公図、森林簿、航空写真、地形図を照合し、現地を確認する作業が必要となります。

3 固定資産税の通知が届かない

評価額が免税点に満たない場合には、固定資産税が課されず、納税通知書も送付されません。そのため、山林を所有していること自体を相続人が把握していないという事案があります。名寄帳の閲覧により、被相続人が所在地の市町村内に所有していた不動産を確認することができます。

4 共有となっている

山林が多数の者の共有となっている例があります。入会地に由来するもの、生産森林組合の対象となっているもの等、権利関係が特殊な場合もあります。単純な共有として処理し得ない場合がありますので、経緯の確認が必要です。

5 不法投棄がされている

人目につかない山林には、廃棄物が不法に投棄されることがあります。投棄した者が判明しない場合、土地の所有者が撤去の負担を求められることがあります。また、地下に有体物が存する土地は、相続した土地を国庫に帰属させる制度において承認を受けられない事由となり得ます。

6 隣接地との争いが残っている

境界又は越境をめぐって従前から争いがある場合には、その解消が処分の前提となります。隣接地の所有者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地は、国庫帰属の承認を受けられない事由となり得ます。

第4節 検討する選択肢

1 選択肢の全体像

表3 山林を相続した場合に採り得る手段

手段 内容 期間の目安 適する場面
隣接地の所有者への譲渡 隣接する山林の所有者に取得を打診いたします 数か月 一体化により利用価値が高まる場合
森林組合等への相談 取得又は管理の受託の可否を照会いたします 数か月 林業の対象となり得る場合
森林経営管理制度の利用 市町村に経営及び管理を委ねる仕組みを検討いたします 市町村の運用によります 自ら管理することが困難な場合
国庫への帰属 相続した土地を国庫に帰属させる制度を利用いたします 1年程度 要件を満たす場合
境界の確定 土地家屋調査士に依頼し、隣接地所有者と確認いたします 数か月から1年 処分の前提として必要な場合
共有関係の解消 共有物分割により単独所有又は換価といたします 1年から2年程度 共有者の足並みがそろわない場合
遺産分割の調停又は審判 家庭裁判所の手続により帰属を定めます 1年から2年程度 協議が調わない場合
相続の放棄 相続人としての地位を失わせます 3か月以内の申述 他に承継したい財産がない場合

2 手続の順序

表4 相続から処分に至るまでの流れ

段階 内容
1 財産の把握 名寄帳の閲覧等により、所有する山林を把握いたします
2 相続人の確定 戸籍を収集し、相続人の範囲を確定いたします
3 森林法に基づく届出 市町村長に届け出ます。おおむね90日以内とされております
4 現況の確認 公図、森林簿、航空写真、現地により範囲及び状態を確認いたします
5 制約の確認 保安林の指定、地域森林計画の対象かを確認いたします
6 遺産分割 山林の帰属を定めます
7 相続登記 相続による所有権の移転の登記を申請いたします
8 方針の決定 保有、譲渡、国庫帰属のいずれによるかを定めます

3 他の資格者の業務

登記の申請は司法書士、測量及び境界の確認は土地家屋調査士、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士、税務は税理士、行政庁への許認可の申請の代理は行政書士の業務でございます。当事務所は、相続人の確定、遺産分割の協議及び調停、共有関係の整理、隣接地所有者との紛争の解決を担当し、これらの専門家と連携して進めます。

第5節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表5 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
権利関係 登記事項証明書 所有者、持分、地目、担保権の有無
権利関係 公図、地積測量図(あれば) 形状、位置、境界の確定の有無
財産の把握 名寄帳、固定資産税の課税明細 所有する不動産の全体
相続 被相続人及び相続人の戸籍 相続人の範囲
相続 遺言書、遺産分割協議書 帰属の定めの有無
現況 現地の写真、航空写真、森林簿 樹種、林齢、荒廃の程度、不法投棄の有無
行政 保安林の指定、地域森林計画に関する資料 利用及び処分の制約
立木 立木の登記、明認方法に関する資料 土地と立木の権利者が異なるか
隣地 境界確認書、越境に関する覚書 争いの有無

2 確認する事項

表6 方針の検討において確認する事項

事項 確認の内容
届出の有無 森林法に基づく届出を済ませているか
登記の名義 被相続人又はそれ以前の名義のままでないか
境界 現地において範囲を特定できるか
保安林 指定を受けているか
立木の権利 土地と別個の権利が設定されていないか
共有の有無 共有者の数、持分、入会地に由来しないか
投棄物の有無 撤去を要する有体物がないか
周辺の担い手 隣接地所有者、森林組合等の意向

第6節 弁護士に相談する意味

山林の相続は、手続そのものは複雑でないように見えて、実際には権利関係の確定が最も難しい類型でございます。

第一に、当事者の確定に時間を要する点です。何代にもわたって相続登記がされていない山林では、相続人が数十人に及ぶことがあります。戸籍の収集だけで数か月を要し、その中に所在の分からない者、海外に居住する者が含まれることも珍しくありません。

第二に、境界の問題が処分の前提となる点です。境界が明らかでない土地は国庫帰属の申請ができず、売買においても障害となります。隣接地の所有者との間に争いがある場合には、その解消が先決となります。

第三に、期間の制約がある点です。森林法に基づく届出はおおむね90日以内、相続登記は3年以内、相続の放棄は3か月以内、遺産分割における特別受益及び寄与分の主張は相続開始から10年という期間があります。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、名寄帳の確認等により所有する山林を把握することです。第二に、戸籍を収集して相続人を確定させることです。第三に、遺産分割の協議、調停及び審判を代理することです。第四に、隣接地の所有者との境界に関する紛争を解決することです。第五に、共有関係の解消及び処分の方針を設計し、各分野の専門家との連携を調整することです。

なお、具体的な進め方は、山林の所在及び状態、相続人の構成、隣接地との経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 山林を相続したら何か届出が必要ですか。

森林法により、新たに森林の土地の所有者となった旨を市町村長に届け出る必要があります。期間はおおむね90日以内とされております。対象となる森林の範囲及び手続の詳細は、所在地の市町村にご確認ください。

質問2 自分の山林がどこにあるのか分かりません。

登記記録の地番を手掛かりに、公図、森林簿、航空写真、地形図を照合し、現地を確認する作業が必要となります。境界の確認及び測量は土地家屋調査士の業務でございます。

質問3 固定資産税の通知が来ていませんが、所有していますか。

評価額が免税点に満たない場合には課税されず、納税通知書も送付されません。名寄帳の閲覧により、被相続人が所在地の市町村内に所有していた不動産を確認することができます。

質問4 国に引き取ってもらえますか。

相続した土地を国庫に帰属させる制度の対象となり得ます。もっとも、境界が明らかでないこと、地上又は地下に有体物が存すること、崖があること、管理に過分の費用又は労力を要することといった事由に該当すれば、申請が却下され、又は承認を受けられません。

質問5 木を売ればお金になりませんか。

立木の価値は、樹種、林齢、搬出の条件によって大きく異なります。搬出に要する費用が売却の代金を上回る場合もあります。また、伐採には市町村長への届出が必要であり、保安林の場合には別途の制約があります。

質問6 名義が曽祖父のままです。どうすればよいですか。

まず戸籍を収集し、現在の相続人を確定させることから始めます。当事者が多数に及ぶことが通常ですので、相応の期間を要します。相続登記の申請義務との関係では、相続人である旨の申出により暫定的に対応する方法もあります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、山林及び農地の相続に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、登記事項証明書、公図、名寄帳又は固定資産税の課税明細、被相続人及び相続人の戸籍、現地の写真をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

森林法 新たに森林の土地の所有者となった旨の届出に関する定め(届出先は市町村長。期間はおおむね90日以内とされております)、伐採及び伐採後の造林の届出に関する定め、保安林における制限に関する定め。具体的な対象の範囲、書式及び添付書類は、所在地の市町村にご確認ください。

民法 第256条第1項(共有物の分割請求)、第258条(裁判による共有物の分割)、第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)

不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請義務)、第76条の3(相続人である旨の申出)

その他の法令 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和5年4月27日施行)、立木ニ関スル法律、森林経営管理法

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