他の共有者に共有持分を買い取ってもらいたいとき 価格の基準と支払能力の確かめ方

相続によって兄弟姉妹との共有となった実家について、自分は住む予定がなく、現に住んでいる兄に買い取ってもらいたい。そのように考えて話を切り出したものの、「いくらで買えばよいのか分からない」「そんな金額は用意できない」と言われたまま、話が止まっている。共有不動産に関するご相談のうち、相当数がこの場面から始まります。

結論から申し上げます。共有持分を他の共有者に買い取っていただく交渉は、価格の基準を先に一つに決め、その次に支払能力を確かめる、という順序で進めます。この順序を逆にいたしますと、相手方が用意できる金額から価格が逆算され、本来受け取れるはずの金額を下回る結果になります。

共有者間の売買には、第三者へ共有持分だけを売る場合と決定的に異なる点があります。買い取った共有者は、その不動産の単独の所有者となります。共有であることによる利用及び処分の制約が消滅する以上、第三者向けの共有持分の売買に生ずる減価を、そのまま持ち込むべき理由はありません。まずこの一点を、交渉の出発点として共有者の間で確認いたします。

この記事の位置付け

共有持分の売却は、売却の相手方によって価格の前提も必要な同意も異なります。相手方を取り違えますと、比較すべき金額を誤ります。

共有者どうしの売買は、第三者への売却とは価格の前提が違います

各共有者は、自己の共有持分を単独で処分することができます。他の共有者の同意も、事前の通知も要しません。もっとも、共有持分のみを取得した第三者は、他の共有者との調整なしには不動産を使用することも処分することもできません。そのため共有持分は市場でほとんど流通せず、不動産全体の時価に共有持分の割合を乗じた額を大きく下回る価格で取引されます。

これに対し、他の共有者が買い取る場合には、買主はその不動産の単独の所有者となります。買主にとっては、共有であることによる制約が売買と同時に消滅いたします。したがって、共有者間の売買における出発点は、不動産全体の時価に共有持分の割合を乗じた額です。ここから、共有関係を解消できることの利益と、買主が負担する費用とを踏まえて調整いたします。

交渉の場では、相手方から「共有持分は安いものだ」との説明がされることがあります。その説明が第三者向けの共有持分の相場を指しているのか、共有者間の売買を指しているのかを、必ず確かめてください。前者を後者に持ち込む主張には、根拠がありません。

価格の基準を一つに決める どの評価額を用いるのか

不動産の価額には複数の種類があり、それぞれ目的が異なります。交渉が長引く事案のほとんどは、当事者が別々の種類の価額を持ち出し、そのまま議論している状態です。

市場での売却を前提とする価額

不動産会社の査定書がこれに当たります。実際に売り出した場合の想定価格です。複数の会社から取得し、査定の前提(賃貸中か空室か、再建築が可能か、境界が確定しているか)を並べて比較いたします。

課税のために定められた価額

相続税路線価及び固定資産税評価額です。いずれも課税のために定められたものであり、市場での売買価格そのものではありません。交渉の基準として用いる場合には、その旨を明示いたします。

不動産鑑定士による鑑定評価額

争いが価格に集中している場合には、不動産鑑定を用います。費用を要しますが、共有物分割の訴えに進んだ場合にもそのまま用いることができます。

評価の基準日を揃えることも、価額の種類を揃えることと同じくらい重要です。一方が3年前の査定を、他方が直近の査定を持ち出しますと、議論が噛み合いません。基準日を定めたうえで、同じ日を前提とする資料を出し合ってください。

支払能力を確かめないまま合意しても、実行されません

価格の合意ができても、買主が代金を用意できなければ、売買は実行されません。合意の直後に「やはり払えない」との連絡が入り、それまでの交渉が振り出しに戻る事案が少なくありません。価格の話と並行して、次を確かめてください。

  • 自己資金によるのか、金融機関からの借入れによるのか
  • 借入れによる場合、事前の審査を受けているか。受けている場合、その時期と金額
  • 決済の日をいつと想定しているか。借入れの実行日から逆算して無理がないか
  • 分割による支払を求められている場合、期限の利益の喪失及び担保をどのように定めるか

支払能力の確認は、共有物分割の訴えに進んだ場合にも同じ資料が必要となります。最高裁判所平成8年10月31日判決は、共有者の一人に共有物を取得させる全面的価格賠償が許されるための考慮要素として、取得させることの相当性、共有物の適正な評価とともに、他の共有者に対して支払能力を有することを挙げております。任意の交渉の段階で資力の資料を整えておくことは、そのまま訴訟の準備にもなります。

契約で決めるべき事項 代金の額だけでは足りません

共有者間の売買では、当事者が親族であることから、書面を簡略に済ませようとされることがあります。しかし、後日の紛争のほとんどは、代金以外の事項を定めていなかったことから生じております。少なくとも次を一つの契約書に記載してください。

  • 売買代金の額、支払の時期及び方法
  • 所有権移転の登記の時期。登記は登記権利者と登記義務者とが共同して申請いたします(不動産登記法第60条)
  • 登録免許税及び不動産取得税の負担(地方税法第73条の2)
  • 固定資産税の日割りによる精算(地方税法第343条)。納税義務者は1月1日現在の登記名義人ですので、年の中途で移転する場合には当事者間の精算を定めます
  • 抵当権が設定されている場合の抹消又は引受け
  • これまでの使用の対価、管理費用及び修繕費の精算を、売買代金に含めるのか別途とするのか

親族間の売買における税務上の留意点
著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けたときは、その対価と時価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなされる場合があります(相続税法第7条)。他方、売主には譲渡所得の課税が生じ得ます(所得税法第33条、租税特別措置法第31条、第32条)。適用の可否及び金額は、税理士又は所轄の税務署にご確認ください。

相手方が応じない場合に採り得る手段

買取りの申入れに対して返答がない場合、又は価格の隔たりが埋まらない場合には、共有物分割を請求することができます。各共有者は、分割をしない旨の特約がある場合を除き、いつでも共有物の分割を請求することができ(民法第256条第1項)、協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、裁判所に分割を請求することができます(民法第258条第1項)。

裁判所は、現物による分割又は共有者の一人等に取得させる賠償による分割を命ずることができ、これらの方法によることができないとき等に限って競売を命ずることができるものとされております(民法第258条第2項、第3項)。「訴えを起こせば必ず競売になる」というのは正確ではありません。相手方が取得を希望するのであれば、訴訟の中でその方法を求めることになりますので、任意の交渉で行き詰まった場合の現実的な出口となります。

なお、相続によって生じた共有について遺産分割が終わっていない場合には、原則として家庭裁判所の遺産分割の手続によります(民法第258条の2第1項)。相続開始の時から10年を経過したときは、共有物分割の手続によることができます(同条第2項本文)。手続の選択を誤りますと、訴えが却下されます。

時間の経過によって失われるもの

共有関係は、放置している間にも変化いたします。共有者の一人に相続が生じますと、その共有持分は相続人へ承継され、共有者の数が増えます。面識のない親族が共有者となりますと、所在の調査、相続関係の確定、合意の形成のいずれについても負担が大きくなります。

相続登記の申請は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に行う義務があります(不動産登記法第76条の2)。正当な理由なくこれを怠りますと、10万円以下の過料の対象となります(同法第164条第1項)。共有者を確定できないまま年月が過ぎますと、買い取っていただく相手方すら定まらないという状態になります。

また、遺産分割が終わっていない場合には、相続開始の時から10年を経過しますと、原則として寄与分及び特別受益を主張することができなくなります(民法第904条の3)。買取りの交渉と遺産分割とを併せて整理すべき事案では、この期限が結論を左右いたします。

買い取る側の共有者が置かれている事情

相手方が返答をなさらない理由は、拒絶ではないことが少なくありません。実務上、次のいずれかであることがほとんどです。

第一に、価格の相場が分からず、提示された額が妥当なのか判断できないためです。第二に、資金の手当ての見通しが立っていないためです。住宅ローンを組めるのか、親族間の売買でも融資を受けられるのかが分からず、返答を先送りされます。第三に、他の相続人との関係を気にされているためです。一人だけが不動産を取得することについて、他の親族から異論が出ることを恐れておられます。

したがいまして、価格の根拠と、資金の手当ての見通しと、他の共有者への説明の仕方を、こちらから整理して示すことが、交渉を動かす最も確実な方法です。同意を迫るのではなく、判断できる材料をそろえて差し上げる、という進め方です。

いま確認していただきたいこと

  • 登記事項証明書を取得し、共有者の氏名、共有持分の割合及び抵当権の有無を確認してください
  • 固定資産税の納税通知書及び課税明細書をお手元に用意してください。これまで誰がいくら負担してきたかも併せて整理してください
  • 不動産会社の査定を複数取得し、査定の前提と基準日を確認してください
  • 相手方とのやり取りは、日時と発言の内容が分かる形で保存してください。口頭のみで金額を告げることは避けてください
  • 相続によって生じた共有の場合は、遺産分割が終わっているかどうかを確認してください。相続開始の時期もご確認ください

よくあるご質問

相手方が「共有持分は安いはずだ」と言っています。

第三者へ共有持分だけを売る場合の相場と、共有者間の売買とを混同した主張です。買い取る共有者は単独の所有者となりますので、共有であることによる減価をそのまま適用すべき理由はありません。不動産全体の時価に共有持分の割合を乗じた額を出発点として交渉いたします。

相手方に資力がありません。それでも解決できますか。

できます。共有者全員で不動産全体を第三者へ売却し、代金を共有持分の割合に応じて分配する方法があります。手取額は最も大きくなりますが、共有者全員の同意を要します。同意が得られない場合には、共有物分割を請求し、任意売却による換価を求めることになります。

買取代金のほかに、これまでの固定資産税も請求できますか。

請求し得ます。各共有者は、その共有持分に応じて管理の費用を支払い、共有物に関する負担を負います(民法第253条第1項)。売買代金とは別個の請求ですので、契約書において精算の対象とするのか、別途請求するのかを明示いたします。

相手方が不動産に住んでいます。使用料も請求できますか。

できる場合があります。共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の共有持分を超える使用の対価を償還する義務を負います(民法第249条第2項)。無償で使用してよいとの合意があったと認められる場合には、その範囲で請求できないことがあります。

弁護士に依頼すると、かえって関係が悪くなりませんか。

むしろ逆になることが多くあります。親族の間では、金額の話を切り出すこと自体が難しく、それが交渉の停滞を生んでおります。第三者が価格の根拠と手続を示すことで、感情の対立から条件の交渉へ場面が移ります。

おわりに

共有持分を他の共有者に買い取っていただく方法は、共有関係を終わらせる手段の中で、比較的短い期間で、比較的高い手取額を実現できる方法です。価格の基準を一つに決め、支払能力を確かめ、代金以外の事項まで契約書に落とし込む。この三つを順に行えば、多くの事案は訴訟に至らずに終わります。

資料がそろっていない段階でも構いません。登記事項証明書と、おおよその共有持分の割合と、現在の利用の状況が分かれば、次に取得すべき資料と、採り得る手段の順序を整理して申し上げます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

出典及び参照した法令

  • 民法第206条、第249条、第253条、第256条、第258条、第258条の2、第904条の3
  • 不動産登記法第60条、第76条の2、第164条第1項
  • 相続税法第7条
  • 所得税法第33条、租税特別措置法第31条、第32条
  • 地方税法第73条の2、第343条
  • 最高裁判所平成8年10月31日第一小法廷判決(民集50巻9号2563頁)

記載は令和8年9月1日時点の法令及び裁判例に基づきます。結論は事実関係により異なります。税務の取扱いにつきましては税理士又は所轄の税務署にご確認ください。

共有持分の買取りの交渉に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

具体的なご相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。