他の共有者が共有持分を第三者へ売ろうとしているとき 止められる場合と、先に手を打つ方法

兄弟の一人が、実家の共有持分を買取業者に売ろうとしている。「売られたら困る」と伝えても、聞き入れてもらえない。売られてしまう前に止める方法はないのか。共有不動産のご相談では、この段階でご連絡を頂くことがあります。

結論から申し上げます。共有持分の処分は、各共有者が自由に行うことができ、他の共有者の同意を要しません。したがって、売却それ自体を止めることは、原則としてできません。

もっとも、法律上、これに対抗するための手段が複数用意されています。相続によって生じた共有であれば、相続分が譲渡された場合に価額を償還して取り戻す制度があります。また、売却される前に共有物の分割を請求する、分割をしない旨の定めを登記する、ご自身が先に買い取るという方法もあります。いずれも時期を逃すと使えなくなりますので、動きを察知した段階で手を打つ必要があります。

この記事の位置付け

共有持分の処分をめぐる問題は、譲渡の前か後かによって採り得る手段が変わります。

共有持分の処分は自由にすることができます

所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有します(民法第206条)。共有持分もまた一個の所有権としての性質を有しますので、各共有者は、自己の共有持分を他の共有者の同意を得ることなく処分することができます。

したがって、他の共有者が共有持分を第三者に売却することについて、ご自身が同意していないこと、事前に知らされていなかったことを理由に、その売買を無効とすることはできません。

共有持分の譲渡は、譲渡人と譲受人との間の合意によって効力を生じ、登記を備えることによって第三者に対抗することができます(民法第177条)。登記が移転してしまえば、譲受人は共有者としての地位を取得します。

相続によって生じた共有には、取り戻すための制度があります

遺産の分割がまだ終わっていない相続財産について、共同相続人の一人がその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます(民法第905条第1項)。

この権利は、1か月以内に行使しなければなりません(同条第2項)。極めて短い期間です。

ここで注意を要するのは、この制度の対象が「相続分」の譲渡であり、個別の不動産についての「共有持分」の譲渡とは区別されるという点です。個々の財産についての持分のみが譲渡された場合に、この規定が適用されるかどうかは、譲渡の対象が何であったかによって判断されます。譲渡の対象を確定させるためには、譲渡の契約書、登記の原因、遺産分割の進行状況を確認する必要があります。

いずれにしても、譲渡があったことを知った時点で、直ちに内容を確認し、期間内に権利を行使できる状態を作ることが必要です。

売却される前に採り得る四つの手段

ご自身が買い取る

最も確実な方法です。他の共有者が売却を考える理由は、多くの場合、現金を必要としていることにあります。業者の提示額と同等以上の額を提示できるのであれば、第三者への売却を防ぐことができます。

価格の水準については、共有持分のみを第三者へ売る場合の価格と、共有者どうしで売買する場合の価格とが異なる点に注意が必要です。買い取った側は単独の所有者に近づきますので、共有であることによる減価をそのまま持ち込むべき理由はありません。

共有物の分割を請求する

各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます(民法第256条第1項本文)。協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができます(民法第258条第1項)。

分割の手続が始まれば、不動産全体の価格を基礎とした解決になりますので、共有持分のみを安く売却するよりも、売却を検討している共有者にとっても有利になることがあります。売却を止めるのではなく、より有利な出口を示すという発想です。

分割をしない旨の定めを設け、登記する

共有者は、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることができます(民法第256条第1項ただし書)。この定めは登記事項とされていますので(不動産登記法第59条第6号)、登記をすれば、その後に持分を取得した第三者に対しても効力を主張することができます。

ただし、この定めを設けるには共有者の全員の合意が必要であり、登記の申請も権利の登記名義人の全員が共同してしなければなりません(不動産登記法第65条)。売却を考えている共有者が合意する見込みがなければ、この方法は採れません。共有関係が良好な段階で済ませておくべき手当てです。

先に買い取る旨の合意をしておく

共有者の一人が持分を処分しようとするときは、他の共有者に対して先に売却の申出をする旨を、共有者の間で合意しておく方法があります。もっとも、この合意は共有者の間で効力を有するにとどまり、これに違反して第三者に売却された場合に、その売買を無効とすることはできません。違反した共有者に対する損害賠償の請求が問題となるにすぎません。

既に売却されてしまった場合

登記が移転してしまった後は、譲受人が共有者となります。この段階での対応は、共有者が交代したことを前提とした交渉又は手続になります。

第一に、譲受人から共有持分を買い取ることを検討します。譲受人が業者であれば、取得に要した費用に経費と利益を加えた額を提示してきますので、価格の比較の基準を揃えたうえで交渉します。

第二に、共有物の分割を請求します。譲受人が共有者である以上、ご自身からも分割を請求することができます。業者から訴えを提起されるのを待つのではなく、ご自身の側から手続を始めることによって、主張の順序と時機を自ら選ぶことができます。

第三に、譲渡の効力そのものに関わる事情がないかを確認します。譲渡人が判断能力を欠いていた場合、詐欺又は強迫があった場合には、契約の効力が問題となります。譲渡人であるご親族と連絡が取れるのであれば、契約書の写しと契約に至る経緯を確認してください。

所在の分からない共有者の持分については、別の制度があります

共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができます(民法第262条の2第1項)。また、当該他の共有者以外の共有者の全員が特定の者に対してその持分の全部を譲渡することを停止条件として、当該他の共有者の持分を譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができます(民法第262条の3第1項)。

ただし、共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過していないときは、これらの裁判をすることができません(民法第262条の2第3項、第262条の3第2項)。相続の開始からの経過期間によって、使える制度が変わります。

放置した場合に失われるもの

第一に、相続分の取戻しの機会です。相続分が譲渡された場合の取戻しは、1か月以内に行使しなければなりません(民法第905条第2項)。この期間は、譲渡の事実を知ってから調査をしていると、すぐに経過します。

第二に、価格の水準です。共有者どうしの売買であれば不動産全体の価格を基礎とした協議が可能ですが、第三者に売却された後は、業者の取得原価に経費と利益を加えた額が交渉の出発点になります。

第三に、交渉の相手方の質です。親族であれば、居住の継続、先祖からの財産といった事情を考慮した協議ができます。業者は資金の回収を目的としますので、考慮される事情が異なります。

第四に、共有者が増える可能性です。持分を取得した業者が、さらに別の業者へ転売することがあります。当事者が増えれば、解決に要する時間と費用も増えます。

売却しようとしている共有者の事情

第一に、現金を必要としている場合です。事業の資金、教育の資金、医療の費用、他の債務の返済といった具体的な必要があります。この場合には、売却を思いとどまるよう求めるだけでは解決しません。いつまでにいくら必要なのかを聞き取り、ご自身が買い取る、共有物の分割によって現金化する、といった代替の道筋を示す必要があります。

第二に、管理の負担から解放されたい場合です。固定資産税を負担し続けることに耐えられない、遠方に住んでおり関わりたくないといった事情があります。

第三に、他の共有者との関係が悪化している場合です。話合いを避けるために、第三者に売却して離脱しようとしています。

第四に、業者から働きかけを受けている場合です。共有持分の買取りを行う事業者が、共有者に個別に接触することがあります。提示された金額が不動産全体の価格に照らして低いことを説明すれば、再考されることがあります。

いま確認していただきたいこと

1 登記事項証明書を取得し、現在の共有者と持分の割合を確認してください。既に移転している場合には、その日付を確認します。

2 相続によって生じた共有である場合には、遺産分割が終わっているかどうか、相続の開始の日はいつかを確認してください。

3 売却を考えている共有者に対し、いつまでに、いくらの現金が必要なのかを確認してください。代替の道筋を組み立てる出発点になります。

4 複数の宅地建物取引業者に査定を依頼し、不動産全体の価格を把握してください。ご自身が買い取る場合の価格の目安になります。

よくあるご質問

売らないでほしいと伝えれば、止められますか。

止めることはできません。共有持分の処分は各共有者が自由に行うことができます(民法第206条)。止めるのではなく、より有利な出口を示すことが現実的な対応になります。

先に共有物分割の訴えを起こせば、売却できなくなりますか。

訴訟が係属していても、共有持分を処分することは可能です。もっとも、分割の手続が進んでいることは、第三者が持分を取得することを事実上ためらわせる事情になります。

売られてしまいました。取り戻せますか。

遺産の分割前に相続分が譲渡された場合には、価額及び費用を償還して譲り受けることができます(民法第905条第1項)。ただし1か月以内に行使する必要があります(同条第2項)。譲渡の対象が何であったかによって適用の可否が変わりますので、契約書と登記の原因を確認してください。

業者に売られる前に、自分が買い取りたいのですが資金がありません。

金融機関からの借入れのほか、共有物の分割によって不動産全体を売却し、その代金から精算する方法があります。不動産全体の価格を基礎とすれば、共有者の双方にとって手取りが大きくなることが通例です。

持分を売らない旨の約束を交わしていました。違反した場合はどうなりますか。

共有者の間では効力を有しますが、これに違反してされた第三者への売買を無効とすることはできません。違反した共有者に対する損害賠償の請求が問題となります。分割をしない旨の定めを登記していた場合には、扱いが異なります(不動産登記法第59条第6号)。

おわりに

共有持分が第三者に売却されるのを止める確実な方法は、法律上、用意されていません。しかし、売却を検討している共有者に有利な出口を示すこと、相続分の取戻しの期間を逃さないこと、分割の手続を先に始めることによって、結果を大きく変えることができます。動きを察知した段階で、登記事項証明書をご用意のうえ、お早めにご相談ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

他の共有者による共有持分の売却に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典及び参照した法令

民法第177条、第206条、第256条第1項、第258条第1項、第262条の2第1項及び第3項、第262条の3第1項及び第2項、第905条第1項及び第2項
不動産登記法第59条第6号、第65条

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