不動産の鑑定を求める場合の手続と費用

遺産分割の調停で、実家の土地及び建物の評価が争点となっております。私は不動産業者の査定書を提出いたしましたが、兄はこれより2割以上高い金額を主張しております。調停委員からは「鑑定という方法もあります」と言われましたが、費用がいくらかかるのか、どのように進むのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の業務であり、当事者が私的に依頼する方法と、裁判所又は家庭裁判所が鑑定人を選任して実施する方法とがございます。前者は当事者の主張を裏付ける証拠として提出するものであり、後者は手続における評価を確定させるものでございます。裁判所の鑑定は、当事者の主張が対立し、合意による評価が困難である場合に実施されます。費用は、原則として申立てをした当事者が予納し、最終的な負担は事案により定まります。鑑定に要する期間及び費用は決して小さくありませんので、鑑定を求めるべき場面かどうかの判断が重要でございます。本記事では、手続の内容と判断の視点を整理いたします。

第1節 2種類の鑑定

1 私的な鑑定と裁判所の鑑定

表1 私的な鑑定と裁判所の鑑定の対比

項目 私的な鑑定 裁判所の鑑定
依頼する者 当事者 裁判所が鑑定人を選任いたします
位置付け 当事者の主張を裏付ける書証 証拠調べの一つとしての鑑定
費用の負担 依頼した当事者 申立てをした当事者が予納いたします
実施の時期 いつでも可能です 手続の中で必要と認められた段階
期間 数週間から数か月 数か月
結果への影響 相手方から中立性を争われることがあります 裁判所の判断の基礎とされることが多くあります
結論への拘束 拘束力はありません 拘束されるものではありませんが重視されます

2 まず簡易な資料から

いきなり鑑定を求めるのではなく、まず入手しやすい資料により評価の目安を得ることが実務の順序でございます。

表2 評価に用いる資料の段階

段階 資料 費用及び期間 特徴
1 固定資産税の評価証明書 低額。即時 時価とは異なります
2 相続税の路線価 無償。即時 一定の割合による評価とされております
3 公示価格、都道府県地価調査 無償。即時 近隣の地点に限られます
4 不動産業者の査定書 無償から低額。数日から数週間 複数社から取得することが望まれます
5 不動産鑑定士による私的な鑑定 相応の費用。数週間から数か月 専門家による評価です
6 裁判所の鑑定 相応の費用。数か月 手続における評価の確定に用いられます

費用の具体的な金額は、対象となる不動産の種類、規模、権利関係の複雑さによって大きく異なります。本記事では金額を申し上げることを差し控えます。依頼を検討される不動産鑑定士、又は申立てを行う裁判所にご確認ください。

3 合意による評価

そもそも、当事者間で評価について合意することができれば、鑑定は不要でございます。遺産分割においては、当事者が合意した価額により分割することが可能です。複数の査定書を取得し、その中間の額で合意するといった方法が用いられます。

鑑定に要する費用と期間を考えれば、合意による解決を試みることに大きな意味がございます。

第2節 裁判所の鑑定の手続

1 申立てから結果まで

表3 裁判所の鑑定の一般的な流れ

段階 内容 期間の目安
1 鑑定の申出 当事者が鑑定を申し出ます
2 採否の判断 裁判所が鑑定の要否を判断いたします 数週間
3 鑑定人の選任 裁判所が不動産鑑定士を選任いたします 数週間
4 費用の予納 申立てをした当事者が予納いたします 数週間
5 鑑定事項の確定 何を評価するかを確定させます 数週間
6 現地の調査 鑑定人が現地を調査いたします 数週間
7 鑑定書の作成及び提出 鑑定人が鑑定書を提出いたします 1か月から3か月程度
8 当事者の意見 鑑定の結果について意見を述べます 数週間

期間はいずれも一般的な目安であり、事案によって大きく異なります。

2 鑑定事項の設定が重要です

鑑定において何を評価するかの設定が、結果を大きく左右いたします。

表4 鑑定事項の設定において検討する事項

事項 検討の内容
評価の基準時 相続開始の時か、分割の時か
対象 土地のみか、建物を含むか、複数の物件があるか
権利関係の前提 更地としてか、建物がある状態でか、借地権付きか
占有の状況 共有者が居住している状態を前提とするか
賃貸借の存在 賃借人がいる場合の前提
境界の状況 境界が未確定である場合の取扱い
持分の評価 全体の価格か、持分の価格か

とりわけ評価の基準時は重要でございます。遺産分割においては、原則として分割の時(現実に分割をする時)の価額により具体的相続分に応じた分割がされる一方、特別受益の持戻しの計算等においては相続開始の時が基準とされるなど、場面によって異なります。何を目的とする評価かを明確にする必要がございます。

3 費用の予納と最終的な負担

鑑定の費用は、申立てをした当事者が予納するのが原則でございます。最終的な負担については、訴訟であれば訴訟費用の負担の裁判により定まり、遺産分割においては手続の中で調整されることになります。当事者が折半して予納することを合意する例も多くございます。

4 鑑定の結果に不服がある場合

鑑定の結果に不服がある場合には、鑑定人に対する質問、意見書の提出といった方法により争うことになります。もっとも、裁判所が選任した鑑定人による評価は重視される傾向にあり、これを覆すには具体的な誤りを指摘する必要がございます。再度の鑑定が認められることは多くありません。

第3節 鑑定を求めるべき場面

1 判断の視点

表5 鑑定を求めるかどうかの判断の視点

視点 鑑定に向く場合 鑑定に向かない場合
金額の開き 当事者の主張に大きな開きがある 開きが小さく費用に見合わない
物件の性質 特殊な物件で査定が難しい 一般的な物件で査定が容易である
遺産の規模 評価額が高く影響が大きい 費用が評価額に比して過大である
権利関係 借地権付き、賃貸中等で複雑である 単純な所有権である
当事者の姿勢 合意の見込みがない 歩み寄りの余地がある
手続の段階 他の争点が整理されている 他に大きな争点が残っている

2 特に鑑定が有用な物件

次のような物件では、一般的な査定では適正な評価が難しく、鑑定が有用でございます。

表6 鑑定が有用な物件の例

類型 評価が難しい理由
底地 借地権の内容、地代の水準により価格が大きく変わります
借地権付き建物 借地権の割合、残存期間の評価を要します
賃貸中の不動産 収益性、賃料の水準、空室の状況を反映させる必要があります
不整形地、無道路地 減価の程度の判断を要します
市街化調整区域の土地 利用の制約が価格に与える影響が大きくなります
農地及び山林 取引の事例が乏しく比較が困難です
共有持分 単独所有と異なる評価となり得ます

3 鑑定を求めない場合の代替

鑑定を求めない場合には、複数の不動産業者から査定書を取得し、その内容を比較することになります。査定の前提となる事実、比較の対象とされた物件、減価の理由を確認し、合理的な範囲を絞り込むという作業でございます。

4 時期の判断

鑑定は、他の争点が整理された段階で実施することが合理的でございます。相続人の範囲、遺産の範囲に争いがある段階で鑑定を実施しても、その前提が変われば意味を失います。

第4節 実務上よく起きる問題

1 費用が予想を超える

対象となる物件の数が多い場合、権利関係が複雑な場合には、費用が高額となります。予納を求められた段階で断念するという事態を避けるため、あらかじめ見込みを確認しておくことが望まれます。

2 鑑定の結果が想定と異なる

鑑定を申し出た当事者にとって不利な結果が出ることもございます。鑑定は中立の立場で行われるものであり、申立てをした側に有利な結果が出るとは限りません。この点を理解したうえで申し出る必要がございます。

3 基準時の設定を誤る

評価の基準時を誤って設定すると、目的に合致しない鑑定となります。特に、相続開始から長期間が経過している事案では、基準時の違いにより金額が大きく異なります。

4 境界が未確定である

境界が確定していない土地では、面積の前提が定まらないため、鑑定の実施に支障が生じることがあります。測量及び境界の確認は土地家屋調査士の業務でございます。必要に応じて、鑑定に先立って確定測量を行うことになります。

5 占有の状況を反映させるか

共有者の一人が居住している状態を前提として評価するのか、更地又は空き家として評価するのかによって、金額が異なります。鑑定事項の設定において、この点を明確にする必要がございます。

6 期間が延びる

鑑定の実施により、手続全体の期間が数か月から半年程度延びることが一般的でございます。早期の解決を優先する場合には、この点も考慮する必要がございます。

第5節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表7 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
権利関係 登記事項証明書(土地及び建物) 所有者、持分、担保権、用益権
権利関係 公図、地積測量図、建物図面 形状、接道、境界の確定の有無
評価 固定資産税の評価証明書、路線価の資料 公的な評価
評価 不動産業者の査定書(複数社) 市場の水準
賃貸 賃貸借契約書、賃料の入金の記録 収益性
現況 現地の写真 建物の状態、占有の状況
手続 調停又は訴訟の記録 争点の整理の状況
相続 被相続人及び相続人の戸籍 相続開始の時期

2 確認する事項

表8 鑑定の要否の検討において確認する事項

事項 確認の内容
主張の開き 当事者の主張する金額の差はどの程度か
費用との比較 鑑定の費用が金額の差に見合うか
物件の性質 一般的な査定で足りるか
基準時 いつの時点の価格を求めるのか
前提の設定 権利関係、占有の状況をどう前提とするか
境界 確定測量が先に必要でないか
手続の段階 他の争点が整理されているか
費用の負担 誰がどのように予納するか

第6節 弁護士に相談する意味

鑑定は、費用と期間を要する手続でございますので、その要否と方法の判断が重要でございます。

第一に、鑑定を求めるべき場面かどうかの判断が必要である点です。当事者の主張の開きが小さければ、鑑定の費用の方が上回ることがあります。逆に、底地、借地権付き不動産、賃貸中の不動産といった特殊な物件では、鑑定によらなければ適正な評価が得られません。

第二に、鑑定事項の設定が結果を左右する点です。評価の基準時、権利関係の前提、占有の状況の扱いによって、金額が大きく異なります。設定を誤れば、費用を投じても目的に合致しない結果となります。

第三に、鑑定を用いない解決の可能性を探る必要がある点です。複数の査定書により合理的な範囲を絞り込み、合意により評価を定めることができれば、費用と期間を大きく節約できます。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、公的な評価及び査定書により評価の目安を得ることです。第二に、鑑定の要否を判断し、費用と期間の見込みを示すことです。第三に、鑑定事項の設定について意見を述べ、目的に合致した鑑定となるよう働きかけることです。第四に、鑑定の結果を検討し、必要に応じて意見を述べることです。第五に、評価についての合意による解決を探ることです。なお、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士、測量及び境界の確認は土地家屋調査士の業務でございます。

なお、具体的な進め方は、不動産の内容、当事者の主張、手続の段階等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 鑑定の費用はいくらですか。

対象となる不動産の種類、規模、権利関係の複雑さによって大きく異なります。本記事では金額を申し上げることを差し控えます。依頼を検討される不動産鑑定士、又は申立てを行う裁判所にご確認ください。

質問2 自分で鑑定を依頼した方がよいですか。

私的な鑑定は当事者の主張を裏付ける証拠として提出するものであり、相手方から中立性を争われることがあります。手続における評価を確定させたい場合には、裁判所の鑑定を申し出ることになります。

質問3 業者の査定書では足りませんか。

一般的な物件で、当事者の主張の開きが小さい場合には、複数の査定書により合理的な範囲を絞り込み、合意により評価を定めることが可能でございます。特殊な物件、開きが大きい場合には鑑定が有用でございます。

質問4 鑑定を申し出れば有利な結果が出ますか。

鑑定は中立の立場で行われるものであり、申立てをした側に有利な結果が出るとは限りません。不利な結果となる可能性も踏まえて判断する必要がございます。

質問5 費用は誰が負担しますか。

申立てをした当事者が予納するのが原則でございます。最終的な負担については、訴訟であれば訴訟費用の負担の裁判により定まり、遺産分割においては手続の中で調整されます。当事者が折半して予納することを合意する例も多くございます。

質問6 どのくらい期間が延びますか。

鑑定人の選任、費用の予納、現地の調査、鑑定書の作成を経ますので、手続全体の期間が数か月から半年程度延びることが一般的でございます。事案により異なります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、遺産分割及び共有物分割における不動産の評価に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、登記事項証明書、公図、固定資産税の評価証明書、不動産業者の査定書、賃貸借契約書、調停又は訴訟の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第256条第1項(共有物の分割請求)、第258条(裁判による共有物の分割)、第258条の2(遺産共有持分が含まれる場合の特則)、第898条(相続財産の共有)、第903条(特別受益者の相続分)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第906条(遺産の分割の基準)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)

その他 民事訴訟法に基づく鑑定の手続、家事事件手続法に基づく事実の調査及び証拠調べの手続。不動産の鑑定評価は不動産鑑定士、測量及び境界の確認は土地家屋調査士の業務でございます。費用の額及び手続の運用は、依頼先又は申立てを行う裁判所にご確認ください。

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