借地権の付いた建物を相続した場合の手続

亡くなった父が借地の上に建てた家を相続いたしました。地主から「相続したのなら名義書換料を支払ってほしい」と言われております。また、建物が古いため建て替えたいと考えておりますが、これも承諾料が必要だと言われました。そもそも支払う義務があるのか、これからどのような手続が必要なのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。借地権は相続の対象となり、相続人は当然に借地権者の地位を承継いたします。相続による承継は、借地権の譲渡には当たりませんので、地主の承諾を要するものではなく、名義書換料の支払義務も原則として生じません。他方、相続の後に借地権を第三者に譲渡する場合、又は建物を建て替える場合には、契約の定めに応じて地主の承諾が必要となる場合があり、承諾が得られないときは裁判所に許可を求める手続が設けられております。本記事では、相続の後に必要となる手続と、処分を検討する場合の選択肢を整理いたします。

第1節 相続による借地権の承継

1 借地権は相続の対象となります

建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権を借地権といいます。借地権は財産権ですので、相続の対象となります。相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し(民法第898条)、遺産分割により最終的な帰属が定まります。

重要な点は、相続による承継が「譲渡」に当たらないという点です。賃借権の譲渡には賃貸人の承諾を要するものとされておりますが(民法第612条第1項)、相続は包括承継であり、譲渡には当たらないと解されております。したがって、地主の承諾なく、相続人が借地権者の地位を承継いたします。

表1 相続による承継と譲渡との違い

場面 地主の承諾 承諾料 裁判所の許可の手続
相続による承継 不要です 支払義務は原則として生じません 不要です
遺産分割による特定の相続人への帰属 不要と解されております 原則として生じません 不要です
相続人以外の者への遺贈 必要と解される場合があります 合意による場合があります 検討を要します
第三者への譲渡 必要です 合意により定まることが一般的です 借地借家法第19条第1項の許可
建物の建替え(増改築の禁止の定めがある場合) 必要です 合意により定まることが一般的です 借地借家法第17条第2項の許可

2 名義書換料を求められた場合

相続を理由として名義書換料又は承諾料を求められることがありますが、相続による承継は譲渡ではありませんので、これに応じる法律上の義務は原則としてありません。もっとも、地主との関係を良好に保つために、任意に一定の支払をする例もあります。支払う場合には、その趣旨と、以後の建替え及び譲渡についての取扱いを併せて書面により確認しておくことが望まれます。

3 相続の後に行う手続

表2 相続の後に行う手続

手続 内容 時期
地主への通知 相続が生じたこと、承継する相続人を通知いたします 相続の開始後速やかに
地代の支払 従前の条件により地代の支払を継続いたします 毎月又は契約の定めによります
遺産分割 相続人が複数の場合、借地権及び建物の帰属を定めます 相続開始から10年の経過に留意いたします
建物の相続登記 建物について相続による所有権の移転の登記を申請いたします 取得を知った日から3年以内
契約書の確認及び整理 契約の内容、期間、増改築及び譲渡に関する定めを確認いたします 早期に
火災保険の名義の変更 建物の保険契約者を変更いたします 早期に
相続税の申告 必要な場合に行います。税理士にご確認ください 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内

4 建物の登記と借地権の対抗力

借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができます(借地借家法第10条第1項)。したがって、建物の登記を借地権者の名義に保っておくことが、権利の保全のうえで重要です。

建物の登記が被相続人の名義のままである場合の対抗力については、判例上、相続人が対抗力を承継し得ると解される余地がありますが、争いを避けるためにも、相続による所有権の移転の登記を速やかに行うことが望まれます。相続により所有権を取得した者は、その取得を知った日から3年以内に登記を申請しなければならないものとされております(不動産登記法第76条の2)。なお、登記の申請は司法書士の業務でございます。

第2節 実務上よく起きる問題

1 相続人が複数おり、誰が承継するかが決まらない

借地権及び建物は、遺産分割が成立するまでは相続人の共有に属します。この間、地代の支払、修繕、地主との交渉について、誰が対応するかが定まらず、地代の滞納が生じることがあります。地代の不払は、契約の解除の理由となり得る重大な事情です。

2 地主から契約の終了を求められる

相続を機に、地主から「もう更新しない」「建物を撤去して返してほしい」と求められる例があります。借地権者が更新を請求したときは、建物がある場合には従前の契約と同一の条件で更新したものとみなされ、地主が異議を述べるには正当の事由が必要とされております(借地借家法第5条第1項、第6条)。相続が生じたことは、それ自体で正当の事由となるものではありません。

3 建て替えたいが承諾が得られない

契約に増改築を禁止し、又は制限する定めがある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき地主の承諾が得られないときは、借地権者の申立てにより、裁判所が地主の承諾に代わる許可を与えることができるものとされております(借地借家法第17条第2項)。裁判所は、この許可に際して、財産上の給付を命ずるなど、当事者間の利益の衡平を図るため必要な定めをすることができるものとされております。

4 売却したいが承諾が得られない

借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず、地主が承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができます(借地借家法第19条第1項)。この場合にも、財産上の給付を命ずるなどの定めがされることがあります。

なお、この申立てを受けた地主は、自ら建物及び借地権の譲渡を受ける旨を申し立てることができるものとされております(借地借家法第19条第3項)。

5 建物が老朽化しており利用も売却も難しい

建物が著しく老朽化している場合、これを買い受けようとする者は限られます。他方、建物を取り壊してしまうと、借地権の対抗力の基礎を失うことになりますので、慎重な判断を要します。取壊しと建替えの計画は一体として検討する必要があります。

6 地代の増額を求められた

相続を機に、地主から地代の増額を求められる例があります。地代が公課の増減、土地の価格の変動その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代に比較して不相当となったときは、将来に向かって地代の額の増減を請求することができるものとされております(借地借家法第11条第1項)。増額について協議が調わないときは、裁判が確定するまでは、相当と認める額を支払うことをもって足ります。ただし、裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければなりません。

第3節 検討する選択肢

1 選択肢の全体像

表3 借地権を相続した場合に採り得る手段

手段 内容 期間の目安 適する場面
利用の継続 地代を支払いながら建物を使用し、又は賃貸いたします 利用の必要がある場合
建替え 承諾を得て、又は裁判所の許可を得て建て替えます 1年程度 長期の利用を予定する場合
地主への売却 借地権を地主に買い取ってもらいます 数か月から1年 地主に取得の意思と資力がある場合
底地の買取り 地主から底地を買い取り、完全な所有権といたします 数か月から1年 資金があり長期の保有を予定する場合
第三者への譲渡 承諾を得て、又は裁判所の許可を得て譲渡いたします 数か月から1年 手放したい場合
等価交換 土地を分け、それぞれが完全な所有権を取得いたします 1年程度 土地に面積があり分割が可能な場合
共同での売却 地主と共同して第三者に売却いたします 1年程度 双方に処分の意思がある場合
相続の放棄 相続人としての地位を失わせます 3か月以内の申述 他に承継したい財産がない場合

2 まず契約の内容を確定させる

いずれの選択肢を採る場合でも、出発点は契約の内容の確定です。適用される法律が旧借地法か借地借家法か、存続期間はいつまでか、増改築及び譲渡についてどのような定めがあるかによって、採り得る手段が変わります。契約書がない場合には、地代の支払の記録、建物の登記、従前のやり取りから内容を組み立てることになります。

3 裁判所の許可の手続

地主の承諾が得られない場合の裁判所の許可は、借地非訟事件と呼ばれる手続によります。

表4 裁判所の許可の手続の概要

類型 内容 根拠
増改築の許可 増改築を制限する定めがある場合に、承諾に代わる許可を求めます 借地借家法第17条第2項
賃借権の譲渡又は転貸の許可 建物の譲渡に伴う賃借権の譲渡等について許可を求めます 借地借家法第19条第1項
地主による優先的な譲受けの申立て 地主が自ら建物及び借地権の譲受けを申し立てることができます 借地借家法第19条第3項
競売等の場合の許可 競売等により建物を取得した第三者からの申立てによるものです 借地借家法第20条第1項
財産上の給付 裁判所は当事者間の利益の衡平を図るため必要な定めをすることができます 各条の定めによります

4 地代の支払を絶やさないこと

いかなる選択肢を検討する場合であっても、地代の支払を継続することが前提となります。地代の不払は契約の解除の理由となり得ます。地主が受領を拒む場合には、供託を検討することになります。相続人が複数いる場合には、誰が支払うかを速やかに定め、支払の記録を残しておくことが重要です。

第4節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表5 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
権利関係 建物の登記事項証明書 所有者、構造、建築の時期
権利関係 土地の登記事項証明書 地主、地上権の登記の有無
契約 土地賃貸借契約書、更新の合意書、覚書 期間、地代、増改築及び譲渡に関する定め
地代 地代の支払の記録、領収書、通帳 支払の継続、滞納の有無、改定の履歴
相続 被相続人及び相続人の戸籍 相続人の範囲
相続 遺言書、遺産分割協議書 帰属の定めの有無
現況 建物の写真、修繕の記録 老朽化の程度、増改築の有無
交渉 地主とのやり取りの記録 要求の内容、経緯
保険 火災保険証券 契約者、補償の範囲

2 権利関係に関する確認事項

表6 確認する事項

事項 確認の内容
適用される法律 平成4年8月1日より前の設定か、それ以後か
借地権の種類 地上権か賃借権か、普通借地権か定期借地権か
存続期間 次の満了の時期
増改築の制限 禁止又は制限の定めがあるか
譲渡の制限 承諾を要する旨の定めがあるか
建物の登記 借地権の対抗力の基礎があるか
地代の状況 滞納がないか、増額の請求を受けていないか
相続人の構成 共有となっているか、遺産分割が済んでいるか

第5節 弁護士に相談する意味

借地権を相続した場面では、地主からの要求に対して、応じる義務があるのかどうかの判断が最初の分岐点となります。

第一に、法律上の義務がない支払を求められている場合がある点です。相続による承継について名義書換料を求められることがありますが、これに応じる法律上の義務は原則として生じません。一度支払うと、以後の交渉における立場に影響することもあります。

第二に、承諾が得られない場合の手続が用意されている点です。建替え及び譲渡について、裁判所の許可を求める手続があります。この手続を用い得ることを前提として交渉するのと、承諾がなければ何もできないと考えるのとでは、交渉の結果が大きく異なります。

第三に、期間の制約がある点です。相続の放棄には3か月、相続登記には3年、遺産分割における特別受益及び寄与分の主張には相続開始から10年という期間があります。地代の滞納が続けば契約の解除の危険も生じます。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約の内容と適用される法律を確定させることです。第二に、地主からの要求について、応じる義務の有無を判定することです。第三に、建替え又は譲渡を予定する場合に、承諾の交渉及び裁判所の許可の申立てを行うことです。第四に、遺産分割により借地権及び建物の帰属を定めることです。第五に、処分を選ぶ場合に、地主への売却、底地の買取り、共同での売却といった方法を比較し、交渉を代理することです。

なお、具体的な交渉の進め方は、借地の経緯、地主の意向、建物の状態等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 相続したので名義書換料を払えと言われました。払う必要がありますか。

相続による承継は譲渡には当たりませんので、名義書換料を支払う法律上の義務は原則として生じません。任意に支払う場合には、その趣旨と以後の取扱いを書面により確認しておくことが望まれます。

質問2 地主が「相続を機に土地を返してほしい」と言っています。

建物がある場合には、更新の請求により従前と同一の条件で更新したものとみなされ、地主が異議を述べるには正当の事由が必要とされております。相続が生じたことは、それ自体で正当の事由となるものではありません。

質問3 建て替えたいのですが承諾してもらえません。

増改築を制限する定めがある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築について承諾が得られないときは、裁判所に承諾に代わる許可を求めることができます(借地借家法第17条第2項)。裁判所が財産上の給付を命ずる場合もあります。

質問4 建物ごと売りたいのですが、地主が承諾しません。

第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾が得られないときは、裁判所に承諾に代わる許可を求めることができます(借地借家法第19条第1項)。なお、地主が自ら譲受けを申し立てる場合があります。

質問5 地主が地代の受領を拒んでいます。

受領を拒まれた場合には、供託を検討することになります。地代の不払と評価されることを避けるため、支払の意思と経緯を記録に残しておくことが重要です。

質問6 建物が古く、住む予定もありません。取り壊してもよいですか。

建物を取り壊すと、借地権の対抗力の基礎を失うことになります。また、契約の内容によっては取壊しが問題となる場合もあります。取壊しは、建替え又は処分の計画と一体として検討する必要があります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、借地権及び底地の相続に関するご相談をお受けしております。

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ご相談の際に、建物及び土地の登記事項証明書、土地賃貸借契約書、地代の支払の記録、被相続人及び相続人の戸籍、地主とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

借地借家法 第5条第1項(借地契約の更新請求等)、第6条(借地契約の更新拒絶の要件)、第10条第1項(借地権の対抗力)、第11条第1項(地代等増減請求権)、第13条第1項(建物買取請求権)、第17条第2項(増改築についての承諾に代わる許可)、第19条第1項及び第3項(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可等)、第20条第1項(競売等の場合における許可)

民法 第612条第1項(賃借権の譲渡及び転貸の制限)、第898条(相続財産の共有)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)

不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請義務)

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