共有不動産の住宅ローンの残債務が価格を上回っているとき 共有物分割は可能か、代償金はどう算定されるか
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共有している自宅を売って共有関係を解消したい。ところが、査定を取ってみると、売却の見込額が住宅ローンの残債務を下回っている。この状態でも共有物の分割はできるのか。共有不動産のご相談では、この問いをしばしば頂きます。
結論から申し上げます。売却の見込額が残債務を下回っている、いわゆるオーバーローンの状態であっても、共有物の分割を請求すること自体は可能です。抵当権が設定されていることは、共有物の分割の請求を妨げる事由ではありません。
もっとも、実際に採り得る解決の方法は限られます。競売を命ずる判決を得ても、剰余を生ずる見込みがなければ手続が進みません。代償金を支払って取得する方法についても、価格の算定において残債務をどう扱うかという問題が生じます。したがって、この類型では、判決による解決よりも、抵当権者を含めた話合いによる解決を先に検討します。
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担保の付いた共有不動産では、残債務と売却の見込額の関係によって採り得る手続が変わります。
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まず、オーバーローンであるかどうかを正確に測ります
オーバーローンであるかどうかは、次の三つの数字を比べて判断します。
第一に、売却の見込額です。複数の宅地建物取引業者から査定を取得し、実際に成約が見込まれる価格帯を把握します。売出価格ではなく、成約価格の見込みで判断してください。
第二に、残債務の額です。金融機関に残高証明書の発行を求めます。登記事項証明書に記載されている債権額は当初の借入額であり、現在の残債務の額ではありません。
第三に、売却に要する費用です。仲介手数料、登記費用、印紙税、建物の解体の費用、残置された動産の処分の費用、測量の費用がこれに当たります。
売却の見込額から売却に要する費用を控除した額と、残債務の額とを比べます。この比較を行わないまま「オーバーローンだから何もできない」と考えておられる方が少なくありませんが、費用を精査すると剰余が生ずる事案もあります。
共有物の分割の請求そのものは妨げられません
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができ(民法第256条第1項本文)、協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができます(民法第258条第1項)。抵当権が設定されていることも、残債務が価格を上回っていることも、この請求を妨げる事由ではありません。
裁判所は、共有物の現物を分割する方法、又は共有者に債務を負担させて他の共有者の持分の全部若しくは一部を取得させる方法により、共有物の分割を命ずることができ(民法第258条第2項)、これらの方法によることができないとき等は、その競売を命ずることができます(同条第3項)。
もっとも、分割を命ずる判決を得ることと、その判決によって現実に問題が解決することとは、別の事柄です。オーバーローンの事案では、いずれの方法についても実行上の制約があります。
競売を命ずる判決を得ても、手続が進まないことがあります
共有物の分割としての競売は、換価のための競売であり、担保権の実行としての競売の例によります(民事執行法第195条)。
担保権の実行としての競売においては、差押債権者の債権に優先する債権及び手続の費用を弁済して剰余を生ずる見込みがない場合には、執行裁判所は競売の手続を取り消さなければならないとされています(民事執行法第63条第2項)。抵当権の被担保債権が売却の見込額を大きく上回っている事案では、この規定によって手続が進まないことが考えられます。換価のための競売についてこの規定がどのように適用されるかは、事案により判断が分かれ得ますので、申立ての前に確認いたします。
仮に競売が実施されたとしても、売却の代金は、まず手続の費用に充てられ、次いで抵当権者に配当されます。残債務の額が売却の代金を上回っていれば、共有者に交付される金銭はありません。
代償金の算定における残債務の扱い
共有者の一人が不動産を取得し、他の共有者に代償金を支払う方法による場合、代償金の額は共有物の価格を基礎として算定されます。
ここで問題となるのが、抵当権の被担保債権の扱いです。取得する共有者が、抵当権の負担が付いたままの不動産を取得し、かつ債務の返済も引き継ぐのであれば、その負担を代償金の算定において考慮する必要があります。不動産の価格から残債務の額を控除した額を基礎とする処理が考えられますが、控除後の額が零又は負となる場合の扱いを含め、事案ごとの判断となります。
実務上は、この点を判決に委ねるよりも、抵当権者との調整を前提とした和解によって定める方が、実行可能な内容になります。
抵当権者の同意を得て市場で売却する方法
オーバーローンの事案において、実際に最も多く用いられるのが、抵当権者の同意を得て市場で売却する方法です。
抵当権者にとっても、競売による売却よりも回収額が大きくなることが通例ですので、協議に応ずる余地があります。手続の概要は次のとおりです。
第一に、共有者の全員が売却に合意します。不動産の全部を売却するには、共有者の全員が売主となる必要があります。
第二に、抵当権者に対し、売却の見込額と、代金から弁済することができる額を示します。複数の査定書を添えて説明します。
第三に、抵当権者から、代金の受領と引換えに抵当権の設定の登記の抹消に応ずる旨の承諾を得ます。
第四に、売買契約を締結し、決済の日に、代金の支払、抵当権の抹消、所有権の移転の登記を同時に行います。
第五に、残った債務について、返済の方法を協議します。売却によって債務が消滅するわけではありませんので、この協議を欠いたまま売却しますと、無担保の債務だけが残ります。返済の期間、毎月の返済額、遅滞した場合の扱いを書面に定めます。
共有者の一部が返済に協力しない場合
共有者の一部が返済に協力せず、あるいは売却にも同意しない場合には、次の点を確認します。
第一に、その共有者が債務者であるのか、物上保証人であるのかです。債務者であれば、返済を怠ることにより期限の利益を失い、抵当権が実行されます。物上保証人であれば、返済の義務は負いませんが、担保となっている持分を失います。
第二に、返済をしている共有者からの求償です。連帯債務者の一人が弁済をした場合には、他の連帯債務者に対し、その負担部分に応じた額の求償をすることができます(民法第442条第1項)。保証人が債務を弁済した場合にも、主たる債務者に対して求償することができます(民法第459条第1項、第462条)。一人で返済を続けている場合には、求償することができる金額を記録しておいてください。
第三に、共有物に関する債権として、特定承継人に対しても行使することができる場合があることです。共有者の一人が他の共有者に対して共有物について有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができます(民法第254条)。
放置した場合に失われるもの
第一に、任意に売却する機会です。返済が滞れば期限の利益を失い、抵当権者は担保不動産競売を申し立てます。競売の手続が進んだ後では、市場での売却に切り替えることが難しくなります。
第二に、不動産の価格です。空き家となった建物は劣化が進み、売却の見込額が下がります。オーバーローンの幅は、時間の経過とともに広がるのが通常です。
第三に、残債務の圧縮の機会です。返済が続いている間は元本が減っていきますが、滞納が生ずると遅延損害金が加算され、残債務は増えます。
第四に、生活の再建の選択肢です。返済が困難な状態が続く場合には、個人再生における住宅資金特別条項の利用その他の方法を検討する余地があります。手続の選択には、返済の状況と資産の状況が影響しますので、早い段階での検討が必要です。
抵当権者が慎重になる理由
第一に、担保の価値を確定させたくないためです。市場で売却して不足額が確定すれば、その不足額は回収の見込みが乏しい債権となります。
第二に、共有者の間で方針が定まっていないためです。共有者の一部が売却に反対している状態では、抵当権者は承諾を与えても実行されないと考えます。
第三に、残債務の返済の見通しが示されていないためです。したがって、抵当権者に協議を求める際には、共有者の全員が売却に合意していること、及び残債務について具体的な返済の計画があることを、あらかじめ示す必要があります。
遺産分割及び財産分与におけるオーバーローン不動産の扱い
相続によって共有となった不動産がオーバーローンである場合と、離婚に伴う財産分与の対象がオーバーローンである場合とでは、扱いが異なります。
相続の場合、被相続人の債務は、相続人が相続分に応じて承継します。不動産だけを取得して債務を承継しないという処理はできません。相続の放棄をすれば債務を負いませんが、その場合には不動産も取得できません。不動産の価額と債務の額を並べたうえで、相続を承認するか放棄するかを判断する必要があり、その判断には期間の制限があります。
離婚に伴う財産分与の場合、オーバーローンの不動産は、実務上、分与の対象となる財産の評価においてマイナスの要素として扱われることがあります。他の預貯金その他の財産と併せて全体を評価し、分与の額を定めます。もっとも、債務そのものを分与の対象とすることはできませんので、金融機関との関係は別に整理する必要があります。
いま確認していただきたいこと
1 金融機関に残高証明書の発行を求め、現在の残債務の額と、遅延の有無を確認してください。
2 複数の宅地建物取引業者に査定を依頼し、成約が見込まれる価格帯を把握してください。
3 売却に要する費用を積算してください。仲介手数料、登記費用、解体の費用、動産の処分の費用を含めます。
4 共有者の全員に、売却についての意向を確認してください。全員の合意がなければ、抵当権者との協議に入ることができません。
よくあるご質問
オーバーローンでも共有物分割の訴えを起こせますか。
起こせます。抵当権が設定されていることも、残債務が価格を上回っていることも、共有物の分割の請求を妨げる事由ではありません(民法第256条第1項本文、第258条第1項)。もっとも、判決を得ても実行上の制約がありますので、話合いによる解決を先に検討いたします。
競売を命ずる判決が出れば、必ず売却されますか。
そうとは限りません。手続の費用及び優先する債権を弁済して剰余を生ずる見込みがない場合には、手続が取り消されることがあります(民事執行法第63条第2項)。換価のための競売における適用については、申立ての前に確認いたします。
抵当権者はどうすれば協議に応じてくれますか。
共有者の全員が売却に合意していること、複数の査定によって見込額が示されていること、残債務について返済の計画があることを示します。競売よりも回収額が大きくなることを、資料によって説明いたします。
一人で返済を続けています。他の共有者に請求できますか。
連帯債務者であれば、負担部分に応じた額を求償することができます(民法第442条第1項)。保証人として弁済した場合にも、主たる債務者に対して求償することができます(民法第459条第1項、第462条)。返済の記録を保存してください。
売却しても債務が残ります。どうすればよいですか。
残った債務については、返済の期間と方法を抵当権者と協議いたします。返済が困難な場合には、個人再生その他の手続を検討する余地があります。資産と収入の状況を整理したうえで判断いたします。
おわりに
オーバーローンの共有不動産は、判決による解決になじみにくい類型です。抵当権者を協議の相手方として取り込み、共有者の合意と返済の計画を先に整えることが、実際に前に進む唯一の道筋になります。残高証明書と査定書をご用意のうえ、返済が滞る前にご相談ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
オーバーローンの共有不動産に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典及び参照した法令
民法第254条、第256条第1項、第258条第1項から第3項まで、第442条第1項、第459条第1項、第462条
民事執行法第63条第2項、第195条
具体的なご相談をお考えの皆様へ
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