底地を相続した場合の活用と処分の選択肢

父が所有していた土地を相続いたしましたが、その土地には50年以上前から他人の家が建っております。地代は月額にしてわずかな金額で、固定資産税を差し引くとほとんど残りません。売却しようと不動産業者に相談いたしましたところ、「借地権が付いた土地は市場価格の何割かにしかならない」と言われました。相続税の負担もあり、どうすればよいのか分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。底地とは、借地権が設定されている土地の所有権をいいます。底地の所有者は、土地の所有者でありながら、自らその土地を使用することができず、借地権者の権利が存続する限り、地代を収受する立場にとどまります。手放す方法としては、借地権者への売却、第三者への売却、借地権と底地の等価交換、借地権者との共同での売却といった選択肢があります。また、保有を継続する場合には、地代の改定、契約の更新の際の条件の整理が課題となります。いずれの方法にも借地借家法上の制約がありますので、順序を誤ると交渉の立場を悪くいたします。本記事では、選択肢の全体像と判断の順序を整理いたします。

第1節 底地とはどのような権利か

1 底地と借地権の関係

建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権を借地権といいます。借地権が設定された土地の所有権を、実務上「底地」と呼んでおります。底地の所有者は、土地の所有者ではありますが、借地権が存続する限り、自らその土地を使用することはできません。

表1 底地の所有者の地位

項目 内容
できること 地代を収受すること、契約の条件に従って権利を行使すること、底地を売却すること
できないこと 自ら土地を使用すること、借地権者の同意なく建物を撤去させること
負担 固定資産税及び都市計画税の納付
制約の根拠 借地借家法(旧借地法の適用を受ける契約もあります)
更新 正当の事由がなければ更新の拒絶をすることができません

2 借地権の存続期間

借地権の存続期間は30年とされております。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間となります(借地借家法第3条)。更新後の存続期間は、最初の更新は20年、その後の更新は10年とされております。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間となります(借地借家法第4条)。

平成4年8月1日より前に設定された借地権については、旧借地法が適用されます。旧法では、堅固な建物と非堅固な建物とで存続期間が異なる定めが置かれておりました。古い借地関係では、まずどちらの法律が適用されるかを確認する必要があります。

3 更新の拒絶には正当の事由が必要です

借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでありません(借地借家法第5条第1項)。

この異議は、借地権設定者及び借地権者が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過、土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができません(借地借家法第6条)。

実務上、正当の事由が認められる場面は限られております。底地を「いずれ返してもらえる土地」として扱うことは、現実的ではありません。

4 建物買取請求権

借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができます(借地借家法第13条第1項)。したがって、更新を拒絶し得たとしても、建物を買い取る負担が生じ得ます。

第2節 実務上よく起きる問題

1 地代が著しく低い

長期間にわたって改定されていない借地関係では、地代が固定資産税及び都市計画税を下回っている例すらあります。地代の改定については、地代等増減請求権の規定が置かれております(借地借家法第11条第1項)。この点は別の記事で詳しく扱います。

2 契約書が存在しない

戦前又は戦後間もない時期に始まった借地関係では、契約書が存在しないことが少なくありません。この場合、借地権の内容、地代の額、更新の経緯は、地代の受領の記録、固定資産税の納付の状況、建物の登記の内容といった間接の資料から認定することになります。

3 借地権者が誰であるかが不明である

借地権者が死亡し、相続人が建物に居住していない、又は相続登記がされていないという例があります。借地権は相続の対象となりますので、相続人が借地権者の地位を承継いたします。相手方を特定するために、建物の登記事項証明書及び戸籍の調査が必要となります。

4 無断で増改築又は譲渡が行われている

契約に増改築を禁止する定めがある場合において、借地権者が無断で増改築を行った例があります。また、借地権の譲渡又は転貸には借地権設定者の承諾が必要とされておりますが(民法第612条第1項)、承諾を得ずに行われた例もあります。

もっとも、これらの事情があれば直ちに契約を解除し得るというものではありません。判例法理により、賃貸借契約における当事者間の信頼関係を破壊するに至らない特段の事情があるときは、解除が認められないと解されております。

5 相続税の負担との関係

底地は、収益性が低い一方で、相続税の評価においては一定の価額が付されます。納税資金の確保のために処分を検討せざるを得ない例があります。なお、相続税の評価及び申告は税理士の業務でございます。当事務所は税務の相談をお受けする立場にはございません。

6 共有となっている場合

底地が複数の相続人の共有となっている場合には、売却には共有者全員の同意が必要です(民法第251条第1項)。地代の改定、契約の更新の条件といった管理に関する事項は、持分の価格の過半数で決することになります(民法第252条第1項)。

第3節 検討する選択肢

1 選択肢の全体像

表2 底地について採り得る手段

手段 内容 期間の目安 適する場面
借地権者への売却 借地権者が底地を買い取り、完全な所有権といたします 数か月から1年 借地権者に資力と意思がある場合
借地権の買取り 底地の所有者が借地権を買い取り、完全な所有権といたします 数か月から1年 底地の所有者に資力があり土地を利用したい場合
等価交換 土地を分け、それぞれが一部について完全な所有権を取得いたします 1年程度 土地に一定の面積があり分割が可能な場合
共同での売却 借地権と底地を合わせて第三者に売却し、代金を配分いたします 1年程度 双方に処分の意思がある場合
第三者への売却 底地のみを専門の業者等に売却いたします 数か月 早期の処分を優先する場合
地代の改定 地代の増額を求め、収益性を改善いたします 数か月から1年程度 保有を継続する場合
契約の条件の整理 更新の際に条件を書面により明確にいたします 数か月 更新の時期が近い場合

期間はいずれも一般的な目安であり、事案によって大きく異なります。

2 借地権者への売却

最も自然な解決は、借地権者が底地を買い取ることです。借地権者にとっては、完全な所有権を取得することにより、建替え、譲渡、担保の設定が自由となり、地代の負担もなくなります。底地の所有者にとっては、第三者に売却するよりも高い価格での売却が期待し得ます。

もっとも、借地権者に資金がない場合、又は高齢で今後の利用を予定していない場合には、成立いたしません。打診の時期及び方法については、相手方の事情を踏まえた検討が必要です。

3 等価交換

土地を分割し、一部を借地権者の完全な所有とし、他の一部を底地の所有者の完全な所有とする方法です。金銭の授受を伴わずに双方が完全な所有権を得られる点に利点がありますが、分割後の各土地が接道の要件を満たすか、建築が可能かといった検討が必要となります。分筆の登記は司法書士、測量は土地家屋調査士の業務でございます。

4 共同での売却

借地権者と底地の所有者とが共同して第三者に売却する方法です。借地権と底地とが一体となることにより、それぞれを別々に売却する場合よりも合計の代金が高くなることが期待し得ます。代金の配分の割合をどのように定めるかが交渉の中心となります。

5 第三者への売却

底地のみを買い取る業者が存在いたします。早期に処分できる点に利点がありますが、価格は相当程度低くなるのが通常です。また、買主が借地権者に対して強い姿勢で臨むことにより、借地権者との関係が悪化する可能性があります。従前の関係を重んじる場合には、慎重な検討を要します。

6 保有を継続する場合の整理

直ちに処分をしない場合であっても、地代の水準の見直し、契約書の作成、更新の条件の明確化、増改築及び譲渡についての承諾の取扱いを整理しておくことが望まれます。次の相続の際に、承継する者の負担が大きく変わります。

第4節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表3 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
権利関係 土地の登記事項証明書 所有者、持分、地上権の登記の有無、担保権
権利関係 建物の登記事項証明書 借地権者の氏名、建物の構造及び建築の時期
権利関係 公図、地積測量図 形状、接道、境界の確定の有無
契約 土地賃貸借契約書、覚書 期間、地代、増改築及び譲渡に関する定め
契約 更新の際の合意書 更新の経緯、条件の変更
地代 地代の受領の記録、通帳、領収書の控え 地代の額、改定の履歴、滞納の有無
固定資産税の納税通知書、評価証明書 評価額、税額との比較
相続 被相続人及び相続人の戸籍 相続人の範囲、持分
現況 現地の写真 建物の状態、増改築の形跡、使用の状況

2 権利関係に関する確認事項

表4 確認する事項

事項 確認の内容
適用される法律 平成4年8月1日より前に設定されたものか、それ以後か
借地権の種類 地上権か賃借権か、普通借地権か定期借地権か
設定の時期 当初の契約の時期
更新の履歴 これまでに何回更新されたか、次の満了の時期
借地権者 現在の借地権者は誰か、相続が生じていないか
建物の登記 借地権の対抗力の有無
地代の水準 固定資産税との比較、近隣の水準との比較
契約違反の有無 無断の増改築、無断の譲渡又は転貸、地代の滞納
共有の有無 底地が共有である場合の共有者と持分

3 時期に関する確認事項

表5 注意を要する時期

事項 内容
借地権の存続期間の満了 更新の可否及び条件を検討する時期です
相続登記の申請義務 所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請いたします
相続税の申告の期限 相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。詳細は税理士にご確認ください
相続開始から10年の経過 経過後は遺産分割において特別受益及び寄与分の主張が原則として制限されます

第5節 弁護士に相談する意味

底地の問題は、不動産の問題であると同時に、長期にわたる人的な関係の問題です。当事者だけでは解決が難しい理由が3つあります。

第一に、法律関係の確定に専門的な検討を要する点です。適用される法律が旧借地法か借地借家法か、借地権の種類が何か、更新の経緯がどうであったかによって、採り得る手段が異なります。契約書がない事案では、間接の資料から法律関係を組み立てる作業が必要となります。

第二に、交渉の順序が結果を左右する点です。地代の増額を求めてから売却を打診するのか、売却の打診を先に行うのかによって、相手方の対応が変わります。第三者への売却を先に検討していることが伝われば、借地権者との交渉は難しくなります。

第三に、相続を機に関係が変化する点です。当事者双方において世代が交代し、従前の経緯を知る者がいなくなっております。書面のない了解事項が失われる一方、新たな当事者が権利を主張することもあります。この機会に法律関係を整理しておくことが、次の世代の負担を減らします。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、登記及び資料から借地権の内容と当事者を確定させることです。第二に、適用される法律と契約の条件を整理することです。第三に、選択肢ごとの見通しと順序を設計することです。第四に、借地権者との交渉を代理することです。第五に、司法書士、土地家屋調査士、不動産鑑定士、税理士その他の専門家との連携を調整することです。なお、登記の申請は司法書士、測量は土地家屋調査士、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士、税務は税理士の業務でございます。

なお、具体的な交渉の進め方は、借地の経緯、当事者の意向、土地の内容等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 借地人に出て行ってもらうことはできますか。

借地権者が更新を請求したときは、建物がある場合には従前と同一の条件で更新したものとみなされ、これを拒むには正当の事由が必要とされております(借地借家法第5条第1項、第6条)。正当の事由が認められる場面は限られており、認められる場合であっても建物買取請求権の行使を受ける可能性があります(借地借家法第13条第1項)。

質問2 契約書が見当たりません。それでも権利関係を確定できますか。

地代の受領の記録、建物の登記の内容、固定資産税の納付の状況、当事者の従前のやり取りといった間接の資料から、借地権の存在及び内容を認定することが可能な場合があります。まず資料を可能な限り収集することから始めます。

質問3 借地人が「買い取ってもよい」と言っています。価格はどう決めればよいですか。

底地の価格の算定には複数の考え方があり、地代の水準、更新の時期、土地の形状、双方の事情によって幅が生じます。不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の業務でございますので、必要に応じて鑑定士に評価を依頼したうえで交渉に臨むことになります。

質問4 地代を上げたいのですが応じてもらえません。

地代が土地に対する租税その他の公課の増減により、又は土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、将来に向かって地代の額の増減を請求することができるものとされております(借地借家法第11条第1項)。協議が調わない場合には調停及び訴訟の手続によります。

質問5 底地だけを業者に売ることはできますか。

底地のみを売却することは可能であり、これを買い取る業者も存在いたします。もっとも、価格は相当程度低くなるのが通常であり、また買主と借地権者との間に新たな紛争が生じる可能性があります。他の方法と比較したうえで判断することが望まれます。

質問6 兄弟の共有で相続しました。私一人で売れますか。

底地の全部を売却するには共有者全員の同意が必要です(民法第251条第1項)。自己の持分のみを売却することは可能ですが、価格は低くなるのが通常です。共有物分割により共有関係を解消したうえで処分を検討する方法もあります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、底地及び借地権の相続に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、土地及び建物の登記事項証明書、土地賃貸借契約書、地代の受領の記録、固定資産税の納税通知書、被相続人及び相続人の戸籍をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

借地借家法 第3条(借地権の存続期間)、第4条(借地権の更新後の期間)、第5条第1項(借地契約の更新請求等)、第6条(借地契約の更新拒絶の要件)、第11条第1項(地代等増減請求権)、第13条第1項(建物買取請求権)

民法 第251条第1項(共有物の変更)、第252条第1項(共有物の管理)、第256条第1項(共有物の分割請求)、第258条(裁判による共有物の分割)、第612条第1項(賃借権の譲渡及び転貸の制限)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)

不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請義務)

その他 平成4年8月1日より前に設定された借地権については旧借地法が適用されます。賃貸借契約の解除における信頼関係の破壊に関する判例法理。

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