地代の増額を求める場合の進め方

先代から続く借地について、地代が20年以上据え置かれたままでございます。固定資産税は上がり続けており、現在の地代では税額を賄うこともできません。借地人に増額をお願いいたしましたが、「昔からこの金額でやってきた」と言われて取り合ってもらえません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。地代が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代の額の増減を請求することができます(借地借家法第11条第1項)。この請求は形成権と解されており、相手方に到達した時から効力を生じます。もっとも、相手方が争う場合には、まず調停を経ることが必要とされており、係争中の支払についても定めが置かれております。適正な額の主張には、公課の推移、近隣の地代の水準、土地の価格といった資料の裏付けが必要です。本記事では、手続の順序と実務上の注意点を整理いたします。

第1節 地代の増額を請求する権利

1 地代等増減請求権

地代又は土地の借賃が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができます(借地借家法第11条第1項)。

ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従うものとされております。契約書にそのような特約がないかを、まず確認する必要があります。

表1 地代等増減請求権の枠組み

項目 内容 根拠
要件 公課の増減、土地の価格その他の経済事情の変動、近傍類似の土地との比較により不相当となったこと 借地借家法第11条第1項
効果 将来に向かって地代等の額の増減を請求することができます 借地借家法第11条第1項
特約による制限 一定の期間増額しない旨の特約があるときはその定めに従います 借地借家法第11条第1項ただし書
増額について協議が調わない場合 裁判が確定するまで、借地権者は相当と認める額を支払えば足ります 借地借家法第11条第2項
裁判が確定した場合の不足額 不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければなりません 借地借家法第11条第2項
減額について協議が調わない場合 裁判が確定するまで、地主は相当と認める額を請求することができます 借地借家法第11条第3項

2 請求は意思表示の到達により効力を生じます

地代等増減請求権は形成権と解されており、請求の意思表示が相手方に到達した時から、客観的に相当な額に変更される効果が生じるものとされております。したがって、相手方の同意がなくとも効力を生じますが、いくらが相当な額であるかは、後の協議又は裁判により定まることになります。

この点から、請求の意思表示をいつ行ったかが決定的に重要となります。内容証明郵便により、到達の日を明確にしておくことが実務上の要請です。

3 増額の効力が及ぶ時期

増額の効果は、請求の意思表示が到達した時から生じます。過去に遡って増額を求めることはできません。したがって、長年据え置いてきた地代について、遡って差額を請求することはできず、請求の時点より将来に向けての改定にとどまります。この点から、早期に請求の意思表示を行うことに意味があります。

4 調停を先に行う必要があります

地代の額に関する紛争については、訴えを提起する前に、まず調停の申立てをしなければならないものとされております。当事者間の協議が調わない場合には、簡易裁判所又は当事者の合意した地方裁判所に調停を申し立てることになります。

第2節 実務上よく起きる問題

1 いくらを請求すべきかが分からない

適正な地代の水準を判断するには、複数の考え方があります。実務上は、次のような要素を総合して検討いたします。

表2 地代の水準を検討する際の要素

要素 内容
公課の額 固定資産税及び都市計画税の額とその推移
土地の価格 公示価格、基準地価、路線価等の推移
近隣の地代の水準 近傍類似の土地における地代の額
従前の地代の額 従前の水準と、最後に改定された時期
借地の経緯 権利金の授受の有無、当初の合意の内容
土地の状況 面積、形状、接道、用途地域
契約の内容 存続期間、更新の履歴、特約の有無

不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の業務でございます。争いが大きくなる見込みがある場合には、鑑定士による評価を得たうえで交渉に臨むことが有効です。

2 借地人が従前の額しか支払わない

増額の請求をしても、借地権者が従前の額しか支払わない例が一般的です。この場合、借地権者は、裁判が確定するまでは相当と認める額を支払えば足りるものとされております(借地借家法第11条第2項)。したがって、直ちに債務不履行となるものではありません。

もっとも、裁判により増額が認められた場合には、既に支払った額に不足があるときは、不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければならないものとされております。

3 増額後の額として提示した金額を受領してよいか

借地権者が従前の額を支払ってきた場合に、これを受領すると増額を撤回したものと受け取られないかというご懸念をいただきます。受領に際して、増額の請求を維持しており、当該受領は増額後の地代の一部への充当である旨を明示しておくことが実務上の対応となります。

4 増額しない旨の特約がある

一定の期間地代を増額しない旨の特約がある場合には、その期間中は増額の請求をすることができません。契約書及び更新の際の合意書に、そのような定めがないかを確認する必要があります。

5 契約書が存在しない

古い借地関係では契約書が存在しないことがあります。この場合には、地代の受領の記録、建物の登記、公課の負担の状況といった資料から、契約の内容と地代の改定の履歴を組み立てることになります。

6 共有である場合の手続

底地が共有である場合、地代の改定は共有物の管理に関する事項に当たると解される余地があり、持分の価格の過半数で決することになります(民法第252条第1項)。共有者の意見が分かれている場合には、まず内部の意思決定を整えることが必要です。

7 増額を求めることによる関係への影響

地代の増額を求めることにより、それまで平穏であった借地関係が緊張することがあります。借地権者から、建物の老朽化を理由とする修繕の要求、境界に関する主張、過去の経緯に関する主張が返ってくることも珍しくありません。

もっとも、地代を据え置いたまま放置することは、次の世代に問題を先送りするにすぎません。相続のたびに当事者が代わり、経緯を知る者が減っていくため、時が経つほど法律関係の確定が困難になります。関係への影響を懸念して着手を見送る場合であっても、少なくとも契約の内容と地代の履歴を書面により整理しておくことが望まれます。

8 借地権者の側から減額を求められる場合

地代等増減請求権は、増額のみでなく減額についても認められております。土地の価格の低下その他の経済事情の変動により地代が不相当に高額となったときは、借地権者から減額の請求がなされることがあります。

減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の地代等の支払を請求することができます。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付して返還しなければならないものとされております(借地借家法第11条第3項)。増額を求める側としても、この規律を理解しておく必要があります。

表 増額の請求と減額の請求の比較

項目 増額の請求 減額の請求
請求する者 地主 借地権者
協議が調わない間の支払 借地権者は相当と認める額を支払えば足ります 地主は相当と認める額を請求することができます
裁判確定後の精算 不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払います 超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付して返還いたします
特約による制限 一定の期間増額しない旨の特約があるときはその定めに従います 減額しない旨の特約は借地権者に不利なものとして効力が制限される場合があります
根拠 借地借家法第11条第1項及び第2項 借地借家法第11条第1項及び第3項

第3節 検討する選択肢と手続の順序

1 手続の順序

表3 地代の増額を求める手続の流れ

段階 内容 期間の目安
資料の収集 契約書、地代の記録、公課の資料、近隣の地代の資料を集めます 数週間から数か月
水準の検討 請求する額を検討し、必要に応じて鑑定士の評価を得ます 1か月から数か月
請求の意思表示 内容証明郵便により増額を請求いたします 数日
協議 借地権者との間で額及び時期を協議いたします 1か月から数か月
調停の申立て 協議が調わない場合に調停を申し立てます 申立てから数か月
訴訟の提起 調停が成立しない場合に訴えを提起いたします 1年前後
確定後の精算 不足額及び利息を精算いたします 数週間

期間はいずれも一般的な目安であり、事案によって大きく異なります。

2 請求書面に記載する事項

表4 増額の請求書面の記載事項

事項 記載の内容
対象物件 登記事項証明書の記載に従って特定いたします
現行の地代 現在の額と、最後に改定された時期
増額の理由 公課の増加、土地の価格の変動、近隣との比較
請求する額 改定後の月額
効力の生じる時期 本書面の到達の日以後の分から
支払の方法 振込先、支払の期日
協議の申入れ 協議に応じる用意がある旨
応じない場合の対応 調停の申立てを検討する旨

3 増額と併せて検討すべき事項

地代の増額のみを求めるよりも、契約全体の条件を整理する機会とすることが有効な場合があります。契約書が存在しない場合の書面化、増改築及び譲渡についての取扱い、更新の際の条件、支払の方法といった事項を併せて整理することにより、次の世代における紛争を予防し得ます。

4 増額が難しい場合の代替の選択肢

増額の余地が乏しい場合、又は増額しても収益性が改善しない場合には、底地そのものの処分を検討することになります。借地権者への売却、共同での売却、等価交換といった方法があります。増額の交渉と処分の交渉とは、順序を誤ると互いの立場を悪くいたしますので、方針を定めてから着手することが望まれます。

第4節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表5 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
契約 土地賃貸借契約書、更新の合意書、覚書 地代の額、増額しない旨の特約の有無
地代 受領の記録、通帳、領収書の控え 現行の額、改定の履歴、滞納の有無
公課 固定資産税及び都市計画税の納税通知書(複数年分) 税額の推移
価格 公示価格、基準地価、路線価の資料 土地の価格の推移
近隣 近傍類似の土地の地代に関する資料 水準の比較
権利関係 土地及び建物の登記事項証明書 当事者、借地権の対抗力
交渉 従前のやり取りの記録 過去に増額を求めた経緯
評価 不動産鑑定士による評価書 適正な地代の水準

2 確認する事項

表6 請求の前に確認する事項

事項 確認の内容
増額しない旨の特約 契約書及び更新の合意書に定めがないか
最後の改定の時期 いつから据え置かれているか
公課との比較 地代が公課を下回っていないか
近隣の水準 近傍類似の土地と比較してどの程度か
共有の有無 底地が共有である場合の意思決定
相手方の資力 増額に応じ得る状況か
今後の方針 保有を継続するか、処分を検討するか

第5節 弁護士に相談する意味

地代の増額の請求は、書面を一通送れば足りるように見えますが、実際には次の理由から専門的な検討を要します。

第一に、請求の時期が結果を左右する点です。増額の効果は請求の意思表示が到達した時から生じ、遡ることができません。長く据え置いた地代について、遡って差額を得ることはできませんので、着手が遅れるほど失われるものが大きくなります。

第二に、額の主張に資料の裏付けが必要である点です。公課の推移、土地の価格の変動、近隣の水準といった資料をそろえずに額のみを主張しても、協議は進みません。調停及び訴訟においては、なおさら資料が求められます。

第三に、係争中の取扱いに固有の規律がある点です。借地権者は相当と認める額を支払えば足り、確定後に不足額と年1割の割合による利息を精算するという仕組みになっております。受領の際の対応を誤ると、増額の主張を維持していないと受け取られる懸念があります。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、契約の内容及び特約の有無を確認することです。第二に、公課、土地の価格、近隣の水準に関する資料を整え、請求する額を検討することです。第三に、内容証明郵便により請求の意思表示を行い、到達の日を確保することです。第四に、協議、調停及び訴訟の各段階を代理することです。第五に、地代の改定と底地の処分のいずれを目指すかという方針を設計することです。なお、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の業務でございます。

なお、具体的な交渉の進め方は、借地の経緯、当事者の意向、土地の内容等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 20年間据え置いた分を遡って請求できますか。

できません。増額の効果は請求の意思表示が相手方に到達した時から生じ、過去に遡るものではありません。したがって、早期に請求の意思表示を行うことに意味があります。

質問2 借地人が増額に応じません。どうすればよいですか。

地代の額に関する紛争については、訴えを提起する前にまず調停の申立てをしなければならないものとされております。協議が調わない場合には、調停を申し立てることになります。

質問3 増額の請求をした後、従前の額の支払を受け取ってよいですか。

受領すること自体は差し支えありませんが、増額の請求を維持しており、当該受領は増額後の地代の一部への充当である旨を明示しておくことが実務上の対応となります。

質問4 裁判で増額が認められたら、その間の差額はどうなりますか。

裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければならないものとされております(借地借家法第11条第2項)。

質問5 適正な地代はどうやって決めればよいですか。

公課の額、土地の価格の推移、近傍類似の土地の地代の水準、借地の経緯といった要素を総合して検討いたします。争いが大きくなる見込みがある場合には、不動産鑑定士による評価を得たうえで交渉に臨むことが有効です。

質問6 地代が固定資産税を下回っています。それでも増額が認められないことがありますか。

地代が公課を下回っている事情は、不相当であることを基礎付ける有力な事情となり得ます。もっとも、権利金の授受の有無その他の借地の経緯によっては、直ちに大幅な増額が認められないこともあります。個別の判断となります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、地代の改定及び底地に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
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ご相談の際に、土地賃貸借契約書、地代の受領の記録、固定資産税の納税通知書(複数年分)、土地及び建物の登記事項証明書、借地人とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

借地借家法 第11条第1項(地代等増減請求権)、第11条第2項(増額について協議が調わない場合の支払及び不足額の利息)、第11条第3項(減額について協議が調わない場合の請求)

民法 第251条第1項(共有物の変更)、第252条第1項(共有物の管理)

その他 地代の額の増減に関する紛争についての調停前置の取扱い(民事調停法)。平成4年8月1日より前に設定された借地権については旧借地法が適用されます。

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