共有持分を買取業者へ売却する前に確認すべきこと 契約書の条項と、売却後に御家族に生ずること
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▶ 共有不動産の紛争を弁護士に依頼するとき 共有持分の買取り、分割及び明渡しの進め方
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共有持分の買取業者から書面が届き、売買契約書の案まで同封されている。回答の期限も切られている。署名すれば、この面倒な不動産から解放される。そう思われるのは自然なことです。
結論から申し上げます。共有持分の売却そのものは、他の共有者の同意も通知も要せずに有効に成立いたします。だからこそ、いったん署名いたしますと、価格が低廉であることのみを理由として後から覆すことは容易ではありません。署名の前に確かめるべきことがあります。
本記事では、価格の水準ではなく、契約書のどの条項を読むべきか、そして売却の後に残るご家族に何が生ずるかを扱います。価格の決まり方そのものは、別の記事で整理しております。
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共有持分の売却は、価格の水準、契約の内容、売却後の影響の三つに分けて確かめます。場面ごとに確認すべきことが異なります。
- 売却の前に契約書と売却後の影響を確かめる場面……本記事
- 価格がどのように決まるのかを知りたい場面……共有持分の買取価格はどのように決まるのか 共有減価が生ずる理由と不動産全体の価格との違い
- 他の共有者に買い取っていただく交渉の場面……他の共有者に共有持分を買い取ってもらいたいとき 価格の基準と支払能力の確かめ方
- 共有持分のみを売却する方法そのものを知りたい場面……共有持分不動産の売却の方法と具体的なトラブル及び対処の方法
共有持分の譲渡は、それだけで有効に成立いたします
各共有者は、自己の共有持分を単独で処分することができます。他の共有者の同意も、事前の通知も要しません。所有権の内容として当然に認められるものです(民法第206条)。
この結果として、次のことが言えます。第一に、ご家族に相談せずに売却することが法律上は可能です。第二に、他の共有者が「売らないでほしい」と述べていても、その意思は譲渡の効力に影響いたしません。第三に、売却の後は、ご自身は当事者でなくなり、交渉の主導権を失います。
売買の効力を争い得る場面は限られております。判断能力を欠く状態でされた意思表示、詐欺又は強迫による意思表示(民法第96条第1項)、公序良俗に反する法律行為(同法第90条)といった事情が必要です。「思ったより安かった」という理由だけでは足りません。
契約書のどこを読むべきか
共有持分の売買契約書には、通常の不動産売買では見慣れない条項が置かれていることがあります。少なくとも次を確認してください。
売買代金の支払の時期と条件
代金が所有権移転の登記と同時に支払われるのか、後日となるのか。分割払とされていないか。停止条件(他の共有者の同意が得られたとき等)が付されていないか。条件が成就しなければ代金は支払われません。
表明及び保証の条項
売主が「共有持分について紛争がないこと」「第三者の権利が付着していないこと」などを保証する条項です。事実と異なる保証をいたしますと、後に損害賠償を請求される根拠となります。抵当権、賃借人、他の共有者との係争の有無を、契約書の記載と照合してください。
契約不適合責任及び解除に関する条項
売主の責任の範囲と期間が定められております。責任を負う期間が長く設定されていないか、免責の定めが一方に偏っていないかを確認いたします(民法第562条以下)。
違約金及び手付の条項
解約手付が定められている場合、相手方が履行に着手するまでは手付を放棄して解除できます(民法第557条第1項)。違約金の額が売買代金に比して過大でないかを確認いたします。
他の共有者への協力義務の条項
これが最も見落とされます。売却の後、買主が他の共有者と交渉し又は訴訟を提起する際に、売主が資料の提供、事情の説明、書面への署名等に協力する義務を負うと定められていることがあります。売却によって関わりを断つおつもりであれば、この条項の有無は決定的です。
売却の後、残るご家族に生ずること
共有持分を取得した第三者も、共有者としての権利を有します。したがって、買主は残る共有者に対して次のことを行い得ます。
- 共有持分の買取りを求めること
- 共有物を使用する共有者に対し、自己の共有持分を超える使用の対価の償還を求めること(民法第249条第2項)
- 協議が調わないときに、共有物分割を請求すること(民法第258条第1項)
- 共有物の管理に関する事項について、共有持分の価格の過半数による決定に加わること(民法第252条第1項)
すなわち、ご自身が離脱した後、残るご家族が、面識のない事業者との交渉及び訴訟に対応することになります。実家に居住しているご家族がいらっしゃる場合、使用の対価の請求を受けることが少なくありません。
なお、共有物を占有する共有者に対し、他の共有者は当然には明渡しを請求できないものとされております(最高裁判所昭和41年5月19日判決)。居住が直ちに失われるわけではありませんが、対価の請求と分割の請求とを受けることになります。
回答の期限に、法律上の効力はありません
買取業者から短い期限を切られることがあります。業者が一方的に定めた回答の期限に、法律上の効力はありません。期限を過ぎたことによって不利益を受ける法律上の根拠はありません。
これに対し、裁判所が定めた期限は、徒過すれば取り返しがつきません。訴状が届いている場合には、答弁書の提出期限と第1回口頭弁論期日を最初に確認してください。答弁書を提出せず期日にも出頭しないときは、相手方の主張を自白したものとみなされます(民事訴訟法第159条第1項及び第3項)。この二つを区別してください。
売却よりも手取額が大きくなり得る選択肢
署名の前に、次の選択肢と手取額を並べて比較してください。いずれも、共有持分のみを第三者へ売る場合より手取額が大きくなり得るものです。
- 他の共有者に買い取っていただく 買主は単独の所有者となりますので、共有であることによる減価の理由が失われます
- 共有者全員で不動産全体を売却する 通常の不動産取引となり、手取額は最も大きくなります。共有者全員の同意を要します
- 共有物分割を請求する 協議が調わないときは、相手方の同意なく裁判所に分割を請求できます(民法第258条第1項)。任意売却による換価又は賠償による分割を求めます
- 所在等不明共有者に関する制度を用いる 共有者の所在が分からない場合には、その共有持分を第三者へ譲渡する権限の付与を裁判所に請求できます(民法第262条の3)
時間の経過によって失われるもの
売却を急がれる背景に、共有者が増え続けているという事情がある場合があります。共有持分は相続により承継されますので、放置すれば面識のない親族まで共有者となります。共有者が増えるほど、全員の同意を要する不動産全体の売却は困難となります。
他方、ご自身が共有持分を売却されますと、その困難は解消されず、当事者が親族から事業者へ替わるだけとなります。共有者が増える前に、共有関係そのものを終わらせる手続を選ぶことができるかどうかが分岐です。
相続登記の申請は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に行う義務があります(不動産登記法第76条の2)。正当な理由なくこれを怠りますと、10万円以下の過料の対象となります(同法第164条第1項)。
買取業者の側の事情
買取業者は、共有持分を取得したうえで、残る共有者に対する買取りの要求、使用の対価の請求、共有物分割の訴えの提起により、投じた資金を回収いたします。回収までには時間と費用を要し、結果も確実ではありません。
したがいまして、業者にとっては、取得の価格を抑えること、そして取得の判断を早く得ることの双方に利益があります。短い回答の期限が切られる理由は、ここにあります。逆に申しますと、比較のための時間を取ることは、業者の想定を外すことにほかなりません。
いま確認していただきたいこと
- 届いた書面と契約書の案を保存してください。破棄されないようお願いいたします
- 登記事項証明書を取得し、共有者、共有持分の割合、抵当権の有無を確認してください
- 契約書の案のうち、代金の支払時期、表明及び保証、違約金、他の共有者への協力義務の条項に印を付けてください
- 他の共有者に買い取る意思があるかどうかを確認してください
- 電話で価格又は時期を約束しないでください。回答は書面でお願いいたします
よくあるご質問
署名してしまいました。取り消せますか。
容易ではありません。判断能力を欠く状態でされた意思表示、詐欺又は強迫による意思表示(民法第96条第1項)といった事情が必要です。もっとも、代金が未払いである、条件が成就していない、手付による解除の期間内であるといった場合には、なお対応の余地があります。速やかにご相談ください。
家族に知られずに売却できますか。
売買そのものは可能ですが、所有権移転の登記により他の共有者の知るところとなります。また、買主から他の共有者へ連絡が行くことが通常です。
売却した後も、私に連絡が来ることはありますか。
契約書に協力義務の条項が置かれている場合には、資料の提供や事情の説明を求められることがあります。条項の有無を必ずご確認ください。
業者から「他の共有者も売却に同意している」と言われました。
事実であるかを書面で確認してください。他の共有者の意向は、ご自身の共有持分の価格を左右いたしません。また、全員が売却に同意しているのであれば、不動産全体の売却により手取額を大きくできる場面です。
弁護士に依頼すると、業者は交渉に応じなくなりませんか。
そのようなことはありません。事業者にとっても、早期に確実な回収ができる解決には応じる利益があります。むしろ、価格の根拠を示し合う交渉に移ることで、条件が整理されます。
おわりに
共有持分の売却は、いったん成立いたしますと元に戻せません。価格の比較だけでなく、契約書の条項と、残るご家族に生ずることまで確かめたうえでご判断ください。
期限を切られていても、比較のための時間は取れます。届いた書面と登記事項証明書をお持ちいただければ、その場で選択肢と手取額の見当を申し上げます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
出典及び参照した法令
- 民法第90条、第96条第1項、第206条、第249条第2項、第252条第1項、第256条第1項、第258条第1項、第262条の3、第557条第1項、第562条
- 不動産登記法第76条の2、第164条第1項
- 民事訴訟法第159条第1項及び第3項
- 最高裁判所昭和41年5月19日判決(民集20巻5号947頁)
記載は令和8年9月1日時点の法令及び裁判例に基づきます。結論は事実関係により異なります。
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