共有物分割の訴訟を和解で終えるとき 取得と売却の選択、代金の支払と明渡しの条件の定め方
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▶ 共有不動産の紛争を弁護士に依頼するとき 共有持分の買取り、分割及び明渡しの進め方
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共有物分割の訴えを提起した。あるいは、ある日、訴状が届いた。期日を重ねるうちに、裁判所から「和解の余地はありませんか」と問われる。判決を待つべきなのか、和解に応ずるべきなのか、判断がつかない。共有不動産をめぐるご相談のうち、相当数がこの場面から始まります。
結論から申し上げます。共有物分割の訴訟は、判決を待たずに和解によって終えることができ、実務上は、その方が最終的な手取りの額も、解決までの期間も有利になることが少なくありません。ただし、和解条項に書き入れるべき事項を落としますと、和解が成立した後にもう一度紛争が起こります。
判決による分割は、民法第258条第2項が定める二つの方法、すなわち共有物の現物を分割する方法と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法のいずれか、それができないときは同条第3項の競売に限られます。これに対して和解であれば、期限を定めて任意に売却する、居住している共有者に一定期間の居住を認める、過去の固定資産税を精算する、といった判決では命じられない内容を定めることができます。採り得る選択肢の幅がそもそも違います。
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共有物分割の手続は、いまどの段階にあるかによって、検討すべき事項が異なります。
- 訴訟の中で和解によって解決する場面……本記事
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共有物分割の訴訟は、判決を待たずに和解で終えることができます
裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試みることができます(民事訴訟法第89条第1項)。共有物分割の訴訟においても、訴えの提起から判決までのどの段階でも和解をすることができ、鑑定が実施された後であっても、口頭弁論が終結する前であれば和解は可能です。
和解が成立し、その内容が調書に記載されますと、その記載は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法第267条第1項)。そして、確定判決と同一の効力を有するものは、それ自体が債務名義となります(民事執行法第22条第7号)。したがって、和解条項に「令和9年3月31日限り、金3000万円を支払う」「同日限り、建物を明け渡す」と定めておけば、相手方が履行しない場合に、改めて訴訟を提起することなく強制執行を申し立てることができます。
ここを誤解しておられる方が少なくありません。和解は「譲歩して終わらせること」ではなく、「判決と同じ強制力を持つ内容を、判決よりも広い範囲で自分たちで設計すること」です。設計が的確であれば、判決よりも強い解決になります。
和解の三つの型 誰が不動産を取得し、いつ現金に換えるのか
共有物分割の訴訟における和解は、実務上、次の三つの型に整理することができます。どの型を選ぶかは、不動産を残したいのか、現金化したいのか、という依頼者の目的から逆算して決めます。
共有者の一人が取得し、代償金を支払う型
共有者の一人が不動産の全部を取得し、他の共有者にその持分に相当する金銭を支払う型です。判決における賠償分割(民法第258条第2項第2号)と実質的に同じ結果になりますが、判決の場合には取得を希望する共有者に支払能力があることが認められなければならないのに対し、和解であれば、金融機関の融資の実行を条件とする、支払を二回に分けるといった柔軟な定め方ができます。
自宅として居住している、賃貸物件として収益を生んでいる、事業の用に供しているなど、不動産そのものを残す必要がある場合に選択します。
期限を定めて任意に売却し、代金を分ける型
共有者の全員が協力して不動産を市場で売却し、その代金から費用を控除した残額を持分の割合に応じて分ける型です。判決による競売と目的は同じですが、市場での売却である以上、価格の水準が競売とは大きく異なります。
誰も不動産を必要としていない場合、あるいは取得を希望する共有者に資力がない場合に選択します。共有物分割の訴訟における和解として、最も多く用いられる型です。
分割の方法は判決に委ね、付随する事項のみを和解で定める型
分割の方法そのものについては折り合わないものの、不動産の評価額、過去の固定資産税の精算、明渡しの期限といった付随する事項については合意できる場合があります。争点を限定しておけば、判決までの期間が短くなり、鑑定の費用も抑えられます。
なお、裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができます(民法第258条第4項)。付随する事項の一部は判決でも命じられますので、どこまでを和解で定め、どこからを判決に委ねるかは、争点ごとに判断します。
和解条項に書き入れる事項 代金の額だけでは足りません
和解が成立した後に再び紛争になる例は、そのほとんどが、条項に書き落としがあったことによるものです。次の事項は、いずれの型であっても必ず検討します。
代金又は代償金の額と、支払の時期
額だけでなく、支払の期日、振込先の口座、振込手数料の負担を明記します。分割払とする場合には、期限の利益を失う事由(一回でも支払を怠ったときは残額を直ちに支払う旨)を併せて定めます。
所有権移転登記と抵当権の抹消を、代金の支払とどう引き換えるか
登記の申請に必要な書類を、いつ、誰が、どこへ持参するのかまで定めます。抵当権が設定されている場合には、抵当権者の同意を得たうえで、代金から被担保債権を弁済して抹消の登記手続を行うという流れを、和解条項の中に組み込みます。抵当権の抹消についての段取りを欠いた和解は、実行することができません。
明渡しの期限と、残された動産の扱い
共有者の一人が居住している場合には、明渡しの期限、鍵の引渡しの方法、家財道具その他の残置された動産の処分の権限を定めます。「期限までに搬出しない動産については、所有権を放棄したものとみなし、相手方において任意に処分することができる」という条項を置きます。この一文がないと、動産の処分のためだけに別の手続を要します。
固定資産税、賃料及び修繕費の精算
固定資産税は、賦課期日である1月1日現在の所有者に課されます(地方税法第343条第1項、第359条)。共有者は共有物に係る地方団体の徴収金を連帯して納付する義務を負いますので(地方税法第10条の2第1項)、一人が全額を納付している例が多く見られます。共有者の一人が不動産を単独で使用してきた場合の対価(民法第249条第2項)、賃貸されている場合の賃料の分配、管理の費用の負担(民法第253条第1項)と併せ、どの時点までを精算の対象とするのかを明記します。
期限に遅れた場合の処理
任意に売却する型では、定めた期限までに売却できないことがあります。その場合に競売の申立てへ移るのか、取得を希望する共有者が定められた価額で取得するのか、あらかじめ定めておきます。期限が来たときに何が起こるのかを書いていない和解は、期限が来た時点で新たな紛争になります。
任意に売却する型の和解で、特に定めておくべきこと
任意に売却する型を選ぶ場合、和解条項に次の事項を書き込んでおきませんと、売却の手続そのものが動かなくなります。
第一に、仲介を依頼する宅地建物取引業者を、和解の時点で特定します。共有者それぞれが別の業者に依頼しますと、市場に同一の物件が異なる条件で現れ、価格が下がります。
第二に、売出しの価額と、価額を改定する手順を定めます。「売出しから3か月を経過しても売買契約が成立しないときは、売出価額を1割の範囲で減額する」というように、誰の同意も要さずに手続が進む形にします。共有者の一人が価額の改定に同意しないことによって売却が停止する事態を避けるためです。
第三に、売買契約の締結及び決済に必要な行為について、共有者の一人に代理権を与えるか、各自が協力する義務を明記します。
第四に、代金から控除する費用の範囲を定めます。仲介手数料、登記費用、測量の費用、建物の解体の費用、残置された動産の処分の費用、契約書に貼付する印紙税のいずれを共同の負担とするのかを列挙します。
判決による分割と和解による分割で、手取りの額はどう変わるか
判決によって競売が命じられた場合、不動産は裁判所の手続により売却されます。裁判所は評価人の評価に基づいて売却基準価額を定め、買受けの申出は、売却基準価額からその10分の2に相当する額を控除した額(買受可能価額)以上でなければすることができません(民事執行法第60条第3項)。すなわち、制度上、売却基準価額の8割の水準での買受けが許容されています。
これに対し、任意に売却する場合には、市場において購入を希望する者を探すことができます。内覧を実施することができ、引渡しの時期についても交渉の余地があります。同一の不動産であっても、競売による売却と市場における売却とでは、代金の額が相当に異なるのが実情です。
費用の面でも違いが生じます。訴訟の途中で和解をした場合において、和解の費用又は訴訟費用の負担について特別の定めをしなかったときは、その費用は各自の負担となります(民事訴訟法第68条)。判決まで進めば、鑑定の費用、競売の手続の予納金が別途必要になります。期間についても、鑑定、判決、控訴期間の経過、競売の申立て、売却までを積み上げますと、和解による解決との差は年単位になり得ます。
和解の時機を逃すと失われるもの
和解には適切な時機があります。時機を逃しますと、次のものが失われます。
第一に、鑑定の費用です。裁判所が鑑定を命じますと、当事者は鑑定料を予納しなければなりません。鑑定が実施された後に和解をしても、既に支出した鑑定料は戻りません。評価額について当事者の見込みに大きな隔たりがないのであれば、鑑定の前に和解を成立させる方が経済的です。
第二に、居住を継続する余地です。判決によって競売が命じられ、第三者が買受人となりますと、居住している共有者は明け渡さなければなりません。和解であれば、明渡しの時期について猶予を設けることができます。
第三に、遺産共有の持分が含まれる場合の選択肢です。共有物の持分が相続財産に属し、共同相続人の間で遺産の分割をすべきときは、原則としてその持分について共有物分割の手続を用いることができません(民法第258条の2第1項)。もっとも、相続開始の時から10年を経過したときは、共有物分割の手続によることができます(同条第2項)。また、相続開始の時から10年を経過した後の遺産分割は、原則として具体的相続分によらないこととされています(民法第904条の3)。相続開始からの経過期間によって、採り得る手続と主張し得る内容が変わります。
相手方が和解に応ずる理由と、応じない理由
相手方の事情を理解しておくと、条件の組み立て方が変わります。
第一に、相手方も競売を望んでいないことが通常です。競売による売却は、代金の額が市場における売却を下回ることが一般的であり、その不利益は相手方にも及びます。
第二に、相手方が居住している場合には、明渡しの時期が最大の関心事です。金額の譲歩よりも、明渡しの猶予の方が価値が高いことがあります。
第三に、相手方が共有持分買取業者である場合には、事情が異なります。資金の回収の時期が優先されますので、金額よりも解決の早さが重視される傾向があります。
他方、相手方が和解に応じない典型的な理由は、評価額に対する不信です。この場合には、金額を譲るのではなく、評価の方法について合意することが先です。複数の宅地建物取引業者による査定を共同で取得する、鑑定を行う不動産鑑定士を共同で選任するといった方法により、評価の手続そのものを共同のものにいたします。
いま確認していただきたいこと
1 訴訟がいまどの段階にあるかを確認してください。鑑定が命じられているか否かで、和解の経済的な意味が変わります。
2 登記事項証明書を取得し、抵当権その他の担保権の有無と、被担保債権の額を確認してください。抵当権が残っている場合には、抵当権者との調整が和解の前提となります。
3 固定資産税の納税通知書を、遡ることができる範囲で集めてください。精算の対象を確定するための資料になります。
4 不動産を残したいのか、現金に換えたいのかを、ご自身の中で先に決めてください。この点が定まらないまま条件の交渉に入りますと、条項の設計が定まりません。
よくあるご質問
和解に応じますと、譲歩したことになりませんか。
和解の内容は当事者が設計するものですので、判決より不利になるとは限りません。判決では命じられない事項、たとえば明渡しの猶予、過去の費用の精算、売却の手順を定めることができます。判決で得られる結果と比較して、和解の方が有利であれば和解を選択いたします。
和解の後で、相手方が支払をしない場合はどうなりますか。
和解調書は確定判決と同一の効力を有し(民事訴訟法第267条第1項)、債務名義となります(民事執行法第22条第7号)。改めて訴訟を提起することなく、強制執行を申し立てることができます。ただし、給付の内容が特定されていることが必要ですので、条項の文言が重要になります。
共有者が三人以上いる場合でも、和解はできますか。
できます。共有物分割の訴訟は、共有者の全員が当事者とならなければならない訴訟(固有必要的共同訴訟)と解されておりますので、和解も共有者の全員でいたします。一部の共有者との間だけで和解をしても、共有関係は解消されません。
和解によって不動産を取得した場合、税金はどうなりますか。
持分に応じた現物の分割であれば、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱われます(所得税基本通達33-1の7)。他方、持分の割合を超える部分を取得した場合には、その超える部分について不動産取得税の非課税の対象から外れます(地方税法第73条の7第2号の3)。代償金の授受を伴う場合の課税関係は、事案により異なりますので、個別に確認いたします。
和解の内容を、後から変更することはできますか。
当事者の全員が改めて合意すれば変更できますが、相手方が応じなければ変更できません。和解は、成立した時点で確定判決と同一の効力を持ちます。成立の前に、条項を一つずつ検討する必要があるのはこのためです。
おわりに
共有物分割の訴訟における和解は、譲歩の産物ではなく、判決では得られない結果を設計するための手段です。設計の巧拙が、手取りの額と、解決までの期間の双方に表れます。訴訟の中で和解を打診されて判断に迷っておられる方は、条項の一つ一つを検討したうえでご判断ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
共有物分割の訴訟における和解に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典及び参照した法令
民法第249条第2項、第253条第1項、第258条第2項から第4項まで、第258条の2第1項及び第2項、第904条の3
民事訴訟法第68条、第89条第1項、第267条第1項
民事執行法第22条第7号、第60条第3項
地方税法第10条の2第1項、第73条の7第2号の3、第343条第1項、第359条
所得税基本通達33-1の7(共有地の分割)
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