配偶者が居住を続けている場合の権利の整理

父が亡くなり、相続人は母と私たち子2人でございます。母は今も実家に住んでおります。私たちは母に住み続けてもらってよいと考えておりますが、実家が遺産の大半を占めるため、母が実家を取得すると預貯金をほとんど受け取れなくなってしまいます。母の生活費が心配でございます。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。平成30年の相続法の改正により、配偶者の居住を保護するための2つの制度が設けられました。第一が配偶者短期居住権であり、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた配偶者について、一定の期間、無償で使用する権利を認めるものでございます(民法第1037条)。第二が配偶者居住権であり、遺産分割、遺贈又は死因贈与により、配偶者が居住していた建物の全部について、原則として終身の間、無償で使用及び収益をする権利を取得するものでございます(民法第1028条)。配偶者居住権は所有権より低い価額で評価されますので、配偶者が居住を確保しつつ預貯金も取得できるという利点がございます。本記事では、2つの制度の違いと実務上の整理を示します。

第1節 配偶者短期居住権

1 制度の内容

配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、一定の期間、その居住していた建物について無償で使用する権利を有します(民法第1037条第1項)。

この権利は、遺産分割の協議も遺言も要せず、法律上当然に生じるものでございます。相続開始の直後に住居を失う事態を防ぐことを目的としております。

2 存続する期間

存続する期間は、次のとおり定められております(民法第1037条第1項各号)。

表1 配偶者短期居住権の存続期間

場面 存続する期間
居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日まで
それ以外の場合(第三者に遺贈された場合等) 居住建物の取得者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6か月を経過する日まで

3 権利の内容と限界

配偶者短期居住権は、無償で使用する権利であり、収益をする権利は含まれません。したがって、当該建物を第三者に賃貸することはできません。また、登記をすることができず、第三者に対する対抗力がございません。

さらに、配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕をすることができますが、通常の必要費は配偶者が負担するものとされております。

4 成立しない場合

相続開始の時に配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は相続の欠格若しくは廃除により相続権を失ったときは、配偶者短期居住権は成立いたしません(民法第1037条第1項ただし書)。また、相続開始の時に無償で居住していたことが要件でございますので、賃料を支払って居住していた場合には、賃貸借の問題となります。

第2節 配偶者居住権

1 制度の内容

被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき、又は配偶者居住権が遺贈の目的とされたときは、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得いたします(民法第1028条第1項)。

ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、この限りでないものとされております。

2 取得の方法

表2 配偶者居住権の取得の方法

方法 内容 備考
遺産分割の協議 相続人間の協議により取得を定めます 最も一般的な方法です
遺産分割の審判 家庭裁判所が定めます 一定の要件のもとで認められます
遺贈 遺言により配偶者居住権を遺贈いたします 生前の準備として有用です
死因贈与 死因贈与契約によります 遺贈に関する規定が準用されます

3 存続する期間

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とされております。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによります(民法第1030条)。

4 登記をすることができます

居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(民法第1031条第1項)。登記を備えることにより、第三者に対抗することができます。配偶者短期居住権と異なる重要な点でございます。

表3 配偶者短期居住権と配偶者居住権の対比

項目 配偶者短期居住権 配偶者居住権
発生の原因 法律上当然に発生いたします 遺産分割、遺贈又は死因贈与によります
存続期間 原則として6か月以上の一定の期間 原則として配偶者の終身の間
権利の範囲 使用のみ(居住していた部分) 使用及び収益(建物の全部)
賃貸の可否 できません 所有者の承諾を得れば可能です
登記 できません できます
対抗力 ありません 登記により生じます
遺産分割における評価 評価の対象となりません 財産的価値を有し、取得分に算入されます
主な根拠 民法第1037条以下 民法第1028条以下

5 配偶者の義務

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって居住建物の使用及び収益をしなければなりません(民法第1032条第1項)。また、配偶者居住権を譲渡することはできず(民法第1032条第2項)、所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に使用若しくは収益をさせることができません(民法第1032条第3項)。

居住建物の通常の必要費は、配偶者が負担するものとされております(民法第1034条第1項)。固定資産税は、この通常の必要費に含まれると解されております。

第3節 遺産分割における活用

1 配偶者居住権の意義

配偶者居住権の最大の意義は、居住の確保と生活資金の確保とを両立させ得る点にございます。

自宅の所有権を取得すれば、その評価額が取得分に算入されますので、遺産に占める割合が大きい場合には、預貯金をほとんど取得できないことになります。これに対し、配偶者居住権は所有権より低い価額で評価されますので、その差額の分だけ他の財産を取得することができます。

表4 自宅の取得方法による違い

方法 居住の確保 他の財産の取得 将来の処分
所有権を取得する 確保されます 評価額の分だけ減少いたします 自由に処分することができます
配偶者居住権を取得する 確保されます 所有権を取得する場合より多く取得し得ます 譲渡することができません
子が所有権を取得し使用貸借とする 合意によります 取得分は減少いたしません 合意が守られない危険があります
売却して代金を分ける 確保されません 持分に応じて取得いたします

2 評価の方法

配偶者居住権の評価は、建物の耐用年数、経過年数、配偶者の平均余命といった要素を用いて算定されます。遺産分割における評価と、相続税の課税における評価とで方法が異なる場合がございます。

相続税に関する評価及び申告は税理士の業務でございます。当事務所は税務の相談をお受けする立場にはございませんので、税理士にご確認ください。

3 審判により認められる場合

遺産分割の審判において配偶者居住権が認められるには、共同相続人間で配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立しているとき、又は配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるときであることが求められます(民法第1029条)。

4 配偶者居住権の消滅

配偶者居住権は、配偶者の死亡によって消滅いたします。また、存続期間の満了、居住建物の全部の滅失等によっても消滅いたします。配偶者の死亡により消滅する場合、所有者は完全な所有権を回復することになります。

第4節 実務上よく起きる問題

1 建物が配偶者以外の者との共有である

被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立いたしません(民法第1028条第1項ただし書)。被相続人と子が共有していた自宅について、この点が問題となる事案がございます。

2 登記に協力してもらえない

居住建物の所有者は配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負いますが(民法第1031条第1項)、任意に応じない場合には、登記手続を求める訴えによることになります。遺産分割の協議書には、登記に協力する旨を明記しておくことが望まれます。

3 将来の処分ができない

配偶者居住権は譲渡することができません(民法第1032条第2項)。したがって、施設に入所することとなった場合に、これを売却して費用に充てるということができません。所有者との合意により配偶者居住権を消滅させ、対価を得るという方法が検討されますが、合意が得られるとは限りません。

4 修繕及び費用の負担で対立する

通常の必要費は配偶者が負担するものとされておりますが、大規模な修繕の費用の負担については対立が生じ得ます。遺産分割の際に、費用の負担の範囲を明記しておくことが望まれます。

5 子が所有権を取得することへの懸念

配偶者居住権を設定する場合、所有権は他の相続人が取得することになります。その相続人が所有権を第三者に譲渡した場合であっても、登記を備えていれば配偶者居住権を対抗することができます。登記が重要である理由でございます。

6 配偶者短期居住権のみで足りるか

短期間で自宅を処分し、配偶者が他の住居に移ることが決まっている場合には、配偶者居住権を設定する必要はありません。配偶者短期居住権により、相続開始から一定の期間の居住は確保されます。事案に応じた選択が必要でございます。

第5節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表5 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
権利関係 登記事項証明書(土地及び建物) 所有者、共有の有無、担保権
相続 被相続人及び相続人の戸籍 相続人の範囲、婚姻の事実
相続 遺言書 配偶者居住権の遺贈の有無
居住 住民票、公共料金の契約 相続開始の時の居住の事実
遺産 遺産の目録、預貯金の残高証明書 遺産に占める自宅の割合
評価 建物の登記事項証明書、固定資産税の評価証明書 建物の構造、築年数、評価額
生活 年金の額、生活費の見込み 生活資金の必要額
健康 配偶者の健康状態に関する資料 将来の施設入所の可能性

2 確認する事項

表6 方針の検討において確認する事項

事項 確認の内容
共有の有無 被相続人が配偶者以外の者と共有していないか
居住の事実 相続開始の時に居住していたか
無償性 短期居住権については無償で居住していたか
遺産の構成 自宅が遺産に占める割合
生活資金 預貯金をどの程度取得する必要があるか
将来の見通し 施設への入所の可能性、居住の継続の期間
他の相続人の意向 所有権の取得を希望する者がいるか
登記への協力 協議書に明記できるか

第6節 弁護士に相談する意味

配偶者の居住に関する制度は、平成30年の改正により整備されましたが、選択と設計に専門的な検討を要します。

第一に、制度の選択が必要である点です。配偶者短期居住権で足りるのか、配偶者居住権を設定すべきなのか、所有権を取得すべきなのかは、遺産の構成、配偶者の年齢及び健康状態、将来の見通しによって異なります。誤った選択は、将来の生活に直接影響いたします。

第二に、将来の処分ができないという制約がある点です。配偶者居住権は譲渡することができませんので、施設への入所に備えて自宅を換価するという選択肢が失われます。この点を理解したうえで判断する必要があります。

第三に、他の相続人との調整が必要である点です。配偶者居住権を設定すれば、所有権を取得する相続人は、その利用が制限された不動産を取得することになります。評価及び他の遺産の配分について、丁寧な調整が求められます。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、要件の充足を確認し、いずれの制度によるかを検討することです。第二に、遺産の構成及び配偶者の生活の見通しを踏まえた分割の案を設計することです。第三に、他の相続人との協議を代理することです。第四に、遺産分割協議書に登記への協力、費用の負担の範囲を明記することです。第五に、協議が調わない場合に調停及び審判を代理することです。なお、登記の申請は司法書士、相続税に関する評価及び申告は税理士の業務でございます。

なお、具体的な進め方は、相続人の構成、遺産の内容、配偶者の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 母は当然に住み続けられますか。

相続開始の時に無償で居住していた場合には、配偶者短期居住権により一定の期間の居住が確保されます(民法第1037条)。もっとも、この権利は原則として6か月以上の一定の期間にとどまりますので、長期の居住を確保するには配偶者居住権の取得を検討いたします。

質問2 配偶者居住権を設定すると、母は預貯金も受け取れますか。

配偶者居住権は所有権より低い価額で評価されますので、所有権を取得する場合と比べ、その差額の分だけ他の財産を取得し得ることになります。具体的な額は評価の結果によります。

質問3 母が施設に入ることになったら、自宅を売れますか。

配偶者居住権は譲渡することができません(民法第1032条第2項)。所有者との合意により配偶者居住権を消滅させ、対価を得るという方法が検討されますが、合意が得られるとは限りません。この点を踏まえた判断が必要です。

質問4 登記は必要ですか。

登記を備えることにより第三者に対抗することができます(民法第1031条)。所有権が第三者に譲渡された場合にも居住を守るために、登記を備えることが重要でございます。所有者は登記を備えさせる義務を負います。

質問5 自宅が父と私の共有でした。配偶者居住権は設定できますか。

被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立いたしません(民法第1028条第1項ただし書)。他の方法を検討することになります。

質問6 固定資産税は誰が払いますか。

居住建物の通常の必要費は配偶者が負担するものとされております(民法第1034条第1項)。固定資産税はこれに含まれると解されております。大規模な修繕の費用については、遺産分割の際に負担の範囲を明記しておくことが望まれます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、配偶者の居住と遺産分割に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、土地及び建物の登記事項証明書、被相続人及び相続人の戸籍、遺言書、遺産の目録、固定資産税の納税通知書、住民票をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第1028条(配偶者居住権)、第1029条(審判による配偶者居住権の取得)、第1030条(配偶者居住権の存続期間)、第1031条(配偶者居住権の登記等)、第1032条(配偶者による使用及び収益)、第1034条(居住建物の費用の負担)、第1037条(配偶者短期居住権)、第1038条(配偶者による使用)、第593条(使用貸借)、第898条(相続財産の共有)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)

その他 配偶者居住権及び配偶者短期居住権は平成30年の相続法の改正により設けられた制度でございます。相続税に関する評価及び申告は税理士、登記の申請は司法書士の業務でございます。

関連するご案内

相続した実家に兄弟が住み続けており明渡しにも売却にも応じずお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。

あわせてお読みください。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。