共有物の独占使用に対する対価の金額をどのように算定するか

兄が実家に一人で住み続けており、対価を請求できることは分かりました。しかし、いくらを請求すればよいのかが分かりません。近隣の家賃を調べてみましたが、物件によって幅があり、どれを基準にすればよいのかも判断がつきません。兄からは「固定資産税を払っているのだから、その分は引くべきだ」とも言われております。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います(民法第249条第2項)。その金額は、実務上、当該不動産を第三者に賃貸した場合に得られたであろう賃料の額(賃料相当額)を基礎とし、これに請求する共有者の持分割合を乗じて算定することが一般的です。もっとも、賃料相当額の認定そのものに幅があり、また相手方が負担した固定資産税、修繕費等との差引計算が行われるため、実際の金額は交渉及び審理の結果によって定まります。本記事では、算定の考え方と、主張を裏付けるための資料の整え方を整理いたします。

第1節 算定の基本的な考え方

1 賃料相当額を基礎といたします

持分を超える使用の対価をいかに算定するかについて、法律に明文の基準は置かれておりません。実務上は、当該不動産を第三者に賃貸したとすれば得られたであろう賃料の額を基礎とする考え方が一般的でございます。

この考え方は、独占して使用する共有者が、本来であれば賃貸により得られたはずの収益の機会を奪っているという理解に基づいております。

2 持分割合を乗じます

請求することができるのは、自己の持分に相当する部分でございます。持分が3分の1であれば、賃料相当額の3分の1が一応の基準となります。

表1 算定の基本的な構造

段階 内容
1 賃料相当額の認定 当該不動産を賃貸した場合に得られたであろう月額を認定いたします
2 持分割合の確認 登記事項証明書又は法定相続分により確認いたします
3 乗算 賃料相当額に請求する共有者の持分割合を乗じます
4 対象期間の確定 使用の開始時期と、時効により消滅していない範囲を確定いたします
5 控除すべき費用の検討 相手方が負担した固定資産税、修繕費等を検討いたします
6 差引計算 請求額から控除額を差し引き、請求額を確定いたします

3 部分的に使用されている場合

建物の一部のみが使用され、他の部分が空いている場合には、算定が複雑になります。使用されている部分の面積の割合による方法、実際に使用の利益を享受している範囲による方法等が考えられますが、確立された基準があるわけではありません。事案の事情に応じた主張が必要となります。

4 居住用と事業用の違い

居住用の建物と事業用の建物とでは、賃料の水準も、参照し得る資料も異なります。事業用の建物では、売上げに応じた賃料の定め、保証金の授受といった慣行があり、単純な比較が難しい場合があります。

第2節 賃料相当額の認定

1 資料の種類

賃料相当額の認定は、次のような資料により行われます。

表2 賃料相当額の認定に用いる資料

資料 内容 特徴
近隣の類似物件の募集の資料 不動産情報サイト、業者の募集図面 入手が容易です。募集の額であり成約の額ではない点に留意を要します
不動産業者による査定書 賃貸に出した場合の想定賃料の査定 比較的入手しやすく、交渉の資料となります
不動産鑑定士による鑑定評価書 専門家による評価 証拠としての価値は高いものの、費用と期間を要します
従前の賃貸の実績 過去に当該物件を賃貸していた場合の契約書 最も説得力のある資料となり得ます
近隣の同種物件の実際の契約 知り得る範囲での実際の賃料 入手が難しいことが多くあります
固定資産税評価額等 公的な評価 賃料の算定に直結するものではありませんが参考となります

2 物件の状態を反映させる

相続した実家は、築年数が古く、設備も更新されていないことが多くあります。近隣の新築又は築浅の物件の賃料をそのまま用いると、実態から乖離いたします。次の要素を踏まえた調整が必要です。

表3 賃料相当額の調整において考慮する要素

要素 内容
築年数及び構造 木造か鉄筋か、建築の時期
設備の状態 水回り、空調、断熱の更新の有無
面積及び間取り 需要のある間取りか
立地 最寄駅からの距離、周辺の環境
接道及び駐車場 自動車の利用の可否
修繕の要否 賃貸に出すために要する費用
市場の状況 当該地域における賃貸の需要

3 鑑定を求めるかどうか

不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の業務でございます。鑑定評価書は証拠としての価値が高い一方、費用と期間を要します。請求額の規模、相手方の争い方、訴訟に至る見込みを踏まえて、鑑定を得るべきかを判断いたします。

訴訟においては、裁判所が鑑定を実施することもあります。当事者が私的に取得した評価と、裁判所の鑑定とで結論が異なることもあります。

4 相手方が争う典型的な点

相手方からは、次のような主張がなされることがあります。いずれも、資料により反論することになります。

表4 賃料相当額をめぐる相手方の典型的な主張

主張 検討の視点
老朽化しており賃貸できる状態ではない 賃貸に要する修繕の程度、現に居住している事実との整合
この地域では借り手がつかない 近隣の募集の状況、空室率
自分が修繕してきたから住める状態である 修繕の内容は費用の求償の問題として整理いたします
示された近隣の物件とは条件が異なる 比較する物件の選定の妥当性
募集の額は成約の額より高い 一定の減価を考慮することの当否

第3節 控除及び差引計算

1 管理の費用の負担

各共有者は、その持分に応じて管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負います(民法第253条第1項)。したがって、相手方が固定資産税、火災保険料、修繕費を全額負担してきた場合には、請求する側の持分に相当する部分について求償を受ける立場に立ちます。

実務上は、対価の請求と費用の求償とが相互に主張され、差引計算により決着することが多くあります。

2 控除の対象となり得るもの

表5 差引計算において検討される費用

費用 取扱いの考え方
固定資産税及び都市計画税 共有物に関する負担として持分に応じて分担するのが原則です
火災保険料及び地震保険料 同様に持分に応じた分担が原則です
保存のための修繕費 持分に応じた分担が原則です
改良のための支出 行為の区分により取扱いが分かれ得ます
使用者自身の生活に係る費用 水道光熱費等は使用者が負担すべきものです
自らの労務に対する管理料 合意がなければ当然には認められません
被相続人の債務の返済 相続債務の負担の問題として別途整理いたします

3 立証の責任の所在

費用を支出したこと、その金額、必要性については、これを主張する側が資料により明らかにすべきものです。「税金を払っている」という説明のみで、納税通知書及び領収書が示されない場合には、その旨を指摘して資料の提出を求めます。

4 対象期間と消滅時効

既に経過した期間についての請求は、不当利得の返還請求として構成されます。この請求権は、権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間の経過により時効によって消滅いたします(民法第166条第1項)。

したがって、算定に当たっては、まず時効により消滅していない期間を確定させることになります。催告により時効の完成猶予を図ることができますが、その効果は6か月にとどまります(民法第150条第1項)。

第4節 実務上よく起きる問題

1 相手方が資料を出さない

相手方が固定資産税等の負担を主張しながら資料を示さない場合には、その部分について控除を認めないという主張が可能です。訴訟においては、文書提出命令の申立て等の方法もあります。

2 物件を見ることができない

相手方が立入りを拒むため、内部の状態を確認できないという事案があります。この場合には、外観の写真、建築の時期、近隣の同種物件の状況から推認することになります。相手方が「賃貸できる状態ではない」と主張するのであれば、その立証を求めることになります。

3 金額の規模と手続の費用が見合わない

賃料相当額が低い地域では、請求し得る金額そのものが大きくならないことがあります。鑑定の費用、訴訟に要する期間を考えると、金銭の請求のみを目的とすることが合理的でない場合もあります。共有物分割による解決と併せて検討することが望まれます。

4 将来分についての取決めがない

過去分の精算のみを行っても、翌月から同じ問題が続きます。金額の算定と併せて、将来に向けた対価の額、支払の方法、見直しの時期を定めることが実務上有用です。

5 相手方に支払能力がない

算定された金額が正当であっても、相手方に支払能力がなければ回収に至りません。この場合には、共有物分割による解決を優先的に検討することになります。

6 被相続人と同居していた相続人の場合

被相続人の生前から同居していた相続人については、判例法理により、遺産分割が終了するまでの間の使用貸借契約の成立が推認される場合があるとされております。この推認が働く場合には、そもそも対価の請求が認められない期間が生じ得ます。

第5節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表6 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
権利関係 登記事項証明書 共有者、持分、担保権の有無
相続 被相続人及び相続人の戸籍 相続人の範囲、法定相続分
物件 建物の図面、外観及び内部の写真 面積、間取り、状態
賃料 近隣の募集の資料、業者の査定書 賃料相当額の手掛かり
賃料 従前の賃貸借契約書(あれば) 実際の賃料の実績
費用 固定資産税の納税通知書、領収書 誰がいくら負担してきたか
費用 修繕の見積書、領収書 支出の内容と必要性
使用 住民票、現地の状況 誰がいつから使用しているか
経緯 従前のやり取りの記録 請求の有無、別段の合意の有無

2 確認する事項

表7 算定において確認する事項

事項 確認の内容
賃料相当額 近隣の水準、物件の状態を踏まえた月額
持分割合 登記事項証明書又は法定相続分
使用の開始時期 いつから独占して使用しているか
時効の状況 遡り得る期間はどこまでか
使用の範囲 建物の全部か一部か
控除すべき費用 相手方が負担した公租公課、保険料、修繕費
別段の合意 無償で使用することについての合意の有無
相手方の資力 回収の見込み

第6節 弁護士に相談する意味

対価の金額の算定は、一見すると計算の問題ですが、実際には主張と立証の問題でございます。

第一に、基礎となる賃料相当額に幅がある点です。募集の資料、査定書、鑑定評価書のいずれによるかで金額が変わり、物件の状態をどう反映させるかでも変わります。どの資料をどのように用いるかが、結果を左右いたします。

第二に、差引計算が避けられない点です。請求と求償とが相互に主張されますので、対価の算定のみを精緻に行っても、控除の主張に対する備えがなければ実質的な回収に至りません。相手方の資料の提出を求める手順が重要となります。

第三に、金額の算定と解決の方針とが結び付いている点です。算定額が大きくない事案、相手方に資力がない事案では、金銭の請求のみを追求することが合理的でない場合があります。共有物分割を含めた全体の設計が必要です。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、持分と対象期間を確定させることです。第二に、賃料相当額に関する資料を収集し、必要に応じて不動産鑑定士による評価を得ることです。第三に、控除の主張に対する反論を整理し、相手方に資料の提出を求めることです。第四に、請求額を算定し、催告により時効の完成猶予を図ることです。第五に、交渉、調停及び訴訟を代理し、共有物分割を含む解決の順序を設計することです。

なお、具体的な交渉の進め方は、共有者の構成、従前の経緯、不動産の内容、相手方の資力等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 近隣の家賃をそのまま基準にしてよいですか。

近隣の募集の資料は有力な手掛かりとなりますが、募集の額は成約の額と一致するとは限らず、また物件の築年数、設備、間取りの違いを反映させる必要があります。査定書又は鑑定評価により補強することが望まれます。

質問2 持分が2分の1です。家賃相当額の全額を請求できますか。

いいえ。請求できるのは自己の持分に相当する部分です。持分が2分の1であれば、賃料相当額の2分の1が一応の基準となります。実際の金額は費用の負担の状況等を踏まえて調整されます。

質問3 鑑定は必ず必要ですか。

必須ではありません。請求額の規模、相手方の争い方、訴訟に至る見込みを踏まえて判断いたします。費用と期間を要しますので、まず査定書等により交渉を試みることが多くあります。

質問4 相手が固定資産税を全額払っています。いくら引かれますか。

共有物に関する負担は持分に応じて分担するのが原則ですので、請求する側の持分に相当する部分が控除の対象となり得ます。もっとも、支出の事実及び金額は相手方が資料により明らかにすべきものです。

質問5 相手が「賃貸できる状態ではない」と言っています。

現に居住しているという事実との整合、賃貸に要する修繕の程度、近隣の同種物件の状況から反論することになります。相手方が状態を理由とするのであれば、その立証を求めることになります。

質問6 5年以上前の分も請求できますか。

不当利得返還請求権は、権利を行使することができることを知った時から5年、又は権利を行使することができる時から10年の経過により時効によって消滅いたします。遡り得る範囲には限りがありますので、まず催告により完成猶予を図ることが考えられます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、共有不動産の独占使用に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、建物の図面及び写真、近隣の賃料に関する資料、被相続人及び相続人の戸籍、相手方とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第249条第1項(共有物の使用)、第249条第2項(持分を超える使用の対価の償還義務)、第252条第1項(共有物の管理)、第253条第1項(管理の費用の負担)、第256条第1項(共有物の分割請求)、第258条(裁判による共有物の分割)、第703条(不当利得の返還義務)、第704条(悪意の受益者の返還義務)、第898条(相続財産の共有)

判例法理による部分 賃料相当額を基礎とする対価の算定。被相続人と同居していた相続人についての使用貸借契約の成立の推認。

その他 不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の業務でございます。

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