共有持分買取業者から共有持分を買い取るよう求められたとき 価格の比較の基準と交渉の順序
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▶ 共有不動産の紛争を弁護士に依頼するとき 共有持分の買取り、分割及び明渡しの進め方
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他の共有者が共有持分を業者に売却した。その業者から書面が届き、ご自身の共有持分を売るか、業者の共有持分を買い取るか、いずれかを選ぶよう求められている。金額が示され、回答の期限も切られている。示された金額が高いのか安いのか、判断する手がかりがない。共有持分買取業者が関与するご相談の入口は、多くがこの場面です。
結論から申し上げます。金額の当否を論ずる前に、比較の基準を一つに決めます。共有持分の価格には性質の異なる複数の水準があり、業者は自らに有利な水準を用いて提示してきます。基準を揃えないまま金額だけを比べますと、判断を誤ります。
そのうえで、交渉には順序があります。第一に、不動産全体の価格を確定させること。第二に、ご自身が取得する場合と、売却する場合の手取りの額を並べること。第三に、資金の裏付けを整えること。この順序を守れば、期限を切られても慌てる必要はありません。
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共有持分買取業者とのやり取りは、業者が何を求めてきているかによって検討する事項が変わります。
- 業者の共有持分を買い取るよう求められ価格を交渉する場面……本記事
- 業者から共有物分割の訴えを起こされた場面……共有持分買取業者から共有物分割の訴えを起こされたとき 答弁の方針と自ら取得するための準備
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業者が示す金額には、性質の異なる三つの水準があります
共有持分の価格は、誰が誰に対して支払うのかによって、次の三つの水準に分かれます。
第一が、不動産全体の市場価格に持分の割合を乗じた額です。共有者の全員が協力して不動産全体を市場で売却した場合に、ご自身が受け取る額の目安になります。三つの水準のうち最も高い水準です。
第二が、共有持分のみを第三者へ売却する場合の価格です。共有持分だけを取得しても、単独で使用することも処分することもできませんので、第一の水準を相当に下回ります。業者が他の共有者から持分を取得した際の価格は、この水準によることが通常です。
第三が、業者から共有持分を買い取る場合の価格です。業者は、取得に要した費用に、経費と利益を加えた額を提示してきます。したがって、業者の提示額は、業者が他の共有者に支払った額よりも高くなります。
ご自身が業者の持分を買い取れば、その不動産はご自身の単独の所有となります。共有であることによる利用及び処分の制約が消滅しますので、第二の水準をそのまま持ち込むべき理由はありません。もっとも、第一の水準をそのまま支払う必要もありません。交渉の実質は、第二の水準と第一の水準の間のどこで折り合うか、という問題です。
共有者となった業者が行使できる権利と、行使できない事項
共有持分を取得した業者は、その持分の限度で共有者となります。業者が共有者として行使することのできる権利の範囲は法律により定まっており、通告の文面の強さによって変わるものではありません。行使することができる事項と、できない事項とを分けて把握しておきますと、通告の内容が過大であるかどうかをご自身で判断することができます。
表 業者が共有者として行使することができる事項とできない事項
| 区分 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 行使することができます | 共有物の分割の請求(協議及び裁判) | 民法第256条第1項本文、第258条第1項 |
| 行使することができます | 持分に応じた共有物の使用、及び自己の持分を超えて使用する共有者に対する対価の償還の請求 | 民法第249条第1項、同条第2項 |
| 行使することができます | 保存行為(現状を維持する修繕、不法な占有者に対する明渡しの請求) | 民法第252条第5項 |
| 行使することができます | 自らの持分を更に第三者へ譲渡すること | 民法第206条 |
| 行使することができません | 現に居住する他の共有者の占有を当然に排除すること | 民法第249条第1項(他の共有者も使用する権原を有します) |
| 行使することができません | 単独で不動産の全部を売却し、又は取り壊すこと | 民法第251条第1項(変更には全員の同意を要します) |
| 行使することができません | 持分の価格の過半数に達しないまま管理の方法を単独で決めること | 民法第252条第1項(持分の価格の過半数で決します) |
したがって、業者から「持分を買い取らなければ建物を取り壊す」「明日にも立ち退いてもらう」といった趣旨の通告を受けた場合であっても、これらは業者が単独で実現することのできない事項です。他方で、共有物分割の請求は業者が単独で行うことができ、これに応じない場合には訴えが提起されることがあります。訴えを提起された場合の答弁の方針及び自ら取得するための準備については、当事務所の別のページで詳しく整理しています。
不動産全体の価格を先に確定させます
いずれの水準を用いるにしても、出発点は不動産全体の価格です。次の資料を揃えます。
第一に、複数の宅地建物取引業者による査定です。1社のみの査定では幅が分かりません。3社程度から取得し、査定額の根拠となった取引事例を確認します。
第二に、相続税評価額です。土地については路線価又は倍率、建物については固定資産税評価額によります。相続税の申告を行っている場合には、申告書に評価の明細が付いています。相続税評価額は課税のために定められた価額であり、市場での売買価格とは一致しません。目安として用います。
第三に、必要に応じて不動産鑑定士による鑑定評価です。争いが価格に集中している場合、あるいは訴訟に至る見込みが高い場合には、費用をかけても鑑定を取得する意味があります。
取得する場合と売却する場合の手取りの額を並べます
提示に回答する前に、次の三つの選択肢について、ご自身の手元に残るものを並べて比較します。
一つ目は、業者の共有持分を買い取り、不動産を単独で所有する選択です。支出は代償金と登記費用及び不動産取得税ですが、不動産という資産が残ります。共有物の分割による不動産の取得については、分割前の持分の割合を超える部分を除いて不動産取得税が課されません(地方税法第73条の7第2号の3)。買取りによる取得の場合の課税関係は、これとは異なりますので、個別に確認いたします。
二つ目は、ご自身の共有持分を業者に売却する選択です。手元に金銭が入りますが、共有持分のみの売却ですので、不動産全体の価格に持分の割合を乗じた額を下回ります。譲渡所得の課税も生じます。
三つ目は、業者と協力して不動産全体を市場で売却し、代金を持分の割合に応じて分ける選択です。三つの中で受け取る額が最も大きくなる可能性がありますが、業者の協力と、売却に要する期間が必要です。この選択肢が検討されないまま、買うか売るかの二択で交渉が進んでいる事案が少なくありません。
資金の裏付けを整えます
買い取る方針を採る場合には、資金の準備が交渉力そのものになります。
自己資金で足りない場合には、金融機関からの借入れを検討します。共有持分の買取りを目的とする融資は、住宅の購入資金の融資とは審査の内容が異なりますので、早い段階で相談を始めます。融資の内諾を示す書面があれば、業者との交渉においても、後に共有物分割の訴訟となった場合においても、支払能力の裏付けとして機能します。
共有物分割の訴訟において、共有者の一人に共有物を取得させ、他の共有者にその持分の価格を賠償させる方法が認められるためには、取得する者に支払能力があることが要件の一つとされています(最高裁判所平成8年10月31日第一小法廷判決)。資金の準備は、交渉のための材料であると同時に、訴訟になった場合の要件でもあります。
期限を切られた提示への対応
業者からの書面には、回答の期限が記載されていることがあります。期限までに回答しなければ共有物分割の訴えを提起する、と記載されている例もあります。
しかし、期限は業者が一方的に定めたものであり、法律上の効果を伴うものではありません。回答をしなかったことによって、ご自身の権利が失われることはありません。共有物分割の訴えを提起されたとしても、その手続の中で、ご自身が不動産を取得することを求めることができます。
期限に追われて条件を確認しないまま合意することの方が、はるかに大きな不利益を生みます。金額、支払の時期、登記の段取り、明渡しの要否を書面で確認するよう求め、検討の時間を確保してください。
また、業者から法律上の見解が示されることがありますが、弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを業とすることができません(弁護士法第72条)。示された見解を前提として判断してはなりません。
放置した場合に失われるもの
第一に、交渉の主導権です。回答をしないまま時間が経過しますと、業者は共有物分割の訴えを提起します。訴訟になれば、期日と提出の期限に従って進めることとなり、資料を整える時間が限られます。
第二に、使用の対価をめぐる請求の累積です。共有者は、別段の合意がある場合を除き、自己の持分を超える使用の対価を他の共有者に償還する義務を負います(民法第249条第2項)。ご自身が不動産を単独で使用している場合には、業者から対価の支払を求められます。時間の経過とともに請求の対象となる期間が延びます。
第三に、業者が持分をさらに転売する可能性です。持分の処分は自由ですので、業者が別の業者へ転売することがあり得ます。交渉の相手方が代わりますと、それまでの経緯が引き継がれません。
業者の側の事情
業者は、共有持分を取得した時点で資金を投下しています。したがって、資金の回収の時期が最大の関心事です。金額を最大化することよりも、確実に、早く回収することが優先される傾向があります。
この事情は、交渉において有利に働きます。資金の裏付けを示したうえで、決済までの日程を明示すれば、金額について歩み寄る余地が生じます。反対に、資金の目処が立っていない状態で金額だけを争いますと、業者は訴訟へ進みます。
また、業者は共有物分割の訴訟に要する期間と費用を計算しています。訴訟によって競売に至った場合、買受けの申出は売却基準価額からその10分の2に相当する額を控除した額以上とされていますので(民事執行法第60条第3項)、業者の回収額も確実とはいえません。この点も、交渉の材料になります。
合意が成立した場合に、書面へ必ず残す事項
金額について折り合いがついたとしても、それだけでは実行できません。次の事項を売買契約書に明記します。
第一に、代金の額と支払の時期、及び所有権移転登記の申請の時期です。代金の支払と登記の申請とを引き換えとする定めを置きます。
第二に、共有持分に担保権その他の負担がある場合の処理です。業者が取得した共有持分に、業者の資金調達のための担保が設定されていることがあります。登記事項証明書の乙区を確認し、抹消の段取りを契約の中に組み込みます。
第三に、固定資産税及び管理の費用の精算の基準日です。共有者は共有物に係る地方団体の徴収金を連帯して納付する義務を負いますので(地方税法第10条の2第1項)、どの時点までを誰が負担するのかを明記します。
第四に、これまでの使用の対価に関する清算条項です。過去の使用の対価について、相互に請求しない旨を明記しませんと、代金の支払後に別途の請求を受けることがあります。
いま確認していただきたいこと
1 業者から届いた書面を、日付順に整理して保管してください。提示された金額と条件の変遷が、交渉の材料になります。
2 登記事項証明書を取得し、業者が持分を取得した日付と持分の割合を確認してください。
3 複数の宅地建物取引業者に査定を依頼し、不動産全体の価格の幅を把握してください。
4 買い取る方針を採る場合には、金融機関に資金の相談を始めてください。融資の内諾は、交渉の材料としても、訴訟における要件としても機能します。
よくあるご質問
業者の提示額は、相場と比べて高いのでしょうか。
比較の対象を定めなければ判断できません。不動産全体の価格に持分の割合を乗じた額、共有持分のみの取引の水準、業者の取得の対価のいずれと比較するのかによって、評価が変わります。まず不動産全体の価格を確定させてください。
業者が他の共有者にいくら払ったのか、知ることはできますか。
登記からは価格が分かりません。交渉の中で開示を求めることはできますが、応ずる義務はありません。共有物分割の訴訟に至った場合には、価格に関する主張の一環として釈明を求めることを検討いたします。
回答の期限を過ぎてしまいました。不利になりますか。
期限は業者が定めたものであり、それを過ぎたことによって権利が失われることはありません。訴えを提起された場合であっても、その手続の中でご自身が取得することを求めることができます。
買い取る資金が用意できません。ほかに方法はありませんか。
不動産全体を市場で売却し、代金を持分の割合に応じて分ける方法があります。共有持分のみを売却するよりも、受け取る額が大きくなる可能性があります。業者にとっても回収が確実になりますので、協議の余地があります。
直接やり取りを続けても大丈夫でしょうか。
やり取りの記録を残し、金額と条件を書面で確認するのであれば、直ちに不利になるものではありません。もっとも、法律上の評価を伴う説明を受けた場合には、その内容を前提とせず、独立して確認する必要があります。
おわりに
共有持分買取業者との交渉は、金額の駆け引きに見えて、その実質は、比較の基準を揃え、資金の裏付けを整える作業です。準備が整っていれば、期限を切られても不利にはなりません。業者から書面が届いた段階で、書面と登記事項証明書をご用意のうえ、お早めにご相談ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
共有持分買取業者との価格の交渉に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典及び参照した法令
民法第206条、第249条第2項、第258条第2項及び第3項
地方税法第10条の2第1項
民事執行法第60条第3項
地方税法第73条の7第2号の3
弁護士法第72条
最高裁判所平成8年10月31日第一小法廷判決(全面的価格賠償による共有物分割の要件)
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