共有名義の不動産に住宅ローンと抵当権が残っているとき 共有関係を解消するための順序と金融機関との調整

共有名義の自宅を売って共有関係を解消したい。ところが登記事項証明書を見ると、抵当権が残っている。住宅ローンの残債務がいくらあるのか、誰が返済しているのか、金融機関に何を伝えればよいのかが分からない。共有不動産のご相談のうち、担保が付いたままの案件は相当数にのぼります。

結論から申し上げます。抵当権が残っている共有不動産では、共有者の間の合意よりも先に、金融機関との調整の見通しを立てます。順序を逆にしますと、共有者の間で合意した内容が実行できず、話合いを最初からやり直すことになります。

共有物分割の請求そのものは、抵当権が設定されていることによって妨げられません。もっとも、抵当権は共有物の分割によって当然に消滅するものではありませんので、抵当権を抹消するためには、被担保債権を弁済するか、抵当権者の承諾を得る必要があります。共有関係の解消と、担保の処理は、別々の手続として同時に進めます。

この記事の位置付け

担保の付いた共有不動産では、残債務と売却の見込額の関係によって採り得る手続が分かれます。

まず登記事項証明書で確認する三つの事項

担保が付いた共有不動産では、最初に登記事項証明書の乙区を確認します。確認する事項は次の三つです。

第一に、抵当権の目的です。不動産の全部に設定されているのか、共有者の一人の持分にのみ設定されているのかを見ます。共有者の一人が単独で自己の持分に抵当権を設定することは可能ですので、持分のみを目的とする抵当権が登記されている例があります。

第二に、債務者です。登記された債務者が誰であるかによって、返済の義務を負う者が分かります。共有者の一人が債務者で、他の共有者が物上保証人となっている場合、連帯債務となっている場合、それぞれ調整の相手方が変わります。

第三に、債権額と設定の日付です。登記されている債権額は当初の借入額であり、現在の残債務の額ではありません。実際の残債務の額は、金融機関が発行する残高証明書によって確認します。この額が分からないまま売却の価格を検討しても、手取りの額は算定できません。

共有持分にのみ抵当権が設定されている場合

共有者の一人が自己の持分に抵当権を設定した場合、その抵当権は当該持分の上に存続します。他の共有者の持分には及びません。

この状態で不動産の全部を第三者へ売却するためには、共有者の全員が売主となる必要があり、かつ、買主は担保の付いていない状態での引渡しを求めますので、決済の際に代金から被担保債権を弁済して抵当権の抹消の登記を行うという段取りを組みます。抵当権の設定の登記の抹消は、登記権利者と登記義務者が共同して申請します(不動産登記法第60条)。

共有物分割によって、抵当権の設定されていない持分を有する共有者が不動産の全部を取得する場合には、抵当権の帰趨が問題となります。抵当権は分割によって当然には消滅しませんので、抵当権者との間で、代償金から被担保債権を弁済して抹消を受けるという合意を、分割の実行と同時に成立させる必要があります。この段取りを欠いた分割の合意は、実行することができません。

住宅ローンの契約に置かれている条項を確認します

金融機関との金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約には、通常、担保物件の所有権を移転し、又は担保に供する場合には金融機関の承諾を要する旨の条項が置かれています。承諾を得ずに所有権を移転しますと、期限の利益を失い、残債務の一括の返済を求められることがあります。

共有者の間で持分を移転する場合も、この条項の適用を受けます。持分の移転は共有者の間の内輪の話だから金融機関には関係がない、という理解は誤りです。持分の売買、代償金の支払を伴う共有物分割、財産分与による持分の移転のいずれについても、事前に金融機関へ相談いたします。

実務上、金融機関が承諾する典型的な形は次の二つです。一つは、残債務を全額弁済して抵当権を抹消する形です。もう一つは、不動産を取得する共有者が新たに借入れを行い、その資金で従前の債務を弁済する形、いわゆる借換えです。借換えによる場合には、取得する共有者の収入と信用によって審査が行われますので、審査の見通しを先に確かめます。

売却代金で残債務を弁済しきれない場合

売却の見込額が残債務の額を下回る状態、すなわちいわゆるオーバーローンの状態では、通常の売却の方法を採ることができません。抵当権者が抹消に応じないためです。

この場合に検討する方法は、抵当権者の同意を得たうえで市場において売却し、代金を弁済に充て、残った債務については別途返済の方法を協議するという処理です。いわゆる任意売却と呼ばれる方法です。抵当権者にとっても、競売による売却よりも回収額が大きくなることが通例ですので、協議の余地があります。

共有不動産の場合には、共有者の全員が売主となる必要がありますので、共有者の間の合意と、抵当権者の同意の双方が必要です。いずれか一方が欠けている段階で買主を探し始めますと、契約の直前で頓挫します。

共有物分割の訴訟における担保の扱い

協議が調わない場合には、共有物の分割を裁判所に請求することができます(民法第258条第1項)。裁判所は、共有物の現物を分割する方法、又は共有者に債務を負担させて他の共有者の持分の全部若しくは一部を取得させる方法により分割を命ずることができ(同条第2項)、これらの方法によることができないとき等は競売を命ずることができます(同条第3項)。

抵当権が設定されていることは、共有物分割の請求を妨げる事由ではありません。もっとも、賠償による分割を求める場合には、取得を希望する共有者に代償金の支払能力があることを示す必要があり、その代償金から被担保債権を弁済して抵当権の抹消を受ける段取りまで示すことができれば、主張の説得力が増します。

他方、競売が命じられた場合には、抵当権者は優先弁済を受けます。売却代金は、まず手続の費用に充てられ、次いで抵当権者に配当され、その残余が共有者に持分の割合に応じて交付されます。残債務の額が大きい事案では、競売に至ったときに共有者の手元に残る金額がごくわずかになります。これが、担保の付いた共有不動産では和解による解決を優先すべき実務上の理由です。

離婚に伴う財産分与で持分を移転する場合

夫婦が共有する自宅について、離婚に伴い一方が他方の持分を取得する例が多く見られます。この場合には、次の三つを同時に処理します。

第一に、持分の移転の登記です。財産分与を原因とする所有権の移転の登記を行います。

第二に、住宅ローンの債務者の変更です。共有者の双方が連帯債務者となっている場合、あるいは一方が連帯保証人となっている場合には、登記の名義を移しても債務は当然には移りません。離婚後も、家に住んでいない方が債務を負い続ける事態が生じます。金融機関の承諾を得て債務を引き受けるか、借換えによって従前の債務を消滅させる必要があります。

第三に、抵当権の処理です。物上保証人となっている共有者の持分については、被担保債権が弁済されない限り担保が残ります。

これらは金融機関の審査を伴いますので、離婚の協議の中で先に見通しを立てておきます。協議離婚の届出を先行させますと、交渉の材料が失われます。

放置した場合に失われるもの

第一に、返済の遅滞による期限の利益の喪失です。共有者のいずれが返済するのかを決めないまま放置しますと、返済が滞り、金融機関は残債務の一括の返済を求め、抵当権を実行します。競売に至れば、市場における売却よりも代金の額が下がります。

第二に、住宅借入金等特別控除の適用です。所得税の住宅借入金等特別控除は、その家屋に居住していることが要件とされています。居住していない共有者が控除を受け続けることはできません。

第三に、居住用財産を譲渡した場合の特別控除の適用の余地です。租税特別措置法第35条第1項は、居住の用に供している家屋等の譲渡について、譲渡所得の金額から3000万円を控除する旨を定めています。居住しなくなってから相当の期間が経過しますと、適用の要件を満たさなくなります。適用の可否は、居住の状況、譲渡の時期その他の事情により異なりますので、税理士に確認いたします。

金融機関が慎重になる理由

共有者の一方から相談を受けた金融機関が慎重な姿勢を示すことがあります。その理由は次のとおりです。

第一に、担保の価値が下がることを避けたいためです。共有関係が解消されないまま持分だけが第三者へ移転しますと、担保としての処分が難しくなります。

第二に、債務者の返済能力が変わるためです。共有者の一方が転居して家賃の負担が増えれば、返済に充てられる原資が減ります。

第三に、共有者の間で紛争が生じている場合、返済が滞る可能性が高まるためです。したがって、共有者の間で解決の方針が定まっていることを示すことが、金融機関との交渉における最も有効な材料になります。方針が定まらないまま個別に相談しても、回答は得られません。

いま確認していただきたいこと

1 登記事項証明書の乙区を取得し、抵当権の目的、債務者、債権額、設定の日付を確認してください。

2 金融機関に残高証明書の発行を求め、現在の残債務の額と、最終の返済の期日を確認してください。

3 金銭消費貸借契約書及び抵当権設定契約書を探し、所有権の移転についての承諾を要する条項を確認してください。

4 複数の宅地建物取引業者に査定を依頼し、売却の見込額と残債務の額を比較してください。オーバーローンであるか否かで、採り得る手続が変わります。

よくあるご質問

抵当権が付いたままでも共有物分割を請求できますか。

請求することはできます。抵当権が設定されていることは、共有物の分割の請求を妨げる事由ではありません。もっとも、抵当権は分割によって当然には消滅しませんので、抹消を受けるためには被担保債権の弁済又は抵当権者の承諾が必要です。分割の方法を検討する段階から、抵当権の処理を組み込みます。

共有者の一人が返済を止めてしまいました。どうなりますか。

返済が滞れば期限の利益を失い、抵当権が実行されます。他の共有者が代わって返済した場合には、債務者に対して求償することができます。まず金融機関に返済の状況を確認し、競売の申立てに至る前に方針を定めます。

自分の持分だけを売って、住宅ローンから抜けられますか。

持分を売却しても、債務者としての地位は当然には移りません。持分を手放したのに返済の義務だけが残るという事態が生じます。金融機関の承諾を得た債務の引受け、又は借換えによらなければ、債務から離脱することはできません。

残債務が売却代金を上回っています。売ることはできますか。

抵当権者の同意を得たうえで市場において売却し、代金を弁済に充てる方法を検討します。残る債務については、分割による返済等の協議を行います。抵当権者にとっても競売より回収額が大きくなることが通例ですので、協議の余地があります。

金融機関に相談すると、すぐに一括返済を求められませんか。

返済が続いている段階で、共有関係の解消の方針を説明するために相談することが、直ちに期限の利益の喪失につながるものではありません。むしろ、承諾を得ないまま持分を移転した場合の方が、契約上の問題が生じます。相談の順序と説明の内容を整理したうえで臨みます。

おわりに

担保の付いた共有不動産の解消は、共有者の間の合意、金融機関との調整、登記の段取りの三つを同時に組み立てる作業です。どれか一つが欠けると実行できません。残高証明書と登記事項証明書がお手元にあれば、その日のうちに採り得る手続の見通しを申し上げることができます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

担保の付いた共有不動産の解消に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典及び参照した法令

民法第177条、第258条第1項から第3項まで
不動産登記法第60条
民事執行法第85条
租税特別措置法第35条第1項
租税特別措置法第41条(住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除)

具体的なご相談をお考えの皆様へ

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