遺産共有の持分が含まれる場合の手続の違い

父が亡くなった後、実家の土地について相続人3人の共有の状態が続いております。そのうち一人が自分の持分を第三者に売却してしまい、現在は私と弟とその第三者との共有になっております。この状態を解消したいのですが、家庭裁判所の遺産分割の手続によるのか、地方裁判所の共有物分割の訴えによるのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。相続財産に属する共有物の持分(遺産共有持分)と、それ以外の共有持分とが併存する場合には、手続の役割分担に固有の規律がございます。原則として、遺産共有持分についての分割は遺産分割の手続によるべきものとされておりますが、共有物分割の訴えにおいて、相続開始の時から10年を経過しているときは、一定の場合を除き、遺産共有持分についても共有物分割の手続により分割することができるものとされております(民法第258条の2)。この規律は令和3年の民法の改正により設けられ、令和5年4月1日から施行されております。手続の選択を誤ると、訴えが却下され、又は審理が長期化いたします。本記事では、役割分担の考え方と、選択の基準を整理いたします。

第1節 遺産共有と通常の共有

1 二種類の共有

相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属します(民法第898条)。これを遺産共有と呼んでおります。遺産共有は、遺産分割によって解消されるべき暫定的な状態でございます。

これに対し、売買、贈与その他の原因により生じた共有は、通常の共有でございます。共有物分割によって解消されます。

表1 遺産共有と通常の共有の対比

項目 遺産共有 通常の共有
発生の原因 相続 売買、贈与、共同での取得等
解消の手続 遺産分割(協議、調停、審判) 共有物分割(協議、訴え)
管轄 家庭裁判所 地方裁判所又は簡易裁判所
対象 遺産の全体を一括して分割いたします 個別の共有物ごとに分割いたします
考慮される事情 特別受益、寄与分、遺産の全体の均衡 当該共有物に関する事情
主な根拠 民法第906条、第907条 民法第256条、第258条

2 持分が譲渡された場合

相続人の一人が自己の遺産共有持分を第三者に譲渡した場合、その第三者が取得した持分は、遺産共有持分としての性質を失い、通常の共有持分となると解されております。その結果、当該不動産について、遺産共有持分と通常の共有持分とが併存する状態が生じます。

この状態は、遺産分割の手続のみでも、共有物分割の手続のみでも、完全には解消することができません。そのために設けられたのが、次に述べる規律でございます。

3 手続の役割分担

共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について共有物分割の訴えによる分割をすることができないものとされております(民法第258条の2第1項)。

すなわち、遺産共有持分の相互の間の分割は、遺産分割の手続によるべきものとされております。共有物分割の訴えにおいては、遺産共有持分の全体を一つの持分として扱い、通常の共有持分との間の分割を行うという構造になります。

第2節 相続開始から10年の経過による特則

1 10年を経過した場合

共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過しているときは、共有物分割の訴えにおいて、当該共有物の持分について遺産共有持分の分割をすることができるものとされております(民法第258条の2第2項本文)。

これにより、相続開始から10年が経過した事案では、共有物分割の訴えの中で、遺産共有持分の相互の間の分割まで一挙に解決することが可能となります。

2 異議の申出

ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでないものとされております(民法第258条の2第2項ただし書)。

この異議の申出は、当該相続人が共有物分割の訴えに係る訴訟の係属する裁判所から共有物分割の請求があった旨の通知を受けた日から2か月以内に、当該裁判所にしなければならないものとされております(民法第258条の2第3項)。

表2 遺産共有持分が含まれる場合の手続の整理

状況 遺産共有持分相互の分割 根拠
相続開始から10年を経過していない 遺産分割の手続によります 民法第258条の2第1項
相続開始から10年を経過している 共有物分割の訴えによることができます 民法第258条の2第2項本文
10年を経過しているが遺産分割の請求があり異議の申出がある 遺産分割の手続によります 民法第258条の2第2項ただし書
異議の申出の期間 通知を受けた日から2か月以内 民法第258条の2第3項

3 10年の経過による他の効果

相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、原則として、特別受益及び寄与分に関する規定は適用されないものとされております(民法第904条の3)。すなわち、法定相続分(又は指定相続分)に従った分割が行われることになります。

この規律は、10年の経過が遺産分割の内容そのものに影響することを意味いたします。特別受益又は寄与分を主張すべき事情がある相続人にとっては、10年の経過が不利益となり得ます。

表3 相続開始から10年の経過による効果

事項 10年経過前 10年経過後
特別受益及び寄与分 主張することができます 原則として適用されません(民法第904条の3)
遺産共有持分の共有物分割による分割 できません 異議の申出がない限りできます(民法第258条の2第2項)
遺産分割の請求そのもの いつでもできます いつでもできます

4 例外

民法第904条の3には例外が定められております。10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき等には、なお特別受益及び寄与分に関する規定が適用されます。したがって、10年の期間が迫っている場合には、遺産分割の請求を行うことにより主張の機会を保つことができます。

第3節 実務上よく起きる問題

1 手続を誤って申し立てる

最も多い誤りが、遺産分割によるべき事案について共有物分割の訴えを提起し、又はその逆を行うことでございます。手続を誤れば、訴えが却下され、又は審理の途中で方針の変更を余儀なくされ、時間と費用が失われます。

2 通知と異議の期間を見落とす

相続開始から10年を経過し、共有物分割の訴えが提起された場合において、遺産分割によることを望む相続人は、通知を受けた日から2か月以内に異議の申出をする必要があります。この期間を徒過すると、共有物分割の手続により法定相続分に従った分割がされることになります。特別受益又は寄与分を主張したい相続人にとっては重大な帰結でございます。

3 持分を取得した第三者が分割を求める

共有持分のみを買い取る業者が持分を取得し、その後に共有物分割の訴えを提起するという事案がございます。この場合、他の共有者は、突然訴訟の当事者となります。取得を希望するのであれば、代償金の準備が必要となります。

4 数次相続が生じている

相続が繰り返され、複数の相続について遺産分割が未了であるという事案があります。この場合、どの相続についての遺産共有持分かを整理する必要があり、当事者の範囲も複雑になります。

5 遺産の全体を見るべきか、当該不動産のみを見るべきか

遺産分割は遺産の全体を対象として、その均衡を図りながら分割いたします。これに対し、共有物分割は当該共有物のみを対象といたします。したがって、他に相当の遺産がある場合には、当該不動産のみを切り離して分割することが不利益となる相続人が生じ得ます。

6 10年の経過が迫っている

相続開始から10年の経過が迫っている場合には、特別受益及び寄与分を主張する機会を保つために、期間内に家庭裁判所に遺産分割の請求を行うことを検討いたします。期間の管理が結果を直接に左右する場面でございます。

第4節 検討する選択肢

1 選択肢の全体像

表4 遺産共有持分が含まれる場合に採り得る手段

手段 内容 期間の目安 適する場面
遺産分割の協議 相続人間で遺産の全体について協議いたします 数か月 相続人間の合意が見込まれる場合
遺産分割の調停 家庭裁判所の調停により分割を定めます 1年前後 協議が調わない場合
遺産分割の審判 調停が成立しない場合に審判により定めます 1年から2年程度 調停が不成立の場合
共有物分割の協議 第三者を含めた共有者間で協議いたします 数か月 合意が見込まれる場合
共有物分割の訴え 裁判所に分割を請求いたします 1年から2年程度 協議が調わない場合
両手続の併行 遺産分割と共有物分割を並行して進めます 2年程度 遺産共有持分と通常の共有持分が併存する場合
持分の買取り 第三者が取得した持分を買い戻します 数か月 交渉が可能な場合
異議の申出 共有物分割による分割に異議を述べます 2か月以内 遺産分割によることを望む場合

2 まず持分の性質を整理すること

出発点は、各共有者の持分がいずれの性質を有するかを整理することでございます。登記事項証明書の登記の原因、被相続人及び相続人の戸籍、譲渡に関する資料により確認いたします。

表5 持分の性質の整理

取得の原因 持分の性質
相続(遺産分割未了) 遺産共有持分
遺産分割により取得 通常の共有持分
相続人からの譲受け 通常の共有持分
被相続人の生前からの共有 通常の共有持分
相続人以外の者への特定遺贈 個別の検討を要します

3 10年の経過を確認する

次に、相続開始の時から10年を経過しているかを確認いたします。これにより、共有物分割の訴えにおいて遺産共有持分の分割まで行い得るか、特別受益及び寄与分を主張し得るかが定まります。

4 目的から手続を選ぶ

特別受益又は寄与分を主張したいのであれば、遺産分割の手続によることが必要です。早期の解決を優先し、法定相続分による分割で足りるのであれば、共有物分割による一括の解決が合理的な場合があります。何を実現したいかによって、選ぶべき手続が異なります。

第5節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表6 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
権利関係 登記事項証明書 共有者、持分、登記の原因及び日付
相続 被相続人の出生から死亡までの戸籍 相続人の範囲、相続開始の時期
相続 遺言書、遺産分割協議書 遺産分割の成否
遺産 遺産の目録、預貯金の残高証明書 他の遺産の有無と規模
譲渡 持分の譲渡に関する資料 第三者が取得した経緯
訴訟 訴状、裁判所からの通知 異議の申出の期間
評価 査定書、固定資産税の評価証明書 不動産の価格
特別受益等 生前贈与、介護に関する記録 主張すべき事情の有無

2 確認する事項

表7 手続の選択において確認する事項

事項 確認の内容
持分の性質 遺産共有持分か通常の共有持分か
相続開始の時期 10年を経過しているか
遺産分割の請求の有無 既に家庭裁判所に請求がされているか
特別受益及び寄与分 主張すべき事情があるか
他の遺産 当該不動産以外に相当の遺産があるか
第三者の存在 持分を取得した第三者がいるか
通知の受領 異議の申出の期間内か
数次相続 複数の相続が重なっていないか

第6節 弁護士に相談する意味

遺産共有持分が含まれる共有物分割は、手続法上の判断を要する類型であり、当事者の判断のみで進めることが困難でございます。

第一に、手続の選択そのものが争点となる点です。遺産分割によるべきか共有物分割によるべきかは、持分の性質、相続開始からの期間、異議の申出の有無によって定まります。誤った手続を選べば、時間と費用が失われます。

第二に、期間の管理が結果を左右する点です。相続開始から10年の経過により特別受益及び寄与分の主張が制限され、共有物分割の訴えにおける異議の申出には通知から2か月という期間がございます。いずれも徒過すれば取り返しがつきません。

第三に、何を実現したいかによって最適な手続が異なる点です。特別受益又は寄与分を主張したいのか、早期の解決を優先するのかによって、選ぶべき道筋が変わります。目的を明確にすることが出発点となります。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、登記及び戸籍により各持分の性質を整理することです。第二に、相続開始の時期を確認し、10年の経過との関係を判定することです。第三に、目的に応じて遺産分割と共有物分割のいずれによるかを選択することです。第四に、異議の申出その他の期間を管理することです。第五に、協議、調停、審判及び訴訟の各手続を代理することです。

なお、具体的な進め方は、相続人の構成、遺産の内容、持分の譲渡の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 遺産分割と共有物分割のどちらによるのですか。

遺産共有持分の相互の間の分割は、原則として遺産分割の手続によります。もっとも、相続開始の時から10年を経過しているときは、異議の申出がない限り、共有物分割の訴えにおいて分割をすることができます(民法第258条の2)。

質問2 裁判所から通知が届きました。何をすべきですか。

共有物分割の請求があった旨の通知であれば、遺産分割によることを望む場合には、通知を受けた日から2か月以内に異議の申出をする必要があります(民法第258条の2第3項)。期間を徒過すると、共有物分割の手続により分割がされることになります。

質問3 10年を過ぎると何が変わりますか。

遺産分割において特別受益及び寄与分に関する規定が原則として適用されなくなり(民法第904条の3)、法定相続分に従った分割が行われることになります。また、共有物分割の訴えにおいて遺産共有持分の分割まで行い得るようになります。

質問4 兄が持分を業者に売ってしまいました。

第三者が取得した持分は通常の共有持分となり、遺産共有持分と併存する状態が生じます。第三者から共有物分割の訴えが提起される可能性がありますので、取得を希望するのであれば代償金の準備を検討いたします。

質問5 10年がもうすぐ経過します。何かできますか。

10年を経過する前に家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき等には、なお特別受益及び寄与分に関する規定が適用されます。主張すべき事情がある場合には、期間内の請求を検討いたします。

質問6 他にも遺産があります。不動産だけを分けてよいですか。

遺産分割は遺産の全体を対象として均衡を図るものでございます。当該不動産のみを切り離して分割することが不利益となる場合には、遺産分割の手続によることを求めることが考えられます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、遺産共有及び共有物分割に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、登記事項証明書、被相続人の出生から死亡までの戸籍、遺言書又は遺産分割協議書、遺産の目録、裁判所からの通知及び訴状をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第256条第1項(共有物の分割請求)、第258条(裁判による共有物の分割)、第258条の2第1項(遺産共有持分についての共有物分割の訴えの制限)、第258条の2第2項(相続開始から10年経過後の特則)、第258条の2第3項(異議の申出の期間)、第898条(相続財産の共有)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第906条(遺産の分割の基準)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)

その他 民法第258条の2及び第904条の3は、令和3年の民法の改正により設けられ、令和5年4月1日から施行されております。経過措置の適用については個別の検討を要します。家事事件手続法に基づく遺産分割の調停及び審判の手続。

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