共有持分を放棄したときに何が起こるか 民法第255条の効果と、登記及び贈与税の取扱い
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▶ 共有不動産の紛争を弁護士に依頼するとき 共有持分の買取り、分割及び明渡しの進め方
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相続した実家の共有持分を持っているが、遠方に住んでおり使う予定がない。固定資産税の負担だけが続く。いっそ持分を放棄してしまいたい。共有不動産のご相談では、このご希望をしばしば伺います。
結論から申し上げます。共有持分の放棄は、法律上は可能です。しかし、放棄したからといって負担が直ちに消えるわけではなく、放棄を受ける他の共有者に贈与税の課税が生ずるのが原則です。登記の手続にも他の共有者の協力が必要ですので、単独で完結する手段ではありません。
共有関係から離脱する方法は、持分の放棄のほかにも複数あります。他の共有者への売却、第三者への売却、共有物分割の請求、相続土地国庫帰属の制度の利用がこれに当たります。それぞれ、要する費用と、相手方の協力の要否が異なります。放棄を選ぶ前に、これらを並べて比較してください。
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共有関係から離脱する方法は複数あり、費用と相手方の協力の要否が異なります。
- 共有持分を放棄する場合の効果と課税を確かめる場面……本記事
- 他の共有者に共有持分を買い取ってもらう場面……他の共有者に共有持分を買い取ってもらいたいとき 価格の基準と支払能力の確かめ方
- 共有持分を第三者へ売却する場面……共有持分不動産の売却の方法と具体的なトラブル及び対処の方法
- 共有物の分割を請求する場面……共有物分割請求の意義と利点、欠点及び流れ
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共有持分の放棄は、単独の意思表示によって効力を生じます
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属します(民法第255条)。
持分の放棄は、相手方のない単独行為であると解されています。他の共有者の承諾を要しませんので、放棄する旨の意思表示によって、その効力を生じます。この点で、他の共有者の同意を必要とする共有物の売却とは大きく異なります。
放棄によって、放棄した者の持分は、他の共有者にその持分の割合に応じて帰属します。共有者が二人であれば、他の一人が単独の所有者となります。共有者が三人以上であれば、残る共有者がそれぞれの持分の割合に応じて取得します。
相続の放棄とは全く別の制度です
共有持分の放棄と、相続の放棄とは、名称は似ていますが別の制度です。
相続の放棄は、家庭裁判所に申述してしなければならず(民法第938条)、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります(民法第915条第1項)。相続の放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法第939条)。
これに対し、共有持分の放棄は、家庭裁判所の手続を要しません。期間の制限もありません。既に相続によって取得した持分を、その後に手放す行為だからです。
なお、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人等に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければなりません(民法第940条第1項)。相続を放棄したのに空き家の管理を求められる、という事態はここから生じます。
放棄を受ける他の共有者に、贈与税が課されます
持分の放棄は無償の行為ですので、他の共有者は対価を支払うことなく利益を受けることになります。
相続税法基本通達9-12は、共有に属する財産の共有者の一人がその持分を放棄したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする、と定めています。
すなわち、放棄する側に課税は生じませんが、放棄を受ける他の共有者に贈与税が課されます。不動産の価額と持分の割合によっては、相当の税額となります。他の共有者に事前の説明をしないまま放棄をしますと、後になって強い抗議を受けることになります。
贈与税の課税価格は、相続税評価額により算定します。土地については路線価又は倍率、建物については固定資産税評価額によります。放棄を検討する場合には、他の共有者に生ずる税額を先に試算し、その負担を含めて協議してください。
登記には、他の共有者の協力が必要です
放棄の意思表示によって持分は他の共有者に帰属しますが、それだけでは登記の名義は変わりません。持分の放棄を原因とする持分の移転の登記が必要です。
権利に関する登記の申請は、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければなりません(不動産登記法第60条)。持分の放棄の場合、登記権利者は持分を取得する他の共有者、登記義務者は放棄した者です。したがって、他の共有者が登記に協力しなければ、登記の名義は変わりません。
登記の名義が残っている限り、固定資産税の納税通知書は届き続けます。固定資産税は賦課期日である1月1日現在の所有者に課され(地方税法第343条第1項、第359条)、共有者は共有物に係る地方団体の徴収金を連帯して納付する義務を負います(地方税法第10条の2第1項)。
他の共有者が協力しない場合には、放棄した者から、持分を取得した共有者に対して、登記の手続を求める訴えを提起することを検討いたします。
放棄の前に比較すべき四つの方法
他の共有者に共有持分を買い取ってもらう
対価を受け取ることができ、他の共有者に贈与税が生じません。他の共有者に資力があり、かつ不動産を必要としている場合には、最も穏当な方法です。
共有持分を第三者へ売却する
他の共有者の同意を要しません。もっとも、共有持分のみの売却は、不動産全体の価格に持分の割合を乗じた額を相当に下回ります。また、買い受けた第三者と他の共有者との間で新たな紛争が生ずることがあります。
共有物の分割を請求する
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます(民法第256条第1項本文)。協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができます(民法第258条第1項)。時間と費用を要しますが、不動産全体の価格を基礎とした解決になります。
相続土地国庫帰属の制度を利用する
相続又は遺贈により土地の所有権又は共有持分を取得した者は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができます(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)。土地が共有に属する場合には、共有者の全員が共同して申請しなければなりません。
建物が存する土地、担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地など、申請をすることができない土地が定められています。承認を受けた場合には、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した負担金を納付する必要があります。建物が建っている実家の敷地は、そのままでは対象となりません。
放棄をしても消えないもの
第一に、放棄の前に生じた費用の負担です。各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負います(民法第253条第1項)。放棄より前の期間について既に発生した固定資産税、修繕の費用の負担は、放棄によって消滅しません。
第二に、登記の名義が残っている間の対外的な責任です。土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者が損害を賠償する責任を負い、占有者が必要な注意をしたときは所有者がその損害を賠償しなければなりません(民法第717条第1項)。老朽化した建物の外壁が落下したような場合の責任は、所有者としての地位に伴います。
第三に、他の共有者との関係です。無償で持分を押し付けられた側は、贈与税の負担を負います。事前の説明を欠いた放棄は、親族間の関係を決定的に損ないます。
他の共有者が放棄を受けたがらない理由
第一に、贈与税の負担です。取得する持分の相続税評価額に応じた税額が生じます。
第二に、固定資産税と管理の負担が増えることです。持分が増えれば、負担する割合も増えます。
第三に、売れない不動産を単独で抱えることになるためです。共有であれば他の共有者と負担を分け合えますが、単独の所有者となれば、処分できない不動産の管理を一人で背負うことになります。
したがって、放棄を申し入れる場合には、贈与税の試算と、その後の管理の方針を併せて示すことが必要です。持分だけを一方的に手放す申入れは、通常は受け入れられません。
放棄を選ぶことが合理的な場面
もっとも、共有持分の放棄が最も適切な選択となる場面もあります。
第一に、他の共有者がその不動産を現に使用しており、持分の取得を希望している場面です。この場合には、贈与税の負担を含めて協議したうえで、放棄によって整理する方が、売買の形を採るよりも手続が簡明です。
第二に、持分の割合がごく小さく、売買の対価が登記の費用を下回る場面です。何代も相続の登記がされていない不動産では、持分が数百分の一といった割合になっていることがあります。
第三に、他の共有者との間に紛争がなく、相続税評価額が基礎控除の範囲に収まる場面です。贈与税の基礎控除は年110万円ですので、持分の評価額がこれを下回るのであれば、税の負担は生じません(相続税法第21条の5、租税特別措置法第70条の2の4第1項)。
いま確認していただきたいこと
1 登記事項証明書を取得し、ご自身の持分の割合と、他の共有者の氏名を確認してください。
2 固定資産税の納税通知書と固定資産評価証明書を取得し、不動産の評価額を確認してください。他の共有者に生ずる贈与税を試算する基礎になります。
3 建物の有無と、その状態を確認してください。建物が存する土地は、相続土地国庫帰属の制度の対象となりません。
4 他の共有者が持分の取得を受け入れる意向があるかどうかを確認してください。登記に協力が得られない場合には、別の手続が必要になります。
よくあるご質問
放棄すれば、固定資産税の請求は止まりますか。
登記の名義が変わらない限り、納税通知書は届き続けます。持分の放棄を原因とする持分の移転の登記は、放棄した者と持分を取得する共有者が共同して申請します(不動産登記法第60条)。他の共有者の協力が得られない場合には、登記の手続を求める訴えを検討いたします。
他の共有者に無断で放棄することはできますか。
放棄は相手方のない単独行為と解されておりますので、法律上は他の共有者の承諾を要しません。もっとも、他の共有者には贈与税が課され、登記にも協力が必要ですので、無断で行うことは実際上、意味がありません。
共有者が全員で放棄することはできますか。
共有者の全員が放棄しても、帰属先となる他の共有者が存在しませんので、民法第255条の効果は生じません。土地を手放すのであれば、相続土地国庫帰属の制度の要件を満たすかどうかを検討いたします。
放棄と、相続の放棄とでは、どちらが有利ですか。
比較する場面が異なります。相続の放棄は、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述する必要があり(民法第915条第1項、第938条)、他の遺産も一切承継できません。既に相続してしまった後は、相続の放棄を選ぶことはできません。
放棄した後で、やはり撤回したいと思ったらどうなりますか。
意思表示によって効力が生じておりますので、一方的に撤回することはできません。他の共有者との間で、改めて持分を移転する合意をする必要があり、その際には別途の課税関係が生じます。
おわりに
共有持分の放棄は、手続としては簡明に見えますが、他の共有者に税の負担を移す行為であり、登記にはその協力を要します。負担から離脱する方法は複数ありますので、ご自身の目的に照らして比較したうえで選択してください。登記事項証明書と固定資産評価証明書があれば、その日のうちに比較の表をお示しできます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
共有持分の放棄に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)
出典及び参照した法令
民法第253条第1項、第255条、第256条第1項、第258条第1項、第717条第1項、第915条第1項、第938条、第939条、第940条第1項
不動産登記法第60条
地方税法第10条の2第1項、第343条第1項、第359条
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)
相続税法第21条の5
租税特別措置法第70条の2の4第1項
相続税法基本通達9-12(共有持分の放棄)
具体的なご相談をお考えの皆様へ
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