裁判所の決定により所在の不明な共有者の持分を取得する手続
共有者の一人と数十年にわたって連絡が取れず、その持分だけが宙に浮いた状態になっております。土地を活用したいのですが、名義の一部が動かせないため何も進めることができません。あるいは、共有者を減らして単独名義に整理したいものの、相手方が見付かりません。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。令和3年の民法及び不動産登記法の改正により、共有者は、裁判所に対し、所在等が不明な共有者の持分を自らに取得させる旨の裁判を請求することができるようになりました(民法第262条の2)。この裁判により、申立てをした共有者は所在等不明共有者の持分を取得いたします。もっとも、この手続には、所在の調査を尽くすこと、供託を行うこと、公告及び異議の届出のための期間が経過することといった前提があり、また遺産分割が未了である持分については期間の制限があります。本記事では、手続の流れと実務上の要点を整理いたします。
第1節 制度の概要と要件
1 どのような制度か
裁判所は、共有者の請求により、その共有者に所在等不明共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができます(民法第262条の2第1項)。
この制度の要点は、所在等不明共有者の意思を確認することなく、その持分を他の共有者に移転させる点にあります。そのため、所在等不明共有者の利益を保護するための仕組みとして、公告及び異議の届出のための期間、供託、時価相当額の支払請求権という3つの装置が組み合わされています。
表1 制度の骨格
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 請求をすることができる者 | 共有者です |
| 対象 | 不動産の共有持分です |
| 要件 | 共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないことです |
| 手続の性質 | 非訟事件として、裁判所が判断いたします |
| 保護の仕組み1 | 公告及び異議の届出のための期間が設けられます |
| 保護の仕組み2 | 裁判所が定める額の金銭を供託することを要します |
| 保護の仕組み3 | 所在等不明共有者は、持分の時価に相当する額の支払を請求することができます |
| 効果 | 裁判の効力の発生により、申立てをした共有者が持分を取得いたします |
2 要件
表2 主な要件
| 要件 | 内容 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 対象が不動産の共有持分であること | 動産及び債権は対象となりません | 登記事項証明書 |
| 申立人が共有者であること | 持分を有していることを要します | 登記事項証明書 |
| 共有者を知ることができないこと又はその所在を知ることができないこと | 氏名が判明しない場合と、氏名は判明しているが所在が判明しない場合とを含みます | 調査の結果を示す資料 |
| 遺産共有持分についての期間 | 相続財産に属する持分であって遺産分割をすべきときは、相続の開始の時から10年を経過していることを要します | 被相続人の死亡の記載のある戸籍 |
| 共有物分割の訴え等が係属していないこと | 係属しており、かつ他の共有者が異議を述べた場合には、裁判をすることができません | 訴訟の記録 |
とりわけ実務上の関門となるのは、所在を知ることができないことの疎明です。単に手紙を出して返事がないというだけでは足りません。
3 遺産共有持分についての10年の制限
所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合であって、共同相続人の間で遺産の分割をすべきときは、相続の開始の時から10年を経過していないときは、この制度を用いることができません(民法第262条の2第3項)。
これは、遺産分割においては特別受益及び寄与分を主張する機会が保障されるべきであり、その機会を奪うことにならないよう配慮したものと解されています。相続の開始の時から10年を経過した後は、特別受益及び寄与分の主張が原則として制限されますので(民法第904条の3)、この制限との整合が図られています。
したがって、亡くなった方の名義のままの不動産について相続人の一人が所在不明であるという事案では、まず相続の開始の時期を確認する必要があります。10年を経過していない場合には、不在者財産管理人の選任(民法第25条第1項)等の手続によることになります。
4 持分の譲渡権限の付与との関係
不動産の全部を第三者に売却することが目的である場合には、所在等不明共有者の持分の譲渡権限の付与の制度(民法第262条の3)を用いる方が適していることがあります。持分の取得の制度は、自らが持分を取得するために供託金を自ら準備する必要がありますが、譲渡権限の付与の制度では、売却の代金から支払を賄う設計が可能となる場合があるからです。
両制度の使い分けについては、FD06において整理しております。
第2節 手続の流れ
1 全体の流れ
表3 申立てから登記までの流れ
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1 共有者の確定 | 登記事項証明書及び戸籍により、共有者及びその持分を確定させます |
| 2 所在の調査 | 住民票、戸籍の附票、現地の確認、関係者への照会により所在を調査いたします |
| 3 不動産の評価 | 持分の時価を算定するための資料を準備いたします |
| 4 申立て | 不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申立てをいたします |
| 5 裁判所による調査及び公告 | 裁判所が公告を行い、異議の届出のための期間が設けられます |
| 6 異議の届出のための期間の経過 | 期間内に所在等不明共有者等から届出がないことを要します |
| 7 供託を命ずる決定 | 裁判所が供託すべき金額を定めます |
| 8 供託 | 申立人が供託所に金銭を供託いたします |
| 9 裁判 | 持分を取得させる旨の裁判がなされます |
| 10 登記 | 裁判に基づいて持分の移転の登記を申請いたします |
2 所在の調査
所在を知ることができないことは、申立人が疎明すべき事柄です。実務上は、次の調査を行い、その結果を報告書として整理いたします。
表4 所在の調査の内容
| 調査 | 内容 | 取得する資料 |
|---|---|---|
| 登記の確認 | 登記上の氏名及び住所を確認いたします | 登記事項証明書 |
| 住民票 | 登記上の住所を基に、住民票及び除票を取得いたします | 住民票の写し、住民票の除票の写し |
| 戸籍 | 戸籍及び戸籍の附票により、住所の変遷及び生死を確認いたします | 戸籍謄本、戸籍の附票の写し |
| 現地の確認 | 判明した住所へ赴き、建物の有無、表札、居住の状況を確認いたします | 写真、報告書 |
| 郵便 | 判明した住所へ郵便を送付いたします | 送付の記録、返戻された封筒 |
| 関係者への照会 | 判明している親族、近隣に照会いたします | 回答の記録 |
| 死亡が判明した場合 | 相続人を戸籍により調査いたします | 戸籍謄本 |
登記上の住所が古い表記のままである場合、住居表示の実施により現在の表記と一致しないことがあります。この場合には、市区町村における住居表示の実施の証明を取得することで、同一性を示すことができる場合があります。
なお、調査の結果、共有者が既に死亡していることが判明した場合には、その相続人が共有者となります。相続人が判明すればその者を相手方とし、相続人も所在不明であればその者について同様の調査を行います。
3 不動産の評価
供託すべき金額は、所在等不明共有者の持分の時価等を基礎として裁判所が定めます。申立てに際しては、評価の基礎となる資料を提出いたします。
表5 評価のために用いる資料
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 固定資産評価証明書 | 固定資産税の課税のための評価額です |
| 路線価図及び評価倍率表 | 相続税の課税のための評価の基礎となるものです |
| 公示価格及び都道府県地価調査の価格 | 標準的な取引の価格の指標です |
| 不動産業者による査定書 | 取引の実勢を反映した価格の見込みです |
| 不動産鑑定士による鑑定評価書 | 専門家による評価です。費用を要します |
| 近隣の取引事例 | 実際の取引の価格の資料です |
評価額が高くなれば供託すべき金額も大きくなりますので、資金の準備との関係で重要な事項です。もっとも、評価を不当に低く見積もることは、裁判所の判断において是正されますし、後に所在等不明共有者から時価相当額の支払を請求される可能性を残します。
4 公告及び異議の届出
裁判所は、申立てを受けて、所在等不明共有者に対して異議の届出をすべき旨等を公告いたします。異議の届出のための期間が設けられ、この期間が経過することが裁判の前提となります。
期間内に所在等不明共有者から異議の届出があった場合には、その者は所在不明ではないことになりますので、裁判をすることができません。この場合には、通常の協議又は共有物分割の手続に移行いたします。
5 供託
裁判所は、供託すべき金額を定めます。申立人は、その金額を供託所に供託し、供託書を裁判所に提出いたします。
供託は、所在等不明共有者が後に現れた場合における時価相当額の支払を担保するものです。所在等不明共有者は、供託金の還付を請求することができます。
表6 供託に関する留意点
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 金額 | 裁判所が定めます。持分の時価等を基礎といたします |
| 供託の時期 | 裁判がなされる前に行います |
| 資金の準備 | 申立人が自ら準備する必要があります |
| 還付 | 所在等不明共有者が現れた場合には、供託金の還付を請求することができます |
| 不足がある場合 | 供託した額が時価に不足する場合には、差額の支払を請求される可能性があります |
6 裁判の効果と登記
裁判の効力が生じることにより、申立人は所在等不明共有者の持分を取得いたします。その後、裁判に基づいて持分の移転の登記を申請いたします。
なお、他の共有者が複数おり、そのうち2人以上が請求をした場合には、請求をした各共有者に、その持分の割合に応じて所在等不明共有者の持分を按分して取得させることとされています。共有者が3人以上いる事案では、他の共有者にも申立ての機会があることを前提として進める必要があります。
第3節 案件において確認すべき事項
1 資料
表7 ご相談の際に確認する資料
| 区分 | 資料 |
|---|---|
| 権利関係 | 登記事項証明書、公図、地積測量図、建物図面 |
| 相続関係 | 被相続人及び相続人の戸籍、除籍、改製原戸籍 |
| 所在の調査 | 住民票、住民票の除票、戸籍の附票 |
| 所在の調査 | これまでに送付した郵便及び返戻された封筒 |
| 評価 | 固定資産評価証明書、納税通知書、査定書 |
| 経緯 | 共有者との従前のやり取りの記録 |
| 利用の状況 | 現地の写真、賃貸借契約書 |
2 費用
表8 手続に要する費用の項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 供託金 | 裁判所が定める額です。持分の評価により大きく変わります |
| 裁判所に納める費用 | 申立ての手数料、郵便切手、公告の費用等です |
| 評価の費用 | 査定書は無償で取得できることもありますが、鑑定評価には費用を要します |
| 戸籍等の取得の費用 | 通数に応じて生じます |
| 登記の費用 | 登録免許税及び司法書士の報酬です |
| 弁護士の費用 | 事案の内容により異なります |
供託金が最も大きな負担となることが通常です。資金の準備の見通しが立たない場合には、持分の譲渡権限の付与の制度を用いて売却の代金から充当する設計を検討いたします。
3 期間
公告及び異議の届出のための期間が設けられていますので、申立てから裁判に至るまでには相応の期間を要します。これに加えて、申立ての前段階として所在の調査及び評価の準備に要する期間があります。
期限が定まっている取引に組み込む場合には、余裕を持った日程を組む必要があります。
表9 日程を組む際に確認する事項
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 相続の開始からの期間 | 遺産共有持分については10年の制限があります |
| 買主の有無 | 買主が特定している場合には譲渡権限の付与を検討いたします |
| 資金の準備 | 供託金の調達の方法と時期を確認いたします |
| 他の共有者の意向 | 他の共有者も申立てをする可能性を確認いたします |
| 固定資産税等の負担 | 手続の期間中も負担が継続いたします |
第4節 弁護士に相談する意味
この手続の難しさは、法律の条文を読むだけでは進められない部分にあります。
第一に、所在の調査です。どこまで調査すれば「所在を知ることができない」と認められるかは、条文には書かれていません。戸籍及び附票の追跡、住居表示の変更への対応、現地の確認、関係者への照会といった作業を体系的に行い、その結果を裁判所に提出できる形に整える必要があります。
第二に、手続の選択です。持分の取得によるか、譲渡権限の付与によるか、遺産共有持分であるために不在者財産管理人によらざるを得ないかという判断は、共有者の構成、相続の開始時期、目的、資金の状況によって変わります。この判断を誤れば、手続をやり直すことになります。
第三に、評価と供託金の設計です。評価の資料をどのように整えるかは、供託すべき金額に直結いたします。また、供託金の調達の方法は、事案によって工夫の余地があります。
第四に、他の手続との組合せです。共有者が複数の所在不明者を含む場合、相続人が多数に及ぶ場合、共有物分割の訴えを併せて検討すべき場合など、複数の手続を組み合わせる必要が生じます。
弁護士が行う業務は、共有者の確定、所在の調査の実施と報告書の作成、手続の選定、評価の資料の準備、裁判所への申立て、供託、登記に至るまでの一連の管理です。
具体的な進め方は、共有者の構成、不動産の内容、資金の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 共有者が生きているか死んでいるかも分かりません。使えますか。
共有者を知ることができない場合も対象に含まれます。もっとも、戸籍による調査により死亡が判明した場合には、その相続人が共有者となりますので、相続人についての調査が必要となります。調査を尽くすことが前提です。
質問2 供託した金銭は戻ってきますか。
供託金は、所在等不明共有者が現れた場合に、その者への支払に充てられるものです。所在等不明共有者が現れない場合の取扱いを含め、供託金の扱いは供託に関する制度によりますので、ご相談の際にご説明いたします。
質問3 持分を取得した後、その不動産を売却できますか。
持分を取得した結果、単独所有となった場合には、自らの判断で売却することができます。他に共有者が残る場合には、その共有者との協議が必要です。
質問4 相続開始から10年が経っていない場合はどうすればよいですか。
遺産分割をすべき持分については、この制度を用いることができません。不在者財産管理人の選任を申し立て、選任された管理人との間で遺産分割協議を行う方法が中心となります。詳細はFD53及びFD55をご覧ください。
質問5 共有者が10人以上おり、そのうち3人が所在不明です。
所在不明の共有者ごとに手続を検討することになります。人数が多い場合には、手続の費用及び供託金の総額が大きくなりますので、共有物分割による解決、持分の売却による離脱といった他の方法との比較が必要です。
質問6 建物と土地の両方が共有です。両方について申し立てる必要がありますか。
対象となる不動産ごとに検討いたします。土地と建物とで共有者及び持分が異なることもありますので、登記事項証明書により双方を確認いたします。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、所在の分からない共有者がいる不動産に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、登記事項証明書、公図、固定資産税の納税通知書、被相続人及び相続人の戸籍、所在不明の共有者について判明している情報、これまでに送付した郵便及びその返戻の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第25条第1項(不在者の財産の管理)、第28条(管理人の権限外の行為)、第30条(失踪の宣告)、第251条第2項(所在等不明共有者以外の共有者による変更の裁判)、第258条(裁判による共有物の分割)、第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得。第1項の裁判、第2項の共有物分割の訴え等が係属する場合の制限、第3項の遺産共有持分についての10年の制限、第4項の時価相当額の支払請求)、第262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡権限の付与)、第264条の2(所有者不明土地管理命令)、第264条の8(所有者不明建物管理命令)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)
制度名により記述した部分 申立ての手続、公告及び異議の届出のための期間、供託の方法(非訟事件手続法及び供託に関する制度によります)、令和3年の民法及び不動産登記法の改正により整備された各制度の施行の時期及び経過措置
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共有者と連絡が取れずお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
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