相続人の一部と連絡が取れない場合の遺産分割の進め方
父が亡くなり、相続人は私と弟と、長く音信のない兄の3人でございます。兄は20年以上前に家を出たきりで、現在どこにいるのかが分かりません。遺産には実家の土地及び建物がございますが、遺産分割の協議ができないため、相続登記も売却も進みません。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。遺産分割の協議は、共同相続人の全員が参加しなければ効力を生じません。一部の相続人を除いてされた協議は無効となります。したがって、連絡が取れない相続人がいる場合には、まず戸籍の附票等により住所を調査し、書面により連絡を試みることから始めます。それでも所在が判明しない場合には、不在者の財産の管理人の選任(民法第25条第1項)を求め、管理人が家庭裁判所の許可を得て協議に加わるという方法が一般的です。生死が7年間明らかでない場合には、失踪の宣告(民法第30条第1項)を求める方法もあります。相続の開始から10年が経過すると特別受益及び寄与分の主張が原則として制限されますので、着手の時期も重要です。本記事では、段階ごとの手順を整理いたします。
第1節 全員の参加が必要であるという原則
1 一部を除いた協議は無効です
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属します(民法第898条)。共同相続人は、いつでもその協議で遺産の分割をすることができますが(民法第907条第1項)、この協議には共同相続人の全員が参加しなければなりません。一部の相続人を除いてされた協議は無効となります。
「連絡が取れないのだから仕方がない」として進めた協議は、後にその相続人が現れた場合に効力を否定されます。相続登記の申請の場面でも、全員の関与が確認されますので、そのままでは登記が完了いたしません。
2 連絡が取れない理由を切り分ける
実務上、まず「連絡が取れない」という状況の内実を切り分けることが重要です。
表1 連絡が取れない理由と対応
| 状況 | 内実 | 対応の方向 |
|---|---|---|
| 住所が分からない | 調査をしていないだけである場合が多くあります | 戸籍の附票等により住所を特定いたします |
| 住所は分かるが手紙に返事がない | 受け取っているが応答しないだけの場合があります | 調停の申立てにより手続に引き出します |
| 住所地に居住していない | 転居先が不明である場合です | 更に調査し、判明しなければ不在者の財産の管理人を検討いたします |
| 海外に居住している | 所在は判明している場合が多くあります | 在外公館の証明等により書類を取り付けます |
| 生死が不明である | 長期にわたり消息がない場合です | 不在者の財産の管理人、又は失踪の宣告を検討いたします |
| 既に死亡している | 本人が死亡し、その相続人が当事者となります | 数次相続として相続人を確定いたします |
3 まず相続人を確定させる
いずれの場合であっても、出発点は相続人の確定です。被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を取得し、相続人の範囲を確定いたします。この過程で、把握していなかった相続人が判明することもあります。
第2節 所在の調査
1 戸籍の附票による調査
戸籍の附票には、その戸籍に在籍している間の住所の異動が記録されております。相続人の戸籍を取得し、その附票を請求することにより、現在の住民登録上の住所を把握することができます。相続人であることを理由とする請求として行うことになります。
表2 所在の調査の方法
| 方法 | 得られる情報 | 備考 |
|---|---|---|
| 戸籍の取得 | 相続人の範囲、婚姻及び死亡の事実 | 被相続人の出生から死亡までを連続して取得いたします |
| 戸籍の附票の取得 | 住民登録上の住所の履歴 | 最も基本的な調査です |
| 書面の送付 | 実際に居住しているかの手掛かり | 配達の記録が残る方法によります |
| 現地の確認 | 居住の実態 | 表札、郵便物の状況等 |
| 不動産の登記の確認 | 他に所有する不動産があるか | 手掛かりとなる場合があります |
| 関係者からの聴取 | 従前の勤務先、親族、知人からの情報 | 慎重な配慮を要します |
2 住所が判明した場合
住所が判明した場合には、まず書面により、相続が発生したこと、遺産の内容、協議の申入れを通知いたします。返答がない場合であっても、所在が判明している以上、不在者の財産の管理人の制度は用いることができません。この場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立て、手続に引き出すことになります。
3 調停に出頭しない場合
調停に出頭しない相続人がいる場合、調停は成立いたしません。もっとも、調停が成立しない場合には審判に移行し、家庭裁判所が遺産の分割を定めることになります(民法第907条第2項)。したがって、相手方が応答しないことによって手続が永久に止まるものではありません。
第3節 不在者の財産の管理人
1 制度の概要
従来の住所又は居所を去った者(不在者)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができます(民法第25条第1項)。この処分として、不在者の財産の管理人が選任されます。
他の相続人は、遺産分割を行う必要がある者として、利害関係人に当たります。
2 権限外行為の許可
不在者の財産の管理人は、保存行為並びに代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内における利用又は改良を目的とする行為をする権限を有します。これを超える行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法第28条)。
遺産分割の協議に加わることは、この権限を超える行為に当たると解されておりますので、権限外行為の許可を得る必要があります。したがって、管理人の選任と権限外行為の許可という2つの手続を経ることになります。
表3 不在者の財産の管理人による遺産分割の手順
| 段階 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 相続人の確定 | 戸籍を収集し、相続人の範囲を確定いたします | 1か月から数か月 |
| 2 所在の調査 | 戸籍の附票、書面の送付、現地の確認を行います | 1か月から数か月 |
| 3 管理人の選任の申立て | 不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます | — |
| 4 審理及び選任 | 調査を経て管理人が選任されます | 1か月から数か月 |
| 5 協議案の作成 | 不在者の法定相続分を確保する内容の案を作成いたします | 数週間 |
| 6 権限外行為の許可の申立て | 協議案を示して許可を求めます | 1か月から数か月 |
| 7 遺産分割の協議の成立 | 管理人が協議に加わり、協議が成立いたします | — |
| 8 登記及び換価 | 相続登記を申請し、必要に応じて換価いたします | 1か月から数か月 |
3 不在者の取得分
権限外行為の許可においては、不在者の利益が害されないかが審査されます。不在者の取得分を法定相続分より少なくする内容については、合理的な理由の説明が求められます。実務上は、法定相続分に相当する現金を不在者に確保する内容とすることが多くあります。この場合、不動産を売却して現金化することが前提となる場合があります。
4 予納金
管理人の選任の申立てには、予納金の納付を求められることが一般的です。管理人の報酬及び管理の費用に充てられるものであり、その額は事案により異なります。申立てを行う家庭裁判所にご確認ください。
5 管理の継続
不在者の財産の管理は、不在者が現れる、失踪の宣告がされる、又は不在者が死亡することが確認されるまで継続いたします。遺産分割が終わればそれで終了するものではありません。この点も、あらかじめご理解いただく必要があります。
第4節 失踪の宣告
1 制度の概要
不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができます(民法第30条第1項)。また、戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ危難が去った後1年間明らかでないときも、同様とされております(民法第30条第2項)。
失踪の宣告を受けた者は、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます(民法第31条)。
2 失踪の宣告の効果
死亡したものとみなされる結果、その者について相続が開始いたします。したがって、失踪者の相続人が当事者となって遺産分割に参加することになります。また、死亡とみなされる時期が被相続人の死亡より前である場合には、そもそも相続人とならないという帰結になることもあります。
表4 不在者の財産の管理人と失踪の宣告の比較
| 項目 | 不在者の財産の管理人 | 失踪の宣告 |
|---|---|---|
| 要件 | 従来の住所又は居所を去り、財産の管理人を置かないこと | 生死が7年間明らかでないこと(危難失踪は1年) |
| 効果 | 管理人が財産を管理いたします | 死亡したものとみなされます |
| 本人の地位 | 相続人のまま存続いたします | 相続が開始し、その相続人が当事者となります |
| 期間の目安 | 数か月 | 公示催告の期間を含め1年程度 |
| 本人が現れた場合 | 管理が終了いたします | 失踪の宣告の取消しの手続によります |
| 適する場面 | 生死は不明でないが所在が分からない場合 | 長期にわたり生死が不明である場合 |
3 失踪の宣告の取消し
失踪者が生存すること、又は死亡とみなされた時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければなりません(民法第32条第1項)。この場合には、既に行われた遺産分割の効力について複雑な問題が生じます。
第5節 案件において確認すべき事項
1 資料の確認
表5 ご相談の際に確認する資料
| 区分 | 資料 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 相続 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍 | 相続人の範囲 |
| 相続 | 相続人の戸籍及び戸籍の附票 | 住民登録上の住所 |
| 相続 | 遺言書 | 遺言があれば手続が異なります |
| 遺産 | 不動産の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書 | 遺産の内容と評価 |
| 遺産 | 預貯金の残高証明書、有価証券に関する資料 | 換価し得る財産の有無 |
| 経緯 | 連絡を試みた記録、返送された郵便物 | 所在の不明の程度 |
| 経緯 | 最後に連絡が取れた時期に関する資料 | 失踪の宣告の要件との関係 |
| 関係者 | 親族からの聴取の記録 | 手掛かりの有無 |
2 確認する事項
表6 方針の選択において確認する事項
| 事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 住所の判明の有無 | 戸籍の附票により特定できるか |
| 生死の不明の期間 | 最後に消息があった時期から7年を経過しているか |
| 遺産の内容 | 不動産が中心か、換価し得る財産があるか |
| 不在者の取得分 | 法定相続分に相当する額を確保できるか |
| 予納金 | 負担し得るか、誰が負担するか |
| 相続開始からの期間 | 10年の経過が迫っていないか |
| 相続登記の義務 | 3年の期間との関係 |
3 期限に関する確認事項
表7 注意を要する期間
| 事項 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続開始から10年の経過 | 経過後は特別受益及び寄与分の主張が原則として制限されます | 民法第904条の3 |
| 相続登記の申請義務 | 所有権を取得したことを知った日から3年 | 不動産登記法第76条の2 |
| 相続人である旨の申出 | 登記の申請義務を履行したものとみなされる制度があります | 不動産登記法第76条の3 |
| 相続の放棄 | 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月 | 民法第915条第1項 |
| 失踪の宣告の要件 | 生死が7年間明らかでないこと | 民法第30条第1項 |
第6節 弁護士に相談する意味
連絡の取れない相続人がいる事案は、放置される期間が長くなりやすく、その間に問題が複雑化するという特徴があります。
第一に、手続の選択が結果を左右する点です。所在が判明していれば調停により手続に引き出すことができ、所在が不明であれば不在者の財産の管理人、生死が7年間不明であれば失踪の宣告というように、状況に応じた手続が異なります。誤った手続を選ぶと、時間と費用を費やしたうえでやり直しとなります。
第二に、期間の制約がある点です。相続の開始から10年が経過すると、遺産分割において特別受益及び寄与分を主張することが原則として制限されます。また、相続登記の申請義務にも期間が定められております。手続に数か月から1年を要することを踏まえると、着手の時期そのものが結果に影響いたします。
第三に、放置により当事者が増える点です。時が経つほど相続人が死亡し、その相続人が新たな当事者となります。当事者が10人を超える事案も珍しくありません。早期の着手が、最も確実な負担の軽減となります。
弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、戸籍を収集して相続人を確定させることです。第二に、戸籍の附票その他により所在を調査することです。第三に、状況に応じて、調停の申立て、不在者の財産の管理人の選任、失踪の宣告のいずれによるかを選択することです。第四に、権限外行為の許可のための協議案を作成することです。第五に、遺産分割の協議、調停及び審判を代理することです。なお、登記の申請は司法書士の業務でございます。
なお、具体的な進め方は、相続人の構成、所在の不明の程度、遺産の内容等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 連絡が取れない兄を除いて協議をしてもよいですか。
いいえ。遺産分割の協議には共同相続人の全員が参加しなければならず、一部を除いてされた協議は無効となります。相続登記の申請の場面でも全員の関与が確認されますので、そのままでは登記が完了いたしません。
質問2 住所は分かるのですが手紙に返事がありません。
所在が判明している以上、不在者の財産の管理人の制度は用いることができません。家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立て、手続に引き出すことになります。調停が成立しない場合には審判に移行いたします。
質問3 不在者の財産の管理人にはどのくらいの期間がかかりますか。
相続人の確定及び所在の調査に数か月、管理人の選任に数か月、権限外行為の許可に更に数か月を要することが一般的です。事案により大きく異なります。
質問4 不在者の取り分を減らして分けることはできますか。
権限外行為の許可においては不在者の利益が害されないかが審査されます。法定相続分より少なくする内容については、合理的な理由の説明が求められます。実務上は、法定相続分に相当する額を確保する内容とすることが多くあります。
質問5 20年以上音信不通ですが、失踪の宣告を求めるべきですか。
生死が7年間明らかでないという要件を満たす場合には、失踪の宣告を求める方法があります。もっとも、失踪の宣告には公示催告の期間を含めて1年程度を要し、また本人が現れた場合の取消しの問題もあります。事案に応じて、不在者の財産の管理人による方法と比較して選択いたします。
質問6 放置しているとどうなりますか。
相続の開始から10年が経過すると特別受益及び寄与分の主張が原則として制限されます。また、相続人が死亡するたびに当事者が増え、手続が複雑化いたします。相続登記の申請義務にも期間が定められております。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、相続人の所在が分からない場合の遺産分割に関するご相談をお受けしております。
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弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第25条第1項(不在者の財産の管理)、第28条(管理人の権限外の行為の許可)、第30条(失踪の宣告)、第31条(失踪の宣告の効力)、第32条第1項(失踪の宣告の取消し)、第898条(相続財産の共有)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)
不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請義務)、第76条の3(相続人である旨の申出)
その他 家事事件手続法に基づく遺産分割の調停及び審判の手続。
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