所有者が分からない土地及び建物の管理人を選任する制度
相続した土地の隣に、長年放置された空き地と老朽化した建物がございます。登記の名義は何十年も前の人のままで、相続人が誰であるかも分かりません。境界の確認ができないため、こちらの土地の売却も進みません。行政に相談しても「所有者が分からないので対応できない」と言われるばかりでございます。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地について、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、その土地を対象として所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることができます(民法第264条の2第1項)。建物についても同様の制度が設けられております。令和3年の民法の改正により設けられ、令和5年4月1日から施行されております。従来の不在者の財産の管理人及び相続財産の清算人が「人」を単位とする制度であるのに対し、この制度は特定の「土地又は建物」を単位とする点に特徴がございます。本記事では、制度の内容と、他の制度との使い分けを整理いたします。
第1節 制度の概要
1 所有者不明土地管理命令
所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることができるものとされております(民法第264条の2第1項)。
2 所有者不明建物管理命令
建物についても、同様の制度が設けられております。土地と建物の双方について所有者が不明である場合には、それぞれについて管理命令を求めることになります。
表1 制度の基本的な枠組み
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 特定の土地又は建物(共有の場合は持分) |
| 要件 | 所有者を知ることができず、又は所在を知ることができないこと。管理の必要があること |
| 請求できる者 | 利害関係人 |
| 管轄 | 対象となる土地又は建物の所在地を管轄する地方裁判所 |
| 選任される者 | 所有者不明土地管理人又は所有者不明建物管理人 |
| 費用 | 予納金の納付を求められることが一般的です |
| 施行の時期 | 令和5年4月1日 |
3 管理人の権限
所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、対象となる土地及びその管理、処分その他の事由により管理人が得た財産の管理及び処分をする権利は、管理人に専属いたします(民法第264条の3第1項)。
管理人は、保存行為並びに対象となる土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為をする権限を有します。これを超える行為をするには、裁判所の許可を得なければなりません(民法第264条の3第2項)。
表2 管理人の行為と許可の要否
| 行為 | 許可の要否 |
|---|---|
| 保存行為(草木の伐採、危険な部分の除去等) | 許可を要しません |
| 性質を変えない範囲の利用又は改良 | 許可を要しません |
| 土地又は建物の売却 | 裁判所の許可を要します |
| 境界の確認に関する合意 | 内容により許可を要する場合があります |
| 長期の賃貸借の設定 | 裁判所の許可を要します |
| 建物の取壊し | 裁判所の許可を要します |
4 「利害関係人」に当たるか
請求をすることができるのは利害関係人でございます。隣接する土地の所有者として境界の確認を必要とする者、当該土地の取得を希望する者、当該土地から生じる被害を受けている者等が該当し得ると解されております。単に関心があるというだけでは足りません。請求に当たっては、利害関係を基礎付ける事実を具体的に示す必要があります。
第2節 他の制度との使い分け
1 制度の比較
表3 所有者が分からない場合の各制度の比較
| 制度 | 単位 | 対象となる状況 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 所有者不明土地管理命令 | 特定の土地 | 所有者又はその所在が不明である土地 | 民法第264条の2 |
| 所有者不明建物管理命令 | 特定の建物 | 所有者又はその所在が不明である建物 | 民法の同章の定め |
| 不在者の財産の管理人 | 不在者の財産の全体 | 従来の住所又は居所を去った者がいる場合 | 民法第25条第1項 |
| 相続財産の清算人 | 相続財産の全体 | 相続人のあることが明らかでない場合 | 民法第952条 |
| 失踪の宣告 | 人の地位 | 生死が7年間明らかでない場合 | 民法第30条 |
| 所在等不明共有者の持分の取得 | 共有持分 | 共有者を知ることができず、又は所在が不明である場合 | 民法第262条の2 |
| 管理不全土地管理命令 | 特定の土地 | 所有者は判明しているが管理が不適当である場合 | 令和3年改正により新設 |
2 従来の制度との違い
不在者の財産の管理人及び相続財産の清算人は、その者の財産の全体を管理の対象とする制度でございます。したがって、問題となっている土地以外の財産についても調査及び管理を要し、費用と労力が大きくなります。
これに対し、所有者不明土地管理命令は、特定の土地のみを対象といたします。必要な範囲に限定されるため、予納金の額を含めて負担が軽くなることが期待されます。
3 管理不全土地管理命令との違い
所有者は判明しているものの、その管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合には、管理不全土地管理命令の制度がございます。所有者が判明しているかどうかが、両者を分ける基準となります。
4 共有持分についての制度との違い
共有者の一部の所在が不明である場合には、所在等不明共有者の持分を取得する裁判(民法第262条の2)、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与する裁判(民法第262条の3)といった制度がございます。これらは、他の共有者が持分を取得し、又は第三者への譲渡を実現するための制度であり、管理を目的とする所有者不明土地管理命令とは目的が異なります。
第3節 実務上よく起きる問題
1 調査を尽くしていない
所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないという要件を満たすには、必要な調査を尽くしていることが前提となります。登記事項証明書の確認、登記名義人の戸籍及びその附票の調査、現地の確認といった調査を行わないまま申し立てても、認められません。
表4 所有者の調査の方法
| 方法 | 得られる情報 |
|---|---|
| 登記事項証明書 | 登記名義人の氏名及び住所 |
| 登記名義人の戸籍 | 死亡の有無、相続人の範囲 |
| 戸籍の附票 | 住民登録上の住所の履歴 |
| 住民票の除票 | 最後の住所 |
| 現地の確認 | 居住又は利用の実態、表札、郵便物 |
| 固定資産課税台帳 | 納税義務者に関する情報(開示の可否は市町村の運用によります) |
| 近隣からの聴取 | 過去の経緯に関する手掛かり |
2 予納金の負担
申立てに際しては、管理人の報酬及び管理に要する費用に充てるための予納金の納付を求められることが一般的です。その額は事案により異なりますので、申立てを行う裁判所にご確認ください。申立人が負担することになりますので、得られる利益との比較が必要となります。
3 管理人が売却に応じるとは限らない
管理人は、所有者のために職務を行う立場にございます。したがって、申立人が希望する条件での売却に必ず応じるものではありません。売却には裁判所の許可も必要となります。価格の相当性を示す資料を整えることが重要となります。
4 相続人が判明した場合
調査の過程で相続人が判明した場合には、この制度の要件を満たさなくなります。その場合には、当該相続人と直接交渉することになります。相続人が多数に及ぶ場合には、それ自体が新たな困難となります。
5 建物が存在する場合
土地の上に所有者不明の建物が存在する場合には、土地と建物のそれぞれについて管理命令を求める必要が生じ得ます。土地と建物の所有者が異なる場合、いずれについても所有者が不明である場合等、事案の構造を整理することが必要です。
6 管理の終了
管理命令は、所有者が判明した場合、管理の必要がなくなった場合等に取り消されます。管理人が管理する財産は、所有者に引き渡され、又は所定の手続により処理されます。
第4節 検討する選択肢
1 選択肢の全体像
表5 隣接地等の所有者が分からない場合に採り得る手段
| 手段 | 内容 | 期間の目安 | 適する場面 |
|---|---|---|---|
| 所有者の調査 | 登記、戸籍、附票、現地により所有者を特定いたします | 1か月から数か月 | 最初に行うべき対応です |
| 相続人との交渉 | 判明した相続人と直接協議いたします | 数か月 | 相続人が判明した場合 |
| 所有者不明土地管理命令 | 管理人の選任を求め、境界の確認又は取得を進めます | 数か月 | 所有者が判明しない場合 |
| 所有者不明建物管理命令 | 建物についての管理人の選任を求めます | 数か月 | 建物についても所有者が不明である場合 |
| 管理不全土地管理命令 | 所有者は判明しているが管理が不適当である場合の制度です | 数か月 | 被害が生じている場合 |
| 不在者の財産の管理人 | 特定の者の財産全体を管理いたします | 数か月 | 不在者の財産全体を扱う必要がある場合 |
| 相続財産の清算人 | 相続人のあることが明らかでない場合の制度です | 1年程度 | 相続人が存在しない場合 |
| 行政への相談 | 所有者不明土地に関する施策の活用を検討いたします | 随時 | 公共の利用が見込まれる場合 |
2 目的から手段を選ぶ
いずれの制度を用いるかは、何を実現したいかによって決まります。境界を確認したいのか、当該土地を取得したいのか、被害の発生を止めたいのかによって、適する手段が異なります。目的を明確にすることが、手続の選択の出発点となります。
3 費用との比較
いずれの手続にも、予納金その他の費用を要します。得ようとする利益がこれに見合うかを検討する必要があります。自らの土地の売却が可能となる、被害が止まるといった利益と、費用及び期間とを比較したうえで判断いたします。
第5節 案件において確認すべき事項
1 資料の確認
表6 ご相談の際に確認する資料
| 区分 | 資料 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 対象地 | 登記事項証明書(土地及び建物) | 登記名義人、担保権、登記の時期 |
| 対象地 | 公図、地積測量図 | 位置、形状、自己の土地との関係 |
| 調査 | 登記名義人の戸籍、附票、除票 | 所在の調査の結果 |
| 現況 | 現地の写真 | 利用の実態、建物の状態、危険の有無 |
| 自己の土地 | 登記事項証明書、測量図 | 利害関係を基礎付ける事実 |
| 被害 | 被害の記録、写真、行政への相談の記録 | 必要性を基礎付ける事実 |
| 交渉 | 近隣からの情報、過去の経緯 | 所有者に関する手掛かり |
2 確認する事項
表7 申立ての検討において確認する事項
| 事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 目的 | 境界の確認、取得、被害の防止のいずれか |
| 所有者の判明の有無 | 調査を尽くしても判明しないか |
| 利害関係 | 申立人が利害関係人に当たるか |
| 必要性 | 管理を命ずる必要があるといえるか |
| 対象 | 土地のみか、建物も含むか |
| 共有か | 共有持分のみが対象となるか |
| 予納金 | 負担し得るか、利益と見合うか |
| 他の制度 | より適する制度がないか |
第6節 弁護士に相談する意味
所有者の分からない不動産に関する制度は、令和3年の民法の改正により整備されましたが、複数の制度が並存しており、選択が容易ではありません。
第一に、目的に応じた制度の選択が必要である点です。管理を目的とするのか、持分の取得を目的とするのか、所有者が判明しているかによって、適する制度が異なります。誤った選択をすれば、予納金その他の費用を投じたうえで目的を達成できないという事態が生じます。
第二に、調査を尽くしていることが要件となる点です。登記、戸籍、附票、現地の調査を尽くしたことを、資料により示す必要があります。調査の過程で所有者が判明することも少なくありません。
第三に、費用と利益の比較が必要である点です。予納金の負担は申立人に生じます。得ようとする利益がこれに見合うかを、あらかじめ検討しておく必要があります。
弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、登記及び戸籍により所有者の調査を行うことです。第二に、目的に応じて適する制度を選択することです。第三に、利害関係及び必要性を基礎付ける資料を整え、裁判所への申立てを行うことです。第四に、選任された管理人との交渉を行うことです。第五に、相続人が判明した場合の交渉及び紛争の解決を代理することです。なお、登記の申請は司法書士、測量及び境界の確認は土地家屋調査士の業務でございます。
なお、具体的な進め方は、対象となる不動産の状況、調査の結果、申立人の目的等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 隣の空き地の所有者が分かりません。何ができますか。
まず登記事項証明書、登記名義人の戸籍及びその附票により調査を行います。それでも判明しない場合には、利害関係人として所有者不明土地管理命令の申立てを検討することになります。
質問2 管理人が選任されれば、その土地を買えますか。
管理人が売却をするには裁判所の許可が必要であり、管理人は所有者のために職務を行う立場でございます。したがって、必ず希望する条件で取得できるものではありません。価格の相当性を示す資料を整えることが重要です。
質問3 従来の不在者の財産の管理人とどう違いますか。
不在者の財産の管理人は、その者の財産の全体を対象といたします。これに対し、所有者不明土地管理命令は特定の土地のみを対象としますので、必要な範囲に限定され、負担が軽くなることが期待されます。
質問4 所有者は分かっているが管理していない場合はどうですか。
所有者が判明している場合には、この制度の要件を満たしません。管理が不適当であることによって他人の権利等が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合には、管理不全土地管理命令の制度がございます。
質問5 予納金はいくらですか。
管理人の報酬及び管理に要する費用に充てられるものであり、その額は事案及び裁判所により異なります。申立てを行う裁判所にご確認ください。本記事では金額を申し上げることを差し控えます。
質問6 建物も所有者が分かりません。まとめて申し立てられますか。
土地と建物のそれぞれについて制度が設けられておりますので、双方について管理命令を求めることになります。土地と建物の所有者が異なる場合もありますので、事案の構造を整理することが必要です。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、所有者の分からない不動産に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、対象となる土地及び建物の登記事項証明書、公図、現地の写真、ご自身の土地の登記事項証明書、これまでの調査の記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第25条第1項(不在者の財産の管理)、第28条(管理人の権限外の行為の許可)、第30条(失踪の宣告)、第252条第2項(所在等不明共有者等がある場合の管理の裁判)、第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)、第262条の3(所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与)、第264条の2(所有者不明土地管理命令)、第264条の3(所有者不明土地管理人の権限)、第952条(相続財産の清算人の選任)
その他 所有者不明建物管理命令並びに管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令の制度(いずれも令和3年の民法の改正により設けられ、令和5年4月1日施行)。予納金の額、申立ての書式その他の運用は、申立てを行う裁判所にご確認ください。
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