不在者の財産の管理人と失踪の宣告の使い分け

父の遺産である実家の相続登記を進めようとしたところ、相続人の一人である叔父の所在が分かりません。最後に連絡があったのは15年ほど前でございます。弁護士に相談したところ、「不在者の財産の管理人を選任する方法と、失踪の宣告を求める方法があります」と言われましたが、どちらを選ぶべきかの判断がつきません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。不在者の財産の管理人は、従来の住所又は居所を去った者の財産を管理させる制度であり(民法第25条第1項)、本人は相続人のまま存続いたします。これに対し、失踪の宣告は、生死が7年間明らかでない場合等に、その者を死亡したものとみなす制度であり(民法第30条、第31条)、本人について相続が開始いたします。前者は所在は不明だが生死までは不明でない場合に、後者は長期にわたり生死が不明である場合に適しております。手続に要する期間、費用、本人が現れた場合の処理も異なります。本記事では、両者の違いを整理し、選択の基準を示します。

第1節 不在者の財産の管理人

1 制度の概要

従来の住所又は居所を去った者(不在者)がその財産の管理人を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができます(民法第25条第1項)。この処分として、不在者の財産の管理人が選任されます。

遺産分割を行う必要のある他の相続人は、利害関係人に当たります。

2 管理人の権限

管理人は、保存行為並びに代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内における利用又は改良を目的とする行為をする権限を有します。これを超える行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法第28条)。

遺産分割の協議に加わること、不動産を売却すること、共有物分割に応じることは、いずれもこの権限を超える行為に当たると解されております。したがって、管理人の選任の後、行為ごとに権限外行為の許可を求めることになります。

表1 不在者の財産の管理人の権限

行為 許可の要否
財産の保存、必要な修繕 許可を要しません
短期の賃貸 性質を変えない範囲であれば許可を要しません
遺産分割の協議への参加 権限外行為の許可を要します
不動産の売却 権限外行為の許可を要します
共有物分割への同意 権限外行為の許可を要します
相続の放棄 権限外行為の許可を要します
抵当権の設定 権限外行為の許可を要します

3 管理の継続と終了

不在者の財産の管理は、遺産分割が終われば終了するというものではありません。本人が現れる、失踪の宣告がされる、又は死亡が確認されるまで継続いたします。管理人は財産を管理し、家庭裁判所に報告を行います。

この点は、申立てを検討する際にあらかじめご理解いただく必要があります。不在者に配分された金銭は、管理人が管理し続けることになります。

4 予納金

選任の申立てに際しては、予納金の納付を求められることが一般的です。管理人の報酬及び管理に要する費用に充てられるものであり、その額は事案により異なります。申立てを行う家庭裁判所にご確認ください。

第2節 失踪の宣告

1 制度の概要

不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができます(民法第30条第1項)。これを普通失踪と呼んでおります。

また、戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、同様とされております(民法第30条第2項)。これを危難失踪又は特別失踪と呼んでおります。

2 効果

普通失踪の宣告を受けた者は、7年の期間が満了した時に死亡したものとみなされます。危難失踪の宣告を受けた者は、その危難が去った時に死亡したものとみなされます(民法第31条)。

死亡したものとみなされる結果、その者について相続が開始いたします。したがって、失踪者の相続人が遺産分割の当事者となります。

3 死亡とみなされる時期に注意を要します

失踪の宣告により死亡とみなされる時期は、宣告の時ではなく、7年の期間が満了した時です。この時期が被相続人の死亡より前である場合には、失踪者はそもそも被相続人の相続人とならず、その子が代襲相続人となる等の帰結が生じます。

逆に、被相続人の死亡より後である場合には、失踪者は一旦相続人となり、その者について更に相続が開始することになります(数次相続)。いずれの構成となるかによって、当事者の範囲が大きく変わりますので、期間の計算を正確に行う必要があります。

4 手続と期間

失踪の宣告の手続では、家庭裁判所による調査のほか、不在者に対して届出をするよう公告し、一定の期間を置くことになります。この期間を含め、申立てから宣告までに1年程度を要することが一般的です。

5 失踪の宣告の取消し

失踪者が生存すること、又は死亡とみなされた時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければなりません(民法第32条第1項)。

この場合であっても、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力には影響を及ぼさないものとされております。また、失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失いますが、現に利益を受けている限度においてのみ返還の義務を負うものとされております(民法第32条第2項)。

第3節 両者の比較と選択の基準

1 比較

表2 不在者の財産の管理人と失踪の宣告の比較

項目 不在者の財産の管理人 失踪の宣告
要件 従来の住所又は居所を去り、財産の管理人を置かないこと 生死が7年間明らかでないこと(危難失踪は1年)
根拠 民法第25条第1項 民法第30条
効果 管理人が財産を管理いたします 死亡したものとみなされます
本人の地位 相続人のまま存続いたします 相続が開始し、その相続人が当事者となります
遺産分割への関与 管理人が権限外行為の許可を得て参加いたします 失踪者の相続人が参加いたします
期間の目安 数か月(権限外行為の許可を含めるとより長期) 1年程度
費用 予納金の納付を求められることが一般的です 予納金は通常不要ですが公告に係る費用が生じます
手続の終了 本人の出現等まで管理が継続いたします 宣告により終了いたします
本人が現れた場合 管理が終了いたします 失踪の宣告の取消しの手続によります
取得分 法定相続分に相当する額を確保することが求められます 失踪者の相続人が取得いたします

2 選択の基準

表3 選択の基準

状況 適する手続 理由
所在は不明だが生存していると思われる 不在者の財産の管理人 失踪の宣告の要件を満たしません
生死が7年間明らかでなく、相続人がいる 失踪の宣告 手続が終了し、以後の管理が不要となります
生死が7年間明らかでないが、相続人がいない 個別の検討を要します 失踪の宣告をしても当事者が定まらない場合があります
急いで遺産分割を成立させたい 不在者の財産の管理人 期間が比較的短くて済みます
継続的な管理の負担を避けたい 失踪の宣告 宣告により手続が終了いたします
予納金の負担が難しい 失踪の宣告を検討いたします ただし期間を要します
本人が現れる可能性が相応にある 不在者の財産の管理人 取消しの複雑な処理を避けられます

3 両者を組み合わせる場合

まず不在者の財産の管理人を選任して遺産分割を成立させ、その後に要件が整った段階で失踪の宣告を求めるという進め方もあります。急いで遺産分割を成立させる必要がある一方、長期の管理を避けたいという場合に検討し得る方法です。

第4節 実務上よく起きる問題

1 所在の調査を尽くしていない

いずれの手続についても、まず所在の調査を尽くしていることが前提となります。戸籍の附票による住所の確認、書面の送付、現地の確認といった調査を行わないまま申し立てても、認められません。実際には、調査により住所が判明する事案が少なくありません。

2 「7年」の起算点が分からない

失踪の宣告の要件である7年は、生死が明らかでなくなった時から起算いたします。最後に生存が確認された時期を特定する必要がありますが、これが不明確である事案が多くあります。年賀状のやり取り、電話の記録、他の親族からの聴取といった資料により、可能な限り特定いたします。

3 不在者の取得分をどうするか

不在者の財産の管理人による方法では、権限外行為の許可において不在者の利益が害されないかが審査されます。法定相続分より少ない取得分とする内容については、合理的な理由の説明が求められます。不動産を換価して現金を確保する構成を採ることが多くあります。

4 予納金を誰が負担するか

予納金は申立人が納付いたします。他の相続人との間で負担の割合を定めておかなければ、申立人のみが負担を負うことになります。遺産分割の協議において、この点も併せて取り決めることが望まれます。

5 管理が長期にわたる

不在者の財産の管理人による方法では、遺産分割が終わっても管理が続きます。不在者に配分された金銭は管理人が管理し続け、報酬も生じます。この点の見通しをあらかじめ共有しておくことが重要です。

6 共有不動産における所在等不明共有者の制度との違い

共有不動産については、所在等不明共有者の持分を取得する裁判(民法第262条の2)、所在等不明共有者の持分を譲渡する権限を付与する裁判(民法第262条の3)という制度が設けられております。これらは共有物に関する制度であり、遺産共有の場面での利用には制約がありますので、遺産分割が未了である場合には注意を要します。

第5節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表4 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
相続 被相続人の出生から死亡までの戸籍 相続人の範囲
不在者 不在者の戸籍、戸籍の附票 従来の住所、死亡の記載の有無
不在者 不在者の相続人となるべき者の戸籍 失踪の宣告を選ぶ場合の当事者
調査 送付した書面、返送された郵便物 所在の不明の程度
調査 最後に連絡があった時期に関する資料 7年の起算点
遺産 不動産の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書 遺産の内容と評価
遺産 預貯金の残高証明書 不在者の取得分を確保し得るか

2 確認する事項

表5 手続の選択において確認する事項

事項 確認の内容
所在の調査 戸籍の附票による調査を尽くしているか
生死の不明の期間 7年を経過しているか、起算点を特定できるか
不在者の相続人 失踪の宣告をした場合の当事者が存在するか
死亡とみなされる時期 被相続人の死亡より前か後か
急ぐ事情 売却の予定、期限の有無
予納金 負担し得るか、誰が負担するか
本人の出現の可能性 取消しの処理の複雑さを踏まえた判断
相続開始からの期間 10年の経過が迫っていないか

第6節 弁護士に相談する意味

この2つの制度は、いずれも所在の分からない相続人がいる場面で用いられますが、性質が根本的に異なります。

第一に、選択を誤ると時間と費用が失われる点です。失踪の宣告は要件を満たさなければ認められず、申立てから判断までに相当の期間を要します。要件を満たさない事案について申し立てれば、その期間が失われます。逆に、長期の管理を避けたい事案で不在者の財産の管理人を選任すれば、管理が長く続くことになります。

第二に、当事者の範囲が変わる点です。失踪の宣告により死亡とみなされる時期によって、失踪者が相続人となるかどうか、代襲相続となるか数次相続となるかが変わります。期間の計算を誤ると、当事者を誤ったまま手続を進めることになります。

第三に、期間の制約がある点です。相続の開始から10年が経過すると特別受益及び寄与分の主張が原則として制限され、相続登記の申請義務にも期間が定められております。手続に数か月から1年を要することを踏まえた工程が必要です。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、戸籍を収集して相続人を確定させ、所在の調査を尽くすことです。第二に、要件を検討し、いずれの手続によるかを選択することです。第三に、家庭裁判所への申立てを行うことです。第四に、権限外行為の許可のための協議案を作成することです。第五に、遺産分割の協議、調停及び審判を代理することです。なお、登記の申請は司法書士の業務でございます。

なお、具体的な進め方は、相続人の構成、所在の不明の程度、遺産の内容等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 15年連絡がありません。失踪の宣告を求めるべきですか。

生死が7年間明らかでないという要件を満たす可能性があります。もっとも、宣告までに1年程度を要すること、本人が現れた場合の取消しの処理があることを踏まえ、不在者の財産の管理人による方法と比較して選択いたします。

質問2 どちらが早く終わりますか。

遺産分割の成立までという点では、不在者の財産の管理人による方法の方が短くて済むことが一般的です。もっとも、その後も管理が継続いたします。手続全体の終了という点では失踪の宣告が終局的です。

質問3 失踪の宣告をした後に本人が現れたらどうなりますか。

家庭裁判所は失踪の宣告を取り消さなければなりません(民法第32条第1項)。もっとも、宣告後その取消し前に善意でした行為の効力には影響を及ぼさず、財産を得た者は現に利益を受けている限度で返還の義務を負うものとされております。

質問4 不在者の取り分は確保しなければなりませんか。

権限外行為の許可においては不在者の利益が害されないかが審査されます。法定相続分より少ない内容については合理的な理由の説明が求められますので、実務上は法定相続分に相当する額を確保する構成を採ることが多くあります。

質問5 予納金はいくらかかりますか。

管理人の報酬及び管理に要する費用に充てられるものであり、その額は事案及び家庭裁判所により異なります。申立てを行う家庭裁判所にご確認ください。本記事では金額を申し上げることを差し控えます。

質問6 共有不動産なので所在等不明共有者の制度は使えませんか。

所在等不明共有者の持分を取得する裁判等の制度は共有物に関するものであり、遺産共有の場面での利用には制約がございます。遺産分割が未了である場合には、その点を踏まえた検討が必要です。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、相続人の所在が分からない場合の手続に関するご相談をお受けしております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
  • ご相談は事前予約制です

ご相談の際に、被相続人及び相続人の戸籍、不在者の戸籍の附票、不動産の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、最後に連絡があった時期が分かる資料をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第25条第1項(不在者の財産の管理)、第28条(管理人の権限外の行為の許可)、第30条(失踪の宣告)、第31条(失踪の宣告の効力)、第32条(失踪の宣告の取消し)、第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)、第262条の3(所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与)、第898条(相続財産の共有)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)

不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請義務)、第76条の3(相続人である旨の申出)

その他 家事事件手続法に基づく不在者の財産の管理及び失踪の宣告の審判の手続。

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