相続人が多数に及ぶ場合の協議の進め方
祖父の名義のままになっている土地の名義を変えようとしたところ、司法書士から「相続人が30人以上おられます」と言われました。会ったこともない方が大半で、住所も分かりません。どこから手を付ければよいのかが分からず、そのままになっております。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。遺産分割の協議は共同相続人の全員が参加しなければ効力を生じませんので、相続人が多数に及ぶ場合であっても、全員の関与が必要です。進め方としては、まず戸籍を収集して相続人を確定させ、次に住所を調査し、そのうえで書面により事情を説明して協力を求めるという順序になります。多数の相続人がいる事案では、全員が同じ書面に署名する方式のほか、相続人ごとに書面を作成する方式を用いることも検討いたします。協議が調わない場合には、家庭裁判所の遺産分割の調停によることになります。相続登記の申請義務との関係では、相続人である旨の申出により暫定的に対応する制度もございます。本記事では、手順と工夫を整理いたします。
第1節 相続人の確定
1 戸籍の収集から始めます
出発点は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を収集することでございます。転籍、婚姻、改製が繰り返されている場合には、複数の市町村に請求する必要があります。
被相続人に子がなく、又は子が既に死亡している場合には、代襲相続、直系尊属、兄弟姉妹及びその代襲相続と、相続人の範囲が広がってまいります。何代も相続登記がされていない事案では、数次相続が重なり、当事者が飛躍的に増加いたします。
表1 相続人が多数となる典型的な原因
| 原因 | 内容 |
|---|---|
| 数次相続 | 相続登記をしないまま次の相続が開始することが繰り返されます |
| 兄弟姉妹の相続 | 子及び直系尊属がない場合、兄弟姉妹及びその子が相続人となります |
| 代襲相続 | 相続人が先に死亡している場合、その子が代襲いたします |
| 子の数が多い世代 | 戦前の世代では子の数が多く、枝分かれが大きくなります |
| 持分の譲渡 | 相続人の一部が持分を第三者に譲渡いたします |
| 長期の放置 | 時が経つほど当事者が増加いたします |
2 相続関係説明図を作成する
収集した戸籍に基づき、相続関係説明図を作成いたします。誰が何代目の相続人であるか、法定相続分がいくらであるかを一覧にすることにより、協議の全体像を把握することができます。多数の当事者がいる事案では、この図が作業の基礎となります。
3 住所の調査
相続人が確定した後、各相続人の戸籍の附票により住民登録上の住所を調査いたします。転居を繰り返している方、海外に居住している方、所在の判明しない方が含まれることも珍しくありません。
4 既に死亡している相続人がいる場合
調査の過程で、相続人として把握した方が既に死亡していることが判明することがあります。この場合には、その方についての相続人を更に調査する必要があります。調査には相応の期間を要いたします。
第2節 連絡と説明の実務
1 最初の書面が最も重要です
会ったこともない親族から突然に書面が届けば、警戒されるのが自然でございます。最初の書面の書き方が、その後の協力の得やすさを大きく左右いたします。
表2 最初の書面に記載する事項
| 事項 | 記載の内容 |
|---|---|
| 差出人 | 誰からの連絡か、被相続人とどのような関係か |
| 被相続人 | 氏名、死亡の時期 |
| 相続関係 | 相手方がなぜ相続人となるのか、相続関係説明図を添付いたします |
| 遺産の内容 | 対象となる不動産、評価の目安 |
| 連絡の目的 | 相続登記を進めるために協力をお願いする旨 |
| お願いする内容 | 署名、印鑑登録証明書の交付等 |
| 相手方の負担 | 費用の負担が生じないこと、生じる場合はその内容 |
| 連絡先及び期限 | 問合せ先、回答の希望時期 |
| 資料 | 登記事項証明書の写し等 |
2 相手方の疑問に先回りする
多くの相続人が抱く疑問は共通しております。これらにあらかじめ答えておくことで、やり取りの往復を減らすことができます。
表3 相続人からよく寄せられる疑問
| 疑問 | 説明の内容 |
|---|---|
| なぜ自分が相続人なのか | 相続関係説明図により、承継の経路を示します |
| 費用を請求されるのか | 誰が費用を負担するのかを明示いたします |
| 借金があるのではないか | 把握している債務の有無を説明いたします |
| いくらもらえるのか | 遺産の内容と評価の目安、法定相続分を示します |
| 何をすればよいのか | 署名及び印鑑登録証明書の交付等、具体的に示します |
| 断るとどうなるのか | 調停の申立てを検討することになる旨を穏当に説明いたします |
| この話は本当か | 登記事項証明書、戸籍の写しを添付いたします |
3 合意の形成の方式
遺産分割協議書は、必ずしも全員が同一の書面に署名する必要はございません。相続人ごとに同一内容の書面を作成し、それぞれが署名及び押印する方式(いわゆる持ち回りの方式)を用いることができます。多数の相続人が各地に居住している事案では、この方式が現実的でございます。
ただし、各書面の内容が完全に同一であること、全員分がそろっていることが必要です。登記の申請の場面で確認されますので、司法書士と相談しながら形式を整えることが望まれます。
4 内容をどう定めるか
相続人が多数に及ぶ場合、全員が持分を取得する内容とすれば、共有の状態が残り、次の相続でさらに当事者が増えます。実務上は、次のような内容とすることが多くあります。
表4 多数の相続人がいる場合の分割の内容
| 方式 | 内容 | 適する場面 |
|---|---|---|
| 単独取得 | 特定の相続人が不動産を取得いたします | 利用している者がいる場合 |
| 代償金の支払を伴う単独取得 | 取得する者が他の相続人に金銭を支払います | 資力がある場合 |
| 換価による分割 | 売却して代金を分配いたします | 誰も取得を希望しない場合 |
| 相続分の譲渡 | 相続分を他の相続人に譲渡いたします | 関与を望まない相続人がいる場合 |
| 相続の放棄 | 期間内であれば放棄によることもできます | 相続の開始を知って間がない場合 |
| 持分の共有のまま | 共有の状態を維持いたします | 望ましくありません |
5 相続分の譲渡の活用
関与を望まない相続人については、その相続分を他の相続人に譲渡してもらうという方法がございます。相続分の譲渡により、譲渡した相続人は遺産分割の当事者から離脱いたします。当事者の数を減らすことができるため、多数の相続人がいる事案では有用な方法でございます。
第3節 実務上よく起きる問題
1 一部の相続人が応答しない
書面を送っても返答がない相続人が生じることは避けられません。所在が判明している以上、不在者の財産の管理人の制度は用いることができませんので、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立て、手続に引き出すことになります。
2 一部の相続人が過大な要求をする
法定相続分を大きく超える取得を求める相続人が現れることがあります。協議による解決が困難であれば、調停に移行することになります。調停においては、家庭裁判所の関与のもとで法定相続分を基礎とした整理が行われます。
3 費用の負担で対立する
戸籍の収集、登記、専門家への依頼にかかる費用を誰が負担するかが問題となります。あらかじめ負担の方法を定め、書面により明らかにしておくことが望まれます。
4 所在の分からない相続人がいる
戸籍の附票によっても住所が判明しない相続人がいる場合には、不在者の財産の管理人の選任、生死が7年間明らかでない場合には失踪の宣告といった手続を検討することになります。
5 海外に居住する相続人がいる
海外に居住し日本の住民登録がない相続人については、印鑑登録証明書及び住民票を取得できません。在外公館における署名証明及び在留証明を用いることになります。書類の往復に相応の期間を要いたします。
6 相続開始から10年が経過している
何代も前の相続では、既に10年が経過していることが通常でございます。この場合、遺産分割において特別受益及び寄与分を主張することは原則として制限され(民法第904条の3)、法定相続分に従った分割が行われることになります。多数の相続人がいる事案では、かえって整理がしやすくなる面もございます。
第4節 検討する選択肢
1 選択肢の全体像
表5 相続人が多数に及ぶ場合に採り得る手段
| 手段 | 内容 | 期間の目安 | 適する場面 |
|---|---|---|---|
| 戸籍の収集及び相続人の確定 | 被相続人及び各相続人の戸籍を収集いたします | 数か月から1年 | 最初に行うべき作業です |
| 書面による協力の要請 | 事情を説明し、署名等を求めます | 数か月 | 協力が見込まれる場合 |
| 相続分の譲渡 | 関与を望まない相続人から相続分を譲り受けます | 数か月 | 当事者を減らしたい場合 |
| 遺産分割の調停 | 家庭裁判所の手続により分割を定めます | 1年から2年程度 | 協議が調わない場合 |
| 不在者の財産の管理人 | 所在の分からない相続人がいる場合の制度です | 数か月 | 調査によっても所在が判明しない場合 |
| 相続人である旨の申出 | 相続登記の申請義務を履行したものとみなされます | 数週間 | 協議に時間がかかる場合 |
| 法定相続分による相続登記 | 法定相続分に従った登記を先に行います | 数か月 | 暫定的な措置として |
| 換価による分割 | 売却して代金を分配いたします | 1年以上 | 誰も取得を希望しない場合 |
2 相続登記の申請義務への対応
相続により所有権を取得した者は、その取得を知った日から3年以内に相続による所有権の移転の登記を申請しなければならないものとされております(不動産登記法第76条の2)。もっとも、相続人が多数に及ぶ事案では、3年以内に遺産分割を成立させることが困難な場合があります。
この場合には、相続人である旨を登記所に申し出ることにより、申請義務を履行したものとみなされる制度がございます(不動産登記法第76条の3)。単独で申し出ることができ、他の相続人の関与を要しない点に利点がございます。
3 調停を早期に選択することも合理的です
相続人が多数に及ぶ事案では、任意の協議に時間をかけても全員の合意に至らないことが少なくありません。裁判所の手続によることで、応答しない相続人にも手続への関与を促すことができ、成立しない場合には審判により定まります。早期に調停を選択することが、結果として最も早い解決となる場合がございます。
4 登記は司法書士の業務です
登記の申請は司法書士、測量及び境界の確認は土地家屋調査士、税務は税理士の業務でございます。当事務所は、相続人の確定、協議の設計、相続人との交渉、調停及び審判の代理を担当し、これらの専門家と連携して進めます。
第5節 案件において確認すべき事項
1 資料の確認
表6 ご相談の際に確認する資料
| 区分 | 資料 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 権利関係 | 登記事項証明書 | 登記名義人、登記の時期 |
| 権利関係 | 公図、地積測量図 | 物件の特定 |
| 相続 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍 | 相続人の範囲 |
| 相続 | これまでに収集した戸籍 | 調査の進み具合 |
| 相続 | 相続関係説明図(作成済みであれば) | 当事者の全体像 |
| 遺産 | 固定資産税の納税通知書、名寄帳 | 遺産の範囲 |
| 経緯 | これまでに送付した書面、返答 | 協力の状況 |
| 利用 | 現地の写真、居住又は利用の状況 | 取得を希望する者の有無 |
2 確認する事項
表7 方針の検討において確認する事項
| 事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 相続人の数 | おおよそ何人になる見込みか |
| 数次相続の有無 | いくつの相続が重なっているか |
| 所在不明の相続人 | 調査により判明しない者がいるか |
| 海外の相続人 | 在外公館での手続を要する者がいるか |
| 取得の希望 | 不動産の取得を希望する者がいるか |
| 遺産の価値 | 手続の費用に見合う価値があるか |
| 費用の負担 | 誰がどのように負担するか |
| 登記の期限 | 相続人である旨の申出を先行させるか |
第6節 弁護士に相談する意味
相続人が多数に及ぶ事案は、法律上の論点が難しいというよりも、作業の量と当事者との関係の管理が困難な類型でございます。
第一に、相続人の確定に専門的な作業を要する点です。数次相続が重なった事案では、収集すべき戸籍が多数に及び、判読にも慣れを要します。一人でも漏れがあれば、協議は無効となります。
第二に、多数の当事者との関係の管理が必要である点です。会ったこともない親族に対し、警戒を招かない形で説明し、協力を得るには、書面の作り方と手順の設計が重要です。中立的な立場の代理人が窓口となることで、話が進みやすくなる場合があります。
第三に、手続の選択が結果を左右する点です。任意の協議を続けるか、早期に調停を申し立てるか、相続人である旨の申出により暫定的に対応するかによって、要する期間が大きく変わります。
弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、戸籍を収集して相続人を確定させ、相続関係説明図を作成することです。第二に、各相続人の住所を調査することです。第三に、説明の書面を作成し、協力を要請することです。第四に、相続分の譲渡その他の方法により当事者を整理することです。第五に、協議、調停及び審判を代理し、司法書士その他の専門家と連携して登記まで進めることです。
なお、具体的な進め方は、相続人の数及び構成、遺産の内容、協力の状況等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 相続人が30人以上います。全員の同意が必要ですか。
遺産分割の協議には共同相続人の全員が参加しなければならず、一部を除いてされた協議は無効となります。人数が多くとも、全員の関与が必要です。
質問2 全員が同じ書面に署名しなければなりませんか。
いいえ。相続人ごとに同一内容の書面を作成し、それぞれが署名及び押印する方式を用いることができます。各書面の内容が完全に同一であり、全員分がそろっていることが必要です。
質問3 連絡しても返事をくれない人がいます。
所在が判明している以上、不在者の財産の管理人の制度は用いることができません。家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立て、手続に引き出すことになります。調停が成立しない場合には審判に移行いたします。
質問4 「関わりたくない」と言う人がいます。
相続分を他の相続人に譲渡していただくという方法がございます。相続分の譲渡により、その方は遺産分割の当事者から離脱いたします。当事者の数を減らすことができるため、有用な方法でございます。
質問5 3年以内に登記できそうにありません。
相続人である旨を登記所に申し出ることにより、申請義務を履行したものとみなされる制度がございます(不動産登記法第76条の3)。単独で申し出ることができ、他の相続人の関与を要しません。
質問6 どのくらいの期間がかかりますか。
相続人の確定だけで数か月から1年、その後の連絡及び協議に更に数か月から1年を要することが一般的です。調停によることとなれば、更に1年から2年程度を要します。事案により大きく異なります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、相続人が多数に及ぶ場合の遺産分割に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、登記事項証明書、これまでに収集した戸籍、相続関係説明図、固定資産税の納税通知書又は名寄帳、これまでに送付した書面及び返答をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第25条第1項(不在者の財産の管理)、第30条(失踪の宣告)、第898条(相続財産の共有)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)、第905条(相続分の取戻権)、第906条(遺産の分割の基準)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)
不動産登記法 第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請義務)、第76条の3(相続人である旨の申出)
その他 家事事件手続法に基づく遺産分割の調停及び審判の手続。登記の申請は司法書士の業務でございます。
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