後見人と相続人の利益が相反する場合の手続

母の成年後見人に私が選任されております。このたび父の遺産分割の協議を行うことになりましたが、私も相続人でございます。私が母を代理して協議に加われば足りると考えておりましたところ、家庭裁判所から特別代理人の選任が必要であると言われました。何が問題となるのかが分かりません。このようなご相談をいただくことがあります。

結論から申し上げます。後見人と本人との利益が相反する行為については、後見人は、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。ただし、後見監督人がある場合には、監督人が本人を代表いたします。遺産分割において後見人自身も相続人である場合、共有不動産を後見人が買い取る場合、共有物分割において後見人も共有者である場合が、典型的な利益相反の場面でございます。必要な手続を経ないでされた行為は無権代理となり、その効力が否定される可能性があります。不動産の登記の場面では、この点が確認されるため、手続を欠いたままでは登記が完了いたしません。本記事では、場面ごとの整理と手続の進め方を示します。

第1節 利益相反とは何か

1 利益相反となる行為の判断

利益相反とは、後見人自身の利益と本人の利益とが対立する関係にあることをいいます。利益相反に当たるかどうかは、行為の外形から客観的に判断されるものと解されております。すなわち、後見人が実際に本人の利益を害する意図を有していたかどうかを問わず、行為の性質上、双方の利益が対立する構造にあるかによって判断されます。

この点は重要です。「自分は母のためを思って行動している」という主観は、利益相反の成否を左右いたしません。手続を省略してよい理由にもなりません。

2 手続を欠いた場合の効力

必要な手続を経ないで後見人が本人を代理して行った行為は、無権代理となるものと解されております。したがって、その効力が否定される可能性があります。遺産分割の協議であれば協議が無効となり、売買であれば所有権の移転が生じないという帰結になり得ます。

不動産の登記の場面では、遺産分割協議書又は売買契約書とともに、特別代理人の選任の審判書等の確認が求められます。手続を欠いたままでは登記が完了いたしませんので、実務上、この段階で問題が明らかになります。

3 後見監督人がある場合

後見監督人が選任されている場合には、後見人と本人との利益が相反する行為について、後見監督人が本人を代表いたします。この場合には、特別代理人の選任を求める必要がありません。したがって、まず後見監督人の有無を確認することが出発点となります。

表1 利益相反への対応

状況 対応
後見監督人がいない 家庭裁判所に特別代理人の選任を請求いたします
後見監督人がいる 後見監督人が本人を代表いたします
保佐の場合 保佐監督人がいないときは臨時保佐人の選任を請求いたします
補助の場合 補助監督人がいないときは臨時補助人の選任を請求いたします
未成年後見の場合 未成年後見監督人がいないときは特別代理人の選任を請求いたします

第2節 典型的な場面

1 遺産分割において後見人も相続人である場合

最も多い場面です。父が亡くなり、母と子が相続人となる事案において、母の後見人に子が選任されている場合、遺産分割の協議は、後見人自身の取得分と本人の取得分とを定める行為ですので、外形上、双方の利益が対立いたします。

この場合には、特別代理人の選任を求めることになります。特別代理人には、他の親族、弁護士、司法書士等が選任されます。

2 法定相続分どおりに分けるのであれば手続は不要か

法定相続分に従った内容とする場合であっても、遺産分割の協議を行う以上、利益相反の関係にあることに変わりはないと解されます。内容の当否と、手続の要否とは別の問題でございます。

3 共有不動産を後見人が買い取る場合

本人と後見人との共有である不動産について、後見人が本人の持分を買い取る場合には、売主の代理人と買主とが同一人となり、典型的な利益相反となります。価格の設定において双方の利益が正面から対立いたします。

4 共有物分割の協議及び訴訟

後見人も共有者である不動産について共有物分割を行う場合には、分割の方法、取得する者、代償金の額のいずれについても利益が対立いたします。訴訟の場面では、本人の側の訴訟行為を誰が行うかという問題として現れます。

5 本人の財産から後見人への貸付け又は贈与

本人の預貯金から後見人が借り入れる、又は贈与を受けるといった行為は、本人の財産を減少させ後見人の利益となる行為ですので、利益相反となります。そもそも、本人の財産を後見人の利益のために用いることは、後見人の職務の性質に反いたします。

6 本人の不動産に後見人の債務の担保を設定する場合

後見人の借入れのために本人の不動産に抵当権を設定する行為は、本人に一方的な負担を生じさせる行為であり、利益相反となります。

表2 利益相反となり得る場面の整理

場面 対立の内容 必要な手続
遺産分割の協議(後見人も相続人) 取得する財産の配分 特別代理人の選任又は後見監督人による代表
遺産分割の調停及び審判 同上 同上
共有不動産の持分の売買 売主と買主の立場が同一人に帰します 同上
共有物分割の協議及び訴訟 分割の方法及び代償金の額 同上
本人から後見人への貸付け又は贈与 財産の減少と後見人の利益 同上。そもそも相当性に問題があります
本人の不動産への後見人の債務の担保設定 本人に一方的な負担が生じます 同上
相続の放棄(後見人が先に放棄した場合等) 順位及び取得分への影響 個別の検討を要します

第3節 特別代理人の選任の手続

1 申立ての概要

表3 特別代理人の選任の申立て

項目 内容
申立てをする者 後見人
申立先 本人の住所地を管轄する家庭裁判所
必要な資料 後見に関する登記事項証明書、戸籍、遺産分割協議書の案又は契約書の案、財産に関する資料
候補者 他の親族、弁護士、司法書士等を挙げることができます
審理において確認される事項 候補者と本人及び後見人との関係、行為の内容が本人に不利でないか
期間の目安 1か月から数か月程度。事案により異なります

2 協議書の案を先に作ることが重要です

特別代理人の選任の申立てにおいては、行おうとする行為の内容を明らかにする必要があります。遺産分割であれば協議書の案、売買であれば契約書の案を添えることになります。したがって、内容を先に固めてから申し立てるという順序になります。

内容が本人にとって不利であると判断される場合には、選任がされたとしても特別代理人がこれに同意しないことがあります。本人の法定相続分を下回る内容とする場合には、その合理的な理由を説明できるようにしておく必要があります。

3 特別代理人の権限の範囲

特別代理人は、選任の審判において定められた特定の行為についてのみ本人を代理いたします。したがって、遺産分割について選任された特別代理人が、これと別の不動産の売買について代理することはできません。行為ごとに選任を求めることになります。

4 候補者の選び方

候補者は、本人及び後見人と利害関係のない者であることが求められます。同じ遺産分割の相続人である親族は、それ自体が利害関係を有しますので適しません。中立性を確保する観点から、弁護士等の専門職を候補者とする例が多くあります。

第4節 実務上よく起きる問題

1 利益相反に気付かないまま進めてしまう

後見人が親族である事案では、利益相反の問題に気付かないまま協議書に署名し、後に登記の段階で問題が判明することがあります。この場合、改めて特別代理人の選任を経て協議をやり直すことになり、時間と費用が生じます。

2 複数の本人について同一人が後見人である

母と叔母の双方について同一人が後見人に選任されているという事案があります。両者が同じ遺産分割の相続人である場合には、本人相互の間でも利益が対立いたします。この場合には、いずれか一方について特別代理人の選任を求めることになります。

3 特別代理人が内容に同意しない

特別代理人は本人の利益を守る立場で職務を行いますので、提示された内容が本人に不利であると判断すれば、これに同意いたしません。あらかじめ本人の取得分の合理性を検討しておくことが、手続の円滑な進行につながります。

4 居住用不動産の処分の許可との関係

共有不動産の処分において、居住用不動産に当たる場合には、家庭裁判所の許可(民法第859条の3)が別途必要となります。利益相反の手続と処分の許可の手続とは別個のものであり、双方が必要となる場合には、それぞれ申立てを行う必要があります。

5 訴訟における取扱い

共有物分割の訴訟その他の裁判手続において、後見人と本人との利益が相反する場合には、本人の側の訴訟行為を誰が行うかが問題となります。手続の性質に応じた対応が必要となりますので、提訴の前に整理しておくことが望まれます。

6 後見人の交代を検討すべき場合

利益相反となる場面が繰り返し生じることが見込まれる場合には、そのつど特別代理人の選任を求めるよりも、第三者の専門職に後見人を交代することが適切な場合があります。家庭裁判所の判断を仰ぐことになります。

7 相続の放棄と利益相反

後見人が本人を代理して相続の放棄をする場合にも、利益相反の問題が生じ得ます。後見人自身も同じ相続の相続人である場合、本人が放棄をすることにより後見人の取得分が増えるという関係に立つからです。

もっとも、後見人が先に自らの相続の放棄をしており、又は本人と同時に放棄をする場合には、利益が対立する関係にないと評価される余地があります。判断が分かれ得る場面ですので、家庭裁判所に確認したうえで手続を進めることが安全でございます。

8 遺留分に関する権利の行使

本人が遺留分を侵害されている場合において、後見人が本人を代理して遺留分侵害額の請求を行うことがあります。この請求の相手方が後見人自身である場合には、利益相反となります。

遺留分侵害額の請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅いたします。相続開始の時から10年を経過したときも同様でございます(民法第1048条)。特別代理人の選任に期間を要することを踏まえると、期限の管理が特に重要となります。

表 利益相反が問題となる相続関係の行為と期限

行為 利益相反となり得る場面 関係する期限
遺産分割の協議 後見人も相続人である場合 相続開始から10年(特別受益及び寄与分の主張)
相続の放棄 後見人の取得分が増える関係にある場合 相続の開始を知った時から3か月
遺留分侵害額の請求 請求の相手方が後見人自身である場合 知った時から1年、相続開始の時から10年
相続登記の申請 前提となる遺産分割の協議が利益相反となる場合 取得を知った日から3年
共有物分割 後見人も共有者である場合 定めはありませんが放置により当事者が増えます

9 手続を経たことの記録を残すこと

特別代理人の選任の審判書、後見監督人が代表した場合の資料は、後日の登記の申請、金融機関における手続、更には次の相続の場面において求められることがあります。協議書及び契約書と併せて保管しておくことが望まれます。

第5節 案件において確認すべき事項

1 資料の確認

表4 ご相談の際に確認する資料

区分 資料 確認する内容
後見 後見に関する登記事項証明書、審判書 後見人、監督人の有無、権限の範囲
相続 被相続人及び相続人の戸籍 相続人の範囲、後見人の地位
相続 遺言書、財産目録 遺産の内容
不動産 登記事項証明書、固定資産税の納税通知書 共有者、持分、評価額
行為の内容 遺産分割協議書の案、売買契約書の案 本人の取得分の合理性
財産 預貯金の通帳、有価証券に関する資料 本人の財産の全体
候補者 特別代理人の候補者に関する資料 利害関係の有無

2 確認する事項

表5 手続の要否の判断において確認する事項

事項 確認の内容
後見監督人の有無 いる場合には特別代理人の選任は不要です
行為の性質 外形上、双方の利益が対立する構造にあるか
本人の数 同一人が複数の本人の後見人となっていないか
本人の取得分 法定相続分との関係、下回る場合の理由
居住用不動産 処分の許可が別途必要でないか
行為の範囲 選任を求める行為を特定できているか
期間 他の手続の期限との関係

第6節 弁護士に相談する意味

利益相反の問題は、見落とされやすく、かつ見落とした場合の影響が大きいという特徴があります。

第一に、外形により判断される点です。実際に本人の利益を害する意図がなくとも、行為の性質上、双方の利益が対立する構造にあれば利益相反となります。善意で進めた手続が無効となる事態が生じ得ます。

第二に、複数の手続が重なる点です。特別代理人の選任、居住用不動産の処分の許可、共有者が所在不明である場合の手続といったものが、同じ事案の中で並行して必要となることがあります。順序と工程の管理が求められます。

第三に、内容の合理性を説明する必要がある点です。特別代理人が選任されても、内容が本人に不利であれば同意が得られません。本人の取得分について、資料に基づいた説明を用意しておく必要があります。

弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、当該行為が利益相反に当たるかを判定し、必要な手続を特定することです。第二に、遺産分割協議書又は契約書の案を作成し、本人の取得分の合理性を検討することです。第三に、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てることです。第四に、居住用不動産の処分の許可その他の必要な手続を並行して進めることです。第五に、親族間に対立がある場合の調整及び紛争の解決を代理することです。なお、登記の申請は司法書士の業務でございます。

なお、具体的な進め方は、本人の状態、親族の構成、遺産又は不動産の内容、家庭裁判所の運用等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 母のためを思って行う協議でも、特別代理人が必要ですか。

利益相反に当たるかどうかは、行為の外形から客観的に判断されるものと解されております。実際の意図にかかわらず、後見人自身も相続人である遺産分割の協議は利益相反に当たりますので、手続が必要です。

質問2 法定相続分どおりに分けるのであれば不要ではありませんか。

内容の当否と手続の要否とは別の問題でございます。法定相続分に従った内容とする場合であっても、遺産分割の協議を行う以上、利益相反の関係にあることに変わりはないと解されます。

質問3 特別代理人には誰を選べばよいですか。

本人及び後見人と利害関係のない者であることが求められます。同じ遺産分割の相続人である親族は適しません。中立性を確保する観点から、弁護士等の専門職を候補者とする例が多くあります。

質問4 手続をせずに協議書を作ってしまいました。

必要な手続を経ないでされた行為は無権代理となるものと解されており、その効力が否定される可能性があります。改めて特別代理人の選任を経て協議をやり直すことになります。登記の段階で問題が判明することが多くあります。

質問5 後見監督人がいる場合はどうなりますか。

後見監督人が本人を代表いたしますので、特別代理人の選任を求める必要はありません。まず監督人の有無を確認することが出発点となります。

質問6 同じ遺産分割で、母と叔母の両方の後見人をしています。

本人相互の間でも利益が対立いたしますので、いずれか一方について特別代理人の選任を求めることになります。事案によっては、後見人の交代を検討すべき場合もあります。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、後見と相続が重なる場面の不動産に関するご相談をお受けしております。

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ご相談の際に、後見に関する登記事項証明書、審判書、被相続人及び相続人の戸籍、遺産の目録、不動産の登記事項証明書、協議書の案をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。

弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文

民法 第7条(後見開始の審判)、第8条(成年被後見人及び成年後見人)、第13条第1項(保佐人の同意を要する行為)、第113条第1項(無権代理)、第826条(利益相反行為についての特別代理人の選任)、第851条(後見監督人の職務)、第859条(財産の管理及び代表)、第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)、第860条(利益相反行為に関する規定の準用)、第876条の2(保佐人及び臨時保佐人)、第876条の7(補助人及び臨時補助人)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)

その他 家事事件手続法に基づく特別代理人の選任の審判の手続。

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