成年後見の申立てから売却までの手順と期間
父の判断能力が低下し、施設に入所いたしました。入所の費用を賄うために自宅を売却したいと考えておりますが、成年後見の手続が必要だと言われました。どのような書類が必要で、どのくらいの期間がかかるのかが分からず、資金の見通しが立ちません。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。判断能力を欠く状態にある方の不動産を売却するには、成年後見人等が選任され、その者が本人を代理して契約を締結する必要があります。手順は、申立ての準備、家庭裁判所への申立て、調査及び必要に応じた鑑定、開始の審判及び後見人等の選任、居住用不動産に当たる場合の処分の許可、売買契約の締結及び所有権の移転の登記という順に進みます。申立てから開始の審判までに数か月を要することが一般的であり、居住用不動産の処分の許可、利益相反がある場合の特別代理人の選任が加わればさらに期間が伸びます。本記事では、各段階の内容と、期間の見通しを立てるための考え方を整理いたします。
第1節 全体の流れ
1 手順の概観
表1 申立てから売却までの手順
| 段階 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 方針の検討 | 類型の選択、後見人の候補者、売却の必要性を検討いたします | 数週間 |
| 2 診断書の取得 | 主治医に家庭裁判所の書式による診断書の作成を依頼いたします | 数週間 |
| 3 資料の収集 | 戸籍、住民票、財産及び収支の資料、親族の意見に関する資料を集めます | 数週間から2か月程度 |
| 4 申立て | 本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます | — |
| 5 審理 | 調査官による調査、本人及び親族への照会、必要に応じた鑑定が行われます | 1か月から数か月 |
| 6 審判及び選任 | 開始の審判とともに後見人等が選任されます | — |
| 7 審判の確定及び登記 | 審判が確定し、後見に関する登記がされます | 数週間 |
| 8 財産の調査及び報告 | 後見人が財産目録を作成し、家庭裁判所に報告いたします | 1か月から2か月程度 |
| 9 処分の許可の申立て | 居住用不動産に当たる場合に家庭裁判所の許可を求めます | 1か月から数か月 |
| 10 売買契約及び登記 | 契約を締結し、所有権の移転の登記を申請いたします | 1か月から2か月程度 |
期間はいずれも一般的な目安であり、事案によって大きく異なります。鑑定が実施される場合、親族の間に対立がある場合、財産の内容が複雑である場合には、より長い期間を要します。
2 申立てをすることができる者
後見開始の審判は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により行われます(民法第7条)。身寄りがない場合等には、市町村長が申し立てることができる場合があります。
3 類型の選択
判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3つの類型が定められております。不動産の売却を目的とする場合には、代理権の範囲がどうなるかという観点が重要です。
表2 類型ごとの代理権の在り方
| 類型 | 代理権 | 不動産の売却との関係 |
|---|---|---|
| 後見 | 財産に関する法律行為について包括的な代理権があります | 後見人が本人を代理して契約を締結いたします |
| 保佐 | 申立てにより特定の行為について代理権が付与されます | 代理権付与の審判を併せて申し立てる必要があります |
| 補助 | 申立てにより特定の行為について同意権又は代理権が定められます | 同様に代理権付与の審判が必要です |
保佐の場合、不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為については保佐人の同意を得なければならないものとされております(民法第13条第1項)。本人が契約の当事者となり保佐人が同意するという形と、保佐人が代理するという形とがあり、事案に応じて選択いたします。
第2節 申立ての準備
1 診断書の取得
申立てには、家庭裁判所の定める書式による診断書が必要です。主治医に作成を依頼いたしますが、専門の医療機関でない場合には作成に時間を要することがあります。また、診断書の記載内容によって、後見、保佐、補助のいずれの類型を選択すべきかの判断が変わりますので、取得の時期は早い方が望まれます。
2 必要となる資料
表3 申立てに必要となる主な資料
| 区分 | 資料 | 備考 |
|---|---|---|
| 本人 | 戸籍、住民票 | 取得の時期に制限がある場合があります |
| 本人 | 診断書、本人情報シート | 家庭裁判所の書式によります |
| 本人 | 後見登記等がされていないことの証明書 | 法務局において取得いたします |
| 財産 | 預貯金の通帳の写し、残高証明書 | 直近のもの |
| 財産 | 不動産の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書 | 共有の場合は持分も確認いたします |
| 財産 | 有価証券、保険に関する資料 | 解約返戻金の額を含みます |
| 負債 | 借入れに関する資料 | 債務の有無と額 |
| 収支 | 年金の額が分かる資料、施設の費用の資料 | 収支の予定を作成いたします |
| 親族 | 親族関係図、親族の意見に関する書面 | 推定相続人の意向を確認いたします |
| 候補者 | 後見人候補者に関する資料 | 候補者を挙げる場合 |
3 候補者を挙げても選任されるとは限りません
申立ての際に後見人の候補者を挙げることができますが、誰を選任するかは家庭裁判所が判断いたします。親族の間に対立がある場合、財産が多額である場合、共有不動産の処分等で利益相反が予想される場合には、第三者の専門職が選任されることが多くなります。この点は、あらかじめご理解いただく必要があります。
4 鑑定が行われる場合
後見及び保佐の類型では、本人の精神の状況について鑑定が行われることがあります。鑑定が実施される場合には、費用と期間が加わります。診断書の内容が明確である場合等には、鑑定を省略して審理が進むこともあります。
第3節 選任後の手続
1 財産の調査及び報告
後見人は、選任の後、遅滞なく本人の財産の調査に着手し、財産目録を作成して家庭裁判所に報告いたします。この作業が完了するまでは、原則として急迫の必要がある行為以外を行わないものとされております。売却の準備はこの間に進めることができますが、契約の締結は報告を経てからとなるのが通常です。
2 居住用不動産の処分の許可
成年後見人が、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法第859条の3)。
表4 処分の許可の申立てにおいて示す事項
| 事項 | 示す内容 |
|---|---|
| 処分の必要性 | 施設の費用、医療費、生活費の見通しと、他の財産による賄いの可否 |
| 本人の状況 | 入所の状況、帰宅の可能性、主治医の意見 |
| 物件の内容 | 登記事項証明書、公図、現況の写真 |
| 価格の相当性 | 複数の査定書、路線価その他の資料 |
| 買主 | 買主の属性、親族その他の関係者でないか |
| 契約の内容 | 売買契約書の案、代金の支払の方法 |
| 代金の管理 | 売却後の代金の管理の方法 |
| 親族の意向 | 推定相続人の意見 |
実務上は、家庭裁判所の許可を得ることを停止条件とする売買契約を締結し、許可の後に決済を行うという段取りを採ることが一般的です。買主にもこの点を理解していただく必要があります。
3 利益相反がある場合の手続
後見人と本人との利益が相反する行為については、後見人は家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。ただし、後見監督人がある場合には、監督人が本人を代表いたします。共有不動産を後見人自身が買い取る場合、後見人も相続人である遺産分割の場合等がこれに当たります。
4 売買契約及び登記
許可を得た後、売買契約に基づく決済を行い、所有権の移転の登記を申請いたします。登記の申請は司法書士の業務でございます。共有である場合には、他の共有者もそれぞれ当事者となりますので、全員の日程を調整する必要があります。
第4節 実務上よく起きる問題
1 売却の期限に間に合わない
買主が決まっている状態で申立てを行う場合、審理及び許可に要する期間が売却の期限を超えてしまうことがあります。買主に対して、後見の手続を経る必要があること、期間の見通しを早期に説明しておくことが重要です。
2 施設の費用の支払が先行する
売却の代金を施設の費用に充てる予定であっても、手続の完了までに時間がかかります。その間の費用をどのように賄うかを、あらかじめ検討しておく必要があります。
3 親族の間で意見が分かれる
売却そのものに反対する親族がいる場合、家庭裁判所の許可の判断に影響し得ます。また、後見人の選任においても、対立がある場合には第三者が選任される可能性が高まります。事前に親族の意向を確認し、可能な範囲で調整しておくことが望まれます。
4 共有者に判断能力の低下がある場合と所在不明の場合が併存する
共有者のうち一人は判断能力が低下し、別の一人は所在が不明であるという事案があります。この場合には、後見の手続と、所在等不明共有者に関する手続(民法第262条の2等)とを並行して進める必要があります。それぞれ別個の手続ですので、工程の管理が重要です。
5 後見の制度が長く続くことへの懸念
成年後見は、原則として本人が亡くなるまで継続いたします。第三者の専門職が選任された場合には、その報酬が本人の財産から支払われることになります。売却のためだけに利用することができない点について、あらかじめご説明したうえで判断していただいております。
6 任意後見契約がある場合の取扱い
本人が判断能力を有していた時期に任意後見契約を締結していた場合には、任意後見監督人の選任を申し立てることにより任意後見が開始いたします。契約に定められた代理権の範囲に不動産の処分が含まれているかを確認する必要があります。なお、任意後見契約がある場合であっても、本人の利益のため特に必要があると認めるときには法定後見が開始されることがあります。
第5節 案件において確認すべき事項
1 確認する事項
表5 方針の検討において確認する事項
| 事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 判断能力の程度 | 後見、保佐、補助のいずれの類型に当たるか |
| 任意後見契約 | 締結の有無と代理権の範囲 |
| 売却の必要性 | 費用の見通し、他の財産で賄えないか |
| 居住用に当たるか | 現在及び将来の居住の可能性 |
| 共有の有無 | 他の共有者の意向、所在、判断能力 |
| 利益相反 | 候補者が共有者又は相続人でないか |
| 親族の意向 | 推定相続人の間に対立がないか |
| 時間的な余裕 | 売却の期限、費用の支払の期限 |
2 費用に関する考え方
申立てには、収入印紙、郵便切手、登記手数料のほか、鑑定が行われる場合には鑑定の費用が必要となります。また、専門職が後見人又は監督人に選任された場合には、その報酬が家庭裁判所の判断により本人の財産から支払われます。具体的な金額は事案及び家庭裁判所により異なりますので、申立てを行う家庭裁判所にご確認ください。弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
3 他の資格者の業務
所有権の移転の登記の申請は司法書士、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士、税務は税理士の業務でございます。当事務所は、家庭裁判所への申立て、許可の申立て、親族間の協議及び紛争の解決を担当し、これらの専門家と連携して進めます。
第6節 弁護士に相談する意味
成年後見の申立てから売却までの過程は、複数の手続が順を追って積み重なる構造になっており、どこか一つで滞ると全体が止まります。
第一に、工程の管理が必要である点です。申立ての準備、審理、選任、財産の報告、処分の許可、契約、登記という各段階に、それぞれ期間を要します。売却の期限がある場合には、逆算した工程を立てなければ間に合いません。
第二に、許可の判断に向けた説明が必要である点です。居住用不動産の処分の許可においては、処分の必要性、価格の相当性、本人の生活の見通しを、資料により示す必要があります。単に売りたいという説明では足りません。
第三に、親族間の調整を要する点です。売却に反対する親族がいる場合、後見人の選任にも許可の判断にも影響し得ます。あらかじめ意向を確認し、対立が生じている場合にはこれを整理することが、手続の円滑な進行につながります。
弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、判断能力の程度に応じた類型を選択し、申立ての方針を定めることです。第二に、必要な資料を整え、家庭裁判所への申立てを行うことです。第三に、利益相反の有無を判定し、必要な手続を採ることです。第四に、居住用不動産の処分の許可の申立てを行い、必要性及び相当性を説明することです。第五に、親族間の調整及び共有物分割その他の紛争の解決を代理することです。
なお、具体的な進め方は、本人の状態、親族の構成、不動産の内容、家庭裁判所の運用等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 申立てから売却まで、全体でどのくらいかかりますか。
資料の準備から開始の審判までに数か月、その後の財産の報告及び処分の許可を経て契約に至るまでに更に数か月を要することが一般的です。鑑定が行われる場合、親族の間に対立がある場合には、より長い期間を要します。事案により大きく異なります。
質問2 私が後見人になれますか。
候補者を挙げることはできますが、誰を選任するかは家庭裁判所が判断いたします。親族の間に対立がある場合、財産が多額である場合、利益相反が予想される場合には、第三者の専門職が選任されることが多くなります。
質問3 買主が決まっているのですが、待ってもらえるでしょうか。
実務上は、家庭裁判所の許可を得ることを停止条件とする売買契約を締結し、許可の後に決済を行う段取りを採ることが一般的です。買主に対して、期間の見通しを早期に説明しておくことが重要です。
質問4 施設に入っているので居住用ではないと考えてよいですか。
施設に入所しているという事情のみで居住用不動産でなくなるものではありません。将来において戻る可能性がある建物についても居住用不動産に当たると判断されることがありますので、許可の要否は慎重に検討いたします。
質問5 売却が終わったら後見をやめられますか。
成年後見は、原則として本人が亡くなるまで継続する制度であり、特定の売却が終われば終了するというものではありません。この点をご理解いただいたうえで判断していただいております。
質問6 鑑定は必ず行われますか。
後見及び保佐の類型では鑑定が行われることがありますが、診断書の内容が明確である場合等には省略して審理が進むこともあります。実施される場合には、費用と期間が加わります。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、成年後見の申立て及び不動産の処分に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、登記事項証明書、主治医の診断書、介護保険の認定に関する資料、戸籍、預貯金の通帳、施設の費用が分かる資料、業者の査定書をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
弁護士費用については、弁護士費用一覧のページをご覧ください。結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第3条の2(意思能力)、第7条(後見開始の審判)、第8条(成年被後見人及び成年後見人)、第9条(成年被後見人の法律行為)、第11条(保佐開始の審判)、第13条第1項(保佐人の同意を要する行為)、第15条(補助開始の審判)、第17条(補助人の同意を要する旨の審判等)、第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)、第843条(成年後見人の選任)、第859条(財産の管理及び代表)、第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)、第876条の4(保佐人に代理権を付与する旨の審判)、第876条の9(補助人に代理権を付与する旨の審判)
その他 任意後見契約に関する法律。後見人と本人との利益が相反する行為についての特別代理人の選任及び後見監督人による代表の定め。家事事件手続法に基づく審判の手続。
関連するご案内
共有者や相続人に判断能力の低下があり不動産を動かせずお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
あわせてお読みください。
- 判断能力が低下した共有者がいる不動産の処分の進め方
- 後見人と相続人の利益が相反する場合の手続
- 所在等不明共有者の持分を取得する手続
- 買手が付かない実家を手放すための選択肢
- 遺産分割における不動産の評価の考え方
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

