持分を超える使用の対価を償還する義務が定められた改正の内容
共有不動産について弁護士に相談したところ、「令和3年の民法改正で共有に関する規定が大きく変わりました」と説明を受けましたが、何がどう変わったのかが分かりません。あるいは、以前に別の専門家から「共有者に家賃を請求するのは難しい」と言われましたが、最近になって請求できると聞きました。このようなご相談をいただくことがあります。
結論から申し上げます。令和3年の民法及び不動産登記法の改正により、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対して自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うことが、条文の形で明確に定められました(民法第249条第2項)。改正の前も、不当利得の考え方により同様の結論が導かれていましたが、明文の規定がなかったため、請求の根拠と範囲について争いが生じやすい状況にありました。本記事では、改正により何が変わったのか、実務上どのような影響があるのかを整理いたします。
第1節 改正の全体像
1 令和3年の改正が扱った領域
令和3年の民法及び不動産登記法の改正は、所有者の不明な土地の問題への対応を主たる目的として行われました。その内容は多岐にわたり、共有に関する規律だけでなく、相続登記の申請の義務化、相続土地を国庫に帰属させる制度の創設、財産の管理に関する新たな制度の創設といった広い範囲に及んでいます。
表1 令和3年の改正により整備された主な制度
| 領域 | 内容 |
|---|---|
| 共有物の使用 | 持分を超える使用の対価の償還義務、善良な管理者の注意義務が明文化されました |
| 共有物の管理 | 管理に関する事項の範囲が整理され、賛否を明らかにしない共有者がいる場合の手続が設けられました |
| 共有物の変更 | 所在等が不明な共有者を除いて変更を可能とする裁判の制度が設けられました |
| 所在等不明共有者の持分 | 裁判所の決定により持分を取得し、又は譲渡する権限の付与を受ける制度が設けられました |
| 共有物の分割 | 裁判による分割の方法が条文上整理され、遺産共有持分が含まれる場合の特則が設けられました |
| 財産の管理 | 所有者不明土地管理命令、所有者不明建物管理命令、管理不全土地管理命令、管理不全建物管理命令の制度が設けられました |
| 相続 | 相続開始から10年経過後の遺産分割に関する規律が設けられました |
| 相続の放棄 | 相続の放棄をした者の義務の範囲が明確化されました |
| 不動産登記 | 相続登記の申請が義務化され、相続人である旨の申出の制度が設けられました |
| 土地の所有権の放棄 | 相続により取得した土地を国庫に帰属させる制度が創設されました |
これらの制度は、それぞれ施行の時期が異なります。施行の時期及び経過措置の適用については、対象となる事案の時期に応じて個別に確認する必要があります。
2 本記事が扱う範囲
本記事では、このうち共有物の使用に関する規律を中心に扱います。所在等が不明な共有者に関する制度についてはFD06及びFD07において、相続登記の申請の義務化についてはFD17において、相続の放棄をした者の義務についてはFD48において、それぞれ扱います。
第2節 持分を超える使用の対価の償還義務
1 条文の内容
民法第249条第2項は、共有物を使用する共有者が、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う旨を定めています。
この規定の構造を分解いたしますと、次のとおりです。
表2 償還義務の要件と効果
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 義務を負う者 | 共有物を使用する共有者です |
| 義務の相手方 | 他の共有者です |
| 義務の内容 | 自己の持分を超える使用の対価を償還することです |
| 義務が生じない場合 | 別段の合意がある場合です |
| 使用の全部を要するか | 共有物の全部を使用している場合に限られません。持分を超えて使用していれば足ります |
2 改正前の取扱いとの違い
改正の前は、この点についての明文の規定が存在しませんでした。実務上は、不当利得の返還請求(民法第703条)として構成し、共有物を単独で使用する共有者が他の共有者の持分に相当する利益を法律上の原因なく受けていると主張する方法が採られていました。
表3 改正前後の比較
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 請求の根拠 | 明文の規定がなく、不当利得の規定によっていました | 民法第249条第2項に明文の規定が置かれました |
| 請求の可否 | 解釈により肯定されていましたが、根拠が明確ではありませんでした | 条文上、原則として償還義務があることが明らかになりました |
| 免れる場合 | 使用貸借の成立、黙示の合意といった構成により争われていました | 別段の合意があることが条文上の例外として位置付けられました |
| 立証の構造 | 請求する側が法律上の原因のないことを主張する必要がありました | 別段の合意の存在は、これを主張する側が明らかにすべき事柄と整理しやすくなりました |
| 対価の額 | 賃料相当額を基礎とする実務が形成されていました | 条文上「対価」とされ、算定の考え方は従前の実務が引き継がれています |
改正の実務上の意義は、請求の根拠が明確になった点にあります。これにより、協議の段階においても、請求する側が根拠となる条文を示して説明することが容易になりました。
3 「別段の合意」の意味
条文は「別段の合意がある場合を除き」と定めています。したがって、共有者の間で無償による使用について合意がある場合には、対価の償還義務は生じません。
合意は、書面によるものに限られません。黙示の合意も含まれ得ます。もっとも、単に長期間にわたって請求をしてこなかったという事実のみをもって、直ちに無償使用の合意があったと認定されるとは限りません。合意の有無は、当事者の関係、居住又は使用の経緯、費用の負担の実態、従前のやり取りの内容といった事情を総合して判断されます。
表4 別段の合意の有無の判断において考慮される事情
| 事情 | 合意の存在をうかがわせる方向 | 合意の不存在をうかがわせる方向 |
|---|---|---|
| 書面の有無 | 覚書、念書等が存在いたします | 書面が一切存在いたしません |
| 使用の開始の経緯 | 他の共有者の明示の承諾を得て開始されました | 他の共有者に無断で開始されました |
| 費用の負担 | 使用する共有者が費用の全部を負担しています | 費用を他の共有者も負担しています |
| 従前のやり取り | 他の共有者が無償であることを前提とする発言をしています | 他の共有者が過去に対価を求めた事実があります |
| 期間 | 相当長期にわたり異議なく経過しています | 使用の開始から間がありません |
| 対価の趣旨 | 介護、家業の承継等の対価としての性格がうかがえます | そのような事情がありません |
4 被相続人と同居していた相続人の場合
相続によって共有となった不動産に、被相続人の生前から同居していた相続人が居住を続けている場合があります。この場合について、判例法理により、被相続人と当該相続人との間に、遺産分割が終了するまでの間は無償で使用させる旨の使用貸借契約が成立していたと推認される場合があるとされています(最高裁平成8年12月17日判決)。
この推認が働く場合には、民法第249条第2項にいう別段の合意があった場合と同様に扱われ得ます。もっとも、推認が働くかどうかは事案の事情によりますし、遺産分割が終了すればその根拠は失われます。したがって、遺産分割の手続を進めることが、この主張への対応として意味を持ちます。使用貸借の主張への対応については、FD26において詳述いたします。
5 改正法の施行の前後の扱い
対価の請求は、通常、既に経過した期間についても行われます。その場合、対象となる期間が改正法の施行の前であるか後であるかによって、適用される規律が異なり得ます。
もっとも、既に述べたとおり、改正の前においても不当利得の考え方により同様の結論が導かれていました。したがって、施行の前の期間についての請求が直ちに否定されるものではありません。対象となる期間ごとの適用関係については、事案に応じて個別に検討する必要があります。
第3節 あわせて設けられた規律
1 善良な管理者の注意義務
共有物を使用する共有者は、善良な管理者の注意をもって共有物を保存しなければならない旨が定められました(民法第249条第3項)。
これは、共有物を使用する共有者が、自己の持分を有するからといって共有物を粗略に扱ってよいわけではないことを明らかにしたものです。この規定により、使用している共有者が共有物を損傷させた場合、他の共有者は、この義務の違反を理由として損害の賠償を求める余地が生じます。
実務上は、次のような場面で問題となります。
表5 善良な管理者の注意義務が問題となる場面
| 場面 | 検討される点 |
|---|---|
| 建物を著しく汚損又は損傷させた場合 | 通常の使用による損耗の範囲を超えるか |
| 必要な修繕を怠り建物の価値が低下した場合 | 保存に必要な行為を怠ったといえるか |
| 無断で増改築を行った場合 | 共有物の変更に当たらないか、原状回復の要否 |
| 火災保険に加入していなかった場合 | 保存のために必要な措置を怠ったといえるか |
| 第三者に無断で使用させた場合 | 管理に関する事項の決定を経ているか |
2 共有物の管理に関する規律の整理
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するものとされています(民法第252条第1項)。改正により、共有物を使用する共有者があるときも同様である旨が明らかにされました。
すなわち、共有者の一人が既に共有物を使用している場合であっても、持分の価格の過半数により、その使用の方法について定めることができます。従前は、既に使用している共有者がいる場合に管理に関する決定によって使用の方法を変更することができるかについて、必ずしも明確ではありませんでした。
もっとも、この決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないとされています(民法第252条第3項)。使用している共有者を無条件に排除できるわけではありません。
表6 管理に関する決定により定め得る事項の例
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 使用の対価 | 共有物を使用する共有者が支払うべき対価の額を定めます |
| 使用の範囲 | 使用することができる部分を定めます |
| 費用の負担 | 修繕費、保険料等の負担の方法を定めます |
| 賃貸借の設定 | 一定の期間を超えない賃借権等を設定いたします |
| 管理者の選任 | 共有物を管理する者を定めます |
賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利の設定については、その存続期間について制限が定められています(民法第252条第4項)。長期の賃借権の設定は、管理に関する事項の範囲を超え、共有者全員の同意を要する変更に当たり得ます。
3 賛否を明らかにしない共有者がいる場合
共有者が他の共有者に対して相当の期間を定めて管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告したにもかかわらず、その期間内に賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得たうえで、その共有者以外の共有者の持分の価格の過半数により管理に関する事項を決することができる旨の制度が設けられました(民法第252条第2項)。
この制度により、連絡はつくものの返事をしない共有者がいる場合であっても、管理に関する事項を決することが可能となりました。詳細はFD08において扱います。
4 所在等が不明な共有者に関する制度
所在等が不明な共有者がいる場合について、裁判所の決定により、その共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる制度(民法第251条第2項)、その共有者の持分を取得する制度(民法第262条の2)、その共有者の持分を第三者に譲渡する権限の付与を受ける制度(民法第262条の3)が設けられました。
これらの制度により、従前は事実上手詰まりとなっていた事案について、出口が用意されました。詳細はFD06及びFD07において扱います。
第4節 案件において確認すべき事項
表7 改正後の規律を用いる際に確認する事項
| 区分 | 確認事項 | 資料 |
|---|---|---|
| 持分 | 各共有者の持分の割合、過半数を構成できるか | 登記事項証明書 |
| 使用の状況 | 誰がいつからどの範囲を使用しているか | 現地の写真、住民票、公共料金の記録 |
| 合意 | 別段の合意の有無を示す資料 | 覚書、手紙、電子メール、録音の記録 |
| 期間 | 請求の対象とする期間、改正法の施行との関係 | 使用の開始時期が分かる資料 |
| 費用 | 費用の負担の実態 | 納税通知書、修繕の領収書 |
| 相続 | 相続の開始時期、遺産分割の有無 | 戸籍、遺産分割協議書 |
| 保存の状況 | 共有物の現況、損傷の有無 | 現地の写真、建物の調査の記録 |
| 相手方 | 連絡の可否、賛否の応答の有無 | 通知書及びその配達の記録 |
とりわけ重要であるのは、持分の割合の確認です。持分の価格の過半数を構成できるかどうかにより、採り得る手段が大きく変わります。過半数を構成できる場合には、管理に関する決定という手段が使えます。過半数を構成できない場合には、対価の請求及び共有物分割が中心となります。
第5節 弁護士に相談する意味
令和3年の改正は、共有及び相続に関する規律を広い範囲にわたって変更いたしました。実務上の難しさは、改正により新たな手段が増えた反面、どの手段を選ぶべきかの判断が複雑になった点にあります。
対価を請求するのか、管理に関する決定により使用の条件を定めるのか、所在等不明共有者の持分を取得するのか、共有物分割の訴えを提起するのかという選択は、持分の構成、共有者の所在及び意向、不動産の内容、相続の開始からの期間によって変わります。また、これらの制度には、施行の時期及び経過措置の問題があり、対象となる事案の時期によって適用される規律が異なる場合があります。
弁護士が行う業務は、次のとおりです。第一に、登記及び相続関係から持分の構成を確定させることです。第二に、別段の合意の有無を資料に基づいて評価することです。第三に、改正により設けられた各制度のうち、当該事案に適用し得るものを選別することです。第四に、対象となる期間についての適用関係を整理することです。第五に、交渉及び裁判上の手続を代理することです。
具体的な手続の選択と進め方は、共有者の構成、従前の経緯、不動産の内容等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 改正の前から続いている使用についても、対価を請求できますか。
改正の前の期間についても、不当利得の返還請求として同様の結論が導かれていましたので、請求すること自体は可能です。もっとも、対象となる期間ごとに適用される規律及び消滅時効の関係を整理する必要があります。
質問2 「別段の合意」がないことは、請求する側が証明しなければなりませんか。
条文は、別段の合意がある場合を例外として位置付けています。したがって、合意の存在は、これを主張する側が明らかにすべき事柄と整理しやすくなりました。もっとも、実際の審理においては、双方が事情を主張し合う形になります。
質問3 持分の過半数を持っていれば、使用している共有者を排除できますか。
管理に関する事項として使用の方法を定めることは可能です。もっとも、共有者間の決定に基づいて共有物を使用している共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないとされています(民法第252条第3項)。無条件に排除できるわけではありません。
質問4 共有物を第三者に賃貸したい場合、全員の同意が必要ですか。
一定の期間を超えない賃借権等の設定は、管理に関する事項として持分の価格の過半数で決することができます(民法第252条第1項、第4項)。存続期間の制限を超える長期の賃貸借は、共有者全員の同意を要する変更に当たり得ます。
質問5 改正はいつから適用されますか。
令和3年の改正により整備された各制度は、それぞれ施行の時期が定められており、経過措置も設けられています。適用の有無は、対象となる事案の時期及び制度ごとに個別に確認する必要がありますので、ご相談の際にお示しいたします。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕。東京都港区虎ノ門)では、共有不動産に関するご相談をお受けしております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで
- 土曜日、日曜日及び祝日も受付いたします
- ご相談は事前予約制です
ご相談の際に、登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、相続関係が分かる戸籍、共有者とのやり取りの記録をご用意いただけますと、検討が早く進みます。これらがお手元にないことを理由にご相談をお断りすることはありません。
結果は事案ごとに異なります。本記事の記載は一般的な説明であり、特定の結果を保証するものではありません。
本記事の根拠条文
民法 第249条第1項(共有物の使用)、第249条第2項(持分を超える使用の対価の償還義務)、第249条第3項(善良な管理者の注意義務)、第251条第1項(共有物の変更)、第251条第2項(所在等不明共有者以外の共有者による変更の裁判)、第252条第1項(共有物の管理)、第252条第2項(賛否を明らかにしない共有者がいる場合の裁判)、第252条第3項(特別の影響を及ぼす場合の承諾)、第252条第4項(賃借権等の設定の期間の制限)、第253条(管理の費用の負担)、第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)、第262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡権限の付与)、第703条(不当利得の返還義務)、第904条の3(相続開始から10年経過後の遺産分割)
判例法理による部分 被相続人と同居していた相続人についての使用貸借契約の成立の推認(最高裁平成8年12月17日判決)、対価の額の算定における賃料相当額の考え方
制度名により記述した部分 令和3年の民法及び不動産登記法の改正により整備された各制度の施行の時期及び経過措置
関連するご案内
共有者の一人が不動産を独り占めしておりお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
あわせてお読みください。
- 共有者の一人が独占して使用している場合の対価の請求
- 所在の分からない共有者がいる不動産を売却する方法
- 裁判所の決定により所在の不明な共有者の持分を取得する手続
- 相続登記の申請義務と過料を避けるための手続
- 相続を放棄した者が空き家について負う義務の範囲
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

